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第5章:ソフトクリーム大人気


「えっへへー♪ こうやって佑也と一緒に遊びに行くのって、すっごい久しぶりだねっ!」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が出演する夕方のイベントを見学する前に、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)アルマ・アレフ(あるま・あれふ)は少し早く屋上についてしまったようだ。
「まあ、そうだな。間に合わなくなってもアレだけど、なんか食ってくか」
「あ、もしかして佑也、ソフトクリーム奢ってくれるの?」
「1個だけな」
 最近アルマが構ってくれとうるさかったのもあり、佑也は腰を落ち着けて食べられるところを探すと2個のソフトクリームを買ってきた。
「俺がバニラのコーン。アルマがチョコのコーン」
「……あ。やっぱりバニラがよかったかも」
「おーい、溶けるからって焦って食べるなよ。てか、そんだけ食っといてその目は何だ」
 アルマは自分のソフトクリームをパクパクと食べているうち、もう一方の味も気になってきたらしい。偶然、自分たちもソフトクリームを買おうとやってきたテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は、2人の家族のようなカップルのような様子をいいなーと眺めていた。
「あ、そうだ。そっちのバニラ、一口だけ食べさせてくれないかな? あたしのチョコも一口だけあげるからっ! ほら、あーんってして♪」
「ほら、口の周りクリームだらけだぞ。まったく……食べ終わったら、会場に行くからな」
 佑也は自分のチョコをアルマに与えると、彼女の口元をぬぐって肩をぽんぽんと叩いた。彼女はコーンの部分をガリガリと豪快に、かつ美味しそうに食べているところだ。
「もうすぐイベントの時間だね。……ね。はぐれちゃったら大変だから、手、繋いでもいいかな?」
「手がかかる……いいけど」
 テディはそのやりとりを見て、体に電気が走ったような衝撃を受けた。これや、わいが求めていたんわ、こないな関係やでぇぇぇ!!! 彼は、『いいこと』を思いついたようだ。
 暑いため缶ジュースを買いに行っていた皆川 陽(みなかわ・よう)が戻ってくると、テディはイベントがあることとソフトクリームが美味しいらしいことを伝えた。
「じゃあ、せっかくだから食べてみようか」
 ぽけーっとした笑顔で日本人らしい発想のもと、ゆるく提案する陽。テディの作戦第一段階は終了である。彼の作戦はソフトクリームを使用した間接チューなのだ。きゃあっ、最近の子は大胆ですね奥さんっ。
「お得な気がするしボクはミック……」
「ミックスなんて男らしくないことは認めないし! 男はコーンだし!」
「そうかな……。まあ、バニラでいいや」
 流されるままバニラを注文すると、テディはチョコを選んだようだ。食べてみるとひんやりとした甘さが口の中に広がり、ああ、庶民的な幸せってこういうことだよなぁ。と、陽は何かを悟ったような表情になった。
「ところで、そっちの味ってどんな感じなんよ」
「食べる?」
 すっと差し出されたバニラのソフトクリーム……。こ、こんなにあっさりと作戦が成功してしまうなんて! でも食べちゃう、ぱくぱくぱくぱく。
「……食べすぎだよ」
「く〜、最高だし! でも、他の人にやったらダメだかんな! こういうのは!」
「う、うん……って、どうしたの!?」
 テディは佑也とアルマをみならって手をつなごうとしたが、口実が思いつかなかったため無言でガッ!! と手首をつかんでずんずんと歩きだした。
「イベントがもうすぐ始まるっ、からっ、急ぐし!!」
「いや、すぐそこだよ……?」
 その後は陽が買ってきた炭酸を一気飲みしてみたり、階段を無駄に何段飛ばしかで駆け下りてみたりと、彼の『男らしい行動』は続くのであった……。


『子ドモッテ結構乱暴ナノニ、ヨク相手デキルワヨネ』
「まだ手加減がわからないのよね。仕方ないわ」
 橘 カナ(たちばな・かな)は腹話術人形の福ちゃんとともに、相棒の兎野 ミミ(うさぎの・みみ)の風船配りのアルバイトをする姿を見学に来たようだ。ミミはクマの着ぐるみ姿で色とりどりの風船にヘリウムガスを詰め込んで、ちっちゃい子と遊ぶための準備を整えていた。
「きっとこれは天職ッス!」
『セイゼイ、頑張リナ!』
 えいえいおー! と高らかにこぶしを突き上げるミミに対して、いつだってクールな福ちゃんであった。

