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葦原明倫館の休日~真田佐保&ゲイル・フォード篇

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葦原明倫館の休日~真田佐保&ゲイル・フォード篇

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第1章 朝の裏山

 裏山も頂上付近に存在する『葦原大滝』は、葦原明倫館生にとって格好の修行場であるとともに、葦原島の観光名所としても押し出されている。
 落差150メートル、滝幅30メートルの絶景は、視る者を魅了するとか。
 そんな滝を見下ろせば、滝壺からは分厚い霧が立ちこめてくる。

「今日は休日!
 ってことで同志のクドをまた呼んでみた」
「はい、休日ってことで切ちゃん達のとこへ遊びに来たお兄さんご一行ですけども、切ちゃんの提案でゲイルって方の修行におつき合いすることになりましたよっと」

 じゃじゃ〜んとはみずからの口で鳴らす効果音、七刀 切(しちとう・きり)がぐうたらな同志を紹介する。
 された側のクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)は、なんとなくナレーション。
 とまぁ両者のパートナー達もみんな知った顔なので、とりたてて面白いリアクションなどないわけで。

「この前の休みのときは匡ちゃんの応援をしてたから、次はイルくんのお手伝い!」
「まぁ鍛錬も悪くはない、それなりに本気でやるか」
「せっかくこうして何人もいるわけですし、手合わせをするのが最も効率のいい修行法かと」
「ぬぬぅ」

 トランス・ワルツ(とらんす・わるつ)から始まり、黒之衣 音穏(くろのい・ねおん)ルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)ハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)まで。
 切とクドなんて知ったことかと言わんばかりに、4人で会話を弾ませている。

「とりあえずアレでさぁ!」
「「「「ん?」」」」
「前回は傍観なんざしてましたから説教喰らっちまいましたけども、今回はお兄さん達も一緒に鍛錬しますよ」
「うん、前は応援だけしてて説教くらったから今回はちゃんと鍛錬だねぇ」

 ちょっと淋しかったので、大きな声で叫んで、パートナー達の気を惹くクド。 
 切と揃って、宣言したのであった。

「うおおお!
 やってきたぜ!
 葦原の山に!!
 精一杯修行させてもらうぜ!」

 こちらは滝を見上げて、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が雄叫びをあげる。
 大学の研究室にこもりっきりの毎日でなまっていた身体を、早く動かしたくて仕方のないハイテンション。

「最近鈍ってたしなーどこまでできるかわかんねぇが……うっし!
 早速修行開始だな!」

 朝っぱらの寒いなかで軽く準備体操をしたラルクは、まず滝に打たれることを決めた。
 外での鍛錬自体が久方ぶりなので、あえてものすごくつらい修行をすることにしたのだ。

「まぁ、多少きつくてもそれが修行の醍醐味だしな!
 がんばるぜ!!」

 と、自分を鼓舞して滝に座り込んだところで。。。

「おお?
 もしかして忍者か!
 すっげー!
 マジモンの忍者だ!」

 眼前を、速攻で飛び抜けていった蒼い影。
 これまで相当の鍛錬を積んだラルクだったからこそ、見抜けた姿だ。
 ざばっ、と立ち上がると、入ってきたのとは反対側の陸地へと駆け寄った。

「ゲイルさんや、霧の中で気配を消したり察知する鍛錬なんてどうさねぇ?」
「ほぅ、それはなかなか面白そうであるな……では早速」
「がんばってくださいねぇ。
 こっちはこっちで、瞑想でもして、集中力を高める修業をね、うん」

 ゲイルの着地点には、【ぐうたら鍛錬団】ご一同。
 切の提案にうなずくと、ゲイルはすぅっと存在を消してみせる。

「う〜ん……てっとり早いのは、手合わせでしょうけども。
 そこにいたゲイルに相手してもらうのがいいんじゃないかな……あれ、いないし」
「なぁなぁ、いまの忍者、ゲイルっつーのか!?
 よっしゃ、ゲイルに決闘を申し込むぜ!
 お前も一緒にどうだ?」
「え?
 いや、ワイはもう少し身体を温めてからにするよ」
「それでは、私を混ぜていただけませんか?」
「我も一緒に……霧のなかでの戦い、ぜひ経験しておきたいのだよ」

