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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

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「いらっしゃいませ」
 宿り樹に果実で、ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)がいつもの気持ちのいい笑顔をお客さんたちにむける。
 それを見て、やはりいい笑顔だと本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が思う。それを眺めながらだと、自然と仕事がはかどるのだ。
 カウンターの端の定位置で、今まで書きためてきたレシピメモを、誰が見ても分かるように涼介お手製レシピ集に清書していく。まだ整理していないメモには、七草粥や、ブッシュ・ド・ノエルなどのレシピが、彼独自のアレンジを加えられて書きとめられている。
 これらは、イベントなどでその都度工夫していった料理のレシピを、事細かにメモしたものだ。本郷涼介の宝物だと言ってもいい。
 それと一緒に、その料理を作ったときの写真と、後できちんと作りなおしてキッチンで撮った写真なども挟んである。そのどちらか、あるいは両方を選んで、ノートに貼りつけていく。いかに料理がよく分かるか、周囲の雰囲気も含めてのチョイスである。料理は、単体でも美味しいものだが、多くの人と特定の場所で食べた場合、もっと美味しくなる物もある。そう、本当に料理は生き物だ。だから、そのレシピをまとめるのも難しい。
「はい、クラブサンド。そんなに張り詰めたら、お料理もおんなじになっちゃいますよ」
 ランチとしてのクラブサンドとコーヒーのセットを差し出して、ミリア・フォレストが言った。
「そうだな。いただくよ」
 一息入れると、本郷涼介はクラブサンドを口に運んだ。
「ん、これは?」
「やっぱり分かる? ちょっとだけ参考にしてみました」
 んっと口を止めた本郷涼介に、ミリア・フォレストがメモの写しをひらひらさせて言った。
「参考どころか、改良だな。美味しくなってる。どこを変えた……いやいや、今あててみせるぞ」
「どうぞ。あててごらんなさい」
 考え込む本郷涼介に、ミリア・フォレストが楽しそうに言った。
 
    ★    ★    ★
 
「うーん、やっぱりアルマインの紹介は今年は入れないとだめだよなあ」
 原稿用紙の前で、うんうん唸りながら、緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、シャーペンを指先でクルクルと回した。
 宿り樹に果実の一画で、新入生歓迎会用のパンフレットを作っているのだ。
「イラストなら、俺様が書いてやるぜ」
 しょうがないなあという感じで雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が言う。
「いや、全部ゆる族型イコンになっても困るから、写真ということで……」
「えー。あんな虫虫したのよりも、プリチー白熊型の方が、受けがいいぜ」
「ははははは、アルマインだからな、あくまでも」
 違うイコンを紹介してどうすると、緋桜ケイが言った。
「ふっ、負けたくせに……」
 それは、イコン博覧会での模擬戦の話だ。
「メインマシンじゃなかったからな」
 なんだか話が変な方向に行って、二人がバチバチと火花を散らした。
「だから、そんな話している暇はないんだって」
「えっと。とにかく、まずは在校生からのお祝いの言葉を……」
「そのへんは、リンネ先輩に頼むんじゃなかったのか?」
 おかしいじゃないかと、雪国ベアが緋桜ケイに訊ねた。
「デートだってさ。空京に行っちゃってるらしい」
「なんてこったい。あっ、そこ二百字だからな。それ以上だと、俺様のイラストが入らなくなっちまう」
「小さくしろよ」
「誰にむかって言っている」
 終始こんな状態で、はたしてパンフレットは間にあうのだろうか。
「嫌だったら、修練場へ行って、ソアたちの手伝いをしてもいいんだぞ」
「爆発オチは嫌だ」
 厄介払いしたげに言う緋桜ケイに、雪国ベアはきっぱりと答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「ふう、ゴチメイたちもいないし、久しぶりにのんびりできるな」
 頭の真上に手ぬぐいを載せたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が、大浴場の湯船の中で悠々と四肢をのばしていた。
 今日は珍しく人が少ない。
 実に温泉本来のゆったりとした感じを楽しめる。
 湯船の周りも白い湯気が充分にたちこめていて、あまり周囲に気兼ねしないですむので気が楽だ。
「まっ、ガキ共が多かったら、こんなこともできないところだしな」
 湯船に浮かべた大きめのタライの中にある徳利からお猪口に酒を注いで、ラルク・クローディスはうまそうにそれをすすった。タライの中には、つまみとして三種盛りや乾き物も載っている。脱衣所近くのカウンターで、トロピカルジュースなどと一緒にこういう物も頼めるのがこの大浴場のいいところだ。一流のリゾートホテルにもまったく負けていない。他校からのリピーターが多いのもうなずけるというものだ。
 もっとも、最近は世界樹に入るのが手間になったので、若干訪れる人たちは減っているようだが。また、そのうち地上に降りて安定することだろう。それまでは、半貸し切りを楽しむのも悪くはない。
「最近は、戦いと修行が交互でじっくりと休む暇がなかったからな。今のうちに鋭気を養って、次の戦いに備えないと」
 流れて行きそうになるタライを足先ちょっと弾いて胸元へと戻しながら、湯船の縁に両腕を広げて寄りかかったラルク・クローディスがつぶやいた。
 しゅごごごごーん。
 なんだか、突然洗い場の方で、変な音がする。
 見てみると、壁にとりつけられたゆる族・機晶姫用ポリッシャーに着ぐるみをこすりつけて、キネコ・マネー(きねこ・まねー)が自らを磨きあげていた。
「よっしゃあ、これでピッカピッカですらあ。時代は、もふもふよりも、ツルツルなのですら!」
 鏡で、つやつやになった自分の姿を確認しながら、キネコ・マネーが気合いを入れた。
「何をやってるんだか」
 呆れていると、またタライが流れて行きそうになった。この大浴槽からは、流れる風呂にお湯が流れ出しているので、自然とお湯の流れみたいな物ができている。
「よいっと」
 また足先でタライを弾いたつもりだったが、なんだか感触が違う。
 ぷかーっと、あおむけで湯船に浮かんだザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)がタライの代わりに、ラルク・クローディスの方へと流れてきた。
「こ、これが、大浴場名物、地祇の土左衛門かあ」
 珍しい物を見てしまったと、ラルク・クローディスがちょっと引く。それにしても、いくら真っ平らだからと言って、すっぽんぽんはまずいだろう。武士の情けとばかりに、ラルク・クローディスは頭の上に載せておいた手ぬぐいをざんすかの上にかけて、その身体を隠してやった。
 それにしても、さっきからぴくりとも動かない。まさか、本当に溺死しているはずはないが、ちょっと心配だ。
 まあ、地祇のことなので、ザンスカールが滅びることでもない限り、ざんすかが死ぬことはないだろう。殺したって平気で生き返ってくるような奴らである。唯一の弱点が、土地神である彼らが支配する土地の消滅だけだ。
「さてと、充分に暖まったから、マッサージもかかりにいくかな」
 ラルク・クローディスは、ざんすかを放置すると、脱衣所の方へむかった。