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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その3

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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その3

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第1章

 1日目、昼。
 ジャタの森の中、宿屋の青年主人グラン・リージュがホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)の石化と封印されていた台風の説明が一息ついたところだ。

「う……っ」
 セルシア・フォートゥナ(せるしあ・ふぉーとぅな)によってヒールを掛けられていたレン・オズワルド(れん・おずわるど)が少しだけうめき声を上げた。
 今までは青ざめた表情で声がなかったのだから快方に向かっているということだろう。
「大丈夫……?」
 セルシアは反応に気づき、優しくそっと声を掛けたが、まだまともに話せるような状態ではないらしい。
「私も手伝いますわ」
 にっこりと笑いながらルディ・バークレオ(るでぃ・ばーくれお)が横から現れ、応急処置を施していく。
「ありがとう……」
「ふふっ……素直で可愛い子は好きですわ」
 ルディは軽くウィンクして言う。
 セルシアとルディは治療に専念していく。
 集中しているセルシアは気が付いていないが、笑っているルディの手が微かに震えている。
(……まだ泣けませんわ。ホイップさん……あなたが無事に戻ってくるまでは絶対に泣きませんわ)
 ルディの事を少し遠くから眺めていたラグナ・アールグレイ(らぐな・あーるぐれい)はルディの心中を察していた。
 ホイップがいなくなるかもしれない、それが怖い、と。
(愚かだな)
 だが特に言葉を掛けることもなく、見ているだけだった。
「これを飲めば半日で動けるようになるのであるよ」
 そう言って、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はどこから出したのか薄気味悪い黒と赤と紫がマーブルになっているドロリとした液体を差し出してきた。
「……それ、飲んで平気なの?」
 不安を帯びた瞳をセルシアが大佐に向ける。
「勿論!」
 自身満々の大佐は無理矢理レンの口に謎の液体を流し込んだ。
 レンは目をカッと開いたかと思ったら少ししてまた目を閉じた。
 その様子を心配そうに覗き込むセリシアとルディ。
 しばらくすると、呼吸が一定になり安定してきたようだ。
 顔色も大分よくなっている。
「本当に効きましたわ……」
 驚きを隠せない表情で大佐を見る2人に大佐は満足そうに頷いて、他の怪我人のところへと向かっていったのだった。
 こうして、他の怪我人達も状態が安定していく。
 きっと、本当に半日もすれば動けるようになる……のかもしれない。
「ちゃんと効能が出るとはな」
 作った本人がそんな事を言ってるような薬だったとは誰も知らない。

「やれ情けなや。ただの一薙ぎで飛ばされておじゃる」
 おかしな薬を無理矢理飲まされたリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)達の前に1人の妖艶な女性が立った。
「君は今まで何を!」
 ララ サーズデイ(らら・さーずでい)がその女性ロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)に食ってかかる。
「け、ケンカはダメなのですよ」
 おろおろとユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)が間に入ったのだった。
「……」
「どうかしました?」
 無言でいるリリにユリが言葉を掛けた。
「剣の花嫁が操られた件なのだが……みんな、聞いて欲しいのだ」
 少し考えてからリリはこの場にいる皆に言った。
「スープを飲んでいない者が操られ、かつ肉体強化はされなかったのだ。もしかしたらティセラが剣の花嫁を操るのはティセラの星剣の力かもしれないのだ。今思うと花嫁達の前では、ほんの少しだが時間が掛かっていたのだ。だから、剣の花嫁にのみスープに強化薬を入れていたと思うのだ。そして、剣の花嫁達の瞳をしっかりと見ていたように思うのだ。だから……ティセラがいたら剣の花嫁達は瞳を合わせてはいけないのだ!」
 リリは一気に言いきったのだった。

