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【海を支配する水竜王】捕らわれた水竜の居場所を調べよ

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【海を支配する水竜王】捕らわれた水竜の居場所を調べよ

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第1章 陽動フェイク

 救助者の手により、牢獄から数名の生徒が助け出された。
 しかし、再び何人か董天君に倒され、彼女の命令によりゴースト兵に捕縛されて牢の中へ放り込まれてしまった。
 今まで侵入の手引きをしていた天城 一輝(あまぎ・いっき)たちは、ならば捕縛されている生徒を助けに向かう。
「深夜1時か・・・。今回は侵入を手引きする生徒がいないからな。少人数で侵入するという点で、闇に紛れて入り込んだ方が成功確立が高いだろう」
 片手でハンドルを握り小型飛空艇を操作しながら、携帯電話で時刻を確認する。
 サーチライトに照らされないように、パートナーと少し離れて距離を取り、バレないようにエンジンの出力を抑えてライトを消す。
 ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)は一輝の小型飛空艇の後を追いかけ、飛空艇の速度を調節しながら飛ぶ。
 同様にコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)も、見つからないように距離を取りながら進む。
「ん?今、あの辺りに何かいたような気が・・・」
 屋上から望遠鏡を覗き、パラミタ内海から侵入者が来ないか警戒している兵が小さく声を上げる。
「どの辺りだ?」
「そこだそこ」
「いないぞ」
 別の兵が望遠鏡を覗き込み、彼の指差す方向を見てみるが何もいなかった。
「おかしいな・・・さっき何かいたと思ったんだが」
「気のせいじゃないか」
「だといいが・・・」
 腑に落ちない顔をし、彼は再び海面を警戒する。
「危なかったですわ・・・。もう少しで見つかってしまうところでしたわ」
 兵が望遠鏡をローザがいる位置へ向けようとした寸前、屋上の方を見上げて気づいた彼女はとっさに岩場の陰へ隠れて発見を逃れた。
 島にたどりついた一輝たちは、飛空艇は林に隠して施設の方へ慎重に進む。



「もうすぐ孤島が見えてくるです」
 小型飛空挺のハンドルをぎゅっと握り締め、広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)は島のある方角を睨む。
 新たに孤島の施設内へ潜入する者がいなくなり、他の生徒を手引きは必要ない。
 どうせまた同じようなことを仕掛けて来るだろうと思っているゴースト兵を欺き、侵入の手引きするフリをして施設へ入り込もうと考えた。
「やつらが来たぞっ」
 侵入者を警戒して望遠鏡を覗き込んでいるゴースト兵が大声で言う。
「砲撃開始ー!!」
 ファイリアたちの姿を発見した方角へ指を指し、仲間に砲撃指令を出す。
「―・・・ファ・・・ファイリアさん、空から砲弾が!」
 海に沈めようと迫り来る砲弾を見上げ、ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)が思わず声を上げる。
「しっかり掴まっていてくださいっ」
 落とされまいと、ファイリアは機体を60度に傾ける。
 ドゴォオオンッ。
 砲弾が海へ落下した衝撃により水柱が立ち、彼女たちは全身に海水を浴びてしまう。
「ひゃあっ、目に海水が!」
「これで拭いてください」
 ファイリアの代わりに片手でハンドルを操作しながら、ウィルヘルミーナは彼女にハンカチを渡す。
「ありがとうです」
 少女は受け取ったハンカチで拭き、再びハンドルを握り飛空挺を操縦する。
「3人に乗っているし、馬も運んでるからさすがにスピードが・・・」
 ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)がファイリアと操縦を交代する。
