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【空京百貨店】屋外イベント会場・植物フロア

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【空京百貨店】屋外イベント会場・植物フロア
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■ソフトクリーム売場・昼


 昼時は屋上のあちらこちらで、お弁当を広げる人々の姿が見られた。そんな中、牛乳が大好きな鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)はスキップをしながらソフトクリーム屋に向かっている。
「いらっしゃいませ。何に致しますか?」
 店員のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)がにっこりとメニューを紹介すると、翔子はどれにしようかな? と悩んだあとに景気よくパーンとメニュー票をたたいた。
「えーと、メニューの右から順に全部。溶けるといけないから5分毎に1個ずつ出してもらえる?」
 レキは内心びっくりしつつも自然な笑顔を浮かべたまま盛り付けに移った。彼女は料理への自信は三角マークだが、盛りつけは得意らしい……コーンフレークをまぶしたカップにソフトクリームをぐるぐると落としていく。それにしても5分は忙しいっ。
「あれっ。お母さんとはぐれちゃったのかな。もうすぐお母さんが来ますから、ここで待っていましょうね?」
「え? ……あっ!」
 カムイ・マギ(かむい・まぎ)は売り場を見つめているノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)に対して柔らかい雰囲気で話しかけた。神代 明日香(かみしろ・あすか)がソフトクリームを買いに行っている間1人でいたため、また迷子と間違われてしまったようだ。ほっぺをぷくーっとふくらませて迷子じゃないと文句を言っている。
「ほーら、ノルンちゃん。これ、何か知ってる?」
「馬鹿にしないでくださいっ。アイスクリームですっ」
「これはね、ソフトクリームって言うんだよ」
「違いますっ。アイスクリームですぅっ」
 明日香はバニラとチョコのソフトクリームを1個ずつハードコーンで購入し、ソフトクリームの実物を見たことがないと思ってクイズを出した。
「明日香さん、ソフトクリームは和製英語で柔らかいアイスクリームで空気を入れて柔らかくしているんです」
「へ、へえ。ノルンちゃん、物知りだね」
「お詳しいですね、お客様」
「だからアイスクリームであってますよ、早くください」
 明日香とカムイに褒められるとまんざらでもなさそうに小さな胸を張ったが、ノルニルの目線はさきほどからずっとソフトクリームに注がれている。先ほどから溶けないように氷術を調整しながら明日香の手元を冷やしていたのだが、そろそろ待ちきれなくなったようだ。
「ん、手がだいぶ冷えて……すみません、大人用に温かい飲み物って売ってないかしら」
「それでしたらコーヒーがございますよ」
 明日香は2つのソフトクリームをノルニルに渡すとカムイにコーヒーを1杯売ってもらい、2刀流に苦戦しているノルニルをじいっと観察していた。両手がふさがっているため口元がべたべたになっていても手が離せないらしいのが可愛かった。
「あむあむあむ。あと、主成分が牛乳で、あむあむあむ、ソフトクリームの日があるんです。あむあむあむ」
「そうなんだ。おいしい? ノルンちゃん」
「おいしいです♪」
「よかったねぇ」
 よく食べるなあ、とノルニルを見た後。いや、あっちの方がすごいか、と翔子の食いっぷりにあっけにとられる。翔子はバニラを皮切りに、抹茶・黒ゴマ・抹茶ミルク・いちご……と次々と食いまくっていった。
「ふむふむ、チョコ味は結構ビターだねー。んじゃ、お次は抹茶味をお願いしまーす」
 ノルニルの解説通り、ソフトクリームの主成分は牛乳。牛乳好きを自負する彼女は全制覇への道をバーストダッシュで成し遂げているようだ。ああ、気に行った味だったのか抹茶を食べまくっている。もう売り切れだ。
「……抹茶味が……無い、だとっ! しょうがねぇ……2人分のバニラ買って行くか……」
 よろりと後ろに倒れかかったレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は、『落ち着け、俺。宇宙の歴史にくらべれば、何をこれしき些細なことよ』の精神で涙線崩壊の危機を脱した。翔子はこの日のために腹巻を持参してきており、まだまだ食べていくようだ。危険を覚えたレキはカムイに予備の材料を持ってくるようにお願いすると、知った顔を見て顔をほころばせる。
「お疲れ様でござる、レキ殿。売れ行き好調のようでござるな」
 警備担当の椿 薫(つばき・かおる)は、パトロールも兼ねてレキのもとに挨拶に来ている。今日は百円パンダの故障の知らせを受けて『故障中』の張り紙を張ったり、イベント会場のカギを管理したりと普段より忙しい1日のようだ。
「お疲れ様! はい、これ、サービスだよっ」
「かたじけないでござる♪」
「バイト仲間の怖い顔のあの人にも持って行ってあげてね」
 薫はレキからカップのバニラソフトクリームをもらうと、それを食べながらてくてくとパトロールに戻って行った。このあとは着ぐるみの貸し出しだったかな……。彼にソフトクリームも渡さないと。

