蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

ロック鳥の卵を奪還せよ!!

リアクション公開中!

ロック鳥の卵を奪還せよ!!

リアクション

「ほぇ? 何の音やろ?」
 まだ夜明けには少しだけ早い時間。
 命は“コツコツ”という何かをノックするような音で目を覚ました。
「も、もしかしてこれは……雛が卵を割ろうとしてるの?」
「そろそろ生まれてくるんじゃないか?」
 卵を見守っていた生徒達や眠っていた生徒達も、騒然と卵の周りへと集まりだす。
 そして、ついに――

 パリッパリパリッパリ……ピィピィ、ピィィ! 

「「「う、生まれたっ!!」」」
 ついに、巨大な卵の殻が割れ……中から可愛らしいロック鳥の雛が顔をだしたのだった。
 だが――
「わぁははーーー! ロック鳥の親の座は俺が頂いたんだぜぇ!」
 突然、小屋の隅にヒロイックアサルトで姿を隠していた春夏秋冬 真都里(ひととせ・まつり)が、ロック鳥の着ぐるみ姿で雛の前に躍り出た。
「よしよし、良い子なんだぜ」
 彼は刷り込みでロック鳥の親となるべく、約八時間も小屋の隅で気配を殺して孵化の瞬間を狙っていたのだ。
 その苦労のおかげか――
『ピィピィィ!』
 ロック鳥の雛は、真都里に頬を摺り寄せて懐いていた。
「ま、真都里!? 何やってるんだぞ!!」
 突然のことに呆然とする生徒達の中で、一番最初に反応したのはロレッタ・グラフトンだった。
「ゆ、許してほしいんだぜ、ロレッタ。俺はロック鳥の親になって世話をして、大きくなったらその背中にお前を乗せて一緒に大空デートするんだぜ! そのためには、何が何でも親になる必要があったんだぜ……」
 真都里は、とある理由で喧嘩中のロレッタと何としてでも仲直りがしたかった。
 そして、その執念でロック鳥の親へとなったのだった。
 しかし――
「って、あららら!? おーい、どこに行くんだ!? こっちに戻ってくるんだぜ!?」
 突然、ロック鳥の雛は頬を寄せていた真都里から離れていってしまった。
 すると今度は――
「く、くすぐったいですぅ! スリスリしすぎですぅ!!」
 寝ぼけ眼のエリザベートへと近づき、その頬を寄せ始めた。
 更に、ロック鳥の雛は――
「うわっと!? ん、結構重いな……よしよし」
 茅野 菫や――
「おぉ、生まれたばっかりなのに元気だね。よかった、よかった」
 フリードリッヒ・常磐――
「コレがロック鳥の雛……鼓動が温かいです。よかった……無事に生まれてきてくれて」
 アイビス・エメラルドなどにも懐いている様子だった。
 そして――結局ロック鳥の雛は、その場にいた全員に頬を寄せて懐いたのだった。
「い、一体どうなってるんですかぁ? 雛は、刷り込みで真都里を親だと思ったんじゃないんですかぁ?」
 エリザベートをはじめ、その場にいた全員が雛の謎の行動に首を傾げた。
 すると……ここで生物部の部長である鷹野 栗が何か気づいたようだ。
「あぁ、なるほど。そういうことですか」
 栗は、生徒達の背後にある卓上ランプを見て頷いた。
「このロック鳥の雛は、ここにいる全員を親だと勘違いしているのかもしれません」
「「「えぇ!?」」」
 栗の推察に、その場にいた全員が驚き動揺した。
「みなさん、勘違いしている人も多いかもしれませんが、鳥類は生まれて始めに見た物を親だと思うわけでは無いのです。刷り込みにはいくつか条件がありまして、動くもの・ある程度の大きさがあるもの・音声・一緒にいてくれる期間。の四つを基準に雛は親を認識します。なので、鳥類が人間に懐くのは珍しいケースなのです。しかし……今回は、卓上ランプによって出来た影が大人のロック鳥サイズだったため、包み込まれた雛は影を構成しているこの場の全員を親だと勘違いしたのではないでしょうか?」
 栗の推察は、あくまで憶測の域を脱していなかったが、現にロック鳥の雛は鳥小屋にいる全員に懐いていた。
 それに――
「それに、ロック鳥の生態には謎が多い上に、人工孵化には前例がないんです。このような事態が起きても、何ら不思議ではありません」
 彼女の言うとおり、ロック鳥の人工孵化はシャンバラ史上で今日が初めてのことだった。
「たしかに……その通りだ」
 そして、メシエ・ヒューヴェリアルも栗の意見に納得する。
「始めは、どんな事象にも前例はないのだ。ならば私達がその前例となり、この前例を後世に伝えていくべきだと思うね」
 そう言って、メシエはさっそく生態観察を記録し始めた。
 それに続いて、天真 ヒロユキのパートナー貴音・ベアトリーチェ(たかね・べあとりーちぇ)も――
「たしかに、そのとおりですね。これから生態を観察していき、わたくし達が前例となるべきですわ」
 さっそく生態観察へと移るのだった。
「ん? どうしたんだよ、真都里。いじけてるのか?」
 ロック鳥の雛が皆に懐いていくなか、いつの間にか真都里は小屋の隅で項垂れていた。
 そして、そんな彼に七尾 蒼也は励ますように声を掛けた。
「なぁ、真都里。たまには学校に帰ってきて手伝ってくれよ。育児には父親の力が必要なんだ」
「でも……親は俺だけじゃないから手伝う必要なんて無いんだぜ……」
「何言ってんだ。雛が怖いお姉さんたちの言いなりにされていいのか? お前も一応ロック鳥の親なんだから、ちゃんと世話してあげないと大空デートが出来なくなるぞ?」
 ハッ! として、顔を上げる真都里。すると、見る見る内に彼の顔つきがやる気に満ち溢れていくのだった。
 そして、ロック鳥の雛は――
「もしかして雛は……助けてくれた皆や、お世話してくれた人達を卵の中から覚えていて、その人たちを親だと思っているんでしょうかぁ? だとしたら、私はこの結果はロマンチックで素敵だと思いますぅ。みんなで頑張って育てましょう〜……」
 寝落ち寸前のエリザベートが放った意見だったが、雛は今回の事件に関わった全員が育てることとなったのだった。