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七不思議 恐怖、撲殺する森

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七不思議 恐怖、撲殺する森

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    ★    ★    ★
 
「さあ、肝試しよ」
 愛用の腹話術人形福ちゃんをかかえた橘 カナ(たちばな・かな)は、意気揚々と森の中へ突き進んでいった。
「ま、待ってくださいッス! 自分、今動きづらい格好ッス!」
 兎野 ミミ(うさぎの・みみ)が着ぐるみを着た姿で、パタパタとその後を追いかけていく。
「でも撲殺する森って、なんだかお大袈裟よね」
『ドウセ、木ノ枝ガ肩ナンカニブツカッテ、ソレヲ誰カガ勘違イシタトカヨ』
 福ちゃんと楽しい一人芝居の会話を交わしながら、橘カナは恐る恐る周囲を見回した。
 なんでもないふうを装ってはいるが、結構ビビっている。なにしろ、七不思議と出会ったら撲殺されてしまうのだ。肝試しとしては、これほど怖い物はない。
「前回の肝試しもぎゃあぎゃあ怖がっていたのに懲りないッスねぇ……」
 やっと追いついた兎野ミミが、橘カナに言った。怖いのならやめればいいのに、怖いからやるんだ、やるから怖いんだと、変にループしてしまっている。いずれにしろ、女の子は怖い物好きだということだ。
『動キニクイナラ、トリアエズ一旦脱ギナサイ!』
「じゃあカナさん、ちょっとチャック下ろしてくださいッス。あ、ウサギの方のチャックは触らないように……」
 しかたないなあという感じで、橘カナが福ちゃんを持っていない方の手で兎野ミミが着ている熊の縫いぐるみの背中のチャックを引き下ろした。
 よいしょっという感じで、中から兎の着ぐるみが出てくる。
『ソレモ脱グ?』
「ゆる族になんていうことを言うんッスか。ああ、恐ろしいッス!」
 青ざめる兎野ミミの前で橘カナが福ちゃんとの音声多重で笑っていると、突然背後の茂みでガサッと何かが動く音がした。
『ヒッ!?』
 ビビった橘カナが、あわてて兎野ミミにしがみつく。
「七不思議が出たッスか!?」
 兎野ミミが茂みの方に目をむけると、何か巨大な得体の知れない毛むくじゃらの獣がさっと視界を横切っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「ただの通行人か、それとも新手のお笑い芸人? どっちにしても、七不思議じゃないわね。いったい、撲殺犯はどこにいるのかな」
 超感覚でアライグマの姿になったリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、獣特有の俊敏さで素早く森の中を移動していた。
「いたぜ。まったく、いきなり超感覚全開で突っ走りやがって。そんなことだから裸SKULLだの、伝説のアライグマだの、七不思議一歩手前の扱いされるんだぜ。またラジオかなんかで発見報告されたらどうするつもりなんだ」
 小型飛空艇に乗ったアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が、携帯で地上にいるアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)の双子に連絡した。まったく、これではミイラ取りがミイラになりかねない。
「了解ッス」
 地上を走るアレックス・キャッツアイが、携帯にむかって答えた。
「まったく、師匠にも困ったもんだ。あんなに突っ走られたら、囮にもならないよな」
「ねえ、あの人っていつもあんな感じなの?」
 愚痴るアレックス・キャッツアイにサンドラ・キャッツアイが訊ねる。
「う〜ん。超感覚を使い始めると、いつも暴走気味になるらしいけど」
 ちょっと曖昧に、アレックス・キャッツアイが答えた。
「とにかく追いかけないと」
 二人は顔を見合わせてうなずきあうと、リカイン・フェルマータの後を追っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「まあ、最近忙しくてゆっくりする時間もなかったからな。たまには散歩で森林浴というのも悪くはないか」
 てくてくとあてもなくイルミンスールの森を歩きながら橘 恭司(たちばな・きょうじ)はつぶやいた。
 しかし、のんびりするにしても、この森全体をつつんでいるようなピリピリとした感覚はなんなのだろう。
「だいたい、最近いろいろやりすぎてちょっと神経がとがってるのかもな。森っていうのは、落ち着いて癒される場所だと思ってきてみたんだが……何かに出られても困るが、変な野生動物とか出ないだろうな。まあ、そのときはそのときか」
 どうにも変な胸騒ぎを感じつつ、橘恭司は散歩を続けていった。
 ザザッと何かがそばの茂みで動く音がした。
「出たか」
 素早く腰の栄光の刀に手をかけると、威嚇の意味を込めて近くの下生えを横に薙いで切り捨てる。ぱっと草が宙に舞ったが、別段何もいなかった。
「逃げたか。まあ、今のでもう近づいては来ないだろう。いちおう、携帯で、この辺りの情報を確認しておくか」
 
