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番長皿屋敷

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「畜生、いったいどこのグループの襲撃だ」
 崩れ去る豪快食堂から逃げだした食い逃げ番長が、裏通りを走りながら悪態をついた。
「あら、そんなに急いで、何かあったのですか?」
 物陰に一人たたずんでいたフィリッパ・アヴェーヌが、不思議そうに食い逃げ番長に訊ねた。
「うるせえ。誰だお前」
 ナイフ片手に、食い逃げ番長が凄んだ。
「誰って……。ただの通行人ですわ」
「そんなわけあるか」
 問答無用で、食い逃げ番長がフィリッパ・アヴェーヌに襲いかかっていった。振り上げたナイフが振り下ろされる。
 カキン。
 金属の音がして、ナイフが弾き返された。
 いつの間にか、フィリッパ・アヴェーヌの手には真っ赤な野球のバットが握られている。
「そのバットは……。まさか……。蒼空学園、イルミンスール……。でも、あれは都市伝説のはずだ!!」
 真っ青になって、食い逃げ番長が顔をひきつらせて後退った。
「嫌ですわ。都市伝説ではなくて、七不思議ですわ」
 そして、ブンと野球のバットが唸りをあげた。
 
    ★    ★    ★
 
「むちゃくちゃだよ。まったく、食堂番長はこれから羽振りがよくなるって聞いたから舎弟になったのによお」
 逃げだした料理番長が、他の番長たちとは違う方向に走りながら悪態をついた。
 キュルルルルルゥ……。
「なんだ。誰だ!」
 突然微かに聞こえた琴の弦をしごくような音に、食堂番長が立ち止まって周囲を見回した。
 建物の陰から、弦を口でくわえてのばしたセシリア・ライトの姿が現れる。
「あんたは、ここまでだよ」
 言うなり、セシリア・ライトが、丸めていた弦を投げた。
「ひっ」
 やられると思った食堂番長だったが、弦の束は彼の額にあたってポトンと落ちた。
「へっ、脅かしやがって。これになんの意味があって言……」
「意味なんかないよ。だって、僕たちは撲殺天使だもん」
 食堂番長が弦に気をとられている間に一気に間合いを詰めたセシリア・ライトが、赤い野球のバットを一閃させた。
 
    ★    ★    ★
 
 段取りから言うと、このあたりでBGMが変わるタイミングである。
「くそう、俺の食堂が……。許さねえ、犯人を見つけだして、晒し者にしてやるぜ」
 命からがら逃げだした食堂番長が、どこか安全な場所はないかと周囲を見回していた。
「番長、番長、こちらですぅ」
 ふいに、建物の陰から、メイベル・ポーターが食堂番長を手招きした。
「誰だてめえは」
 食堂番長が警戒する。
「何を言ってるんですぅ。豪快食堂にいたじゃありませんかぁ。食堂が壊れたんで、命からがら私も逃げてきたんですぅ」
「そうか」
 焦っていたせいか、メイベル・ポーターの嘘を食堂番長は見抜けなかった。
「私、このへんには詳しいんですぅ。安全な所までお連れするですぅ。そして、私を連れて、一緒に逃げてくださいですぅ」
「そ、そうか。いいだろう、面倒みてやるぜ」
 ちょっと鼻の下をのばして、食堂番長がメイベル・ポーターの後に続いた。
「もし誰か襲ってきたら、私が戦うですぅ」
「頼もしいぜ」
「あ、あれ!」
「なんだ……ぐっ」
 メイベル・ポーターが、いきなり前の方を指さす。何ごとかとそちらを見た食堂番長のみぞおちに、深々と野球のバットの先端がめり込んでいた。振り返りもせずに、メイベル・ポーターが居合いバットを繰り出したものだ。
「貴様、何を……す……る……」
 食堂番長が呻いた。
 無言で微笑むと、メイベル・ポーターが、野球のバットを振り下ろした。
 食堂番長の服で野球のバットを拭うと、メイベル・ポーターはその場を後にしていった。
 
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「何これは……、だから言わんこっちゃないんです!」
 倒壊した豪快食堂を前にして、御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)が残っているヤンキーたちを怒鳴り飛ばした。
 ぼったくりをしている酷い食堂があるというので、ここは自分の指導でまっとうな食堂に生まれ変わらせてやろうと、わざわざ出むいてきたのだ。だが、辿り着いてみると、すでにその食堂は壊滅状態である。
「早くなんとかしなさい。遊びじゃないのよ」(V)
「そんなこと言っても、食堂番長たちはどこかに逃げちゃって行方不明で……」
 ヤンキーたちが、泣きそうな顔で御茶ノ水千代に言った。しょせん、今残っているのは番長も名乗れない三下ばかりである。
「いい機会じゃないですか。だいたい、この状況は、誰が招いたんです。みんな、食堂番長が悪いんでしょう。一から豪快食堂を建て直しましょう。さあ、これが計画書です」
 そう言うと、御茶ノ水千代が、ヤンキーたちに計画書を見せた。
「食材は、周囲で新鮮な物を狩ってきます。店の作りは、もっとパラ実らしく、ひゃっはーで斬新な物にしましょう。中にはステージを設けて、ショーをすればお客さんだってたくさん来ます。新鮮で美味しい料理、飽きさせない舞台という二本柱の新しい豪快食堂を実現できるように、皆一丸となって頑張りましょう!」
「なんだか、できるような気がしてきたぜ」
「俺も」
「俺もだ!」
「チッパイの姐御、ついてきますぜ!」
 だんだんと御茶ノ水千代の周りに集まってきたヤンキーたちが、口々に声をあげていった。
 
    ★    ★    ★
 
「やれやれ。まったく、どうしてこう元気が余ってるのかねえ。とりあえず、みんな落ち着いたら、お汁粉でもお食べ」
 ボコボコにされて食堂前にならんで正座させられたヤンキーたちを前に、お菊さんが言った。この程度の襲撃、日常茶判事ということであまり気にしていないようだ。
「さて、もう今日は、お店はいいやね。あたしの奢りだ、みんなで手打ちといこうじゃないか」
 お菊さんはそう言うと、敵味方分け隔てなくお汁粉を配り始めた。
 

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 
 相変わらずのとりとめのないスラップスティックですが、なんとかまとまりました。
 今回、ちょっと食堂に偏りすぎたので、アクションが基本的にダブる人が多かったです。その場合は、かなり分散して登場する形になっています。
 地の文に明確にPC名のない登場部分も多々ありますので、モブシーンなどでは思いがけない所でちょこまかと登場しているかもしれません。