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番長皿屋敷

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「おい、なぜこの店にはパンツ定食がない。女将を呼べ、女将を!」
 大声で騒いでいるのは、国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。
 わざと騒ぎを起こして、店の混乱を狙っている。
 こうして騒ぎを起こせば、その混乱に乗じて食堂番長の手の者たちが襲撃してくるに違いないとふんでのことだ。
 そうなったら、ここは貴様ら三下の来る所ではないと一喝して半殺しにし、番長としての格の違いを見せつけてやるのだ。店の者たちはあら不思議、感謝感激飴あられで、さすがはパンツ番長と崇めまくるに違いない。なあに、お礼は、ゴチメイたちの脱ぎたてのパンツだけで充分だ。はっははははは。
 ――というのが、国頭武尊の安直なシナリオである。
 なにしろ、少し前にせっかく手に入れた飛空艇をゴチメイに売り渡してパンツビデオへの出演を確約したはず……なのだが、気がついたら飛空艇はゴチメイの物になっていて契約書はどこにもなかった。何か、悪い夢でも見ていたらしい。だが、今度こそ、この夢を正夢にするのだ。
「女将を呼べ!」
 国頭武尊が、なおも叫んだ。
「何か、もめているみたいですねえ。いいでしょう、ここはわたくしを人質にして、丸く収めてください」
 ちょうど店に入ってきた谷中 里子(たになか・さとこ)が、大きく手を広げて国頭武尊に呼びかけた。
「里子さん、里子さん、いきなり状況も把握しないでそんなことを申しては……」
 一緒に入ってきたドロッセル・タウザントブラット(どろっせる・たうざんとぶらっと)が、はらはらして谷中里子を押さえた。
「なんだ? お前がパンツ質になるって言うのか。だったら早く脱げ」
「はい? しかたありません。犯人がそういう要求をするのであれば……」
 谷中里子が、ごそごそとスカートに手をかける。
「ストーップ! 里子さん、それ以上はだめです!」
 あわてて、ドロッセル・タウザントブラットが谷中里子を止めた。
「なんですって、わたくしのパンツには、パンツ質の価値がないとでも……」
 ぎゃあぎゃあと、谷中里子が叫んだ。
「また話をややこしくしやがって。いいから、早く女将を呼んできやがれ」
「なんだい。騒がしいねえ。ここキマクの流儀にも、程度ってもんがあんだろうが」
 ズンズンと迫力を撒き散らしながら、お菊さんが現れた。何かあってはいけないと、エクス・シュペルティアがそばについているが、とても助けがいるようには見えない。
「なんだい。うちの料理に、ケチつけようってのかい」
 ずいと、国頭武尊に顔を近づけてお菊さんが言った。国頭武尊が鬼眼で脅す前に、逆に威嚇されてしまう。
「あ、あたりまえだぁ。ここには、メニューの中にパンツ定食も、メイドさんの脱ぎたてパ……」
「あー!! パンツ泥棒番長だ。盗んだ、あたしのパンツ、返せ!!」
 しどろもどろになりかけた国頭武尊を指さして、リン・ダージが叫んだ。
「なんのことだ?」
 素で、国頭武尊が首をかしげる。
「あんた、イルミンのお風呂で、あたしのパンツ盗んだでしょうが!!」
 リン・ダージが叫んだ。
「うんうん。それは言い逃れできないな……」
 いつの間に見取ってきていたのか、隅っこの方で目立たないようにしながら樹月刀真がしきりにうなずいた。その横で、漆髪月夜と封印の巫女白花が、はははと乾いた笑いを浮かべている。
「はわ、それは許せない……の」
 リン・ダージのそばにいた割烹着姿のエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が、キッと国頭武尊を睨みつけた。
「濡れ衣だ。俺はまだ、パンツをもらってはいない……」
「まだ……!? ふふふふふ、うちのリンちゃんのお、ショーツを盗んでおきながらあ、まったく反省してないのですねえ。さすがはあ、パンツ番長ですわあ」
 思いっきり目を細めながら、チャイ・セイロンがゆっくりと国頭武尊に近づいていった。
「だから、俺はまだ……!」
「ブリザード・アーカイブ!!」
 言い返そうとした国頭武尊の言葉が、途中で途切れる。
「悪はあ、滅びましたあ」
 魔法のステッキを一振りしたチャイ・セイロンが、ニッコリと笑った。ブリザードを一点集中されて、国頭武尊を中に封じ込めた巨大な氷の玉が、店の中央にデンとできあがっていた。
「はわ……、めっ……なの!」
 氷で動けなくなった国頭武尊の入った氷玉に、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがちょんとチョップを見舞った。
「はふ……、このまま……かき氷もいい……かも」
 ちょっと恐ろしいことを、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァが言う。
「それっ。こういう悪い人は、塩撒いて外に追い出せばいいんだよね」(V)
 立川るるが、テーブルの上にあった塩をパラパラと国頭武尊に振りかけた。また一気に氷の温度が下がる。凍死も時間の問題だろう。
「わーい、るる、写真、写真」
 絶好のブログの話題に、ラピス・ラズリが立川るるに写真をせがんだ。
「えっへへー、ばっちり☆」
 しっかりと、立川るるが写真を撮った。
 わらわらと、店の中にいたメイドさんたちも物珍しそうに集まってくる。
「わあ、ここの店員さんは、皆さん素敵なお召し物を着ていらっしゃるのですね」
 ちょっとうらやましそうに、ドロッセル・タウザントブラットがココ・カンパーニュやアルディミアク・ミトゥナたちのメイド服姿に見とれた。その視界に一瞬ルイ・フリードの姿が映ったが、すぐにドロッセル・タウザントブラットはそれを見なかったことにした。
「とりあえず、邪魔だからこれはどかすよ」
 そう言うと、お菊さんが張り手一発、ドラゴンアーツで国頭武尊の入った氷玉を吹っ飛ばした。
「里子さん、危な……」
「だから今パンツを……きゃあ!」
 出入り口近くにいたドロッセル・タウザントブラットはとっさに氷玉を避けたが、まだパンツに手をかけようとしていた谷中里子はもろに巻き込まれて店の外に吹っ飛んでいった。
「凄いな。これでは護衛など必要なかろう」
 女将さんの剛胆な姿をまのあたりにして、エクス・シュペルティアがつぶやいた。
「わーい、クロセル。でっかい氷玉でスノー」
 店の中から飛び出してきた国頭武尊をがぶりよつで受けとめた魔鎧リトルスノーが、嬉しそうにそれをサイコキネシスで持ちあげてクロセル・ラインツァートに言った。
「いいですねえ。雪だるま王国としてはおあつらえむきです。オブジェとして、私たちの屋台に飾っておきましょう」
 そう言うと、クロセル・ラインツァートが、魔鎧リトルスノーに国頭武尊を運ばせた。
「里子さん、生きてます」
 店から飛び出してきたドロッセル・タウザントブラットは、地面に大の字にのびている谷中里子をあわてて助け起こした。