    ★    ★    ★
 
「水の音が……。何か来る……」
 静かに超感覚を研ぎ澄ませながら、清泉 北都(いずみ・ほくと)がつぶやいた。
「禁猟区に反応はないから、ひとまず危険はないとは思うけどねぇ」
「まあまあ、そんなに緊張するなって。ほれほれ」
 清泉北都の犬耳をもふもふしながら、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が場を和ませようと言った。
「油断していると危険だよぉ。なにしろ、相手は七不思議なんだからぁ」
 やめてよとソーマ・アルジェントの手を払いながら清泉北都が言った。その足許に、ころころと青リンゴが転がってくる。
「しまった、つい拾った青リンゴを水たまりで洗ってしまったわ……」
 本能に負けたリカイン・フェルマータが、思わずつぶやく。
「出た、巨大アライグマ!!」
 清泉北都とソーマ・アルジェントが、リカイン・フェルマータの姿を見て声を揃えて叫んだ。
「違うわよ、よく頭を見て。これはタ・ヌ・キ。タヌキなのよ!」
 無理矢理ごまかそうと、ヘッドレストで耳を隠したリカイン・フェルマータが叫んだ。
「いや、絶対アライグマだぁ。巨大アライグマ現る。これは、みんなにメールしないと……」
「やーめーてー」
 携帯を取り出す清泉北都を見て、リカイン・フェルマータが飛びかかった。
「何をする!」
 ソーマ・アルジェントが、間に入って清泉北都を守りる。
「無礼者。次はないと覚えておけ。さては、お前が世間を騒がせている撲殺魔だな」(V)
「ええい、しかたない。こうなったら目撃者の口は塞ぐしかないようね」
 なんだか分からないうちに、リカイン・フェルマータとソーマ・アルジェントが取っ組み合いになる。
「師匠、何やってるんッスか。そいつらが、撲殺魔ですか?」
 追いついたアレックス・キャッツアイが、状況に唖然とする。
「何してるのよ、早く助けなくちゃ」
 サンドラ・キャッツアイが、リカイン・フェルマータに加勢すべく飛び込んでいった。
「まったく、みんな何をやっているんだ」
 小型飛空艇で上空から近づいたアストライト・グロリアフルは、状況に呆れた。
「口で説明できる状況じゃないな、これは。しかたない、いったん気絶でもしてもらうしかないか。まったく、これじゃ、どちらが通り魔なんだ……」
 軽く溜め息をつきながら、アストライト・グロリアフルは、ラスターブーメランを手にとった。
 
    ★    ★    ★
 
「おや、携帯が。誰からだ?」
 橘恭司は、突然鳴った携帯で、着信したメールを確認してみた。
『怪奇、イルミンスールの森に巨大アライ……』
 そこまでで、メールが途切れている。間違い発信だろうか。
「巨大な新井さんがどうしたっていうんだ。それとも、巨大錦鯉の洗いでも食べさせてくれる店の宣伝か?」
 どうにも意味が分からなくて、橘恭司は首をかしげるだけであった。
 
    ★    ★    ★
 
「やれやれ、あちこちでいろいろやってますね」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は木の上にカモフラージュで隠れながら、周囲にカメラをむけていた。今回は、完全に傍観者モードだ。
 下の道は、何人かの学生が通りすぎていくだけで、ちょうど今はエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)たちが周囲を調べている。
 カメラを望遠に切り替えてみると、何やら少し先の方で戦っている者たちがいる。
「あいかわらずですね。迂闊に巻き込まれないで助かりました……って、なんだかこっちに近づいてきているような」
 ほっと胸をなで下ろしながらも、戦部小次郎は安全な木の上からリカイン・フェルマータたちの騒動をじっくりと記録していった。
 
    ★    ★    ★
 
「うーん、この謎の足跡はなんなんだろう」
 ビデオカメラで地面に残された足跡を撮影しながら、エース・ラグランツは悩んでいた。リカイン・フェルマータの残した物なのだが、彼がそれを知るはずもない。現状では、巨大な謎生物の足跡である。
「わーい」
 エース・ラグランツの周りでは、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)がはしゃいでグルグルと駆け回っている。お菓子を食べながらなので、ボロボロと零れたお菓子が、エース・ラグランツの周囲に円を描いていた。
「こら、少しは静かにしないと、怖い猛獣が来て食べられちゃうぞ」
 さすがに、閉口したエース・ラグランツがクマラ・カールッティケーヤを注意した。
「えー、そんなのが来るわけ……げげ、ほんとに来た!」
 笑い飛ばそうとしたクマラ・カールッティケーヤは、こちらにむかって走ってくるリカイン・フェルマータたちを見てエース・ラグランツにしがみついた。
「待て!」
 追いかける清泉北都の後ろから、アストライト・グロリアフルの投げたラスターブーメランが迫る。だが、禁猟区で危険を察知した清泉北都はひょいと頭を下げてそれを避けた。
「うわわ、危ない!」
 流れ弾となって飛んできたラスターブーメランを、エース・ラグランツたちが地面に身を伏せて避ける。
 そのまま飛んでいったラスターブーメランが、行き着く所まで飛んで反転する。
「きゃー、どいてどいて」
 エース・ラグランツたちがやっと立ちあがったところへ、リカイン・フェルマータたちと清泉北都たちが突っ込んで来た。避けることも間にあわず、ぶつかった一同が転倒して団子状態となる。
「やれやれ、何をやって……うわおっ!?」
 呆れながらカメラを回していた戦部小次郎の足許が急に傾いた。今まで彼が乗っていた枝が幹近くに突き刺さったラスターブーメランでみごとに切断されている。
「ば、馬鹿な……うわあああ……!」
 切断された枝ごと、戦部小次郎が地面でもがいているリカイン・フェルマータたちの頭上に墜落していった。
「うぎゃっ」
 下敷きになった者たちから、奇妙な悲鳴があがった。
「ええと、事故だよな、これは……」
 小型飛空艇の上で、アストライト・グロリアフルは引きつった笑いを浮かべた。