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番長皿屋敷

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「ふっ、派手にやっているではありませんか。そろそろ僕の出番のようです」
 かすれた口笛と共に、遥か道のむこうから夕日を背にいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)がキコキコと軋む自転車を漕ぎながら近づいてきた。その後ろからは、多くのカエルたちが列を作ってつき従ってくる。
 キーッと、自転車が番長皿屋敷の前で止まった。炎上するパンティー食堂の炎の照り返しを受けて、いんすますぽに夫の顔が赤々と照らしだされた。
「だごーん秘密教団としては特定の店に恨みはございやせんが、これも宗教界の義理。多額のお布施をいただいては、断ることもできやせん。いんすますぽに夫、義理を通させていただきやす。さて、後に控えしは、ヒキガエルのクリス! チームをまとめる黒ずくめの……しびび!!」
 まだまだ口上の途中だったのだが、あっけなく飽きたエシク・ジョーザ・ボルチェの天のいかづちが、いんすますぽに夫を直撃した。
「名乗りの途中に攻撃するなど……、なんという仁義を知らない……」
「風を払いて鳴り響け、稲光よ!!」(V)
「しびびーん!!」
 なじられて、エシク・ジョーザ・ボルチェがもう一発天の雷を落とす。いんすますぽに夫についてきていたカエルの軍団が、あわてて土の中に潜って冬眠に戻っていった。
「あらあら、これじゃあ、お店の中の人たちを呼びに行く必要もないです」
「まったく」
 あまりのあっけなさに、拍子抜けしたジーナ・フロイラインと緒方章が顔を見合わせた。
「そうでもないようなのだよ」
 林田樹が、二人に注意をうながした。
 けたたましいクラクションを鳴らしながら、もう見た目から悪役の集団が多数こちらにむかって近づいてくる。
「ついにやってきたか」
 待ちかねたとばかりに、緋桜ケイが敵を見据えて言った。
「やれやれ、退屈していたところだ。やっと暴れられるぜ」
 コキコキとあちこちの関節をならしながらラルク・クローディスが楽しそうに言った。
「食堂をぶっ潰せー」
「邪魔する奴らは容赦しねえぜ!」
「ひゃっはー」
 食堂番長の手下たちが一気に押し寄せてくる。たちまち、町の大通りで戦闘が始まった。
「ようやく用心棒の出番か。変身! 蒼空の騎士パラミティール・ネクサー!!」
 騒ぎに気づいて嬉々として店から飛び出してきたエヴァルト・マルトリッツが、一瞬にしてパワードスーツを装着して戦いに加わっていった。
「なんでこうなるんですー」
 その眼前を、戦いに巻き込まれた月詠司がひゅるひゅると宙を吹っ飛んでいく。
「なんだなんだ、何か面白いことでも起こってるのか?」
 なんとなく外の騒ぎに気づいて、ココ・カンパーニュが目を輝かせた。
「いや、猫でも喧嘩しているのでしょう。俺が見てきますから、皆さんはメイド仕事に専念していてください」
 紫月唯斗が、アルディミアク・ミトゥナに目配せする。
「そうですね。私たちはお仕事中ですから」
「でも……」
「ココさーん、お代わりー」
 獅子神玲が叫ぶ。
 ココ・カンパーニュはもの凄く不満そうだったが、アルディミアク・ミトゥナにうながされて渋々厨房に注文された料理を取りに行った。
「じゃあ、始めますか。行きますよ、睡蓮」(V)
 紫月唯斗が、紫月睡蓮をうながして店から出ていく。
「中は任せておくのだ」
 店に残るエクス・シュペルティアが、それを見送った。
 
    ★    ★    ★
 
「活躍するはずだったのに、活躍するはずだったのに……」
 クロセル・ラインツァートの店で甘酒のやけ酒を飲みながら、いんすますぽに夫がくだを巻いていた。
「いいぞお、もっとやれー」
 国頭武尊はすっかり観戦モードだ。
 すぐ近くでは、店の用心棒を買って出た者たちと、食堂番長の手下たちが死闘を繰り広げられている。
「のたうちまわるがいいでしょう」(V)
「全戦闘能力の解除を申請!」(V)
「うるさい、やかましい! 騒々しい!! 黙れ雑兵共!!」(V)
「ふっ、炎と共に踊れ」(V)
「天駆けろ! 鳳凰よ!!」(V)
「魔法だけじゃないんだぜ」(V)
 百戦錬磨の学生たちにとっては、食堂番長のにわか手下たちなど恐れるほどの敵ではない。事実、食堂の入り口まで辿り着くことができずに、手下たちは次々とお空のお星様にされていった。
「参加しなくてもいいんでスノー」
 まだ屋台の中にいるクロセル・ラインツァートに、魔鎧リトルスノーが訊ねた。
「何を言ってるんですか、今こそ稼ぎ時じゃありませんかあ。さあ、皆さん、今なら妖精フルーツが大特価ですよ。こてんこてんにやられた傷を治すのであれば、買ってくださーい」
 商魂たくましいクロセル・ラインツァートであった。
 
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「ふははははは、今ごろは、あの憎たらしい女将のいる皿屋敷も、綺麗さっぱり更地屋敷になってることだろうよ」
 そのころ、勝手に勝った気になっていた食堂番長たちは、気の早い宴会の真っ最中だった。
食い逃げ番長も、料理番長も、こっちにこい。前祝いだぜ、無礼講だ」
「へへっ、ありがたくちょうだいいたしやす」
「なあに、てめえの手下が、たっぷりと軍資金調達してきてくれたからなあ」
 食堂番長が、食い逃げ番長をねぎらう。
「ええ。なんだか今日はぼけた奴らが多くいたようで、なんでも簡単に財布をスリ取れたらしいですぜ」
 食い逃げ番長が、手下に貢がせた財布の山を指さして言った。
「それにしても、たかが女将一人のちっぽけな食堂に、手勢百人むかわすなんざ、食堂番長も容赦のないことで」
 料理番長が、食堂番長にごまをする。
「なあに、なんでも、あっちは、最近たくさんメイドを雇ったっていう話じゃねえか。店、ぶっ潰したら、そのメイドたちを好きにしていいって言ったら、思ったより野郎どもが集まりやがってよお。チョロいもんだぜ」
 そのメイドたちがどういう素性のメイドなのか、知らないということは恐ろしいことであった。