 クドも鍛錬法を口にするものの、都合よく消えた相手に不参戦の方向で。
 せっかくのラルクからの誘いも、丁重にお断り申し上げた。
 代わって名乗り出たルルーゼと音穏が、ラルクと一緒にゲイルを探す。

「む、私の名を呼ぶのは誰であるか?」
「っとすまねぇな。
 俺はラルク、修行中の身だ。
 お前を忍者と見込んで頼みがある!」

 いつのまにか、無表情のゲイルに背後をとられていたラルク。
 くるっと向き直って、とりあえず自己紹介をば。
 右の拳を左の掌に打ちつけると、にかっと笑って申し出た。

「おっさん達と一勝負してくれねぇか?
 4人のうち3人が参ったっていうまでな」
「我らの全力で、フォードに挑むのだよ」
「えぇ、お互いに手加減はなしでいきましょう!」
「いいでしょう、受けて立ちます」

 かくして、ラルク、音穏、ルルーゼにゲイルは、よつどもえの戦いへと身を投じたのであった。

「ルル姉さまも音穏ちゃんも、るっくんもがんばってね!
 怪我したり疲れたら私が回復するよ!」
「気配を消したところで、すべてを攻撃すればよいのだろう!
 トランスもハンニバルも、危ないからそれ以上近づいてくるなよ!」
「ゲイルとやらの修業につき合うとか言っておいて、クド公も切も口を出すだけでなんにもしてないのだ」

 応援してくれているトランスを背に、『深緑の槍』から電撃を放った音穏。
 しかし霧ゆえに狙いが定まらず、初撃は外れたようである。
 ハンニバルの心配を余所に、ルルーゼも音穏もトランスも、手合わせに夢中だ。

「俺は拳や蹴りなんかを軸に戦うぜ、覚悟っ!」
「なんのっ!」

 【神速】の常時発動により、ラルクは誰よりも速く霧のなかを駆ける。
 ゲイルに相対すると、【ドラゴンアーツ】をのせた【鳳凰の拳】を繰り出した。
 すんでのところで直撃をまぬがれると、ゲイルもすぐさま反撃を打つ。
 極限まで五感を研ぎ澄ませ、4人は激しい戦いを展開していった。

***

「おや?」

 手合わせを終え、ルルーゼはしばらくぶりにクドを見やる。
 なにやら座禅を組んでいるようだが……あ、船こいだ。 

(これは、少し手痛いお仕置きが必要ですね)

 腕組み決意したルルーゼが、クドの方へと歩みを進める。
 クドに、生死を分かつ瞬間が迫っていた。

「しかし切がいない気が……」
「うんうん、みんながんばってるねぇ。
 よきかなよきかな、ってねぇ」
(実際はただ眺めてるだけなのは内緒だぜぃ?)
「切……いい度胸である」
(変態はルルーゼに任せて我は切だな。
 房姫殿にも説教してもらうか……しかしなによりもまず、滝に落とすか)

 こちらも音穏は、パートナーを探してきょろきょろ。
 歩きまわったすえにようやく、修行を傍観している切を発見した。

「……ってあれ、なんだろう。
 何だか誰かに引きづられてるような気が……」
「……ルルーゼさんや、なぜクドを捕まえてるのでしょう」
「トランス、あっちを向いておいてくれ」
「でも霧がすごいねーえ?
 あっち向いとけ?
 うん、分かったよ音穏ちゃん……?
 なんだか水の音がひどくなった気がするけど、気にしなくてもいいよね」
「そして音穏さんや、なぜワイを捕まえて『捕獲完了』とか物騒なこと言ってるの?」
「これもまた修行、しっかりがんばってくるのだよ」
「ちょ、ハンニバルにトランス助け……うわぁーっ!」
「ってお兄さん絶賛落下中!?」
(滝に落とされてしまった2人がなんか助けてほしそうにこちらを見ているが、とりあえず石でも投げておくのだ)
「……いや、死ぬよ?
 下手したら。
 ああ、ちょっと誰か助け……って痛い!?」
「ていていてい!」
「や、ちょ、イタッ、ハンニバルさん石投げないでってイタッ!」
(……しかしながら、ぬぬぅ。
 音穏さんが何だかすっごいなでてくるのだ)
「切も変態も、これで少しはこりるであろうよ」
(いや、まあ悪い気はしない……どころかボク的にはうれしいのだが。
 音穏さんは頭をなで始めるとなかなかやめてくれないのだ、ぬぬぅ……)

