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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

「要? どうしたの? どこか悪い?」
 東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)は、後ろを歩く要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)に気遣わしげに声を掛けた。さっきから様子が変だ。元々肌は白いけど……今日は青ざめているような。
「いえ……」
 要は顔を上げた。周囲を気にするような素振りを見せてから、言う。
「……なんだか、嫌な気分です。すみません、自分は大丈夫ですから」
 微かに笑う。しかし、それはすぐに影を潜め、彼はまた顔を俯けて歩き出した。
「大丈夫って……、とてもそうは見えないよ。休んだ方がいいんじゃないかな」
「うるせぇな……」
「え? 何か言った?」
「……いや、別に……」
 要はそう言って少しだけ歩く速度を早めた。若干ふらふらしているような。加えて、雰囲気が……。
(いつもと違うような、でも、それほど変わらないような……)
「……お前、用事は全部終わったのか?」
「え?」
 立ち止まり、要は振り返った。
「あんまり、荷物持ってねぇみたいだからよ」
「あ、うん、えっと……」
 そんなに明確な目的があって来たわけじゃないし。というか、やっぱり様子がおかしい。本気で怒った時とかに口調が変わったりっていうのは前からよくあったけど、普段は丁寧な口調のはずなのに。
「私のこと……わかるんだよね?」
「あ? そりゃ……当然だろ」
 要の答えに、少しほっとする。
 そういえば、今日は店内がざわついている。人が多いから、とかじゃなくて……。もしかして、他の人達も変わってたりするのかな? それで、空気がぴりぴりしているのかもしれない。
 でも、要は……
 性格までは変わってない……! ここに居るのはいつもと同じ、優しい要なんだって信じて、前向きに行かなきゃ!
(口調が変わったくらい何よ、要は要だもんね)
 戸惑いつつも自分を奮い立たせ、秋日子はフロアを見回した。
(他の人達にも話しかけて調べてみよう……って、大変……!)

「……夜空?」
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、自分達を先導するように陽気に、ハイテンションにデパートを歩いていた如月 夜空(きさらぎ・よぞら)の様子が急変したのを見て駆け寄った。彼女の前に回り込んで、声を掛ける。
「どうした?」
 突然口を噤み、数歩行った所で両腕を擦って落ち着かなさそうにして、今も何か、辛そうにしていた。同行していたマルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)も眉を顰めて夜空を見守っている。
「う、うん……、あたしにも良く……」
 途中で、夜空の身体がぐらりと傾いだ。皐月が急いで支えると、そこに秋日子がやってきた。
「大丈夫っ?」
 2人で協力して通路の脇で休ませる。
「サンキュー」
「ううん……。ねえ、もしかしてこの症状、いきなり……?」
「あ、ああ……ついさっきまで元気過ぎるぐれーだったんだけど……」
「……前兆のようなものは無かったな」
 マルクスが冷静な口調で付け加える。
「そっか。実は要も……。話し方も変わっちゃって……」
 秋日子の後から、遅れて要が歩いてくる。未だ体調が悪そうだ。
「何処かから、っていうのは解らないけど……何かがあたしを通り抜けたような感触はあったよ」
「……じゃあ、要も?」
 秋日子は追いついてきた要に、遠慮がちに訊く。
「ねえ要……誰かに何かされたりしたの?」
「俺にもわかんねぇよ……っていうか、お前そばにいただろ。畜生、誰の仕業だってんだよ……」
 髪をぐしゃりと掻き上げて、悔しそうに言う。自分が変化している事は理解していたが、要は口調を元に戻す事が出来なかった。一方で秋日子を心配する気持ちもあるのだが、それを表に出す余裕も無い。
 彼の答えを聞いて、一度口元を引き結んだ秋日子は言う。
「……私、要はどんな風になっても要だって信じてるからね!」

