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【空京百貨店】屋外イベント会場・植物フロア

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【空京百貨店】屋外イベント会場・植物フロア
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■イベント会場(朝)


 空京百貨店。地球の百貨店を再現し、地球の文化をパラミタに広める目的を持っている商業施設だ。当然日本のそれと同じように屋上が一般公開され、希望者にはイベント会場の貸し出しもしている。休日ともなればたくさんの親子連れや恋人、ぼーっとしたい買い物に疲れた主婦たちでにぎわっていた。
 本日の屋上イベント会場では朝・昼・夕にそれぞれ別の出し物が上演される。朝の部は「音撃戦士キューティメロディア」という戦うヒロインが魅力の女の子向け着ぐるみショーだった。今回も道に迷ってしまった鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)はおっきな鞄を振り回しながら、姫神 夜桜(ひめかみ・よざくら)と一緒にイベント会場に向かって小走りしていた。急がないと!

 たたたたたっ!

「ひー君、間に合ってよかったね。音楽のヒーローショーなんでしょ?」
「そうなの。ギリギリだったけど、よかったぁ」
 小中学生の女の子たちや家族連れに混じって、氷雨たちも後ろのほうの席を確保することができた。氷雨は夜桜の方を、つんつんっとつつくと自分のカバンを注目するように言う。
「なに、それ?」
「あのね、ここ来る前にとある場所でお弁当買ってきたんだー。見ながら食べようね」
 少しひきつった顔の夜桜。それも無理はない。氷雨が取り出した銀色のお弁当……蓋からは赤い汁と、おどろおどろしいオーラがとぽとぽと零れ落ちていた。なぜだろう、目につーんとくる。
「お茶室特性デローン弁当赤汁バージョンだよ!」
 すごいよねー♪ とにっこりほほ笑む氷雨。
 すごいね……。 とじんわり手汗をかく夜桜。この弁当は名前からしてヤバい。
「よし、ひー君。僕がこのお弁当に魔法をかけてあげる」
 夜桜はスルリとポケットからシルクのハンカチを取り出し、それをふんわりとお弁当箱にかけた。イチ・ニッ・サン! 長い人差指の先で円を描き、ハンカチを取り除くと美味しそうな匂いのお弁当に変わっていた。このにおいは……ハンバーグだ!!
「ほら、お弁当の中身が変わったよ」
「わぁー凄い! どうやったの? 前のお弁当は?」
 ハンカチを調べてみるが何も出てこない。種を知りたがる氷雨に対し、夜桜はニコニコと笑って箸を渡すだけだった。
「はい、お箸。じゃあ、食べようか」
「わぁーい、ありがとう。いただきま〜すっ」
 ほっぺたにソースをつけながらもきゅもきゅとほおばる様子はハムスターのようだった。ごくんっと飲み込むと満足げな深いため息をつく。
「おいしいっ。夜君、凄いね!」
「どういたしまして」
 ショーが始まり、すっかり前のお弁当のことは頭から離れてしまった。入れ替わったお弁当の中身は……誰も知らない。かも。
 一方緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、特に用事もなくぶらっと遊びに来ただけだったのだが、音響周りの人手が足りないと聞いて助っ人をすることにした。ちぎのたくらみで音楽フロアのアイドル、ハルカちゃんにモードチェンジするとかわいい声でアナウンスをする。今回は音楽フロアのスタッフであることを示すため、エプロンに腕章をつけている。
「お客様にご案内をいたします。音撃戦士キューティメロディアのスペシャルショーが屋外イベント会場にて開催されますっ。繰り返します……」
 遙遠はマイクをオフにすると、出演者から受け取ったリストと音声データをざっと見直し照明スイッチをオンにした。
「うう。音響周りだけじゃなく、ナレーションと照明も担当なのですね。でも、子供たちのために頑張りましょう」
 しかし、幼児化しているので頑張っていても微笑ましいのであった。


