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七不思議 恐怖、撲殺する森

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七不思議 恐怖、撲殺する森

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    ★    ★    ★
 
「いたいた。テスタメント」
 日堂真宵は、通路で見つけたベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)をひょいひょいと手招きした。
「何をおっしゃいます。わたしはただの通りすがりのミレニアムなヒーローでスーパースターです」
 オリーブの枝を銜えたハトの着ぐるみを着たベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは必死に否定したが、あっと言う間にアーサー・レイスに押さえられてしまった。
「ああ、きっぱりと断って逃げられる人がうらやましい……」
「何分からないことを言ってるのよ。ほら、アイスあげるからついてきなさい」
 そう言うと、日堂真宵は余ってしまったアイスクリームをベリート・エロヒム・ザ・テスタメントにあげた。
「いいんですか!?」
 信じられないという思いを隠そうともせず、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは返せと言われる前にアイスクリームを平らげた。
「いい食べっぷりデース。感服しました。このカレーアイスもさしあげましょう。ぜひおたべくだサーイ」
「それはいらない」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは、素っ気なく言った。
「さあ、じゃあ、一緒に来るのよ。これからたっゆん狩りよ!」
 そう言うと、日堂真宵は、チェーンに結びつけたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体をごとんと床に落とした。完全に、振り回すタイプのモーニングスターの代用品だ。
「ひーっ、なんてことを!!」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが悲鳴をあげる。
「いったい何をしたいんです!」
「べ、べべべ、別にわたくしが胸の大きさで悩んだりコンプレックスもったりしてるわけじゃないんだからね! 単に、たっゆんが今回事件を起こしているから懲らしめに行くだけなんだからね。さあ、さっさと行くわよ!」
 そう言うと、日堂真宵はかけだしていった。
「嫌ー、テスタメントの本体返してくださーい!」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがあわててその後を追いかけていく。
「ふっ、元気がいいことデース。あれなら、きっと七不思議を弱らせてくれることでしょう。そこで、カレーの出番デース。例え七不思議であろうがカレーを食べてないのであればそれは許されざる忌々しき事態なのデース! むしろすべての七不思議を素材とした七不思議カレーなど考えてみたのデース。これは地祇カレーを越えるヒットの予感デース。デザートのカレーアイスも準備万端なのデース。いざ、カレーは七不思議をも凌駕するのデース」
 カートに乗せたカレー一式を引っぱって、アーサー・レイスは日堂真宵たちの後を追いかけていった。
 
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「ラジオを聞いてやってきたはいいけど、さすがに世界樹は広いな」
 頭上に広がる巨大な枝葉を見あげて神和 綺人(かんなぎ・あやと)が言った。
 蒼空学園であった撲殺事件と同じような出来事がイルミンスール魔法学校で起き、さらに、森でも謎の撲殺通り魔事件が発生しているのだという。それは、はっきり言って脅威だろう。
「何も、イルミンスールにまでやってきて事件に首を突っ込まなくてもいいでしょうに。犯人と出会ったしまったらどうするんです」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が、心配そうに言った。
「犯人と遭遇するために、こうして世界樹の周りを巡回しているんだけど」
 まさに目的はそれだと、神和綺人が答えた。
「そうですよね。興味ありますよね。もしかしたら、犯人はラジオで言っていた復讐の三姉妹かもしれないじゃないですか。正体が気になるから、会ってみたいですよね」
 神和 瀬織(かんなぎ・せお)が神和綺人に同意する。
「二人とも、迂闊だぞ。あまり危険なことには首を突っ込んでほしくないんだが」
 禁猟区を全員にかけながら、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が言った。
 直後に、水平の熱波が神和綺人たちを襲った。
「なんだ、これは……」
 結界で弱められた魔法の熱波を退けて、クリス・ローゼンが言った。
「確かめてきます。アヤはここにいて……」
 クレセントアックスを構えて、クリス・ローゼンが走りだした。
「まさか。僕たちも行くに決まってるだろ。さあ」
 神和綺人は神和瀬織たちをうながしてその後を追った。
 
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「まったく、大浴場にざんすかはいないし、とんだ無駄足だったんだもん」
 風呂あがりの上気した肌で、秋月葵は世界樹の外に出てきていた。頭の上では、マカロンが同じように外の風で涼んでいる。
「ざんすかちゃんはどこにいるんだろう……」
 キョロキョロと不審者と勘違いされかれない目立つ態度で、秋月葵は歩いていった。少し進むと、のほほんと散歩しているビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)を発見しておーいと手を振って挨拶をする。向こうも気がついて両手を挙げて挨拶を返してきた。
「おや、手頃なお人形発見。壊しちゃおうかなあ」
「いいねえ。殺ろうぜ」
「ねえ、やめましょうよお」
 秋月葵の姿を見てニタァっと目を細めて笑う斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)に、天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)がおろおろとしながら言った。
 撲殺事件で世間が騒がしいのに乗じて、斎藤ハツネたちは通り魔で憂さを晴らして責任を撲殺魔に押しつけようとしているのだ。
「行くよぉ」
 天神山葛葉の制止をふりほどいて、斎藤ハツネが猛ダッシュで秋月葵に近づいた。殺気看破でその気配に気づいた秋月葵が振り返るところへ、いきなりリターニングダガーを投げつける。ふいをつかれて倒れた秋月葵に、一気に間合いを詰めた大石鍬次郎が嬉しそうに綾刀を振り下ろした。
 斬られると秋月葵が思った瞬間、何かが彼女の顔の上に乗っかった。直後に強い衝撃を受けて、後頭部を地面にぶつけた秋月葵は意識を朦朧とさせていった。
「なんだ、こいつ!」
 予想外の出来事に、大石鍬次郎が叫んだ。彼が振り下ろした刀は、秋月葵の身体に触れることもなく、彼女の顔の上に乗ったゆるスターのマカロンに真剣白刃取りされていた。
「そこで何をしているのじゃー!!」
 大石鍬次郎が思わず刀を引いたところへ、異変に気づいたビュリ・ピュリティアが駆けつけてきた。問答無用で、水平に火炎の波を飛ばしてくる。まともに食らった斎藤ハツネと大石鍬次郎が炎になめられて後退した。
 秋月葵がいるのでビュリ・ピュリティアが威力をセーブしてくれたおかげで助かったのだ。イルミンスール魔法学校に来る前のビュリ・ピュリティアであったら、今ごろ二人とも消し炭だろう。
「どうした!!」
 背後からは、神和綺人たちが駆けつけてくる。
「逃げます!!」
 スプレーショットで地面を撃ち、土埃による煙幕を張って天神山葛葉が叫んだ。隠れ身で身を隠した斎藤ハツネたちは、素早く世界樹の中へと逃げ込んでいった。
「おい、大丈夫か?」
 神和綺人が秋月葵に駆け寄る。
「犯人……ざ……ん……す……」
 そう言って、秋月葵は気を失った。
「犯人ザンス?」
 なんだそりゃと、神和綺人は首をかしげた。