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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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 1.獅子吼(ししく)
 
 
 ジャタの森の北、およそ十キロ。パラミタ内海に浮かぶ小島が、ゾブラク・ザーディアたち海賊の根城であった。
 数多くの小島が点在するパラミタ内海には、このような小島を根城とする海賊たちは少なくはない。それゆえに、どの島がどの海賊のテリトリーであるかを判別することは難しかった。そのことが、一種の隠れ蓑として機能している。誰かが、それこそ海賊と名のつく者たちをすべて根絶やしにしようとでもしない限り、特定の海賊団だけを掃討することは難しい話であったのだ。
 だが、それも、海賊たちが神出鬼没であるから成り立つ話でもある。もしも、一つの島に多数の海賊船が集まれば、さすがに嫌でも目につく。まして、ゾブラク・ザーディアが海賊たちを招集する檄を飛ばしたという情報があれば、海賊たちの集結地点が何を意味するのかは明白であった。
 招聘に応じた者たちの船は、大型船だけでも十隻を超えていた。小船のような物まで混ぜれば、りっぱな船団の様相を有していると言えよう。
「時は来た!」
 海賊船ヴァッサーフォーゲルの甲板に立って、ゾブラク・ザーディアは声をはりあげた。その横には副長であるヴァイスハイト・シュトラントが立ち、後ろにある布に被われた物のそばには、腹心の部下であるシニストラ・ラウルスデクステラ・サリクスが控えていた。
 環状の海賊島は内湾を有しており、そこにヴァッサーフォーゲルは停泊していた。だが、外海との通路のような物は見えない。海底からサルベージした古代の飛行ユニットを取りつけ、準飛空艇と化したガレオン船ヴァッサーフォーゲルだからこそ、この閉ざされた場所を母港として使えるのである。
 同様の飛行ユニットは、島の周りに停泊している大型船にはすべて取りつけられていた。中型船の何隻かも、同様の能力を有している。
「思えば、パラミタ地球と接触してからわずかに十年。このわずかの間に、単なる町のまとめ役であった者たちが六首長家を名乗り、パラミタ全土を自分たちだけの物と言いだしたんだよ。そんな勝手を許していいのかい?」
 否と、内湾の畔に集まった海賊たちが怒声をあげた。
 主だった者は、ジャタの森に住む獣人たちだ。だが、それに限らず、蛮族とされる地方のシャンバラ人やゆる族、ドラゴニュートたちの姿も数多く見受けられる。
 もちろん、ゾブラク・ザーディアの言っていることは、海賊たちを鼓舞するためのものであり、歴史的経緯などは無視している。六首長家が、シャンバラ王家と深い関わりがあったということは、蛮族の者たちも認めているところのことなのは間違いない。
 だが、地球人と手を結んだ六首長家は、シャンバラ王国復興という大義名分の下、シャンバラ全土を支配下におくべく動きだしたのだ。それは、それまでそのような支配とは無縁に暮らしていた者たちにとっては侵略にも等しい行為であった。
 六首長家が歴史の表を支配していたとするのならば、蛮族とされる者たちはそれを陰から支えてきた者たちでもあるのだ。不当な格差をつけられて黙っていられるはずもなかった。
「だが、あたいたちは、翼を得た。この翼をもって、今まで我らを見下していた者たちを、本当の高みから見下ろしてやろうじゃないか」
 内湾の畔に集まった多くの海賊たちを前にして、ゾブラク・ザーディアが続けた。
「要塞マ・メール・ロアをあたいらの物とし、六首長家を滅ぼし、あたいらの手で、あたいらの国を造ろうじゃないか!」
 白いケープを翻し、光沢のあるシルクのチャイナドレスを顕わにしてゾブラクは叫んだ。赤いドレスの深いスリットからのぞく足がしっかりと甲板を踏みしめ、袖のない肩からむきだしの腕が配下の者たちにむけられる。
 海賊たちから歓声があがった。
 真紅の豪奢な髪は嫌でも人目を引きつけ、すらりとした長身から発せられる張りのある声は人心を引きつける。まさに、率いる者としての威容をゾブラク・ザーディアは持ち合わせていた。
「ほれぼれするじゃない」
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が、面白そうに目を細めてゾブラク・ザーディアを見つめた。
 いつぞやの商人を装って海賊に接近したのだが、まさかこんなことになっているとは少し予想外であった。
「男前だね。女にしておくのはもったいない」
 少し残念そうにベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が言う。虎の毛皮のコートで豪華に着飾った姿は悪目立ちしそうであったが、この場所の熱気の中ではそれすらもかき消されてしまっていた。それほどまでに、ここに集まった海賊たちにとって、ゾブラク・ザーディアの言葉は魅力的であったのだろう。
シャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)は、マ・メール・ロアでツァンダの陥落を考えている。当然、ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)も黙ってはいないだろう。そこに我らのつけいる唯一の隙がある」
 ゾブラク・ザーディアに替わって、ヴァイスハイト・シュトラントが作戦を説明し始めた。真紅のボディスーツに、白いロングコートを肩に引っ掛けてマントのように羽織っている。琥珀色のストレートヘアーは、背中に流れるままにしていた。
「我々はシャムシエル・サビク側の援軍として、タシガン空峡へと移動する。タイミングとしては、戦闘が開始された後に、救世主様として颯爽と登場するわけだ」
 ヴァイスハイト・シュトラントの言葉に、海賊たちの間から笑い声がもれた。もちろん、彼らとしては他人の救世主になるつもりは毛頭もない。むしろ、自分たちは奴らにとっては死神である。
「一番艦から三番艦までは、マ・メール・ロアに接舷して要塞内に乗り込め。残りの艦は、ツァンダのお嬢様の尻を丁重に蹴っ飛ばして雲海の底に叩き落としてやれ。その間に、突入した部隊は十二星華を捜せ。位置が確定したら、こいつで剣の花嫁だけを吹き飛ばしてやる」
 ヴァイスハイト・シュトラントが命じると、デクステラ・サリクスとシニストラ・ラウルスが、甲板に広げてあった布を勢いよく取り去った。そこに、無骨な大砲の砲身のような物が現れる。過去の大戦で使われた、戦艦の主砲クラスの光条砲だ。ゾブラク・ザーディアたちがパラミタ内海にある船の墓場で発見し、サルベージして修理したものである。まさに、海賊たちの切り札であった。
 おおうっと、海賊たちから歓声があがった。
 もちろん、強力な武器がたった一つあったからといって、それで正面から敵を殲滅できるというものではない。だが、大切なのは使い方だ。光条砲の最大の特徴は、破壊対象によってその特性を変えられることにある。砲手となる光条兵器のコントロールスキルを持った者の意志に反応して、希望した物だけを破壊できるのである。
 例えば、敵を殺さずに捕らえようと思えば、生物以外を破壊すればいい。逆に、施設や武器を手に入れたければ、生物のみを破壊すればいいのだ。
 シャムシエル・サビクやティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)を殺したければ、剣の花嫁だけを破壊すればいい。そうすれば、後には主を失った星剣と要塞だけが残るであろう。
 問題は、魔法防御の対策を取られる前に、正確に十二星華の位置を特定して、ピンポイントにそこへ光条砲を撃ち込めるか否かだ。
「すべてはタイミングが勝利の鍵だ。出港準備を急げ。ただちにここを立ってタシガン海峡に身を潜める。それまでは、何者にも邪魔をさせるな!」
「期待しているよ、お前たち。シャンバラは、六首長家だけの物でも、十二星華の物でもない、あたいたちすべての物だ。それを思い知らせてやろうじゃないか」
 ヴァイスハイト・シュトラントとゾブラク・ザーディアの言葉に、内湾の岩壁を振動させるほどの大きな鬨の声があがった。
「十二星華を皆殺しっていうのは、あまりいただけないねえ」
 群衆の端の方で壁にもたれかかりながら、桐生 円(きりゅう・まどか)がつぶやいた。パートナーたちとお揃いのブラックコートで身をつつみ、なるべく目立たないようにしている。
「うんうん。狼さんには悪いけど、パッフェルちゃんが怪我するのはやだもん」
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が、桐生円にうなずいた。
「んーっと、よく分かんないけど、壊しちゃう?」
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が、少し面倒くさそうに言う。
「機会を狙いましょ。今はまだ無理だね」
 桐生円は、そう言うと内湾の一画に身を潜めた。
 
