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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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 3、こんとらどっじさんの失態

 
「コネタントさん、売り物用の食品と飲料、グッズの搬入が終わりましたよー。食品は各冷蔵倉庫に万遍無く。グッズは東西のロビーに近い第1と第3の常温庫に入れてあります。販売も、アルバイトの方に始めてもらっていますー」
 コネタントの元に、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)がやってきた。手には帳簿と輸血パックを持っている。彼女もまた、数日前から彼の手伝いをしていた。主にマネージメントを担当している。博識と『用意は整っております』、財産管理を用いたことで、随分と効率化されたようだ。優梨子が帳簿を見せると、コネタントは言った。
「あれ? 思ったより予算に余裕があるね」
「ロックスター商会様からご寄付も頂きましたし、経費は抑えられていますね。このスポーツドリンクも、サービスで頂いたものなんですよー」
「寄付?」
「まあ、そういうこと」
 カメラを首に引っ掛けたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が近付いてきた。王城 綾瀬(おうじょう・あやせ)も一緒だ。
「トライブさん!」
 声をかけるファーシーに「よっ!」と手を挙げてから彼は言う。
「スポンサーになれなかったのは残念だけどな。これだけの規模になると、金は幾らあっても困らないだろ? 大きな大会だし、半端な結果は残せねぇからな!」
「で、でも……」
 コネタントは少しおろおろしている。
「パラミタに来て1年。便利屋家業やクエストで稼ぎに稼いだ貯金があるから、心配すんなよ! あ、ファーシー、記念として写真でも撮らないか?」
「え、わたし?」
 自分を指差してまばたきをするファーシー。そこにピノ・リージュンラス・リージュン(らす・りーじゅん)を連れてきた。ピノはピンクのフレアシャツにデニムのサロペットパンツ、それにスニーカーブーツを穿いている。いつもより活動的な服装は、スポーツ大会というのを意識したのかもしれない。
「あっ! エリザベート校長が大好きなお兄ちゃん!」
 出会い頭にとんでもないことを言うものだ。だが、最後に会った時の印象がエリザベートへの大声量告白なのだから仕方ないといえば仕方ない。多分、仕方ない。
「違う! ……違うからな! ロリコンとかじゃないからな!」
 トライブはピノと周囲に向けて思い切り否定すると、まあちょうど良いといえばちょうど良かったので彼女にも声を掛ける。
「お嬢ちゃんも、ここで写真とかどうだ? スタジアムを背景に、1枚、とか」
「何っ! 写真!?」
 それに反応したのはラスだった。やる気も興味も無さそうだったのが、突然しゃっきりとする。
「駄目だ駄目だ! そんなもん撮ってどうするんだ? どっかで売ったり配ったりするんじゃないだろうな!」
 つい最近、勝手に写真だのプリクラだのをばらまかれた彼は中々に鋭い。
「まっさかあ。ただの親切だぜ?」
 嘘である。ピノやファーシーだけでなく、エリザベートから高根沢 理子(たかねざわ・りこ)セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)、そしてコートにて汗光らせる美女から美幼女まで写真に撮り、売る気満々である。後でバレて大損するのも困るので、こうして撮る時には断りを入れるわけだが。しかし断りを入れようがどうしようが、無断で売られたらみんな怒るのではないだろうか。
「いいじゃん! 撮ろ撮ろ!」
 ラスはどうあれ、ピノは俄然乗り気だった。ファーシーの車椅子を押して、ベストな位置を探している。
「お、さすがノリがいいねえ。んじゃ早速……」
「え? ほんとに撮るの?」
 まだ少し戸惑っているが、ファーシーも悪い気はしていないようだ。
「……ああなったら、もう止められないな……」
 肩を落とし、折角だから撮っといてやるか、と自分の携帯電話を取り出す。ポーズをとるピノを画面におさめながら、最後にトライブに釘を刺した。
「絶対に売るなよ」
 この時の彼は、へんたいがもう1人来るなどとは予想もしていなかった。

(ブルマじゃない……)
 浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)を見つけて真口 悠希(まぐち・ゆき)がまず思ったのは、そんなことだった。
「翡翠ちゃん!」
 声を掛けると、彼は振り返って笑顔になった。タンクトップとスパッツ姿の悠希を見て、言う。
「あ、悠希様も出場されるんですね」
「セレスちゃんの為にも頑張りますよっ! 翡翠ちゃんも選手なんですね!」
 ちなみに『セレスちゃん』というのはセレスティアーナのことである。
「はい。昨年初等部で遊んでいた私には打って付けの競技ですから。……あ、そうだ。いい機会だから2人で勝負しませんか?」
「勝負?」
 悠希は、突然の申し出にきょとんとする。
「どうです? 可能なら一騎打ち。不可能なら、東西チームの勝敗で私達の勝敗を決めちゃうというのは」
 そのままの表情で少しの間を置いて、話を飲み込むと悠希は元気に頷いた。
「うん、やりましょう! 負けたら、翡翠ちゃんは女子のユニフォームを装着ですよっ、ブルマです!」
「え、え、えええっ!? ちょっと待って!?」
 年齢や体格が似通っていて、前々から一緒に遊んでみたいなー、と思っていた。それだけだったのに、何故そういう展開に!?
「勝ったらはいて貰うです!」
 堂々宣言! という感じの悠希に、翡翠はやけになって了承した。
「わかりました。私が勝ったら珈琲を奢ってもらいますからねっ!」