「多分、この辺りだと思うんだけどな……」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、ジャンルからあたりをつけてこのフロアで降りていた。ファッションアイテムだけではなく、それぞれ趣向の違う雑貨を扱う店が多いのがこの階の特徴だ。閃崎 魅音(せんざき・みおん)の好みから、居る可能性の高い場所を探しているのだが――
 見渡せる範囲を、見逃しがないように気をつけながら歩く。そこに通りかかったのが咲夜 由宇(さくや・ゆう)と、由宇に呼び出されてデパートに来たアクア・アクア(あくあ・あくあ)だった。静麻は彼女達に声を掛ける。
「すまないが、小さな女の子を見なかったか? 赤いリボンで髪を1つにまとめている、10歳位の子なんだが」
 由宇とアクアは顔を見合わせ、首を振った。
「見てないですぅ〜」
「わたくしも、見かけてないですわね」
「そうか……」
「もしかして、その子って剣の花嫁ですか〜?」
 肩を落としていた静麻は、由宇に聞かれて肯いた。
「ああ、だから心配で……」
「じゃあ、一緒に来ませんか〜?」
 由宇は、エレキギターを持ってデパート内をまわっている理由を説明した。
「もし被害に遭われていれば少しはお役に立てるかもしれませんし、そうでなくても3人居れば見逃しも減ると思いますよ〜」
「…………」
 静麻は少し考えてから同行することにした。
「……分かった。一緒に行こう」

 フロアを走る淳二は、落ち着かなさげにきょろきょろしている女の子を見つけた。歳は10歳位だろうか。長い黒髪を赤いリボンでポニーテールにしている。――魅音だ。彼女は、何か緊張しているような、思いつめているような表情をしていた。それが、へたっ、と膝を折って床に座り込む。
「……あの子もか」
 駆け寄ろうとしたが、金髪のポニーテールの少女――プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)の方が早かった。プリムローズの後ろからは、これまた10歳位の少女の姿をした毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が歩いてくる。2人で出かけるのは久しぶりで、可愛いものを見たり美味しいものを食べたりと計画していたのだが……。
「大丈夫ですか? 何か……」
 辛そうな女の子に、プリムローズはヒールをかけようとする。しかし。
「どうした?」
 不自然な体勢で動きと言葉を止めた恋人を不審に思い、大佐が声を掛けた。プリムローズはそこにいる誰に対してでも無い、全く別の方を向いていて――
 そして、崩れ落ちるように倒れた。
「……!」
「……――」
 淳二がその光景に僅かに目を見開き、大佐は、その場に縫い付けられたように呆然として動かなかった。
 数秒後。
「……プリムローズ!」
 傍に寄って抱きかかえ、朦朧とするプリムローズの名前を何度も呼ぶ。
「な……何……どうして……!」
 動揺する大佐のバッグから、プリムローズは震える手でデジカメを掴んだ。プリムローズは……見ていたのだ。自分を攻撃した2人組の姿を。
 ほんの一瞬だったが、その姿ははっきりと記憶に刻み込まれている。それを、ソートグラフィーで写し取ろうと神経を集中し――
 そのまま、意識を失った。
「プリムローズ! プリムローズ!?」
 かくんっ、と腕から力が抜け、手からデジカメが転がり落ちる。大佐は、そこに撮った覚えの無い画像が写っているのに気が付いた。
「これは……」
 黒いコートを羽織った少女と中年のおやじだった。少女はバズーカを構えている。バズーカからは、光線が出ていた。
「こいつらが……!」
 ――大佐の中で、何かが切れた。
「……何が写っていたんですか? まさか、犯人……?」
 淳二の問いには答えぬまま、大佐は自分の頭から髪飾りを外した。プリムローズの手に、それをそっと握らせる。
「……悪いが、プリムローズの看護を頼めるか?」
「ええ、勿論……。で、それには何が……?」
 大佐は無言でデジカメの画面を淳二に示した。2人の姿を見た途端、淳二の中に怒りが湧き上がってくる。
「……落ち着くのだ」
 静かな口調で大佐は言った。マジギレしていても冷静だ。大佐の怒りは、既に殺意に転化していた。
「この容姿を他の皆に伝えてくれ。……ブラックコートを着ていたから皆、気付けなかったのだな。姑息な真似を……」
 大佐は立ち上がると、最後に彼に言う。
「我は犯人達を殺しに行く……2人は頼んだ」