「うぁあ!あんだけ侵入されると、さすがに向こうも警戒度を上げたようだねっ」
 撃ち落とされないようにハンドルを操作して間髪砲弾を避ける。
 速度を限界まで上げ、施設の東門の方へ向かう。



「東門の方が侵入しやすいだろうけど。兵の目をどうやってごまかして突破するかだな」
「ここは1つ、古典的な方法を試してみたらいいのではないか?」
 ユリウスは木の陰に身を潜め、一輝に顔を向け小声で言う。
「侵入する門とは別方向に石を投げて、兵の気を逸らすのだよ」
「なるほどな。その作戦に加えて、島の小動物に鈴をつけて逆方向に放とう」
 鈴をつけた動物に注意を引き付けさせようと、彼の提案に付け加える。
 門の前から兵を退かそうとユリウスが北門のある方角へ石を投げる。
「何の音だ?誰かいるのか?」
 兵が移動するのを確認するを確認し、今度は一輝が捕まえた野良ネコに鈴をつけて煮干を南門の方へ放った。
「よし、今のうちに入ろう!」
 守りが手薄になった隙に入り込もうと、彼らは全速で駆け込む。
「おいっ、誰か中へ入っていったぞ」
 侵入者を見つけた兵が大声出して仲間を呼び集める。
「早く追え!見つけ次第、捕縛しろっ」
「くそっ、術か!?」
 目くらまし用にウィノナがアシッドミストを放ち、一瞬の隙をついて一輝たちが駆け込む。
「ざけんな、これでもくらいやがれっ」
「うぁああっ」
 ウィノナに向かって兵が手榴弾を投げつけ、少女は爆風に吹き飛ばされてしまう。
 飛空挺から落ち地面に叩きつけられそうになった寸前、白馬に乗り駆けつけたウィルヘルミーナがウィノナの身体をキャッチする。
「先に行った4人に追いつけなくなります、急ぎましょう!」
 白馬を乗り捨て、ウィノナを抱えたまま門の方へ走っていく。
 ウィノナと操縦を交代しているファイリアは、門の入り口を塞ぐように飛空挺から飛び降り、先に侵入した生徒の後を追って施設へ入る。
「皆、急いで地下へ降りるんだ!」
 牢に掴まっている生徒を助けに来たのに、自分たちが捕縛されては意味がないと、一輝たちは慌てて階段を駆け降りる。
「いたか?」
「いや、見つからん」
「まだ近くにいるはずだ、探せ!」
 地下1階へやってきた兵たちは、彼らを探して走る。
「やばいな。ここから先、どうやって進んだらいいんだか」
 柱の方に隠れながら一輝たちは、兵が離れていかないか、しばらく様子を窺うことにした。
「何か急に騒がしくなりましたね?また誰か侵入して来たんでしょうか」
 地下2階へ行こうと小部屋のドアを開けた香住 火藍(かすみ・からん)が首を傾げて言う。
「いなくなるのを待っていたのに、見つかったら意味がない。ゴースト兵が来ないうちに地下牢へ行くぞ」
 闇咲 阿童(やみさき・あどう)は通路に亡者たちがいないか確認して室内から出る。
「右側の通路は誰もいないみたいだ」
「奥の方に階段がありますよ」
「兵はいないみたいだ、降りよう」
 階段の下の方に見張りがないか、アーク・トライガン(あーく・とらいがん)が確認する。
「さすがにこんな時間だからな、他の生徒たちと遭遇しないか」
 周囲を警戒しつつ阿童は、小声で言いながら歩く。
「不気味なほど静かだな」
 静かな地下2階のフロア内には彼らの足音以外、水路を流れる水音しか聞こえない。
「逆にゴースト1匹見かけないっていうのが気味悪いな」
 亡者どもにまったく遭遇する気配がないことに対してアークは顔を顰める。
「ここを降りれば地下3階ですか」
 火藍が階段を見下ろして言う。
「―・・・あぁ。ここから先、ゴーストが大量にいるかもしれないから気をつけないとな」
 足音をなるべく立てないように、阿童たちは慎重に階段を降りていく。



「くっ、なかなか近くから離れてくれないな」
 一輝が隠れている近くを兵がうろついているせいで、地下2階へ進めない。
「我が先に進もう」
 ユリウスは通路を阻んでいる兵に素手で殴りかかった。
 下手に慎重になるよりもまず、目前の敵を黙らせるということのようだ。
「(かなりの人数が追っていったな。兵に追われたまま牢屋にたどりついたとしても、捕縛されている生徒たちを助けられる確立は低くなってしまう)」