 瞑想中のクドの襟首をつかむと、力のままにずるずると。
 純真無垢なトランスの眼に触れぬよう配慮したうえで、滝へと突き落とした。
 さらに切も、音穏に滝へと投げ込まれる始末。
 ハンニバルには石までぶつけられて、深い深い滝壺への旅路は恐怖と痛苦に彩られた。

「き……きり、ちゃ、ぶじ、か?」
「はぁはぁ……あぁ、死ぬかと、思った。
 滝の、なかに、放り込むって、どうよ?
 しかも、霧のなか、で、どっちが、陸地か、わからんから、マジで、シャレにならん」

 なんとか自力で、滝壺のわきへとはい上がってきたクドと切。
 いつのまにやら握りしめていた互いの手が、ともに生還を果たした要因かも知れない。

「あ、クド公と切がいたのだよ!」
「キリキリも親分も怪我したの?
 まっかせて!
 しっかり治してあげるよー!」

 幸か不幸か、ハンニバルに発見された2人。
 ともに歩いていたトランスの【ヒール】に、一命をとりとめた。

「助かった……って房姫さん?
 ゲイルさんの修行見てたんじゃないの、なぜにこちらに?」
「切さんのパートナー達、特に音穏さんに頼まれました」
「そうですか、説教ですね分かります」
「異論は許さん」

 音穏監修のもと、房姫直々のお説教を受けた切とクドは、あり得ない密度の鍛錬をさせられましたとさ。
 もちろん、滝行も。。。

「……これは……死ねる」

 切の残した言葉は、房姫の心にしかと刻まれたのだった。

***

「クスッ、お久しぶりの外は嬉しいな♪」
(いままで、私の片割れに悪いけど窮屈な思いしてたから、楽しいな。
 ……それに……お姉ちゃんとお母さん達と一緒にいられるし♪)

 大きく両腕を拡げて、花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)は笑顔をこぼす。
 山の空気を胸いっぱいに吸い込むと、その場でくるくるとまわってみせた。

「へぇ、この人がお姉ちゃんの彼氏さん?
 初めまして!
 私、妹の花琳です!
 よろしくね、お兄ちゃん♪」
(ふふふ、お姉ちゃんの彼氏さんなら、将来の花琳のお義兄さん。
 得意の『誘惑』も使って、いまのうちに印象よくしないとね♪
 いろいろとお世話になるかもだし)
「かっ、花琳っ!」
(恥ずかしいなぁ……)
「あ、あぁ、椎堂紗月です、よろしくな、花琳ちゃん」

 はっきりきっぱり言っちゃった花琳に、頬を赤らめる鬼崎 朔(きざき・さく)
 椎堂 紗月(しどう・さつき)も、動揺しながら花琳と握手を交わした。

(ふふっ、朔の恋人さん……紗月くんだっけ?
 私は結構気に入ってるけど……問題は実力ってところかしら、あなたの心配は?
 アーティフ)
(むぅ……や、やはり、大事な愛娘の恋人と聞くとどうしても……少なくとも娘を護れるぐらいでないと私は認めないぞ!
 ミチル!)

 3人を見守る月読 ミチル(つきよみ・みちる)には、朔の両親の魂が入っている。
 正体を知っているのは花琳だけで、朔にはまだばれていない。
 人格も、普段は母、戦闘時は父と役割が決まっているのだが、今日は少し様子が違う。

(はいはい……でも、私と出会ったときのあなたも紗月くんみたいな感じだったけど?)
(むっ……だ、だが!
 私は認めないぞぉ!!
 朔を……朔をあんな若造に!)
(……娘を持った父親のわがままか……)

 実は娘のことが心配すぎて、父の人格まで出張ってきているのだ。
 表面上笑顔を浮かべたまま、内心では激しい言い合いを……そうでもない?
 どうも父の方が、分が悪そうである。

「最近、いろんなもんを守れるようにって鍛えちゃいるけど……んーやっぱこういうのって実戦形式で強そうな奴と戦った方が得るもの多いよな!
 ってわけで、修行してるっつーゲイルって奴に組み手申し込むぜ!
「のぞむところですな」
「うぉっ、いつのまにっ!
 さすがは忍者、しかも話が早い……とにかくよろしく頼むぜ!」
「あ、では私が立会人と審判役をやります。
 危なくなったら止めますので」
「ありがとう、ゲイル。
 朔にも感謝だ、よろしくな」