 
「さっさと帰って、食料難になっている集落に荷を届けにゃならンからなァ」
「ん、悪ぃな……ヴァンのおっさん。お言葉に甘えてゆっくりさせて貰うよ」
「そンじゃ、坊主。俺様は先ィ帰って飯配ってくるよ」
 人のいい笑顔のヴァン・ロッソ(ばん・ろっそ)はレイディスから山のような荷物を受け取ると、親友の白波 理沙(しらなみ・りさ)の荷物も持ってやろうかと提案した。理沙は食糧だけお願いするようだ。彼女の細い腕には大きく見える買い物袋も、体格のいいヴァンが持つと小さく軽いものに見えるから不思議である。
「2人は、のんびりとしとけよ? 帰ったらまた何も無ェ荒野だからなぁ」
 ヴァンはそういって軽く手を振り、屋上に続く階段で2人と別れていた。たまには若いもの同士で遊んで来ればいいという気遣いなのだろう。レイディスは理沙に先に行って場所でもとっていてくれと頼み、自分はソフトクリームを買いに行く。屋上の隅に景色のいい場所を見つけ、フェンスに背を預けて流れる雲を見ていた。
「レイ、こっち!」
 レイディスの前では自然な笑顔でいることができる。
 お揃いのバニラソフトクリームを1つ受け取ると、レイディスはフェンスの上にひょいっと腰かけた。今日はヴァンと3人で買い物に来たのだが、少し疲れたので休憩しようと屋上に来ていた。涼しい風に首筋の汗が冷やされていく。
「今はパラ実生になった訳だけど、結構気がラクなのよねー。蒼学にいた時も楽しかったはずなんだけど……最近色々あって寂しくなっちゃった」
 レイディスは理沙の話を聞くと、十二星華やマ・メール・ロアの行く末を考える。ヴァンと出会ってからは小さな集落に拠点を置いて安定してきたのだが、不安定な世の中である事実は変わらない。
「人同士の争いなんざ……無けりゃいいのにな」
「戦争とかも酷くなってきちゃったしねー。はぁ……何も考えずに馬鹿騒ぎしてられればいいのに」
 どうにも暗くなってよくない。レイディスは明るい話題に戻そうと残り少なくなったソフトクリームをでっかい一口でコーンと一緒にぺろりと食べた。そのままフェンスの上で軽業師のようにバランスをとってみる。
「なぁ、理沙。これ見……」
「あー、やめやめっ! 今日は忘れようっ」
 金網のフェンスにイライラをこめて蹴りを一発お見舞いすると、フェンスの向こうに落ちていく人影が見えた。レイディスだった。
「ん? ……あ、あれ? 思ったよりも網が脆いっ!? きゃーっ!? レイが落ちるぅーっ!!」
「だ、大丈夫……まだ生きてる」
 理沙が慌てて下を見てみると、レイディスの片手がかろうじてひっかかっていた。


