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すいーと☆ぱにっく

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すいーと☆ぱにっく

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1.ぜんとたなん

 チョコ化の呪いは各地でその効果を発揮していた。
 異変を聞きつけてやってきた那須朱美(なす・あけみ)は、ゴシック調の赤と白のリボンで胸を強調するように縛られた宇都宮祥子(うつのみや・さちこ)型のチョコレートを見つけて驚いた。しかも、その両手首は背面腰の辺りで縛られており、とても色っぽい。
「祥子!?」
 一体何が起こったのか分からなかった。戸惑う朱美の耳に携帯電話の着信音が鳴る。祥子の携帯電話だ。
 手に取った朱美は、セイニィからの連絡を受けてようやく状況を理解することになる。
「大変よ、パッフェルが呪いでチョコ化しちゃって――」
「チョコ化って、こっちだって祥子がそうなってるよ! それに呪いって、どういうこと!?」
 呪いのチョコレートに添えられたメッセージカードの差出人はティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)となっていた。
 祥子はティセラからチョコレートをもらえたことが嬉しくて、何の疑いも持たずにチョコレートを食べてしまったのだ。
 朱美は通話を切ると、すぐさま部屋に冷房を入れ、セイニィたちの元へ向かった。

「パパ? パパ!! どうしたんですか?」
 ソフィア・エルスティール(そふぃあ・えるすてぃーる)はチョコ化したラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)を見て驚いた。
 近くにあるのは開けられた箱と包装紙。一体、誰がこんな事を……と、考えたところでソフィアははっとした。
「そういえば、セイニィさんのところでも同じ事件が……」
 ぐっと拳を握りしめてソフィアはラルクを見上げた。
「パパ、治す方法を探してくるので待っていて下さい」
 そして部屋の空調を下げ、室内を冷えた状態にする。
 もう一度ラルクをちらっと見やってから、ソフィアはセイニィの元へ向かって行った。

「と、とりあえず……冷房かけて、鍵も……あ」
 はっとしたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)はチョコ化したリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)を布で包み込んだ。あられもない姿になっていたのはもちろん、万が一壊れてしまっては大変だと考えたのだ。
「よし、セイニィんところに行くぜ、サビク!」
 と、振り返るシリウス。
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)はただ頷いた。あまり乗り気ではない様子だが、リーブラと同じ事が他でも起きているなら協力しないわけにも行かない。
「ぜってぇ許さねぇぞ、犯人!」
 と、怒りを露わに部屋を出るシリウスとサビク。

 まだ寒い季節だというのに冷房ががんがんと効いていた。
「あーもう、何をどうしたらいいの」
 と、未だパニック状態から抜けられずにいるセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)
 駆けつけてきた友人の一人、紫月唯斗(しづき・ゆいと)がそんな彼女の肩に手を置いて言った。
「セイニィ、まずは落ち着け」
「そ、そうね……」
 はっとして思考を切り替えるセイニィだが、視線はやはりチョコレートと化したパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)へ向いていた。
 ぐるぐるとリボンに巻かれた裸体は刺激的で、心なしか食べてくれと言わんばかりの表情である。実際、漂ってくる匂いも美味しそうだった。
 騒々しい足音がすると、勢いよく扉が開かれた。グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)だ。
「パッフェ――」
「お、男の人は後ろを向いていて下さい! 今すぐにっ!」
 と、叫んだソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)により、グレンは後ろを向かされてしまう。
「グレン、見んな! テメェには……あー、少し刺激が強すぎるな」
 と、李ナタがすかさずグレンの目を両手で覆う。実はちらっと見てしまったグレンだったが、そんな彼に構わずパッフェルにマントを羽織わせてやるソニア。
「ここはまず、呪いをかけた犯人を探すべきじゃな」
 と、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が口を開いた。それを受けて紫月睡蓮(しづき・すいれん)が唯斗を見る。
「チョコ化する呪い、それも強力な呪いとなると……」
「ま、心当たりはあるな」
「近くで怪しい人物が目撃されていないか、調べに行きましょう」
 と、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)
「……俺は、パッフェルのそばにいる」
 犯人を捜したい衝動に駆られつつ、グレンはそう口にした。ソニアは「そうですね」と頷き、一方のナタが誰にともなく愚痴る。
「けど、パッフェルにしては無用心だよな。物をちゃんと確認しないで食べるなんて……」
 と、パッフェルのそばに『アルティマ・トゥーレ』で冷気を放つ槍を突き刺すナタ。――一体、誰から送られた物だと勘違いしてしまったのだろう?
「じゃあ、ちょっと情報集めてくるわ」
 と、唯斗たちが部屋から出て行った。

