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絵本図書館ミルム(第3回/全3回)

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絵本図書館ミルム(第3回/全3回)

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 絵本図書館ミルムの物語
 
 
 そして数日後。
 ミルムの緑の生け垣に白い花が咲き出し、一層明るさを感じさせる春の日。
 
 ミルムの事務室に白菊 珂慧(しらぎく・かけい)は絵本図書館の1日の仕事を書いた一覧表を貼りだした。ミルムには入れ替わり立ち替わり、時間を見つけては学生たち、近所の人たちが手伝いにやってくる。その人たちが、自分が今何をしたらいいのか、その一覧表を見ればすぐに分かるように。
 その隣には掃除場所のチェック表。同じ処ばかりに掃除が重なったりしないように、掃除をした場所にチェックを入れて、一目で分かるようにする為のものだ。
 反対側には伝言メモを貼る為のボードを掛ける。
 机の上には、スタッフ向けの日誌を置いた。日誌の最初にはこれまでの出来事を年表風にまとめたものが記してあり、そこから先はその日あったことや考えたこと、皆に伝えたいことをスタッフに自由に記入してもらうようにしてある。
 ミルムは1人2人の手では回らない。多くの人の手が支える場所だから、その引き継ぎがスムーズに出来るような工夫は大切だ。
 事務に役立ちそうな表を貼り終えた珂慧は、今度は絵本図書館ミルム通信やチラシに寄稿する為のイラストの作成に取りかかった。
 このイラストを描き終えたら本の整理を……いや、その前に庭の手入れをしておいた方がいいだろうか。ラテルマップにあった花畑のスケッチにも行ってみたいし……。
 そんな風にやらなければならないこと、やりたいことがたくさん心に浮かんでくるのは、何だか楽しい。
 そこに、封筒を持ったサリチェが入ってきた。
 リッツォ家の使用人が届けに来たのだと言って、封を切る。
「資金援助についての最終結論ね。書面で送ってきたのはお姑さんの意見かしら。相変わらず律儀な方ね」
 そう言いながらサリチェは届けられた紙を読み始めた。
「あら……ソフィアさんが定期的に資金援助をする、という話は無かったことに、ですって」
「そっか。仕方ないね」
 そう言いながら、珂慧は違和感を覚えた。残念な結論のはずなのに、サリチェの顔は笑っている。
「そして改めて……この場所の存続を願う者として、リッツォ家より運営資金の全面的なバックアップをさせていただきたく存じます、って」
 紙を胸に抱いて、サリチェははしゃぐ子供のようにくるっと回転すると、みんなに見て貰いたいからとその報せを伝言ボードにピンで留めた。
「これでもっともっと、色んなことが出来るようになるわね」
 手伝う学生たちが、サリチェが、街の人がそうして未来を見ている限り、ミルムと街は一緒に成長していくのだろう。それをずっと……見守って、いたい。そう感じられる自分もきっと、この場所と共に前に進んでいっているのだろうから。
 
 
「はい、アンゴルさんもこれをどうぞ」
 ミルムにやってきたアンゴルに、風森 巽(かぜもり・たつみ)は手作りの絵本を渡した。
 絵本の題名は『絵本図書館ミルム』。
 ミルムでこれまでに起きたことを童話風に書き綴ったものだ。絵には自信がない為、イラストを描く代わりに、折り紙を使ったちぎり絵を貼ってある。
 文字は子供にも読みやすいように大きく書いてある。間違いがないようにシャンバラ語を調べては、丁寧に書いたものだ。
「はい、ここの図書館の絵本だよ」
 近くを通りかかった子供にも、巽は同じ絵本を渡した。子供は喜んで読み始めたけれど、途中であれっと首を傾げた。
「これ、途中までしかないよー」
 絵本の後半は何も書いていない白紙のままだ。
「うん。そこから先はね、君が描いていくんだ。ここで遊んだこと、読んでもらった本のこと。少しずつ少しずつ描いていって、君だけの絵本を作っていくんだ」
 巽に言われ、子供はわぁと声を挙げた。
「面白そうー!」
「面白い絵本になるといいね」
 親にも見せようと、絵本を抱えて走ってゆく子供を見送ると、巽はまたアンゴルに向き直る。
「自分で絵本を作れば、今後も本を大事にする子になると思いませんか? アンゴルさん」
「さて、な。ろくでもない絵本にならないといいが」
 そんな憎まれ口を聞きながらも、アンゴルは大切に絵本を小脇に抱えた――。
 
 そしてこの『絵本図書館ミルム』はリッツォ家にも届けられた。
 本を作っていて、問題の解決に助力出来なかったことを詫びながら、巽はソフィアに前半だけの絵本を渡した。
「絵本図書館に来た時じゃなくても、子育てしてこんなことがあったとか、初めて立って歩いたとか、そんな大切な記憶を綴っていただければいいんです。そうしたらいつか……その子に、こんなことがあったんだよって、読み聞かせられる絵本が出来ます」
 失敗だってするし、間違いだってある。
 けれど、それが1人1人の大切な歴史。
 いつか振り返った時、そこに記された物語はきっと宝物になる。
 これまでのことを胸に、これからのことを記して行こう。
 それこそが……。
 ――絵本図書館ミルムからはじまる、終わり無き物語――
 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

 
 絵本図書館ミルム全3回……これにて終了となります。

 ご参加下さった方、リアクションを読んで下さった方、本当にありがとうございました。
 最後の最後で、何だか気持ちばかりが溢れてしまい、リアクションの執筆がうまく進みませんでした。期日を過ぎてしまって申し訳ありません……。
 最終回なので称号とかコメントとかちゃんとしたかったのですけれど、遅刻を嵩ませてしまっては、と途中で断念……残念というか申し訳ない気持ちでいっぱいです〜。

 絵本図書館で起きる日常とあまり変わらない出来事を書く、というつもりで始めたシリーズでしたが、気づけば街にまで影響を与えるお話となっていました。
 ガイドを出す時には、成功するならきっとこんな流れ、普通ならこう、失敗したらこうなっちゃうかな、のような予測を立てているのですけれど、皆様がミルムに寄せて下さったアクションは、毎回私の予想していた成功を超えるものでした。
 皆様のアクションの中から感じる優しさ、温かさが嬉しいやら頭が下がるやらで。人の想いがどれくらい周囲に影響を与えるか、勉強させていただいた気がします。

 最終回を書き上げた後も、まだ書かなければならない話がたくさんある気がします。あれもやりたい、これもやりたい、という気持ちはあるのですけれど、そんなことを行っていると際限なく番外編を出してしまいそうなので、ひとまずはこれで終わり。
 まだミルムやラテルでこんなことやりたい〜、というのがある方がいましたら、感想掲示板にでも書いておいて下さいませ。出す、とは言えませんけれど、参考にさせていただきます。

 では……ミルムシリーズ最後のご挨拶は、やっぱりこれで。
 ありがとうございました。またご縁がありましたらどこかでお目に掛かりましょう!