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リアクション
第2章
魔法動力式スペースシャトル「OvAz」の定員は16名だが、搭乗希望者はそれを遙かに超える人数が集まった。
フライトは3回に分けて行う事となり、搭乗希望者間のジャンケンの結果、第1フライトのメンバーは以下のように決まった。
神野 永太(じんの・えいた) 操縦
師王 アスカ(しおう・あすか) 操縦
ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす) 操縦
蒼灯 鴉(そうひ・からす) 操縦
天城 一輝(あまぎ・いっき) 動力
ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ) 動力
御剣 紫音(みつるぎ・しおん) 動力
綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか) 動力
アルス・ノトリア(あるす・のとりあ) 動力
アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど) 動力
九条 イチル(くじょう・いちる) 動力
ルツ・ヴィオレッタ(るつ・びおれった) 動力
人員決定が戦闘沙汰にならなかったのは、ユリウスやアスカの「説得」や、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)らの有無を言わせぬ「指揮」による所が大きい。
バーチャル・リアリティ施設「ラビットホール」。
その中にいくつも設けられたシミュレーションルームの一室は、内装が何かの操縦室を模した作りとなっている。
正面に横長の大きな窓があり、その手前に操作盤と、4人分の操縦者用の座席。さらに、その手前には動力者用12人分の操作盤と椅子が2列で縦長に並んでいる。壁面にも様々な計器や液晶画面が並び、合間合間に小さな窓。天井も同様だ。
「わぁ」
入室した九条 イチル(くじょう・いちる)は声を上げた。
「ずいぶんと本格的だね」
「『宇宙飛行』を言い出したのはゼレンとかいう御仁だそうだが、大した人物のようだな」
ルツ・ヴィオレッタ(るつ・びおれった)は内装を見て感心した。
「この分だと校長のみならず、現場の作業に携わった者達も、相当士気が高かったようだな。人から言われてやらされる、というのでは、ここまでの事はできんだろう」
「おかげで、乗り込む方もやりがいがありますわぁ……ん?」
最初に操縦席についた師王 アスカ(しおう・あすか)は、続いて座った神野 永太(じんの・えいた)の顔を見て顔をしかめた。
「もしもし? どうしたんですかぁ?」
「いやぁ、その」
永太は、しょげた顔に笑顔を作って見せた。
「その、連れてきたペットが没収されましてね。寂しがってないかなぁ、なんて」
「このミッションが『宇宙旅行』だったら良かったのですけどね。私達の任務は『飛行』です、飛ばすのがお仕事ですから」
微笑みながらルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)も操縦席に座る。
「ったく、緊張感がねぇなぁ?」
蒼灯 鴉(そうひ・からす)が鼻を鳴らし、同じように操縦席に座った。これで、操縦席の全席には人がついた形になる。
「これから俺達は戦争に行くんだぜ? 分かってるのか、お前?」
「ああ、それは分かってますよ、もちろん。これでも聖騎士の端くれですから、乗員のみんなは命に替えても守り抜いて見せますよ」
「命に替える? 死にたがるヤツには用はねぇな」
「はいはい、鴉ちゃん」
ぱんぱん、とアスカが手を鳴らした。
「いい加減、つっかかるのはそこまでにしときなさいな?」
「ちっ……ま、こっちはちゃんと仕事してくれりゃあ文句は言わねぇよ」
鴉は肩越しに後ろを振り返った。
第1フライトの「動力」担当のメンバーが、次々に席に着いている。もっとも、そのほとんどは「わぁ」とか「おぉ」とか言いながら内装や目前の操作盤に目を輝かせ、やっぱりどこか緊張感に欠けている。
が、全員が席に着き、スピーカーから「シミュレーション開始」という柊 真司(ひいらぎ・しんじ)の声が響くと、どよめきはピタリと静まった。
(あいつはラビットホールの管理に行ったのか)
声を聞き、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は呟いた。そう言えば「機械いじりが趣味」と聞いた事がある。
(あいつらしいといえばあいつらしいな)
そんな事を思った。
窓に映像が映った。
青空の下、どこまでも続く滑走路。ただし、いかにも作り物臭い。
スピーカーからまた声がした。今度は管制室についているクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)の声だ。
「みんなは席に着いたかなー? それなら、最終確認いってみようか。
まず、一番大事な事からだ。
トイレはすませてあるかい?」
その問いに、操縦室内の誰も返事をしなかった。
(……面白くないと素直に答えるべきか。気を使って笑うべきか。それとも何かツッコむべきか……)
ひっそりとサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)が対応に困っていると、咳払いの後に、再びスピーカーから声がした。
「えーと、改めて、最終確認いってみようか。
〈素子〉活性化、〈機晶コンデンサ〉への念動推力充填、スキル使用反応確認どうぞ。異常あれば報告してちょうだい。
本日は晴天なり。絶好の打ち上げ日和だ。まー、のんびりやって」
各席に着いている人員は、操作盤の水晶球に手を当てて、横にある小さな画面の表示に留意した。
しばらくして、あちこちから「異常なし」の声が聞こえ始める。
「全席の〈素子〉活性化、コンデンサ念動推力充填系統、スキル使用・増幅反応異常なし」
スピーカーから風羽 斐(かざはね・あやる)の宣言が聞こえた、
「『OvAz』全系統異常なし」。
続いて、翠門 静玖(みかな・しずひさ)の宣言も。
「発進シーケンスに入ります。起動フェイズ、動力席の念動使い各位、推進力の充填を開始して下さい」
スピーカーからの天貴 彩羽(あまむち・あやは)の声を合図に、御剣紫音、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)、九条 イチル(くじょう・いちる)が水晶球に手をあてがい、精神集中して「サイコキネシス」を使用した。
操縦席の液晶のひとつにある棒の中の色が次第に濃くなっていく。
蒼灯 鴉(そうひ・からす)が宣言した。
「念動推力充填確認」。
天貴彩羽の声「〈素子〉活性化どうぞ」。
ルツ・ヴィオレッタ(るつ・びおれった)が水晶球に精神集中「〈素子〉活性化開始」
アスカが、操縦席の操作盤に眼を向ける。並んでいる液晶のひとつに、ズン胴デルタ型飛行機の3Dモデルが表示され、その外壁が白からピンクへと変化していく。
ほどなくして、飛行機の外面は全てピンクの光に包まれた。アスカは宣言した。
「〈素子〉活性化確認」
「『OvAz』発進準備完了。管制、離陸許可をどうぞ」
永太がマイクに向けてそう告げる。入室当初のショゲた空気は、もうそこにはない。
天貴彩羽の声が答えた。
「許可します。離陸フェイズ、どうぞ」
その声を受け、ルーツが操作盤に指を走らせた。
「〈機晶コンデンサ〉より機体〈素子〉面へ念動推力伝達開始。伝達、異常なし」
鴉が、操縦桿をゆっくりと倒した。
「『OvAz』離陸」
シミュレーションルームにいる全員の体に圧迫感がかかった。
窓に映る景色が流れ始め、視点が次第に高くなる。
「離陸確認」という天貴彩羽の声に、ルーム内に「おぉ〜」と小さなどよめきが湧いた。
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