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リアクション
企む者たち
「この役目も結構たいへんですわ……」
レティーシアがボヤきながら肩を解す。実況は映像を見て話し続けないといけないので慣れていないと結構疲れる。喉も枯れるので水分補給も欠かせない。
ペットボトルの水を飲むマリエル。と、彼女の携帯電話がカワイイメロディーを奏でる。電話だ
「はい。あ、祥子? うん……そう校長が、ならあたしも、そっちに行くよ」
マリエルは携帯を切り、席を立った。何事かとシズルが聞く。
「どうしましたかマリエルさん?」
「うん、涼司が戻ったらしいか、校長室に行ってくる。後半戦は二人に任せたよ」
二人を残して仮設テントから抜け出すマリエル。校長室へ主催者を呼びに行くのだろう。
残されたシズルとレティーシアが豆撒き大会実行委員会用のガイドを裏向ける。
ガイドの裏には『真・豆撒き大会 -鬼退治編-』と書かれてあった。
「主よ、流石にそれはないかと……」
マビノギオンが郁乃の案を否定する。郁乃は後半戦の敵のフラッグの位置が校長室になるとの情報を得ていた。
しかし、マビノギオンは思う。校長室へのフラグユニットの設置は禁止されては居ないかと。
「いや、絶対そうだよ! 『赤鬼』にいた生徒がユニットを持って「校長室に行く」って行ってたもん。次の設置場所に向かったにきまってるよ」
力説する郁乃だが、聞いているマビノギオンは釈然としない。
「情報の撹乱かもしれませんよ、主。それにだからって、休憩時間からダクト内を移動するのは……」
すでに彼女たちはダクトを伝って校長室へと向かっている。マビノギオンは蜘蛛の巣が頭に絡まって気持ち悪がる。ねずみも怖い。
「忍者とかスパイならやっぱダクトと天井裏を移動しなきゃ」
「あたしは忍者じゃないですよ……」
郁乃の行動に嫌気がさすマビノギオンだった。
出張から帰ってきた山葉涼司が校長室のソファーに座って一息吐く。
「言い出しとはいえ、大変だったぜ……」
彼が何の為に出張していたかというと、豆撒き大会の勝者のために用意されるご馳走、つまり料理の受け取りと搬入の指示で各レストランや飲食店へ回っていたのだ。大人数の食事を用意するに当たって、午前中は開会式にも出られずに一人走り回っていた。
「ま、皆頑張ってくれているだろうし……な」
前半戦は見ていないが、マリエルたちがカメラの映像を録画してくれている。後半戦は自分も彼女たちのいる席にて大会を観戦するつもりだ。
コンコンと、ドアをノックが聞こえる。入室者の顔がセキュリティーに映る。
「マリエルか。入っていいぜ」
「失礼しますよ」
ドアが開き、マリエルが祥子とオルフェリアを連れて校長室へと入ってくる。
「後ろのは空京大と天御柱の……」
「楽しくやらせてもらってます。山葉さんて、相変わらずの恰好なんですね」
と、後ろに手を組んでいるオルフェリア。こんな時期でも裸体に制服を羽織る涼司は寒くないのかと思う。
「ええ、他校から参加させてもらっているわ。アナタの学校の生徒に脱落させられてしまいましたけど」
祥子が挨拶序に自分の敗戦を報告すると、涼司がそれを聞いて自慢気に笑った。
「そうか、どうだ? 俺の生徒たちは強いだろう?」
校外の生徒を負かすくらいはなくてはと涼司は思う。大会に他校の生徒への呼びかけをしたのも、蒼空学園の生徒の実力を示すためだ。また、他校の生徒の実力と比べれば、蒼空学園生徒の力も分かりやすくなる。
「ところで、何のようでここに来た?」
「涼司を呼びに来たんだよ。一応主催者なんだから、自分の眼で皆の実力を確かめなきゃ」
涼司の質問にマリエルが答える。この大会の行く末は彼が居なくてはならない。
なるほど、と涼司がソファーから立ち上がる。
「じゃあ、皆の活躍をこの目に焼き付けにいくか!」
「是非是非」
祥子が涼司の左腕に腕を回す。
「涼司が居ないと始まらないからね」
マリエルも彼の右腕に抱きつく。
「おい、おまえら……」
女性二人に挟まれて動揺する涼司だが、満更でもない。両手に花も悪くはないと思う。
そう思うのが間違いだが――。
涼司が一歩を踏み出する。体が動かない。
自分の両腕を捕る女の顔が笑っている。張り付いた笑顔がこっちを向いている。
「……おい、なにしているんだ?」
様子のおかしい彼女らを振りほどこうとするが、全く動けずにいる涼司にオルフェリアが近づく。
「山葉さん、オルフェたちはお願いがあるんですよ。これ何だと思いますか?」
オルフェリアが背後に隠していたそれらを見せる。
「フラグユニットと、瞬間接着剤……、おいっ待て待て!」
涼司は彼女たちが何をしようとしているのか気づいてしまう。
――こいつらは自分にフラグユニットを設置しに来たんだ。
「豆撒き大会には退治される鬼が居ないと、とオルフェは思うのでした。そしてこの大厄は蒼空学園校長の山葉さんにしか出来ないのです、とオルフェは思うのでした」
「おまえ、口調がおかしいぞ! てか、大役の字がちがわねぇか!?」
「違わないわよ。”役”ってもとは”厄”から来ているんだから。校長先生にはイイ厄目だと思うわ」
「そうですよ。涼司も皆の活躍をこの目で見たいって言ってたじゃない。目の悪い涼司でもこれなら間近で見えるよ」
そう祥子とマリエルが主張する。
大会の実行員のマリエルは涼司の見方だと思えるが、そうではない。彼女も含め、シズル、レティーシア他の実行員会の全員が祥子の計画に加担していた。最初からこの豆撒き大会は参加者全員対山葉涼司で行われるはずだったのだ。
必死にもがき、祥子とマリエルを振りほどいた。
一刻もこの部屋から逃げなければと、ドアへと駆け寄るが鍵を掛けてもいないのにドアが開こうとはしない。
それもそのはずだ。校長室のドアをルナティエールとエリュトが自動ドアの制御を乗っ取って開かないようにしている。
涼司は更に異変に気づく。何やらと背中に重いもの付いている。『青鬼』のフラッグユニットだ。
「いつの間に!」
「眼が悪いって大変ねぇ……《隠れ身》しなくても気がつかないんだからぁ」
ソファーの後ろに縁が立っていた。彼女は『青鬼』ながら祥子たちとの内通者だった。他の三人に隠れて校長室内へと侵入し、女性に抱きつかれて動揺する彼の後ろを取っていた。
「はーい、今度は逃さないわ。まさかイタイケな女性を力任せに突き飛ばしはしませんよね?」
祥子が《逮捕術》で再び涼司を捕縛し威圧する。マリエルと縁も加わって、両腕を羽交い絞めにし、彼の四つに割れた腹筋をオルフェリアに晒させる。
「大丈夫、怖くないですよ。山葉さんが倒れてもオルフェがヒールで回復させてあげますからね。何度でも……ねっ」
『赤鬼』のフラグユニットがその接着面が涼司の肌に触れる。
「や、やめろ――――――ッ!!!」
後半戦が山葉涼司の悲鳴で幕開けた。
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