    ★    ★    ★
 
「なんだか大変みたいにゃ。お前たちの古い仲間が怪我するのは、親分として見過ごせないにゃ。ここは、医療室を作って戦いに備えるのにゃ」
「ちー、ちー」
 シス・ブラッドフィールド(しす・ぶらっどふぃーるど)の言葉に、彼の子分となったデビルゆるスター軍団が鳴き声をあげて応えた。
 適当な空き部屋を見繕って、そこを臨時の動物用救護室にしようとする。
「うーん、ここじゃねえみたいだなあ……」
 シス・ブラッドフィールドたちが入った小部屋の中では、なぜか南 鮪(みなみ・まぐろ)がごそごそと室内を物色していた。
「何をしてるにゃん?」
「うおっ、な、なんでもねえぜ。下着なんか見つからなかったからな。ないもんは取ったりなんかしてないんだぜ」
 突然シス・ブラッドフィールドに声をかけられて、南鮪があわてた。海賊に手を貸すにかこつけて、アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)の下着を探していたのだ。もっとも、アルディミアク・ミトゥナやゾブラク・ザーディアたちの私室は海賊船ヴァッサーフォーゲルの中にあるので、とんだ見当違いではあったのだが。
「怪しいにゃん」
 以前の自分は棚にあげて、シス・ブラッドフィールドが南鮪をジト目で睨んだ。もしも、南鮪の狙いがアルディミアク・ミトゥナの私物にあるのであれば許せなかった。世のおねいちゃんの下着と中身はすべてシス・ブラッドフィールドの物であるのだ。その点は、誰にも譲れない。
「何をしているのだ」
 本質的に似た所のある二人がバチバチと視線で火花を散らしている所へ、織田 信長(おだ・のぶなが)がやってきた。
「ちゃんと、顔つなぎをしておけと言っておいたであろうが。戦いは情報を得た者が勝つのだ。もうちょっと、志持つ者に協力しようとは思わぬのか」
「だけどよお。うおお、放しやがれ、おいっ」
 南鮪の襟首をつかむと、織田信長が彼をずるずると引きずって部屋を出ていった。
「なんだったにゃん」
 シス・ブラッドフィールドは、唖然としながらそれを見送った。