 怪我人の様子が確認出来たところで、グランが再度口を開いた。
「ホイップちゃんの石化解除薬なのですが、薬の調合は、ボク1人では3日ほどかかってしまいます。それにたった1つ材料が足りないんです。タノベさんに依頼してあるのですが――」
 そこまで言うと、急にグランの携帯が鳴りだした。
 慌てて、携帯のボタンを押し、耳に当てる。
「はい……はい……えっ!? 手に入ったんですか!? 分かりました! すぐに取りに行きます」
 グランは皆に向き直る。
「たった今、その材料が手に入ったそうです! タノベさんが居るのは、手作りダンジョンだそうです。今すぐ行き――」
 そこまで言うと、自分に乗り物が無い事に気が付き、頭を抱えてしまいました。
「俺達が手伝おう」
 そう申し出てきたのは早川 呼雪(はやかわ・こゆき)だ。
「ボク、そり持ってきてるからグランさん乗って!」
 ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は自分のトナカイとソリを引っ張って来て言った。
 その後ろでも何人かが、グランの足となる事や警護に名乗りを上げてくれた。
「有難うございますっ!」
 グランは深く頭を下げると、すぐに姿勢を戻し、時間が惜しいとばかりにファルのそりに乗り込んだ。
「待って下さい、グランさん」
 行こうとするグランを呼びとめたのは六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)だった。
「調合に必要な材料、それから機材を教えて下さい。先に用意しておきます!」
「助かります! 材料はこれと――」
 グランはカバンの中から材料を取り出していき、優希に渡していく。
「それから、部屋はホイップちゃんの部屋でお願いします。ホイップちゃんの部屋の床には隠し扉があって、そこにホイップちゃんが使っている調合用の機材等があります」
「それで薬の調合が得意な割には部屋に機材等が何も置かれていなかったんですわね」
 話しを聞いていたルディが言った。
 ホイップが眠り続けてしまった事件に関わった人達は納得したようだ。
「わかりました。ではすぐに向かいますね」
 優希が動こうとするとそれを更に留める者がいた。
「連絡はお互いに取れるようにしておいた方がいいと思います」
 そう進言したのはロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)だ。
 その言葉に納得し、皆はお互いの番号を交換していくのだった。
 勿論、グランも色々な人に教えている。
 互いの番号交換が終わると、今度こそ本当にグラン達は出発し、優希はアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)ミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)それと、部屋の準備を手伝ってくれる人と一緒に空京へと向かって行った。
 後ろの方では、イルミンスールの図書館で巨大台風対策本部が出来たと連絡が入ったようだ。

「ホイップさん連れ去られちゃったのですーーー!!! わわわわ!?!?! こ、これはどうしたらいいのですか? 頭グルグルでパンクしちゃうのですよ!」
 しばらく呆然としていたナイト・フェイクドール(ないと・ふぇいくどーる)は、我に返ったらしくいきなり慌てだした。
 隣に居たサトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)はナイトの額を軽く小突いた。
「みっ!」
 小突かれた額を押さえるとサトゥルヌスを見つめた。
「とりあえず……ナイトはまず落ち着こうか」
「わ、わかったのです、がんばって落ち着きますです」
 ナイトは大きく深呼吸を数回して、徐々に落ち着きを取り戻していったのだった。

 エル・ウィンド(える・うぃんど)は、ぎゅっと星杖『シナモンスティック』を握りしめ、どんよりと垂れこめてきた空を見上げた。
「ホイップちゃん……」
 エルはそう呟くと、近くにいたホワイト・カラー(ほわいと・からー)ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)ルナール・フラーム(るなーる・ふらーむ)に向いた。
「ちょっと手伝って欲しい事があるんだ」
「めんどくせぇーなぁー」
 ウィルネストはそう言うが、頼られて満更でもなさそうだ。
「ルナちゃんに任せるであります!」
 ルナールは元気いっぱいに返した。
「で、エル。手伝って欲しい事とはなんですか?」
 ホワイトに促されると、エルは自分の考えを話した。
 エルの話しが終わると、4人は何かの準備に入ったのだった。

 それぞれが動き出した。