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ひな祭り…ほのぼのと過ごす? それとも段を占領?

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ひな祭り…ほのぼのと過ごす? それとも段を占領?

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第5章 ひな段を阻む者

「結構登りましたね。大丈夫ですか静香さま」
 悠希は一緒に登っている静香の方へ振り返る。
「ちょっと足が疲れちゃったかな・・・」
「じゃ・・・じゃあ、ボクが押すです」
 疲れて登れなくなった静香の背中を押してあげる。
「ほらひなあられだぞコタロー。・・・うあっ!?」
 樹は穀類膨張機に肘をぶつけてしまい、うっかり起動させてしまった。
 室内の換気をしようと、開けていた窓から米ぽん菓子がひな段の方へぶっ飛んでいく。
 ズドドドォッ。
「静香さま危ない!」
 迫り来る米ぽん菓子から静香を守ろうと悠希が盾になる。
「し・・・静香さま・・・お怪我は?」
「ボクは大丈夫だよ。・・・立てる?」
 悠希は差し出された手を握って立ち上がった。
「大丈夫です・・・。―・・・っ」
「足を挫いちゃったんだね、おいでナーシングで治してあげる」
「静香さまに治してもらうなんて嬉しいですっ。このまま時が止まればいいのに・・・なんて」
「うん?今、何か言った?」
 小さく呟いた声を聞き取れなかった静香が首を傾げる。
「いっいえ何も!」
 思わず口に出してしまった悠希は顔を赤らめる。
「うーん残念だけど、登るのはちょっと無理そうだね」
「そうですか・・・」
「ここでちょっと休憩しようよ」
 250段目のところに座り、休憩することにした。



「このままいっきにつっぱしるぜ!」
 おだいり様の席を目指し、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は猛スピードで段を駆け上がる。
「トップはラルクさんか?・・・と思ってたが・・・その先に誰かいるぞ!」
 真の視線の先には赤いマントを纏った変熊と、イオマンテの上に乗っている仏滅 サンダー明彦(ぶつめつ・さんだーあきひこ)の姿があった。
 顔には白塗り悪魔メイク、クツはロンドンブーツ、トゲトゲショルダーのヘビメタ衣装を着ている。
「節句!節句!節句!節句!」
 ギャイィーン!!べべべべべべ・・・。
 ヘッドバンキングしながらエレキギターを掻き鳴らし腰を前後に振る。
「さぁ、地獄の五人囃子に葬られるのはどいつだっ。どこからでもくるがいい、阻止してやる。ハーッハハハ!!」
 変熊は自信満々に高笑いをする。
「地球人以外は、どのポジションにもつけぬぞ!」
 イオマンテの存在に気づいた段の一番下にいるアーデルハイトが怒鳴り、その言葉に変熊はしまったと一瞬固まった。
「・・・うむ・・・・・・今度から気をつけるとしよう」
 ごほんっと咳払いをしてごまかす。
「そこのやつ、止まれ!」
 変熊は腰に両手を当て、ラルクの前に立ちはだかる。
「ウフフ、キャッキャは俺が許さん。最上段に登りたければ俺を倒してからにしてもらおうかっ!」
 ラルクがひな段の500段目まで登ると地獄の五人囃子、変熊たちが腕組をして待ち構えていた。
「いいぜ。お望み通り、倒してやる」
「フフフ・・・最初に登って来た者には、褒美に俺様の縦笛を吹く権利をくれてやろうではないか!嫌だと言っても強制だ!!」
 変熊は股間に挟んでいるアルトリコーダーを見せつける。
「ククク・・・どんな音色がするか俺様も楽しみだ!」
「誰が吹くかぁああっ!」
「ふぉおぅっ!?」
 ドラゴンアーツのパワーを込めた拳でラルクにリコーダーをベキィイッと折られ、後方へ吹っ飛ばされる。
「やっぱりこういう壁がいるのか」
 登ってきた大佐が転がる変熊を見て深いため息をつく。
「そもそも最初にそこへ登ってきたのは誰だ?」
 大佐に言われて変熊は腕組をしてうーんと唸り考え込む。
「俺様か!?」
「じゃあ、自分で吹くのだな」
「ぐぬぬっ・・・せめて2番目だとかいっておけばよかったのか・・・」
 悔しがりながら変熊が段を拳で叩く。
 仕方なくテープで修理したリコーダーを変熊は自分で吹くことにした。
 ボォ〜!ボォ〜!
「ほぉ・・・、いい音を奏でるではないか!」
 音に満足して満面の笑顔を浮かべる。
「―・・・てっ、俺様が自分で吹いたら意味がないっ」
 変熊はダブルでメンタルダメージを受けた。
「おいなり様!あいつらを殺っちゃってくだせぇ!」
 サンダー明彦がへこむ変熊に向かって言う。
「どこからでもかかってこいっ」
「ほう。直接くるとはいい度胸だな!!」
 ラルクは変熊の腕を掴み、下の段へ放り投げた。
「ごぁああっ」
 投げられた彼はごろごろと転がり落ちていく。
「お前ら!どんだけ一人で寂しい思いをしてる奴がいると思ってるんじゃ!いい気になりおって!」
 彼の仇を討とうとイオマンテが大声で怒鳴り散らす。
「知るか、そんなことっ」
 軽身功の体術でイオマンテの肩を踏み台にし、鉄甲をはめた拳で殴りかかる。
「そんな痛み、今日一人でむせび泣いてる男達の心の痛みに比べりゃ屁でもないわ!」
 頬を殴られた彼は、なんとか痛みに耐えてみせた。
「やれっ、イオマンテ。必殺!ま・・・・・・、じゃなかった・・・座禅ころがし!」
 ぜぇぜぇと息をきらせながら登ってきた変熊が、段から落とせとパートナーに指示を出す。
「そんなにお内裏様とお雛様がやりたいんだったら自分の部屋でこっそりやれや!」
 段に敷いている敷物を引っ張り、大佐とラルクを落とそうとする。
「甘いな!」
 超感覚と先の先によりイオマンテの行動を読んでいた大佐は軽々と避け、腹部へ轟雷閃の電撃をくらわす。
「ぶべぁぁあっ!?」
 感電したイオマンテは段の上へドォオンッと崩れ落ち、そのまま気絶してしまった。
「イ・・・イオマンテー!よく戦った・・・、相手が悪すぎたんだ・・・しばらく休んでいろぉお。だが・・・やっぱり悔しいぃいいいっ!!」
 変熊は倒れた友の元へ駆け寄り、悲しみの声を上げた。



