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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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「クイーン・ヴァンガードが海賊退治にでかけると言うから来てみれば、状況はすでに動いていたのでありますな」
 戦闘の気配を感じて軍用バイクで駆けつけてきた比島 真紀(ひしま・まき)は、ジャタの森に面した海岸の岩場近くで巨大ガザミと戦うエムエルアールエス・エムツーセブンオーとグロリア・クレインたちを見つけて言った。
「海賊と因縁浅からぬゴチメイたちも来ていると聞いていたけれど、ここにはいないみたいだね」
 担いできた機関銃を地面に下ろしながら、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が言った。
「とりあえず、彼らは旗色が悪そうであります。至急援護するであります」
「了解だ」
 比島真紀に言われて、サイモン・アームストロングが機関銃で巨大ガザミたちを掃射した。
「援軍でしょうか?」
 グロリア・クレインが、巨大ガザミたちが攻撃されるのを見て言った。
 ミサイルを全弾撃ち尽くしたエムエルアールエス・エムツーセブンオーが、攻撃が派手すぎたために敵に目をつけられてしまったらしい。
「狙うとすれば、指揮官ですか」
 比島真紀は、宙空から攻撃をしている中型の海賊船を見てつぶやいた。おそらく、あれに巨大ガザミを操っているビーストマスターが乗っているのだろう。
 サイモン・アームストロングに指示すると、比島真紀は攻撃目標を海賊船へと変えた。
 思わぬ反撃を受けて、グロリア・クレインたちを頭上から攻撃していた海賊船の注意が、比島真紀たちの方にむく。
「この機を逃さずに、一気に押し返しましょう」
 空からの攻撃に防戦一方だったグロリア・クレインが、パートナーたちに言った。薙刀で巨大ガザミの目の間を突き刺すと、ぐいと捻って致命傷を与える。
「……」
 レイラ・リンジーが小さくうなずいた。素早い動きで海賊船からの攻撃を分散させる囮をしていたのを、遠当てで巨大ガザミをひっくり返す戦法に変えていく。
「えーい」
 背中の甲羅よりも柔らかい腹を見せた巨大ガザミに、アンジェリカ・スタークが、パワーブレスで強化したホーリーメイスを叩き込んでいった。身動きがとれなくて暴れていた巨大ガザミが、一気に粉砕されて動きを止める。
 機関銃の攻撃を黙らせるために、サイモン・アームストロングにむけて砲撃を開始した海賊船であったが、敵は地上のみとたかをくくってしまったがゆえに死角ができていた。そこへ、舞い戻ってきたエーテンとイーツーが上から攻撃を浴びせかける。
「来てくれたでありますか」
 救援を依頼したエムエルアールエス・エムツーセブンオーが、下からスナイパーライフルで確実に機関部を狙い撃ちにする。
 エムエルアールエス・エムツーセブンオーたちのピンポイント攻撃が、海賊船に致命傷を与えた。特に、エーテンの放った火が、船体に燃え移ったのが大きい。
 高度を維持できなくなった海賊船が、突然墜落していく。そのままジャタの森のただ中に激突すると、一瞬の後に大爆発を起こして炎を周囲に振りまいた。予想以上に弾薬を積んでいたらしい。
 
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「ああ、森が……」
 一部始終を目撃して、梅小路仁美が絶句した。
「助けに行くでござる」
 火事が燃え広がるのを危惧して、秦野菫が駆けだしていった。
「わたくしたちも行こう!」
 ユーナ・キャンベルが、シンシア・ハーレックをうながした。
「うん、ここは任せたよ」
 近くにいたマコト・闇音に言ってシンシア・ハーレックも避難所を飛び出していった。
 マコト・闇音も一緒に行きかけたが、ほとんどの者が飛び出して行ってしまったら、戻ってきた者を手当てする者がいなくなってしまう。マコト・闇音は、この場所に留まることを選んだ。
「メイコの方は大丈夫であろうか……」
 漆黒の翼で飛んでいきたい衝動に駆られながら、マコト・闇音は海賊島の方を見た。
「この状況、利用させてもらおう」
 如月正悟が、海賊たちの無線に割り込んでいった。そして、本部を攻撃されたゴチメイたちが、あわてて戻ってきて防戦にあたっているという偽情報を流す。これで、ある程度敵の目をこちらに引きつけて、ゴチメイたちが動きやすくなるかもしれない。
 