 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はピンクのキャミワンピに白いジャケット姿で、以前作ったリボンのシルバーリングをみんなにプレゼントしていた。リボンの結び目の部分にヴァーナーがイメージした色の石をはめ込んでいるようだ。ヴァーナーがピンク、セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が水色、クレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)が赤、サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)が黄色である。
「ヴァーナー、ありがと! あのね、あのねっ、とってもうれしいよ」
 赤のアリス服を着たクレシダは白い大きなセントバーナードのバフバフに乗りながら、自分の指にはめたリングを太陽に向けてみた。彼女の水色の石は太陽の光をその中に取り込んで、キラキラと光り輝いている。
「はい、クレシダちゃん、おいしいよ♪ バニラのカップをどうぞ〜」
「あついからソフトがおいしいの」
 黄色のワンピースに白い帽子をふんわりかぶったサリスが、ヴァーナーへのお礼にとセツカが買ってくれたソフトクリームを渡した。サリスはミックスのコーンをぺろぺろと美味しそうに食べている。
「ヴァーナーおねえちゃんのも食べたいな」
「はい、ボクのをどうぞ〜。あ〜ん♪」
 サリスはヴァーナーのバニラが食べたくなった。するとヴァーナーが自分のコーンを向けてくれたので、アゲハ蝶の羽でパタパタと空に浮かぶとにっこり笑ってかぷっといただいた。
「チョコ味はいかが? こっちも美味しいどすわ」
「いただいちゃいます。ぱくっ!」
 上品な白のブラウスに若草色のスカート姿のセツカは、カップのチョコをスプーンを使って上手に食べていた。ヴァーナーは嬉しそうに一口もらうと目を閉じて、みんなでの楽しいひと時と一緒にじっくり味わっているようだ。
「プレゼントはこのデパートでつくったんですよ♪ ん〜、そろそろあつくなってきてアイスがおしいんです」
「あー、バフバフー!」
 突然大きな声を上げたクレシダ。見るとバフバフの頭にはべっちょりと彼女のソフトクリームがかかっている。半泣きの表情の彼女をあやしながらセツカがバフバフの顔を拭いていた。
「あらあら、困ったわ。泣いちゃあかんって……ほらー、うさぎさんきおったよ」
 子供の声を聞きつけたミミが、風船を配りにやってきたのだった。ユーモラスな動作でおどけて見せると、クレシダとヴァーナーがわーいっと飛びついた。
「小さいおともだち、こんにちはッス」
「「こんにちはーです!!」」
「何色がいいっスか? 手を離したら飛んでいくから気を付けるッス!」
 ミミは屈んで目線を合わせると、色とりどりの風船から自分たちのリングと同じ色のものを探し始めた。
「ピンクと赤ー!!」
「黄色も〜♪」
 着ぐるみを見たのが初めてではしゃいだサリスは、ミミの頭にひょいっと飛びついた。頭がぐらりとかしいで、慌ててバランスをとるミミ。カナもピンチに気づいて駆け寄ってくる。
「あ、ちょっと君。そんなに強く押しちゃダメだわ?」
 片腕でやんわりとサリスの手を引くと、セリスはごめんなさい。と反省して地面にふわりと着地した。福ちゃんも着ぐるみを着て視界のせまいミミに喝を飛ばしている。
『みみモ! 右足ノ所ニちびすけガイルンダカラ気ヲ付ケナサイ』
 う、動けないッス……! こうなったらあの手しかないッス!
 バランスを崩しそうになったミミは着ぐるみの頭をむんずとつかんだ。セツカは、あっ! という表情を浮かべるが、クマの頭をはずすとミミの素顔であるうさぎの顔があらわれる。
「「「うさちゃんだー!」」」
 ヴァーナーたち3人は目をキラキラさせて飛びつき、ヴァーナーはカナの持つ福ちゃんにも気付いたようだ。
「あっ、お人形さんが喋ってます!」
『誰ガ人形ジャ、ごるぁ!』
 髪を逆立てて威嚇する福ちゃん。
「福ちゃん、落ち着いて。まったく、冗談は程々にしなきゃダメよ?」
 こうして和やかな時間が流れて行った。