「時は2020年。パラミタが姿を現したことにより、日本をはじめ世界は好景気を享受しています。今のところパラミタ開拓はうまくいっていると言えるでしょう。しかし計画が頓挫するようなことがあれば、世界は深刻な不景気に悩まされるに違いありません……。
 大変です! 悪の力で世の中を支配しようとする『ファクトリー』の幹部、『地獄探索機マシンキメラ』が、この屋上のどこかに現れるという情報が届きました!!」
 遙遠がナレーションをすると子供たちがキョロキョロとあたりを見回し、一番最初に発見した子供があーっ! と声を上げた。楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)扮する地獄探索機マシンキメラが、肩いっぱいにトゲの装飾をつけていかにも悪役という風に観客席の後ろから登場したのである。
「フハハハハ!! 我ら『ファクトリー』の目的は世界征服!
まずは手始めに、ここにいるお前たちを改造してやろう。
お前たちも、機晶剣ミラーズのパーツとなるのだ。この女の様にな!」
 重みのある機械音を響かせながら客席の注目を集めていくフロンティーガー。彼が叫ぶと同時にステージ上にドライアイスの煙が立ち込め、その中からうつろな目をした蓮実 鏡花(はすみ・きょうか)が剣型機晶姫であるディソーダー トリストラム(でぃそーだー・とりすとらむ)を伴って登場した。
「……」
「オラオラオラァ! 俺に叩ききられたい奴はどいつだ!?」
 どうやら、鏡花はディソーダーに操られているようだ。ディソーダーは『機晶剣ミラーズ』としてマシンキメラが開発した洗脳兵器……。一般人を洗脳して戦わせる事ができ、人間の人格を押し込めて剣が人を操るようになる恐ろしい武器なのである。
「まあ待てミラーズ。クク、誰から改造してやろうか……むっ、そこでハンバーグを食べているお前に決めた!」
 フロンティーガーは氷雨をターゲットに決めると、ズシンズシンと近寄っていく。氷雨は『わあっ』という顔をしてお弁当を横取りされないように慌てて全部をもきゅもきゅしている! しかし食べるのが意外と遅い! よく噛んで食べているからだ!!
「よし、まずは貴様から改造してやろう!」
『待ちなさい!』
「何奴!?」
 肌色全身タイツを着こみ、その上からヒラヒラフリルの衣装と登場キャラクターを模ったフルフェイスの着ぐるみマスクを被った4人の女の子があらわれた。余談だが着ぐるみのためしゃべれないので、事前に録音した音声データを遙遠が再生している。
『みんなに笑顔を! キューティオレンジ!』
 ギター担当のローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がくるりと回って右目にブイサインを当てる。
『みんなに希望を! キューティグレープ!』
 ベース担当のグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は祈るポーズをした後、小首を可愛く傾げてみた。
『あなたに癒しを! キューティメロン!』
 キーボード担当の上杉 菊(うえすぎ・きく)は投げキッスをした後、てへっ☆ と照れて見せた。
『あなたに愛を! キューティレモン!』
 ドラム担当のエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)は両手の親指と人差し指でハートの形を作り、胸元から客席に向けてハートのビームを打ち込んだ。
「旦那、さっさとぶった切って終わらせるぜぇ! 魔閃鉄剣!!」
 ディソーダーはサイケな叫びをあげるとローザマリアに向かって、轟雷閃と雷術の合わせ技をお見舞いする。バチバチと派手な音がするその技に、ヒロインたちは苦戦を強いられているようだ。
「みんな、お姉さんたちを応援して!」
 遙遠が会場の子供たちにうったえかけると、屋上の子供たちが『がんばれーっ』と大きな声援をおくった。もっともっと! さらに大きな声が屋上に響き渡る。するとイベント会場の幕が1枚上にあがり、その奥から様々な楽器が現れた。彼女たちの必殺技は4人でバンドを組む様にして演奏し悪を浄化する『リフレッシュメロディア』。この技は子供たちの応援によって召喚された楽器で演奏することで効果倍増なのだ。
『悪しき心に響け、愛と勇気のメロディ!』
「ぐああああ、やめろ。やめろおおお!!!」
 ローザマリア扮するキューティーオレンジが合図をすると他のヒロインたちも楽器を手に取り華麗なバンド演奏を披露する。地獄探索機マシンキメラの弱点は音波と歌声、効果は抜群だ! 鏡花は頭を押さえて苦しげにうめいている。
「わ、私が欲しかったのはこんな力じゃない!! 誰かを護る為の力なんだ!」
「俺の洗脳を解いただと!?」
 キューティーオレンジたちの演奏によって正気を取り戻した鏡花は、彼女たちの演奏でダメージを受けているフロンティーガーをキッと睨みつけた。
「馬鹿剣、今度はこっちの言う事を聞いてもらうぜ!」
「おいおい、マジかよ? わりぃな旦那、まぁ、俺はぶった切れればそれで良いんだけどな」
 チェインスマイトのモーションを交えつつヒロインたちを攻撃したフロンティーガーに、爆炎波と炎術で激しい爆炎を伴う『劫鬼火断』で応戦する鏡花。
「いっくぜえええええええええ!!!!!!」
「こ、これが愛と勇気の力だというのかぁぁぁ……!」
 追いつめられたフロンティーガーは、舞台裏に転げ落ちて姿を消してしまった。キューティーメロディアたちの勝利である!!
『みんなっ、応援してくれてありがとう。日曜朝8:30はTV空京で会おうねっ♪』
 こうして今日も空京の平和が守られたのであった!


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 

「ま、たまにはこういうのも悪くはないわね。で、それが何でこの炎天下の中、肌色全身タイツにフリフリ衣装、マスクをかぶって着ぐるみショーなわけ?」
 マスクをはずしたローザマリアは額の汗をぬぐいながらグロリアーナに声をかけた。
「ただ演奏するだけでは空京ドームライブなど夢のまた夢! というのは建前で、妾は日曜朝のこの番組が大好きでな。それに悪を倒す手段が演奏と言う事は、またとないスキルアップにも繋がるであろ?」
 菊もにっこりとほほ笑んでその意見に賛同した。エリシュカのマスクをとるのを手伝ってやっている。
「こういうのも楽しくて善いですね。永禄生まれのわたくしにはキーボードは難しい楽器でしたが、子供たちの笑顔を見ていますと、昼夜問わず練習した甲斐があったというものです。とても嬉しく、また善い思い出が出来ました」
「はわ。全身タイツ越しだとドラム叩きにくかったけど、何とかなったね。練習した御蔭、かな」
「しかしながら、ライザ様? 行く行くは全国区のバンドとして活動するのでしたら、着ぐるみを着ていては、宣伝にならないのではないでしょうか」
「バ、バンドデビューの機会を逃したがチャンスはまだある。今回は妾がその晴れ舞台の御膳立てしてやったのだぞ?」
「はわ。エリーも、とても愉しかった、の。また、みんなでバンド、やりたいな」
 フロンティーガーはそんな女の子たちと裏方の遙遠に挨拶をした後、鏡花にサインを書いてあげた。ついでにティータイムの準備をして、みんなに冷たいメロンソーダやアイスティーを用意し、希望者にはその上にソフトクリームを乗せてフロートにしてやる。汗だくの体にはその冷たさがありがたく、皆で仲良くイベント会場裏に座って楽しいひと時を過ごした。