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第3章 調理at陰陽科棟家庭科室


「お花見は日本のイベントですよね」 

 陰陽科の家庭科室にて、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が1人の生徒に話しかける。
 その少女とは以前、見学会にて友達になっていた。
 ちなみに本日のヴァーナーは、百合園女学院制服の上にピンクのふんわりケープを着用している。

「『お花見ダンゴ』に『道明寺餅』。かわいいスイーツがいろいろあるんですよね♪」
(ヴァーナーが楽しそうなところを見ているだけで幸せですわ)

 笑顔でうなずく少女に、嬉しくなるヴァーナー。
 そんなヴァーナーの様子から、セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)にいたっては幸せまで感じていた。
 セツカの衣装は、百合園女学院制服の上にモスグリーンのふんわりケープ。

「あらあら、そちらの餅米はそろそろ蒸らし終わるのではないかしら?」
「あ、本当ですね……美味しそうです」

 セツカの言葉に、ヴァーナーは炊飯機のふたを開ける。
 ほんのり桜色、つやつやの餅米が炊きあがった。

「このお米であんを包むのですね」
「火傷をしないよう、気を付けてくださいませ」

 あらかじめ丸めておいたこしあんを餅米でくるみ、さらに桜の葉を巻いて。

「とても綺麗ですわ」
「ほんのり甘くておもしろいはごたえです」

 少女の指導のもと完成した道明寺餅を見つめ、セツカは絶賛。
 一方で作ったそばから、ヴァーナーったらつまみ食いをしている。
 ほわ〜と至福のときを味わうヴァーナーの表情に、セツカも大満足するのであった。


「腕によりをかけて、美味しいお花見弁当を作るぞ」

 特技の『調理』を活かして、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は本格的なお花見弁当を作り始めた。
 中身は稲荷寿司と巻寿司からなる『助六寿司』、『鶏の唐揚げ』、『出汁巻玉子』、『筑前煮』となる予定。
 すでに涼介は、唐揚げの下味付けや、かんぴょう、五目稲荷の具の含め煮など一定の下準備を済ませている。

「兄さまはお花見弁当を作っているのだから、私はデザートを作りましょう」

 涼介に触発されたエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が、思い付いたようにうなずいた。
 何を作ろうかと、腕組み必死に考えて。

「せっかくのお花見だから、その場に相応しいものがいいですね……それなら『長命寺餅』で決まりですわ」

 ぽんっと手を打ち鳴らすと早速、エイボンの書は皮の材料を集め始める。
 こちらは餅米ではなく、白玉粉と薄力粉を使うよう。

「お寿司用のご飯はこれで大丈夫……この間に筑前煮と出汁巻玉子、唐揚げを作ろう」

 炊飯器をセットした涼介は、手際よく次の料理へと取りかかる。
 涼介とエイボンの書の服装はお揃いで、ローブなしのイルミンスール制服の上にエプロンを巻いていた。

「エイボンの書、順調か?」
「えぇ、幸い長命寺餅の作り方は前に兄さまから習いましたから」
「そうか、期待しているな!」

 涼介の心配を受け、元気に返すエイボンの書。
 2人で料理をした日の記憶に思わず、想い出し笑いがこぼれる。

「生地が焼けましたわ、あとは餡子を包むだけ……」
「稲荷寿司は中の酢飯を白と胡麻プラスガリと五目の3種類、巻寿司はかんぴょうの細巻を作れば、完全なる助六寿司だ!」

 エイボンの書も涼介も、完成へ向けたラストスパート。
 下段に寿司、上段におかずをつめたお重と、長命寺餅は皿へ並べて。

「さあ、今日はめいっぱいお花見を楽しみますか!」
「はいですわ!」

 お弁当のできに手応えを感じ、拳を握る涼介。
 両手を上げて、涼介とエイボンの書は一緒にばんざいするのだった。