 気絶していたイオマンテが起き上がった。
「まったく、酷い目に遭ったな。ちっ、また来やがる」
 イオマンテの視界に段を登ってくる蒼也の姿が目に映る。
「止まれぇええっ」
「そんなこと言われてもな、登っている途中だし」
「問答無用!!」
 蒼也は襲いかかるイオマンテに向かって火術を放つ。
「ふぉぎゃぁあっ!」
 燃やされたイオマンテは火を消そうと、ごろごろと段の上を転がる。
「危ないですね、花に炎が燃え移るじゃないですか」
 近くで花をセッティングしていたリュースは巻き込まれないように軽身功の体術で避けた。
「おのれぇえ、よくもぉお」
「まったく、しつこいやつらだ!」
 行く手を阻もうとする変熊に向かって氷術を放ち、カチコチに凍てつかせた。
「ひょあぁあっ!・・・つ・・・・・・冷たい・・・」
「そんじゃ、先に行かせてもらうな」
 軽く手を振り、蒼也は再び段を登り始めた。



「しまった先を行かれたわ」
 500段から先に上がっていくラルクと大佐を見て、アピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)は焦った。
「アピス、誰か歌っているよ」
 シリル・クレイド(しりる・くれいど)がサンダー明彦を指差す。
「セック!セック!セック!ピーチセック!息を・・・って危ねぇじゃねぇか!」
 歌っている途中で、アピスにランスで刺されそうになり、サンダー明彦は慌てて避ける。
「邪魔だから退いてもらおうと思ったの。それにその歌、お祭りに相応しくないわ」
「あ?ん?俺の歌に文句でもあんのかっ!桃の節句の歌じゃねーか!ピンクのぼんぼりピーチセェーック!あられも無・・・」
「あられならそこにあるよ」
 シリルはサンダー明彦の足元に指差して言う。
「ちっ、あったのかよ・・・。まぁいい、歌の続きだ!最上段で二人揃って・・・何しやがるんだ!」
 アピスにランスで足元を狙われ、またしてもサンダー明彦は歌を途中で止められてしまった。
「お祭りに相応しくないから止めただけよ」
「うるせぇえっ!」
 演奏を邪魔するアピスに向かってサンダー明彦がツバを吐く。
「何するのよ、汚いわねっ」
 アピスはツバを避けた。
「ウラァァァ!メェー!!!」
 超感覚によりサンダー明彦は山羊に獣人化した。
 キレた彼はアピスに向かって雷術を撃ちまくる。
「吹っ飛んじゃえー!」
 行く手を阻む相手に、シリルが六連ミサイルポッドを撃つ。
 ズギュゥウウンッ。
 ミサイルがサンダー明彦の腹に命中し、ドォオンッと爆発し、辺りに轟音が轟く。
「行こうシリル」
「先に登っていった人たちに早く追いつかなきゃだね」
 何事もなかったかのように、彼女たちは段を登る。
「ほぉ、そういう行動に出ますか。実に興味深い・・・ふふっ」
 おひな様になるために、無慈悲な手段をとるアピスたちを観察している幸が不適な笑みを浮かべた。
「妻は私が守る!!ギンギンギン!!」
 観察に夢中になっている幸を守ろうと、ガートナは周囲を警戒する。
「空からミサイルが・・・!?」
 シリルが打ち上げたミサイルが段の方へ落下してくる。
 要人警護で大切な彼女の危機を察知し、守ろうとミサイルを受け止めようと構えた。
「ふぬっうう」
「ガートナ!!」
 ミサイルを素手で受け止めている彼に気づき、飛ばされないように幸も掴む。
「き・・・・・・きゃぁああっ、いやぁあ飛ばされるーっ」
 ラブロマンス風に言えば飛んでいく2人は、愛の遠飛行のようにも見える。
 ボォオンッ。
 ミサイルは空中爆発し、幸たちは草むらへ落ちた。



「今、爆発音が聞こえましたが、かなり激しい争いみたいですね。・・・って瑠璃!なにやってるんですか!?」
 遙遠が瑠璃の方を顔を向けると、少女は変熊を落とそうとしていた。
「これって・・・他の人を蹴落とせばいいの?」
 立ち上がれない状態の変熊を、瑠璃が蹴り落とす。
 ビタァアンッ。
「うぉあぁあっー!?」
 蹴り落とされた彼は顔面から落下し、土の中にめりこんだ。
「何か落ちてきたねぇ」
 近くに変熊が落ちてきた衝撃音を聞き、瑠樹たちがぱっと振り向く。
「上からまた何か落ちてきますよ」
 マティエは500段目から落ちてくるリコーダーを指差す。
「ほぁうっ・・・!」
 リコーダーが変熊の尻に刺さり、そのまま気絶してしまった。
「どうします?」
「ほうっておいても、力ずくで這い出てきそうだから。このままにしておこう」
「そうですね」
 そのままにしておこうと、マティエたちは花見と観戦の続きをすることにした。