 写真撮影が一段落した救護所は、前列の男性客達が写メをしようとしてシスコンがキレかけた以外は概ね平和だった。そこに、セシリアが軽食を持ってきて簡易テーブルに並べていく。運営と救護、両方に携わるメンバーが食べられるように軽食の量は多かった。
「何かいい匂い、1つほしいなー」
「はい! タマゴサンドでいいかな!」
 目を輝かせて見上げるうさぎのゆる族、ラビ・ラビ(らび・らび)にセシリアはラップをはがしてサンドイッチを渡した。メイベルもコップを差し出す。
「セシリアの作るものはとても美味しいですよ〜。ゆっくり食べてくださいね」
「じゃあ、いただくとしようかのぅ!」
 光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)もハムレタスサンドを取った。
「おお、美味い!」
「大会の最中は中々食事をとるタイミングが難しいでしょうから、お腹が空いた時や時間がある時に召し上がってくださいですぅ。全部食べちゃだめですよ〜」
「僕達ももらおうか。試合の間は食べれそうもないからね」
 メイベルの言葉に、審判の綺人達も1つ2つとつまんでいく。
「おいしそうだなー。わたしも後でもらおうかしら」
 ベッドにシーツをかけ、片側を整えながらファーシーが呟く。
「今、行ってきたらどうだ? こっちはやっとくからよ」
 もう片方を引っ張って、匿名 某(とくな・なにがし)が言う。パートナーの結崎 綾耶(ゆうざき・あや)ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)と一緒に離れた場所にあるベッドを担当していた。彼女は彼がしておきたい事を察して、わざと遠くに居るのだろう。
(ごめんな、必ず埋め合わせはするからな)
 綾耶をちらりと見てから、某は改めてファーシーに向き直る。
「この前は世話になったな、ザンスカールで。あの後ちゃんとあいつと話もできて、答えももらった。おかげで一応すっきりすることができた。だから、ありがとうな」
「え?」
 ファーシーは顔を上げて「?」という表情をした。記憶を辿って合点がいって、ふっ、と柔らかい笑みを浮かべる。
「良かった。教えてくれてありがとう。わたしも会ったよ。ちょっと変な状況だったけど……」
「もうこんなに人が集まってるんですね。試合まで未だ時間があるように思いますが」
「運営も混じってるんじゃねーか? 瞑須暴瑠であれだけ酷かったんだし、大会の規模が大きくなれば怪我人も増えるだろ。ところで七日、何でお前鎌なんか持って……ん?」
「日比谷……」
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)と某はお互いに何だか動きを止め――
 先に力を抜いたのは某だった。
「今日ばっかりは野暮な事は言わないさ。お互い頑張ろうぜ?」
「……まあ、ぼちぼちな」
「うん、がんばろうね!」
 2人のやりとりを見て、ファーシーも嬉しそうに言う。
(某さん、お話は終わったんでしょうか……あっ!)
 一方、ベッドメイクを終えてこっそりと振り返った綾耶は、そこに雨宮 七日(あめみや・なのか)を姿を認めて歩み寄った。
「えと……プール以来ですね。お元気でしたか?」
「健康という面でのお訊ねですか? すこぶる良好です」
「そうですか……あ、あの、七日さんは運営ですか? 救護ですか? 救護だったらその……一緒にお手伝いさせてもらえませんか?」
 綾耶の表情には、男ならころっといってしまいそうな小動物的な魅力があった。無意識的にそれを全開にして頼んでみたわけだが。
 勿論、七日には通用しなかった。
「救護ですが……皐月がとても参加したそうだったので。ただ、私は患者の方に介錯をしてさしあげようと思っているのですが」
「え、か……かいしゃく、ですか?」
 救護で解釈……? と、そこにどんな漢字を当てればいいのか判らない綾耶は戸惑う。
「首を刎ねる、ということです。ろくりんピック程の大きな祭典ともなれば、予想だにしない不幸も起こり得るでしょう。中には不運にも手遅れの方も居るかもしれません。長く苦しみを味わわせるのも忍びないので、このレプリカで……」
「……止めてくれ」
 話を聞きつけた皐月が頭痛を覚えたような表情で言う。
「…………」
 七日は無言で彼とレプリカディックルビーを見比べ、十二星華のリフルが持っているのとそっくりなソレを仕舞った。
「……仕方有りませんね。普通に治療するとしましょうか」
「それじゃあ……!」
 ぱあっ、と明るい顔になる綾耶に、七日は応えた。
「必要であればお手伝いをお願いしますね、結崎さん」
 応えた……のか?
「はいっ!」
 喜ぶ綾耶の前で、ぼそりと危ない呟きが漏れる。
「……折角の試し斬りの機会が……」
「え? 何か言いました?」
「いえ、何でも」
「聞こえたぞ七日、オレには聞こえたからな……!」
「あの鎌もいいですねぇ」
 そしてここにも、鎌を持つ少女が1人。こちらは、魂を刈るもの、というまことに物騒なネーミングの鎌である。
「なぜ武器を……それに、なんだ? その格好」
 葉月 ショウ(はづき・しょう)は食事をしつつ、リタ・アルジェント(りた・あるじぇんと)に問いかける。彼女は、救護のイメージである白とは正反対の黒い衣装を着ていたのだ。何かのコスプレらしい。鎌持ってるし、少なくともあまり良い予感はしない。
 リタがやりたいことがあるって言うから救護にまわったのに……。
 やりたいことって、何だ?
「ふふふ、堕天使リタ参上ですぅ♪ 天使じゃないですぅ、堕天使ですぅ。だから追い返されないのですぅ」
 嬉しそうに、上機嫌に言うリタ。
(堕天使って……悪魔じゃねーか!)
 どうやら、こんとらどっじさんから『呼んでねぇ。追い返したる』と言われそうな天使が2人揃ったようだ。