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「陽動か? だが、戦線を移動させるのはこちらにとっても都合がいい」
 久世沙幸の投げてきた手裏剣をナイフで弾き返しながら、シニストラ・ラウルスがつぶやいた。
「デクステラ、押し出すぞ。海岸へむかえ!」
 シニストラ・ラウルスが叫んだ。
「分かった。野郎ども、ついてきな!」
 スカサハ・オイフェウスの突き出してきたドリルを、闘牛士よろしくケープを翻して避けてみせると、ディッシュに乗ったシニストラ・ラウルスが故郷であるジャタの森の方へ顔をむけた。生き残りの巨大クラゲを操るビーストマスターたちがその後を追う。
「ははははは、逃がしませんよ」
 クロセル・ラインツァートが、橇を反転させてその後を追った。
「サクラコ、追うふりをして奴らをなるべく海賊島から、ココたちのいる場所から遠ざけるんだ」
 白砂司が、すぐ前で小型飛空艇を操縦するサクラコ・カーディに言った。
「分かりました。サクラコ、行きますっ!」(V)
 サクラコ・カーディが、デクステラ・サリクスたちを追いたてるようにしてスピードをあげた。
 
    ★    ★    ★
 
「戦いは、戦いは、憎しみを生むだけです。憎しみは、何も生み出さないのです!」
 いんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)は、殺されていく巨大ガザミや巨大クラゲ、そして燃えるジャタの森を見つめながら、滂沱の涙を流していた。
 だが、その後ろ手には、デクステラ・サリクスと書かれた紙が貼りつけられた藁人形がしっかりと握りしめられたままだ。
「そうだ、かつて死んだ錦鯉さん、ぷっかり浮いたシスさん、伯爵さん、ついでに小ババ様、今日死んだ人々などのお葬式をしましょう」
 いんすますぽに夫は、突然すばらしいことを思いついたかのように言ったが、その中にはまだ生きてる者がずいぶん含まれている気がする。
「送葬船を作るのです。ボートには、白いお花をたくさん敷き詰めましよう。そして、亡くなっていった人々の代わりに藁で作った人形を乗せるのです。時代はエコ、えこ、えこ、くとぅるふです」
 本当はデクステラ・サリクスをやっつけに海賊島に乗り込むために用意していたボートに、いんすますぽに夫は花を入れ始めた。
 
    ★    ★    ★
 
「なんだ、この段ボールは?」
 海賊島で待機している中型海賊船の甲板で、その船の船長が不審な段ボール箱を見つけた。
 ゆっくりと足先で段ボール箱をひっくり返してみるが、別段何も入っているような気配はない。
「なんだ、ゴミか……!」
 ほっと気を抜いた瞬間、クレセントアックスの背の部分が船長を強打した。あっけなく、そのまま気を失ってしまう。
「ほーっほほほほほ、たわいないですこと」
 高笑いをあげながら、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が光学迷彩を解いて姿を現した。
「なんだ、誰がいるんだ?」
 その声を聞きつけて、数人の船員がやってくる。
「あら、まずいですわ」
 ロザリィヌ・フォン・メルローゼは、再び姿を隠した。
「おい、船長が倒れているぞ!」
 あわてて駆け寄ろうとした船員の踏んだ段ボールがずぼっと抜ける。船倉の入り口の上に段ボールを広げておいただけの落とし穴だ。単純なだけに、面白いように段ボールの罠に次々と船員たちが引っかかってくれる。
「なんだ、この段ボールの穴は? うおおおお、手が抜けね……ごふっ」
 逆トゲ状に切れ込みを入れられた段ボールの穴に手を突っ込んだ船員が、抜けなくなってじたばたするところをロザリィヌ・フォン・メルローゼがまた叩いて昏倒させた。
 ほどなくして、人が出払って数人しかいなかった中型の海賊船を、ロザリィヌ・フォン・メルローゼはまんまと手に入れてしまった。
「ほーっほほほほほ。段ボール箱を使わせたら、わたくしの右に出る者など、このパラミタにはおりませんことよ」
 勝利宣言をすると、ロザリィヌ・フォン・メルローゼは船をいったん桟橋から離した。出払っていた他の船員が戻ってきたりしたらやっかいだ。多少であれば、今まで海賊として行動してきたロザリィヌ・フォン・メルローゼとしてはごまかしもきくだろうが、こうして海賊船を奪ったのであるから、絶対に疑われないとは言い切れない。
 よく観察して奪う船を決めただけあって、この海賊船は飛空艇のエンジンを搭載していて飛行能力もあるし、操舵は一人でも可能のようだ。
「後は、ゴチメイの方たちがアルディミアク様を助けて逃げてくるところに、颯爽と現れてお助けするだけですわ。ほーっほほほほ、わたくしって、なんって素敵!」
 勝利を確信して、ロザリィヌ・フォン・メルローゼはひとまず船を移動させて、自然に停泊しているように見せかけた。
 