 彼とは逆側の通路へ行き遠回りしていこうと、一輝は右の方へ顔を向ける。
 侵入した自分たちを探している兵に見つからないように、壁際に隠れながら進む。
「階段の前に待機しているな」
 地下2階へ向かう階段を守っている兵の他に、巡回しているやつらがいないか、目を凝らして通路の方を確認する。
「1人だけなら倒して突破したほうがよさそうだ」
 見張りの兵を葬ろうと、サイレンサー付きのスナイパーライフルを構える。
 赤外線センサーの光をターゲットに当て、銃弾で頭部を撃ち抜く。
 ビチャァアッと脳漿が辺りに飛び散る。
「他の兵に見つかると厄介よ。どうするの?」
 ただの死体に戻った亡骸をコレットが見下ろして言う。
「水路に落としてしまおう。床の血はどうしようもないが、倒した形跡の発見を遅らさせることが出来るからな」
 一輝は水路へ死体を蹴り落とし、パートナーたちと共に階段を降りる。
「あの野郎、暴れやがって」
「相手は武器を持っていないぞ、捕まえろぉおおーーーっ!」
「敵兵の数が予想以上に多いようなのだよ・・・」
 ゴースト兵を倒して通ろうとしたが、次から次へとやってくる亡者たちを倒しきれないユリウスのSPはもう限界だ。
 地下3階にいる彼は四方の通路を兵に塞がれてしまったのだ。
「オレたち相手に、武器などいらないということか。まぁいい、どっちにしろお前は牢屋行きだ」
「くっ・・・・・・ここまでか」
 抵抗して深手を負うよりはと、大人しく捕縛されることにした。
「俺たちよりも先に階段を降りたはずだが・・・」
 彼の後に地下2階からさらに下の階へたどりついた一輝たちは、先に進んだはずのユリウスを探している。
「いませんわね」
「ひょっとしたら地下4階に降りたのかもしれないわよ」
「仕方ない、このまま進むか」
 一輝はコレットの言葉に頷き、地下3階へ向かおうと階段を探す。
 通路を進んでいると、コツコツッと足音が聞こえてきた。
「(追っ手の兵か!?)」
 自分たちがいる位置を知られないうちに進もうと走ると、相手も走り出した。
「伏せて!」
 ローザが一輝の腕を掴み床へ転ぶ。
 避けるのが1秒でも遅かったら、槍の餌食になっていたところだ。
「ちっ、仕留め損ねたか」
 追ってきた足音の主は、眉を吊り上げて舌打ちをする。
 2人は立ち上がって相手を見ると、階段付近に槍を手にしている無愛想な女がいる。
「兵の服を着ていないってことはもしかして・・・」
 最悪な状況に、ウィノナは一歩下がる。
「そこのガキども。施設の外で侵入の手引きをしていたやつらだよな?骨の1本や2本、覚悟しろよ」
「一輝ちゃんたちは先に行ってくださいです!」
「分かった、すまない」
 ファイリアたちを残し、一輝たちは急いで地下3階へ降りていく。
「小娘なんか相手に寒氷陣を使うまでもない」
「なめてかかると痛い目みるですよっ」
「何であいつらを逃がしたか、まだ分かっていないようだな」
「まっまさか・・・」
「そう、そのまさかだ。てめぇら、オメガの友達なんだろ?ゴースト兵どもから聞いたぜ」
 焦るファイリアの表情を見て、董天君はニィッと笑う。
「ファイたちを捕らえて、オメガちゃんを悲しませる気ですか」
「深手を負わせて捕らえれば、魔力を奪えるし。その上、あの魔女を悲しみのどん底に落とすことが出来るんだ。まさに一石二鳥だなぁ!」
「うぅっ!」
 モップで槍の刃をなんとか受け止めたものの、アルティマ・トゥーレの冷気で得物が凍てついていく。
「させません!―・・・あぁあっ」
 ファイリアを助けようとウィルヘルミーナは大剣で刃を叩き折ろうとするが、ブリザードで吹き飛ばされ、床に叩きつけられてしまう。
 彼女を助け起こそうとするウィノナに向かって吹雪をくらわす。
「さ・・・寒いっ。このままじゃ、2人とも凍えそうだよっ」
 あまりの寒さに少女は床に座り込み震える。
「あっちはもう終わったな。残るはお前だけだ」
 ファイリアの方に顔を向けた瞬間を狙い、ウィノナがアシッドミストを放つ。
「何しやがる、このガキ!」
 董天君はとっさに氷術で酸の霧を防ぎ、その隙に逃げようと少女たちは階段の方へ走る。
 怒りのあまりにウィノナの腹を突こうとする。