「なんつーか……美緒さんは相変わらず、巻き込まれ体質だな」
 と、ぼやく如月正悟(きさらぎ・しょうご)。パッフェル同様、チョコレート化した泉美緒(いずみ・みお)は、やはりリボンに巻かれていた。
「……ハァ、ハァ……節分の時にもこんなのがあったばかりなのに、何故また貴方はそうやって――」
 と、必死に興奮を抑えようと努めるレロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)。未緒の姿を見れば見るほど、レロシャンの興奮度は増してくる。
 その様子を疑わしげに見つめるネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)だったが、止める間もなくレロシャンは美緒に向かって行った。
「ああ、ダメ……その胸とおなかと腰のラインは反則ですぅ!」
 と、美緒の胸にむしゃぶりつこうとする。慌ててレロシャンのアホ毛を引っ張るネノノ。
「やめなさい! もう、美緒さんは大切な友人でしょう。ちょっとこら、待てってば!」
「うああー! 私の中で眠っていた野生が目覚めてくるーー!」
「こ、この……な、なんてパワーだ……! レロシャンのどこにこんな力が眠っていたんだ!?」
 ――いや、この眼……コイツはもうレロシャンじゃない……! 人間の姿をした野生の狼だ! 飢えた獰猛な野獣だ!
 危険を察知したネノノが叫ぶ。
「誰かー! この野獣を止めてー! 美緒さんの命が危ないです! 喰らい尽くされます!」
 呆気にとられていたラナ・リゼット(らな・りぜっと)が我に返り、レロシャンを止めにかかった。
「駄目です、あの子を食べさせるわけには……っ」
「うううおおおーーー! 美緒さん美緒さん美緒さあーーん!!」
 だが、レロシャンの暴走は止まりそうにない。
「胸胸胸ぇ! 胸食べたーい!」
 正悟は美緒の前へ立って防ごうとしたが、ネノノとラナを突き飛ばしたレロシャンは正悟さえも突き飛ばした。
「食べたい食べたい食べたいぃー!!」
「あぁ、ちょ……っ!」
 がぶがぶと美緒の胸に食らいつくレロシャン。中身はやはりチョコのようで、美味しそうな匂いがいっそう強く漂ってくる。
「……くっ、俺だって我慢してたのに」
 と、レロシャンを睨む正悟。早くも豊満なバストがまな板になりつつあった。
 そして、意を決した正悟が叫ぶ。
「ごめん、美緒さん! 少しだけ舐めさせてー!」

「安心してくれよパッフェル……ワイが絶対、守るから……」
 と、チョコ化したパッフェルへ呟く七刀切(しちとう・きり)。部屋中に美味しそうな匂いが漂っているが、彼女が食べられないように警戒していた。
 今現在は、唯斗たちを含む数名が犯人探しをしているところだったが、そんなことよりもパッフェルのそばにいてあげたいと思う者たちが多く集っていた。
「ドライアイス買ってきましたっ!」
 と、息を切らして入ってくる藤井つばめ(ふじい・つばめ)太刀川樹(たちかわ・いつき)
「念のため、チョコレートも買ってきたけど……」
 中は外気よりも温度が低いように思われた。そのおかげか、パッフェルが溶ける様子も見られない。
「……まあ、何かあったら大変だし、一応置いておこう」
 と、ドライアイスをパッフェルの周囲へ設置するつばめと樹。
 設置型複合兵装機晶姫フラグランティア(せっちがたふくごうへいそうきしょうひめ・ふらぐらんてぃあ)は、部屋の入り口で侵入者が来ないよう、待機していた。
「問題はこの美味しそうな匂いね」
 と、アルマ・アレフ(あるま・あれふ)は言うと、手に持った袋から消臭剤を取り出した。
「対策になればと思っていろいろ持ってきたわ。スプレータイプに置くタイプ、それから芳香剤も」
 すぐにそれらをパッフェルの周囲へ置こうとする。等身大チョコレートの匂いがそれで消えるとは思えなかったが、ないよりはマシだろう。
 そしてふと目をあげたアルマは、ラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)が同じように何かを並べていることに気づいた。
 ラグナの手には強烈な匂いを放つドリアンが握られていた。その他に納豆とやたら臭い雑巾も用意されている。
「さっきから、何か臭うと思ったらアンタだったのね!」
「あらアルマちゃん、あなたは何も分かってないみたいですね。こういうのは、油田火災の鎮火と一緒ですよ」
 と、ラグナはにっこり笑う。
「より大きな爆発で火元を消し去るように、より強烈な匂いで無力化すればいいのですよ」
 そしてドリアンを床へ置くと、雑巾を手に取った。牛乳を拭いて放置したと思われる雑巾だ、誰もが眉をしかめた。
「そんなばっちい雑巾持ち込むんじゃないわよ! 没収よ没収!」
 と、アルマが手を伸ばすと、ラグナが腕を上げて避けた。その拍子に雑巾が手をすり抜けてパッフェルの顔めがけて飛んでいく。
「おっと」
 ぱしっと寸前の所でキャッチする如月佑也(きさらぎ・ゆうや)
「まったく、二人ともいい加減にしろ! 当たったらどーするつもりだ!」
「……しょうがないわね」
「お互い、少し妥協しましょうか」
 と、大人しくするアルマとラグナ。パッフェルのそばにいる者たちの視線がやや冷たく感じられた。
「今は大変な時なんだから、ちゃんと協力し合わなくちゃ」
 と、桐生円(きりゅう・まどか)が耐えきれない様子で口を開く。
「みんな、パッフェルを守りたいんでしょ?」
 そしてパッフェルの頬に飛んだ牛乳をそっと拭き取る円。
「薬が手に入るまで、ちゃんと待とうよ」
 その言葉に誰もが口を閉ざした。それぞれがそれぞれの想いを胸に、頷いてみせる。
 円は一安心すると、パッフェルを見つめた。――ボクがちゃんと、そばにいるからね。