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「貴様、何……」
 海賊船に乗り込んできたジェンナーロ・ヴェルデ(じぇんなーろ・う゛ぇるで)を見つけた海賊が叫ぶよりも早く、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)がさざれ石の短刀を突き立てた。口元に手を添えた姿で海賊が石化する。
「虚け者、そこになおるがよい」(V)
 騒がれては元も子もないと、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが、ジェンナーロ・ヴェルデに言う。
「助かったって言いたいところだけれど……」
 言いつつ、ジェンナーロ・ヴェルデが、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーの背後にむかってハンドガンを放った。
 隠れ身で近づいてきていた海賊が、超感覚で見抜かれて肩を撃ち抜かれる。
「よくも!」
 手傷を負った海賊が、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーにナイフで襲いかかった。とっさにさざれ石の短刀で切りつけるも、石化の力を再度使うにはSPが足りずに、ただ浅い切り傷をつけただけに留まる。その身を蝕む妄執で牽制しようかと思うが、まだスキルを使える状態まで回復してはいなかった。
「離れて!」
 ジェンナーロ・ヴェルデの声に、素早くグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが飛び退った。同士討ちの危険がなくなった瞬間を逃さず、ジェンナーロ・ヴェルデが今度は確実に海賊を倒した。
「これで、あいこってとこだよね」
 ハンドガンの硝煙を息で軽く飛ばしながら、ジェンナーロ・ヴェルデが言った。
 そこへ、別の銃声とともに、マストの上の見張り台から人が降ってくる。
「手間取りすぎよ」
 スナイパーライフルを持ったローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が二人に言った。
「シセーラは?」
 ジェンナーロ・ヴェルデが、先に乗り込んだはずのパートナーの安否を訊ねた。
「吸精幻夜で従えた船員を集めてる」
「じゃあ、手伝ってくるか」
 ローザマリア・クライツァールの言葉に、ジェンナーロ・ヴェルデが船室にむかった。
「キュイ?」
 海から、甲高い鳴き声が聞こえた。ルクレツィア・テレサ・マキャヴェリ(るくれつぃあてれさ・まきゃう゛ぇり)とシルフィスティ・ロスヴァイセの姉妹だ。獣人本来の姿として彼女たち固有のシャチの姿で海の中を泳いでいる。ローザマリア・クライツァールたちをボートからこの海賊船まで密かに運んだのも、彼女たちの働きだ。
「もう海賊船は制圧したから、あがっておいでよ」
 ローザマリア・クライツァールが、二人を呼んだ。
「首尾は上々のようね」
 九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )がやってきて言った。
 彼女たちは、拿捕したこの船を独立国家と僭称して、海賊との交渉材料に使うつもりであった。詭弁と言ってしまえばそれまでだが、どうせここに来ているクイーン・ヴァンガードは下っ端だ。事実確認のためにいったん追い返すぐらいはできるだろう。そうしてしまえば、海賊たちは戦力の温存ができる。消耗することをまぬがれた戦力は、充分な使い道があるだろう。
 そのままうまく海賊たちとパイプを繋ぐことができれば、後は機会をうかがって組織自体を乗っ取るだけのことだ。六首長家、鏖殺寺院、コンロンと繋がる葦原明倫館、それらに次ぐ独立勢力を支配下におければ何をするにしても、すべてに現実性が見いだせる。個人は、しょせん個人でしかない。
 それに、海賊たちがどこからか手に入れた古代の技術にも九弓・フゥ・リュィソーは興味があった。
「んんっ、こほん。よく聞くのだ。この船はシャンバラ王国女王陛下の船として独立した……」
 吸精幻夜で手なずけた生き残りの海賊たちを前にして、ジェンナーロ・ヴェルデが、演説の予行演習を始める。
「さて、じゃあ、あたしたちは海賊の頭領と交渉に言ってくるよね。行くよ、マネット、九鳥」
 空飛ぶ箒にまたがると、九弓・フゥ・リュィソーたちは海賊島の中央部にむかって進んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「まったく、鮪の奴、どこにいってしまったのだ」
 万一に備えて退路を確認に行っていた織田信長は、連絡のとれなくなった南鮪を探していた。
「まさか、秘宝の意味を間違えているなどということはないであろうな」
 言いつつ、充分ありえることだと、織田信長は軽く頭をかかえた。
「うーっ、うーっ」
 アジトの中の岩壁に反響して、聞き覚えのある唸り声が微かに聞こえてくる。
「鮪か?」
 織田信長は、声のする方へと行ってみた。どうも、牢があるエリアのようだ。
 すべて開け放たれた牢の一つに、南鮪がすっぽんぽんで縛られたまま転がされていた。脱がされた自分のパンツを頭に被せられている。
「こ、これは、あまり助けたくない……」
 織田信長は呆然と立ち尽くしたまま、しばらく一歩を踏み出せずにいた。