「串刺しになりやがれぇええっ」
 ガキィンンッ。
 刃がぶつかり合う音がフロア内に響き渡る。
「ウィル!?」
 ウィルヘルミーナが防いでくれたおかげでウィノナは槍から逃れられた。
「行ってください」
「―・・・え、でも」
「先に行ってください・・・。ここで3人とも捕らわれてしまったら、それこそ相手の思う壺です」
「分かったよ・・・ウィル」
 彼女の意思を無駄にしないよう、ウィノナはファイリアと共に地下3階へ走る。
「美しい友情劇ってやつか?フンッくだらねぇえな!」
 笑い飛ばすと董天君は少女の鳩尾に槍を殴りつける。
「あれだけ外で騒動起こして、見つからないように進めるとでも思っていたのかよ」
「なんとでも言ってください・・・。2人を逃がすことが出来たんですから」
 ウィルヘルミーナは床に倒れながらも董天君を見上げ、ファイリアたちを逃がせたことに満足そうな笑みを浮かべた。
「その生意気な口も叩けないようにしてやる」
 少女を睨みつけ、董天君は無線でゴースト兵を呼ぶ。
 床に倒れているウィルヘルミーナを簀巻きにし、牢へ連れて行かせた。
「おい、ガキども出てきやがれ!」
 その様子を見届けた後、すぐさまファイリアとウィノナの後を追い地下3階へ降りる。
「うあっ、来たよ・・・」
 少女たちは空っぽのダンボールが置いてある室内へ非難している。
「侵入で体力使ったし・・・それにSPの残りもやばいよ」
「あいつが離れるまで動かない方がいいかもしれないです・・・」
 ファイリアとウィノナは少しの間、身を潜めていることにした。



 一方、地下3階にたどり着いた阿童たちは、牢獄のある地下へ降りる階段を探している。
「(兵以外のゴーストすら見かけないなんて、おかしな状況だな。まるで何者かが地下へ誘っているようにも感じる)」
 助けに向かう好機でもあるが、地下へ誘われいる雰囲気を不気味に感じる。
「ここを降りれば、地下牢の階か」
「なんだか様子がおかしいですよね・・・」
「たとえそうでも進まなきゃ助けられないからな」
 相手のトラップかもしれないと警戒する火藍の方を振り向いて言う。
「待て阿童、向こうの角に誰か隠れているぞ」
 アークはスナイパーライフルを持つ人影を見つけ、階段を降りようとする阿童を止める。
「ここで俺様たちが逃げても、あいつに仲間を呼ばれちまったら後々面倒だ。始末しておくか」
 袖に隠してある七首の刃でターゲットの喉元を狙う。
「まっ、待て。俺はゴーストじゃない!」
 その声を聞いたアークはピタッと手を止めた。
 短刀の刃は人影の喉に、突き刺さりそうなギリギリの位置だ。
「何だ、生徒か。いきなり襲い掛かって悪かったな」
「いや・・・この暗がりじゃ、分かりづらいからな」
 一輝はほっと安堵の息をつく。
「俺たちは捕縛された生徒たちを助けに行くんだが、そっちは?」
「奇遇だな!俺様たちも、これから地下牢へ助けに行くところだ」
 どこへ行くのかと聞かれ、アークは一輝たちと目的が同じだと答える。
「なぁ、俺たちの他にもう1人、この階に来なかったか?」
「いいや、見てないな」
「たしか先に降りて来たはずなんだが・・・」
「目的が同じだったら牢の方へ向かっているのかもしれないぜ」
「そうだな・・・」
 捕縛されている生徒を助けることを優先しようと、一輝たちは階段を降り牢へ慎重に進む。
「ここが牢屋か?」
 数十分歩いたところで足を止め、ドラム缶の陰から阿童が牢屋の方を見る。
「今のところ見張りのゴースト兵が3人か。俺たちだけで倒せそうな数だな」
 一輝はライフルの照準を合わせて兵の頭部を撃ち抜く。
「どこから銃弾が!?」
「侵入者どもがまた牢を襲撃しに来たのか!」
 頭を破壊され、ただの死体に戻った仲間を見て、残りの2人が慌てふためく。
「近くにいるかもしれん、気をつけろ・・・がふ!?」
 背後から忍び寄るアークに気づかず、七首で首を斬り離されてしまう。
「―くっ、この・・・んぐっ」
「喋るな。すぐに葬ってやるか安心しろ」
 もう1人の兵の顔面を掴み、目の上から先を斬り裂く。
「まだ動けるのか。脳をきっちり壊せば止まるか?」
 首を斬り離されても動こうとする亡者の頭部を、壁際に蹴り飛ばすと動かない死体へ戻った。