 恋人やパートナー達と軽く汗を流し、休憩中のひとこま。
 ゲイルの首尾よい返事と朔の申し出に謝辞を述べ、紗月は体勢を整える。

「いいか、ルールを説明するぜ!?
 1つめ、武器の使用は禁止、素手での勝負だ!
 もちろん、手甲なんかの身に着ける金属も、武器になりうるものは禁止な。
 2つめ、攻撃スキルは禁止。
 ただし身体強化みたいな、自身に影響をおよぼすものはアリってことで。
 んで3つめ、魔鎧装着時の戦闘修行も兼ねたいんで、防具の着用は許可。
 最後、勝敗は、地に背のついた方が負け、もしくは『まいった』の一言で負けとする。
 ってな感じだが、なにか質問は?」
「いや、大丈夫だ」
「私も問題ないかな」
「修行とはいえ初対面で勝負挑むってのもこう、あんまいい出会いではねー気がするけど。
 お互い修行して高みを目指す身、正々堂々戦おうぜ?」
(朔も見にきてるし、あんまり無様な姿見せらんねー)
(紗月が強くなろうとがんばってる姿を見るのが楽しみで、大好き……だから。
 勝敗よりもただ、彼が無茶しない程度にがんばってる姿が見られれば……)

 紗月と朔は、互いに想い、考えをめぐらせた。
 心はつうじあっているような、そうでもないような。

「葬姫、ゲイルに【ヒール】をかけてくれないか?」
「わかりました……失礼します、ゲイルさん。
 ほかの方との試合をしていたら、フェアじゃありませんからね」
「ありがたい、ちょうどいま一勝負終えたばかりだったのだよ」

 紗月に言われて、それまで黙っていた死装束 葬姫(しにしょうぞく・そうひめ)が動く。
 ゲイルの疲労を癒すと、自身は鎧となりて紗月を覆った。

「えぇと……紗月さん、私は、ゲイルさんとの戦いを見て欠点を指摘すればいいんですよね?」
「あぁ、よろしく頼むぜ、葬姫!」
「たしかに戦闘知識ならそれなりにありますが……わかりました。
 紗月さんも本気のようですし……魔鎧として戦闘時、紗月さんに一番近い私が適任ですよね。
 しっかりと見届けさせてもらいます」
「ゲイル、『葬姫』を着けっけど、葬姫のスキルを使ったりはしないぜ。
 力は自分のもんでやんねーと意味ないし。
 そのかわり、全力でやらせてもらうけど、な」
「承知した」
「お互いに準備はいいですか?
 ではいきます……始めっ!」
「一気に連撃かますぜ!」
「させませんっ!」

 互いに見合ったゲイルと紗月、朔の合図で試合開始だ。
 紗月は【神速】、【軽身功】、【殺気看破】、【超感覚】、【先の先】といったスキルを駆使して、得意のスピード戦に持ち込む腹づもり。
 負けず劣らずゲイルも、素早い身のこなしで攻撃を躱し、反撃を加えていく。

「ささ、皆さん、ただ視ているだとお腹が空いてきませんか?
 メロンパンでもどうぞ!」
(ほら、印象良くしないとね♪)

 スキル【至れり尽くせり】も発動しながら、試合を眺めるミチルと朔にパンを手渡す。
 花琳は、ちょっと腹黒い小悪魔ッ娘、もとい、家族愛の強いいい子なのだ。

「ありがとう花琳〜はっ、そこまで!」

 どーんという大きな衝撃音と、舞い上がる土煙。
 ばっ……と、朔はメロンパンを手に、2人のもとへと駆け寄る。
 視界が開いたとき、地にたたきつけられていたのは紗月だった。

「ありがとうございました、よい試合だった」
「あぁ、俺も、ゲイルと戦えて、よかったぜ、っ」
「お2人とも動かないでください、すぐに回復いたします」

 手を差し出し、紗月を起こしあげるゲイル。
 鎧化をといた葬姫が、連続で【ヒール】を発動する。

(ふ、ふん、よくがんばったのではないかな、忍者相手に)
(あら、アーティフもやっと紗月くんを認める気になったのね)
(ちっ、違うわ!
 変なことを言うな、ミチル!
 ちょっと見直しただけだっ!)
(ふふふ、強がらなくてもいいのに)