「久しぶりに空京に買出しに来ましたが、疲れましたですぅ」
「午前中に買う予定は消化できたから、とりあえず、休憩をとろうか」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、はふぅと小さくつぶやいているのを聞いたセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は屋上でお昼を食べようと提案した。フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)も賛成し、3人はまだ始まっていないショーのベンチの1つに腰かけた。
「午前買い終えたものの中で嵩張る物は無かったので良かったですね。うふふ」
 目ざとくソフトクリーム屋を見つけた2人の視線を温かい瞳でみつめながら、フィリッパは3人分のお茶を用意している。3人姉妹の長女のようだ。
「まずはお弁当かな。腕によりをかけて作ったから食べて欲しいね♪」
「天気が良い時にはこういう場所でお弁当を食べるのもいいですよね。……おいしいですぅ」
「午後に備えて一休み、です」
 3人は買い出しが終ったあとは趣味のフロアに遊びに行くようだ。荷物が増えたら配送する手もあるため、まだまだ見回る場所が多そうだ。植物フロアの美しいアジサイを見ながら買った物の感想をおしゃべりしている。
「着ぐるみやらヒーローショーやら、ぼんやりと何も考えずに楽しめそうですね」
「知っている方も、案外出ているかもしれませんわ? あら、食べ終わったあたりにショーが始まるそうですわよ」
 このあとはウルトラニャンコショーが始まるらしい。見て行こうか、そう提案したのはセシリアだった。おや? どうやらセシリアはソフトクリームが食べたいらしい。
「私、荷物を見ているわね」
「フィリッパの分も買ってくるですぅ。私の味はミックスにしますね。チョコもバニラも味わえて美味しいですから」
「疲れた体を癒すには甘味をとるのが一番だよ。僕はチョコにしようかな?」
「それじゃあ、私はバニラ」
 財布を持ってかけていく2人の背中を見ながら、フィリッパは今日もらっていたパンフレットを見てみた。空京百貨店には地球文化に触れるのがはじめてのパラミタの人々や、地球文化に久々に触れてみたい人のためになるべく地球の百貨店と近い構造にしていると書かれていた。


「はぇ〜、デパートってこんなんなんだ〜!」
 百貨店に来るのが初めてのミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、一番上から順に見てみようと階段を上っていたら屋上に来てしまったようだ。運動と料理を好む彼女はレストランフロアに行きたかったのかもしれない。
「ソフトクリーム、お願いしますぅ」
 どこをどう楽しめばいいのかもわからなかったミルディアは、確か同じ学校だったメイベルとセシリアがソフトクリームを買っているのを見つける。
「あたしも、おんなじのチョウダイッ♪」
「どちらの味も味わえるミックスがオススメです」
「じゃあミックスね、カードでお願い」
 レキは困ってしまった……この売店ではカードが使えない。ミルディアはパラミタに来る以前、買物は御用聞きに頼むほどの生粋のお嬢様で少々世間知らずのところがあった。学校と家までは送り迎えの車だったため、店を自由に見ることもままならなかったらしい。しかし、カードしか持っていないのでは……ああ、ソフトクリームが溶けてしまう。メイベルも名家の生まれだが、セシリアがそういった部分はフォローしていた。
「なんだ、財布忘れちまったのか?」
 知り合いのショーを見にきた大野木 市井(おおのぎ・いちい)は財布から小銭を取り出すとミルディアの代わりに支払ってやった。やや勘違いしていても騎士道を重んじる彼は、女性が困っていたので助けてやったのだろう。
「あ、ありがと!」
「心配すんな! 俺、大野木市井は見習いとはいえ騎士だぜ?」
「あたし、ミルディア・ディスティン。この百貨店って初めて来たけど……屋上ってなんのための場所なの?」
 市井はミルディアに話を聞き、彼女は箱入りのお嬢様でウィンドウショッピングは勿論、庶民らしい楽しみが分からないことを知った。騎士としては困っている人を放っておくわけにもいかないだろう。
「なあ、ヒーローショー。好きか?」
「詳しくない、かな」
「そりゃ、人生の半分損してるぞ! 今日は俺が庶民の楽しみってやつを教えてやるよ!」
 市井は自分の分のソフトクリームも買うと、もうすぐ始まるショーの席を確保するためイベント会場にミルディアを誘った。その間に屋上の楽しみかた……百円パンダや植物フロアについてレクチャーしてやる。
「ん〜、すごいねえ。タダでショーって見れちゃうんだね。そだ、大野木さん。よかったらメールアドレス教えてよ」
「おう、いいぜ! 迷ったら連絡しな!」