「鍵は・・・あった、これか」
 阿童は兵が着ている上着のポケットに手を突っみ鍵を奪う。
「ゴースト兵たちがやって来るぞ、急げ」
 牢の前で見張っている一輝が阿童に言う。
「せっかくここまで来たっていうのにっ」
 2つの牢の鍵を開けて生徒を出してやる。
 助けに来た自分たちまで捕まっては意味がない。
「ようやく出られました、ありがとうござます!獣化しても解けなかったんで、どうしようかと思っていました」
 ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)は阿童たちへ丁寧に礼を言う。
「俺にどこにも怪我はない、火藍。深呼吸だ深呼吸!」
 ロープと鎖でギチギチに簀巻きにされていた状態から開放され、久途 侘助(くず・わびすけ)は深く深呼吸する。
「なんだか心配して損しました・・・」
「ん?何か言ったか」
「いえ・・・何も」
 捕らわれていたとは思えないほど元気ありすぎる侘助に、火藍はふぅっとため息をつく。
「ヒールで治してやりたいが、今はちょっと無理そうだな」
 ぐったりとしている椎名 真(しいな・まこと)の方を見るが、治療を諦めて牢から出た。
「念のため、一着だけ持っていきましょう」
 火藍は死体から服を奪い取る。
 亡者どもに見つかる前にそこから離れようと、阿童たちは地下3階を目指して走る。
「全員いるな?とりあえず上の階で休息を取ろう」
 兵が牢屋にやって来る前になんとか助け出せたのは結局、助け出せた人数は2人だけだった。
 階段の前へたどり着いた瞬間、ギリギリッギリと壁を引っ掻く音が聞こえた。
「何かいるのか?」
 侘助が睨むように階段の上の方を見上げる。
「ゴースト兵・・・ではないようですね」
 亡者の人間離れした長い爪を見たヴィゼントは頬に冷や汗を流す。
「何だこの数!」
 姿を確認しようと一輝が赤外センサーで照らすと、その後ろの方にゴーストの群れがひしめきあっている。
「地下3階でゴーストどもにまったく遭遇しないから妙だと思っていたが。こういうことか!」
 阿童たちを捕らえようと、わざと地下へ向かわせていたのだ。
「まずいな。俺たち2人は武器取られたままだし・・・」
「えぇ、戦おうにも保管庫に行かないとありませんから」
 得物を取られたままの侘助とヴィゼントは悔しそうな顔をする。
「光条兵器を使っても、倒しきれるかどうかだな」
 阿童は携帯電話に接続したままの光条兵器を見て、突破しようか考え込む。
「たとえ突破出来ても、その先にゴースト兵が待ち構えているかもしれないぞ」
「あぁー、確かにな。それが一番厄介だ」
 侘助に言われ阿童は髪をぐしぐしと掻き上げる。
「消耗しすぎて肝心な時に技が使えないんじゃ、どうしようもないからな」
「早くどうするか決めてくれ、これ以上はもう防ぎ切れないぞ」
 奇声を上げながら襲い掛かるゴーストを撃ちながら一輝が叫ぶように言う。
「上が無理なら、ひとまず下の階へ非難しましょう」
「そうするしかないか」
 ヴィゼントの言葉に頷き、阿童たちは地下5階を目指して走り出す。
 階段を駆け降り、隠れられそうな場所を探そうと走る。
「ここは無理みたいです」
 入れそうかどうか確認しようとヴィゼントが鉄製のドアに耳を当てると、中から不気味な声音が聞こえる。
「どうせろくなのが入ってなさそうですから、開ける必要はないですね」
「この部屋は中から何も聞こえないみたいだ」
 侘助はドアノブに手をかけ、警戒しながらそっと開ける。
「―・・・一応、何もいないな」
「そこへいったん隠れよう」
 彼が見つけた小部屋へ、一輝たちは急いで駆け込む。
「ここなら明かりが漏れないでしょうからね」
 火藍は光精の指輪で室内を照らした。
「牢の中、寒かったわよね?お茶どうぞ。チョコもあるわよ」
 魔法瓶に入れてきた紅茶をコレットは、ヴィゼントと侘助に手渡す。
「ありがとうございます」
「ふぅ、暖かい」
 侘助は受け取ったお茶を飲み、チョコを1つ摘んだ。
「少し休んで部屋の外の様子を見てから脱出した方がよさそうですわね」
「そうだな・・・」
 一輝はローザの言葉に頷き、しばらく休息を取ることにした。