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未踏の遺跡探索記

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未踏の遺跡探索記
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第2章 神殿に息づく者たち 2

 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は戸惑っていた。
「ごくり……」
 と、声に出すほどに息を呑んで、目の前で威厳を持って構える石像をもう一度見上げた。
 不気味であった。恐らくそれは、このアキラのいる祈りの間かなにからしき大広間が薄暗く、静寂に包まれて寂しさを増長させることも原因しているのだろう。しかし、それ以上に、石像の放つ今にも動き出しそうな厳めしさは、彼の体を震わせるに十分だった。
「ここって……なんの神様を祭っていたんだろうなぁ」
 恐らくは神様の像か何かであろう石像は、人間を象ったものではなかった。獣とも思しき獰猛な顔……しかし、身体は人間であるのか、僧侶の着るようなローブを身にまとっている。
 アキラだけでなく――そう、彼とともに石像を見上げるルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)であっても、その異様な雰囲気に黙り込んでしまっていた。
 石像の目が、自分を見下ろしているかのような錯覚が起こる。
(どうか貴方の神殿を荒らす不敬をお許しください……)
 アキラは、ルシェイメアたちとともに黙祷し、静かに許しを請うた。何の神かは分からぬが、探索の礼儀としては一言言っておく必要があるような気がした。
「よし……! んじゃ、これでバチは当たらんだろう。探検しようぜー」
「おい」
 黙祷が終われば、それはそれ、これはこれとばかりにアキラはノリノリで動きだした。さすがにルシェイメアも呆れた声を漏らす。なんとも軽い性格の男であった。
「大体こういうのって、神像とか祭壇とかの周りに隠し通路的なのがあるんだよな〜」
「ア、アキラさん……うかつに触ったら……」
 セレスティアの親切な警告を無視して、アキラは神様の怒りなど知ったことかとばかりに石像の周りをひょいひょい触りまくった。
「おい、アキラ……気をつけるんじゃ……」
「なーに、大丈夫だって。罠なんてやつは、結構それらしく仕掛けてあるから大体分かるもので――」
 カチ……
「「カチ……?」」
 アキラの声を遮って鳴った音に、ルシェイメアが嫌な予感を感じた。で、もちろんそれは当然の予感であり――ガコン! という音とともに、アキラの床に巨大な穴が開く。巨大な穴の下は、文字通り針の山だった。ぎり……と振り返るアキラ。3、2、1――
「ぬああああああぁぁぁ!!」
「ア、アキラさんっ!?」
 咄嗟に手を伸ばしたセレスティアが、なんとかアキラの腕を掴んだ。慌てて駆け寄ったルシェイメアとともに、二人はお騒がせなパートナーを引っ張り上げる。ようやく危機を回避して、三人は膝をついて安堵の息を漏らした。
「はぁはぁはぁ……死ぬかと思った」
「心配かけるでない、このアホウがっ!!」
 ルシェイメアが、計画性なしの若者を叱りつける。とはいえ、それはどうやら毎度のことらしく、アキラは再び気を取り直して起き上がった。
「さ、探索探索」
「懲りんかい!」
 どこぞからか取りだしたハリセンが、見事にアキラを叩く。バチーン! という小気味良い音ととともに、アキラの頭が石像の真下にぶつかり――ガコ!
「……ガコ?」
 少なくとも、今度はスイッチらしき音ではなかった。どうやら、アキラの頭部がぶつかった石壁に凹凸となる場所があったらしい。何も起こらないかと思ったら、突然石像が揺れ始めた。
「な、なんじゃっ!?」
「いーちちち……ルーシェ、最近ツッコミが激しく……」
「ア、アキラさん、それどころじゃないです!」
 セレスティアに服の袖をひっぱられて、アキラはたんこぶになっている頭部を押さえながら石像に目を起こした。揺れる石像は、徐々に後ろにズズズズズ……と重厚な音を立ててずれてゆく。やがて――階段が姿を現した。
「まさか……本当に隠し通路とは」
「貴様……自分で探してたものじゃろう」
 呆れつつも、ルシェイメアも驚きを隠せない様子である。ともかく、三人は階段を下りてみることにした。さすがに、未知の領域ということもあってアキラも無暗に突っ込んだりは――した。
「いっちばんのりー」
「あやつ、殺して良いかのう?」
「…………はは」
 さすがにセレスティアも苦笑いを浮かべるしかできなかった。
 二人はアキラの後を追って、階段を下りてゆく。その先は、思いのほか短く、そして小さかった。
「おーい、二人とも、ちょっと来てみろよ」
「それ……なん……ですか?」
 すぐに合流した二人へと、アキラは石卓の上にある石を指し示した。一瞬、何かと思ったが、どうやら人の手によって精巧に彫られた石らしい。部屋の奥を見るに、どうやら石卓の上にぽつんとその石が祭られていただけのようであった。 だが、逆に言えば……この人知れない小さな部屋に石だけというのが、不気味に感じる。
 どうやら、この部屋にはその石以外に何もなさそうであった。
「よし、戻ろうぜ」
「貴様……それ、持ちかえるつもりか!?」
 いつの間にか石を手に持っているアキラに、ルシェイメアが呆れた声を張った。
「おう、もちろん」
「こんなくだらない物を持って帰ってどうするんじゃ」
「いいじゃねぇがべつに。俺の勝手だろ」
 そこからは、まるでいつもの日常のように二人の言い争いがぎゃーぎゃーと始まる。セレスティアは、そんな二人が本当は仲が良いことをよく知っている。セレスティアは、二人の言い合いを微笑ましく見守っていた。