 紗月の粘り強い戦いぶりに、父もなんだか満足気。
 『見直した』だけでも、結構な進歩である。

「あ、忘れないうちに伝えておきますね。
 気づいたのは『一撃が軽い』ことと、『踏み込みが甘い』ことでしょうか。
 もちろん、いつもいつもではありませんが。
 殺したくない気持ちは分かりますけど、決めるときは決めないと、紗月さんの方が殺られてしまいますよ。
 そうしたらほら、大切な人も、護れなくなってしまいますから」
「うむ……紗月とやら、今回は決定的な場面を3度も棒に振りましたな。
 その気を出せば、私よりも貴殿の方が強いかもしれませぬぞ」
「そんな、でもありがとう。
 次があれば……そのときは必ずや、俺が勝ってみせるぜ!」

 葬姫とゲイルからのダメ出しを、素直に受け止める紗月。
 戦闘タイプの異なる2人だからこそ、互いに得るモノも多かったようだ。

「さっ、紗月っ!」
「おっと……ごめんな〜朔、負けちゃった。
「勝ち負けなんてどうでもいいよっ、紗月……かっこよかった。
 お疲れさま、でした」

 飛び込んできた朔を受け止め、紗月は思わず苦笑をもらす。
 けれども朔は首を横に振り、恋人の無事に涙を流した。
 約束の【アリスキッス】をプレゼントして、しばしの余韻に満たされたのだった。

***

「よ、来たぜ。
 今日はどうするんだ?」
「遅いぞ、唯斗。
 いま二勝負めも終えてしまったところだよ」

 皆と別れたゲイルは、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)を迎えていた。
 都合のつく休日はいつも、一緒に修行をしているのだ。

「ほれ、じゃからはよう起きよと言うたであろう。
 すまぬのう、ゲイル殿。
 こやつ、今朝は1時間も寝坊してしもうたのじゃ」
「なっ、エクス!
 余計なことをっ!」
「いやいや、理由を説明するのは大切なことです。
 ねぇ、ゲイルさん」
「お詫びにと言ってはなんですが、お昼はごちそうさせてくださいね」
「うむ、ありがたい」

 歩み出たエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)に親指で指され、しかも秘密まで暴露されてしまった。
 口封じはときすでに遅し……プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)の言葉に、無言で首を縦に振るゲイル。
 抱えていたお弁当を示す紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が申し訳なさそうに笑うと、ゲイルも表情を緩めた。
 
「ま、まぁ悪かったよ!
 ごめんな、ゲイル。
 じゃあいつもどおり、基礎練と組み手でいいよな。
 さっそく始めよう」
「っておい、ちゃんと準備運動しないと身体を痛めるぞ」
「いつでも動けるようにしてないと忍者は務まらない……らしいよ?」
「へぇ」

 焦り謝罪を紡ぐ唯斗だが、心は早くも修行モード。
 ゲイルの忠告にあっさり返す台詞は、誰からの教えであろうか。

「それじゃこっからあっちの端まで、どっちが速いか競争だ!
 負けたら明日の昼飯おごりな?」
「いいだろう」
「ではいくぞえ、用意……スタート!」

 エクスの合図で地を蹴った2人は、山林の途切れる場所まで飛び駆ける。
 地上をとおってもよし、樹上を渡ってもよし、だけど妨害はなし。
 体術を活かして、とにかく速く到達した方の勝利になる。
 往復の結果、僅差での1勝1敗だった。

「ティファニーを佐保に任せたって?
 そうでもしないと修行できないって大変だなー」
「はは、できないわけではないのだがな。
 いない方が、より集中できるのは確かだ」

 今度は組み手……演武と呼ぶ方が、画的にはふさわしいかも知れない。
 手の内をほぼ知り尽くしているため、相手の行動もある程度は予想できる、というわけだ。
 互いに言葉を交わしてはいるが、【神速】や【軽身功】を駆使しているため、なかなかの高速戦闘だったり。
 ちなみに唯斗は、両手に『雷光の鬼気』をまとわせていた。

「どっちもがんばってくださ〜い!」
「おにぎりが待っていますからね〜!」

 離れたところに座り込んだ睡蓮とプラチナムが、大きな声援を送る。
 組み手は勝ち負けがつかず、昼を告げられるまで延々とやり合っていたのであった。