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リアクション
★ ★ ★
「この力、受けてみせるか。わらわの魔法で滅びるがよい……魔法少女ストレイ☆ソア! 万雷、空冥より落ちよ」
高笑いをあげると、魔法少女姿の悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、リミッターもかけずにサンダーブラストを放った。
「きゃああっ!? ちょ、ちょっと、カナタさん、やり過ぎ、やり過ぎですー!!」
あわてて、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が修練場の中を逃げ回る。
怪我をしないようにと修練場の中では魔法の威力はかなり押さえられる結界が張ってあるとはいえ、いきなり帯域魔法をぶっ放されたのでは、避けようもない。
「えっとぉー、あ、あなたのハートに、サンダーブラストぉ!!」
とっさに、カウンターでサンダーブラストを自分の周りに放ち、電気の流れを作って難を逃れる。
「こんな魔法使ったら、観客まで痺れちゃうじゃないですか」
なんとか立ちあがってスカートの裾を直しながらソア・ウェンボリスが悠久ノカナタに文句を言った。
「何を言っておる。魔法大会上位に食い込んだ魔法少女ストレイ☆ソアともあろう者が、この程度、今のようになんでもないであろう」
「うっ、もしかして、まだ魔法大会のこと根に持っています?」
「な、なんのことかな!」
以前ここで行われた魔法大会で、ソア・ウェンボリスの方が悠久ノカナタよりも上位に入ったのだが、今のごまかし方から考えて、まだずいぶんと気にしているようだ。
「とにかく、新入生にはったりをきかせるには、派手な魔法の方がよいのだ。先輩としてなめられてはいかん」
「そうなんですかあ。私は、もっとほのぼのとした方がいいと思うんですけれど。ほら、衣装だって、スイーツ魔法少女コスチュームで、パティシェモードにしてるんですよ。武器だって、クッキー手裏剣なんですから。そうそう、カナタさんのペットの『サラマンダー』と私の『ぬいぐるみ妖精』を戦わせてみたりするのはどうでしょう」
「うーん、わらわの派手な活躍の場が減るのはいまいち……」
どうにでも目立ちたい悠久ノカナタしては、やはり自分自身で戦いたいようだった。
「なんだか、あっちはずいぶん派手に訓練しているわねえ。こちらも負けちゃいられないわ」
悠久ノカナタとソア・ウェンボリスのショーの練習を真面目な魔法模擬戦闘だと勘違いしたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、修練場の別の一画で気合いを入れた。
「いくわよ、ジュレ、準備はいい?」
「うむ。来い、我が相手をしよう」
訓練用の防御魔法陣の位置に立ったジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、短くうなずいた。
この魔法陣の中にいれば、一応ほとんどダメージは受けない。本来は、初心者用のハンディに使ったり、魔法研究用に使うものだ。今回、ジュレール・リーヴェンディはその中でカメラを構えて、カレン・クレスティアの魔法発動シーンを撮影することになっている。
今回、カレン・クレスティアの目的は、歴戦の魔術をいかに格好よく詠唱するかである。元々、魔法というのはメンタル面にかなり左右される。テンションがマックスにできれば、威力もマックスというわけである。そのため、格好いい詠唱とポーズが決まれば、威力も当社比二倍ということに……。
「悪いね…でもこれが、ボクの伝説の始まりなんだ。さあ、いくよ」
カレン・クレスティアが左手を高く突きあげた。それがアンテナででもあるかのように、光が掌に集まってくる。その光を右手の人差し指で放出するかのように、眼前に光で複雑なサインを描いていった。
「我が身に宿りしマナの力よ、今その器より出でて眼前の敵を討ち滅ぼせ!」
集まってきた光が、一点に集まってジュレール・リーヴェンディにむかって放たれた。命中と同時に、バンと弾けた光が周囲の空間に無属性魔法ダメージを与える。
「どうだった? 今の格好よかった?」
「う、うむ」
カレン・クレスティアに聞かれて、ジュレール・リーヴェンディが無理矢理うなずいた。
痛い……、痛すぎるぅ。累積ダメージ、限……界……。
本気でこんな黒歴史を残したいのだろうか。
「じゃ、次いくよ。このみなぎる魔力、すべて解放するよー! 世界に満ちしマナの輝きよ!」
