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第2章 調理at隠密科棟家庭科室


「さて、私はお花見の時に食べるお料理を作ります! アヤに私の手作り料理を食べてもらいたいのです」

 こちらは、隠密科棟1階最奥に位置する家庭科室。
 しゃもじを手に、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が意気込みを述べる。

「家ではユーリさんがやらせてくれませんし、こういう機会にこそがんばらねばなりません!」
(……1人で作るつもりだったのだが、クリスも料理をしたいと言ってくるとは……仕方ない、こちらではクリスの指導に集中しよう)

 机上に置くは、あらかじめ作ってきた『菜の花のお浸し』と『だし巻卵焼き』の入ったお弁当箱。
 ますます盛り上がるクリスへ対し、心中にてユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)は溜息をはく。
 自宅でクリスに料理をさせない理由、それは。

(……これまでどれだけ調理器具を壊されたことか……)

 ゆえに本日この場にて調理するのは、料理器具不要の代物……『おにぎり』だ。

「ユーリさん指導のもと、私がんばります!」
「あっ!」

 遅かった……しゃもじ、折れちゃった。
 クリスの後頭部を押さえるとユーリは、自身も隠密科の生徒へと頭を下げるはめに。

「……許してもらえてよかった……でももう、クリスには持たせない」
「ごめんなさい……です」

 とまあひと騒動終えて、2人はやっとこさおにぎりを作り始めた。
 具は、隠密科の生徒達が準備してくれていたなかから『鮭』と『梅干し』に『昆布』を選択。
 ふっくら柔らかに、ユーリは米粒の感触を楽しみながら握る。
 対して、クリスはそんなこと気にしない。
 パートナー達への愛情と腕力とで、かみごたえのありそうなおにぎりを作り上げるのだった。


「ということでせっかく隠密科なんて楽しげな場所で調理できるんですから、それっぽい物を作らないと嘘ですよねー」
「ルインも一緒に、シルヴァ様が作る料理の仕込みやお手伝いをするよ!」

 爽やかな朝にお似合いの、いたずらっ子の笑みを浮かべるシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)
 雰囲気の欠片が、ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)の表情からも読み取れる。
 ルインは気付いているのだ……シルヴァの作ろうとしている料理の、強力な攻撃性に。

「ルイン〜『月餅』の生地を練ってください。僕は『ロシアン胡麻団子』にとりかかります」
「普通の作ればいいんだよね、了解だよ!」

 妙に引っかかるルインの台詞……『普通の』、って一体。
 それよりも何よりも、『ロシアン』ってどうなのさ!?

「餡に混ぜるのは……『よもぎ』でしょ、『わさび』に『たらこ』。
 あと『南瓜』、『激辛カレー』、『カロリーメイトのフルーツ味』っと」

 すりつぶしたよもぎで緑がかった餡と、ゆでた南瓜で黄色がかった餡、はまぁ美味しそう。
 練りわさびに新鮮なたらこ、激辛カレースパイスって、どれも辛そうなものばかり。
 砕いたカロリーメイト……味が想像できません。

「シルヴァ様、できたんだよ!」
「ではこちらを一緒に……餡を、つめましょう」

 見ためまったく判別のつかないお団子が、あれよあれよという間に量産されていく。
 パートナーはもちろん、一緒にお花見をするグループ全員へ行き渡るように。

「ルインとシルヴァ様ががんばって作ったんだから、きっと美味しいと思うんだよー♪」

 無論、ルインもシルヴァも味見なんてしていない。
 ふたを閉めて……恐怖のロシアン胡麻団子、完成。
 『シャンパン』と『シャンメリー』の入った袋に、そっと忍ばせて。
 シルヴァとルインは手際よく、片付けを始めるのだった。


「『寿司』って美味しいけど、いろんな味があるよね」

 湯島 茜(ゆしま・あかね)が作ろうとしているのは、寿司。
 なのだが、日本にあるような寿司ではない。

「どうせ作るなら、空京では買えないようなマニアックな寿司をつくりたいよね!」

 ということらしい。

「きっとスパムとか入れたら美味しいと思うの。でもでも、アボガドとかも捨てがたいかも!?」

 さすが、総奉行がアメリカ人なだけのことはあり、食材は豊富だ。
 思い付いたら即行動と、スパムの缶を開けると茜は、酢飯の上にぽん。
 ちなみに、アメリカで普通に食べられているものは塩でご飯を味付けするらしい。

「茜君はアメリカの寿司に偏見を持ちすぎであります」

 これはいかがなものかと、エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)は思う。

「しかしひょっとしたらアメリカ寿司やアメリカおにぎりはそういうものかもしれないであります」

 酢飯の上に載ったアボガドを見つめ、眼を丸くして。
 エミリーは、しかし美味しそうな寿司へと手を伸ばしたのだった。