パンと両手を叩き合わせて鳴らすと、カレン・クレスティアがその手を開いた。そこに、原子モデルにも似たカラフルな立体魔法陣が現れる。それを頭上に持ちあげると、カレン・クレスティアがさらにそれを巨大にして、すっぽりと自分を被った。七色の大小のルーンベルトが、カレン・クレスティアを中心として、バラバラの方向へまったく違うスピードで回転している。
「水の理は、木の理に」
ルーンベルトのルーンのいくつかをタッチすると、青いルーンベルトが緑色に変化して軌道が変わった。
「木の理は、火の理に」
今度は、赤いルーンベルトの文字が組み替えられて、赤く輝いてベルトの大きさが変化した。
「火の理は、土の理に……」
さらに、次々にルーンベルトのルーンを組み替えて、ついにはすべてのルーンベルトを一つに合わせて白銀に輝くリングにする。
「我は望む、すべての理を一つに。すべては無に、無はすべてに。我に名前はなく、音なき言葉はすべてをあらわす。ブランクルーンよ、すべてを呑み込み、完全なるルーンとなれ。フィフス・エレメントよ、四大元素よ、過去・現在・未来の時間よ、正邪の双面よ、一なるすべての物よ。我の願いを聞き届けよ。かの敵は理を外れし物なり。水にありて水にあらず、木にありて木にあらず、火にありて火にあらず……」
なんだかえんえんと呪文が続いていく。その様子を、ジュレール・リーヴェンディはじっと見つめていた。
「ゆえに我は望む、かの敵の完全なる滅びを。ゆけ! スーパーデラックスハイパーテラマキシマムマジックボンバーキャノンエフェクトパワー……」
「長い!」
「はうぅ〜」
詠唱の途中で我慢できなくなったジュレール・リーヴェンディに、スパコーンとハリセンで額を叩かれ、カレン・クレスティアはのけぞって倒れた。
「面白い見世物だった、だがこれで終幕だ」
「お隣は何をやってるんだ」
カレン・クレスティアたちの漫才に気づいた相田 なぶら(あいだ・なぶら)が、呆れてつぶやいた。
「戦闘中によそ見とは、いい度胸ですね!」
その一瞬を逃さず、フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)がローラーダッシュで突っ込んできて必殺の疾風突きを放つ。
「うわっ」
かろうじて盾で受けとめるものの、相田なぶらが思いっきり後ろへと吹っ飛ばされた。それを馬跳びに越えてくると、木之本 瑠璃(きのもと・るり)が頭上から鳳凰の拳を放った。
まともにそれをくらうのも構わず、フィアナ・コルトが金剛力で身を沈めて耐えながら、腕を一振りして木之本瑠璃を弾き飛ばす。クルクルと回転しながら宙を飛ばされた木之本瑠璃が、守護天使の羽根を広げて姿勢を正した。そこへ、容赦なく乱撃ソニックブレードが飛んできた。とっさに羽根をしまって、地面に落下することによって直撃を避けようとするも、拡散した真空波の一つが防御姿勢を取った木之本瑠璃の鎧に一筋の傷をつけた。
さらに追撃を放とうとするフィアナ・コルトの背後から、飛行翼を使って悟られずに近寄った相田なぶらが剣を突き出した。だが、乱撃ソニックブレードを放とうと振り下ろした大剣を、スキルを使わずに勢いを横へと流して回転したフィアナ・コルトが、力強い一撃で相田なぶらのシュトラールを弾き飛ばそうとした。その瞬間に、相田なぶらがシュトラールから光線を放つ。フィアナ・コルトの白鳥の羽衣が音をかけて少し焦げたが、相田なぶらの方は直後に剣を弾き飛ばされて、それに続く動きで肘打ちを思いっきりボディに受けて弾き飛ばされた。
止めとばかりにフィアナ・コルトが一刀両断にしようとするところを、プロミネンストリックで駆け抜けた木之本瑠璃が相田なぶらをひっかんで攻撃範囲から連れ出した。
「みんな凄い凄い、凄いぜ。フィアナ様だったら一瞬だと思ったのによお、粘る粘る。でも、そろそろ決めちゃってくださいよー、フィアナ様。そんな二人、フィアナ様にかかったらただの雑魚ですからー」
フィアナ・コルトを応援していたカレン・ヴォルテール(かれん・ゔぉるてーる)が、一方的な声援を送った。
「こばっ、こばっ、こばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!」
修練場の端っこで、小ババ様が、小ババ百烈拳の特訓をしていた。そこへ、何かが飛んでくる。相田なぶらと木之本瑠璃だ。二人共もつれ合って、ドスンと床に激突する。
「こ、こばあ!?」
あわや潰されそうになって、あわてて小ババ様が避難した。
「すまねー。今回収に行くから、そのままにしといてくれよー」
そう叫びながら、カレン・ヴォルテールが回収用の台車を押して、走ってきた。