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決戦、紳撰組!

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決戦、紳撰組!

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 階下の喧噪に、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は半ば無理矢理起こされた。
 紳撰組が討ち入りにきたらしい。
 その事実にいらだった彼は、騒がしくされたのにイラっときた。
 池田屋に宿を借りている彼は、緑色の波が刈った髪を揺らしながら唇を噛んだ。
 ファイアストームと機晶爆弾を用いて、彼は苛立ちの解消をもくろむ。
 ――この池田屋――そして扶桑の都。
 彼は眠気のあまり、いらだつ心で、火の海にしてやろうと決意していた。
 ――邪魔するヤツはこの妖刀金色夜叉の錆びにしてくれるわ!
 ――乗り込んできたヤツも応戦するようなヤツもウゼェんだよ!
  ゲドーがひっそりとそのように苛立っていた頃、階下では相も変わらず戦闘が行われていた。


 その頃階下では、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が朱辺虎衆の残党を追い詰めていた。
 セレンフィリティがまずは、『破壊工作』を用いて少人数に敵を分断した。そしてパートナーや隊の者と待ち伏せ攻撃を行い各個撃破しようとする。彼女の『シャープシューター』や『スプレーショット』が主に用いられた事で、朱辺虎衆の面々は後退を余儀なくされた。
 その上で、、状況をよんだセレンフィリティの手により『弾幕援護』と『クロスファイア』が炸裂する。彼女が、今回使用する武器はアサルトカービンではなく、マシンピストル――ロシア製のステッチェン・マシンピストル2丁だった。天井裏から上半身出して敵の背後から銃撃し、次の瞬間には、膝立ち仰け反り乱射したりする。
 そして縦横無尽に大暴れした。――弾が切れたら銃は殴打用の武器に使う、彼女はそんな事を考えていた。
 一方、パートナーの主に側面の援助に尽力しているセレアナは唇を静かに舐める。
 『ディフェンスシフト』で守りを固め、感覚を研ぎ澄ませて周囲を警戒しつつ、襲い来る不逞浪士を冷静に討ち取る事を彼女は決意していた。
 この戦闘の最中、セレアナは使用するスキルを冷静に考える。それは、『チェインスマイト』と『ランスバレスト』だった。弾丸を撃ち尽くし『ガン=カタ』をやり始めるセレンフィリティに、セレアナは冷静に声をかける。
「あんまり調子に乗ったらダメよ」
 だがその表情には、半ばあきらめの色が浮かんでいた。


 朱辺虎衆の首領と話をしに来て討ち入りに巻き込まれた八神 誠一(やがみ・せいいち)は、逃げるように促され、そっと裏口から外へと出た。
「なにをしているのじゃ」
 そこには見張りをしていたサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)の姿がある。
 誠一を敵だと判断したサティナが、息を飲んで地を蹴った。
「よかろう、無様にこの戦場から逃走なぞしようとする者共には、もれなく雷電の精霊による『天のいかづち』をくれてやろうぞ」
 彼女はそう告げると、スキルを放った。かろうじて避けた誠一は、歴戦の防御術、歴戦の立ち回り、ヒロイックアサルト一刀流奥義夢想剣等を駆使したカウンター戦術を取る。
 そして早々にその場を離脱した。サティナも、朱辺虎衆の捕縛が目的である為、深追いはしない。
 走りながら、誠一は首領とのやりとりを思い出していた。

 「時には血を流さなければ、変えられないこともある」

 その言葉は、誠一にとっては腑に落ちない者だった。
 ――血を流さずに交渉を持って目的を為すのが上策、内輪で血を流すなんて外敵に利するだけの下策、梅谷さんもそう考えてそうだと思ってたんだけど、ここまで泥沼化しちゃったら、争う事が無意味と思えるくらいまで双方を痛めつけ、交渉を選ばせるしかないかもねぇ
 そう思案した誠一は、道すがら、敵進行ルート上に、テロルチョコおもちへ無数の鉄片を貼り付けて作った、即席クレイモア地雷を仕掛けていった。そして敵先鋒を通した後に起爆させ動揺した隙を狙って斬り込む事を決意する。
「うわ」
 幾人かがそれに引っかかった。
 誠一は続いて、ワイヤークローを通路上に網のように張り巡らせる。それを非物質化状態で隠蔽した。そして敵が網の中に侵入した時、物質化とサイコキネシスで操り纏めて相手を捕獲する。
 それから彼は、合図を送った。
 味方に一斉攻撃を掛けさせるためだ。


 こうして各地で激戦が続く最中、高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)ティアン・メイ(てぃあん・めい)、そして永倉 八重(ながくら・やえ)は、黒龍こと三道 六黒(みどう・むくろ)を目指して進んでいった。
 そこへ近藤 勇理(こんどう・ゆうり)も追いついてくる。
 彼女達のそんな姿に目をとめながら、壱番隊として壱番槍をとり、すでに上階まで進んでいた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が、ヘイズ・ウィスタリア(へいず・うぃすたりあ)へと視線を向けた。
「下も段々騒がしくなってきたな」
「みんな無事だと良いんだけどね」
 ヘイズがそう口にしたとき、そして丁度勇理達がその回へと足を踏み入れたとき、そこに新たな人影が現れた。
 黒龍こと三道 六黒(みどう・むくろ)両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)、そして葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)である。
「来たか紳撰組」
 呟いた六黒は、朱辺虎衆に身を置いた日々のことを思い、思案していた。
 最強の将として、池田屋で立ち塞がっている彼に対し、皆が武器を向けている。
 それを一瞥しながら、六黒は緩慢な動作で瞬きをした。
 ――惜しむらくは、時間が無かった事。
 ――朱辺虎衆の彼らが妄執を抜け出て、マホロバを想う目覚めを得る時間が。
 ――紳撰組という死神の足は、わしが想うたよりも速かった事。
 ――ならばせめて、わしもこの地で最後まで刃を振るおう。
 ――死中に活――死中を突き進めば、得られる活もあろう。
「これに付き合う物好きも、いくらか居るようだしな」


 六黒が呟きながら白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)のことを思い出していた頃、彼はといえば落下の衝撃を魔鎧であるアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)の瞬断で、回避していた。
 むしろ『むぎゅたん』こと黒龍を追いかけて上へと上がってきた南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)が巻き込まれる。気がつけば、紳撰組隊士達に囲まれていて、彼らは瞬時に武器を構えた。
 アユナが、酸性を薄めた――アシッドミストを膝下ぐらいまで展開する。
 幸いだったのは、そこへ訪れたのが、先程竜造が『弱者』と見定めた者達ばかりだったことだろう。
 同時に、隊士達のいた床が崩落した。
 松岡 徹雄(まつおか・てつお)がゆっくりと微笑む。
「これだけの集会だ。相手には察知されてると思っていいね」
 そう言う次第で彼は、熱烈な歓迎のために『無法者』の者達と共に池田屋を見て周り、侵入に使われそうな通路などに『爆破工作』を用いて罠を張っておいたのである。
「敵さんの足元を吹っ飛ばして動きを鈍らせるぐらいはできるだろうし」
 その声を安堵するようにアユナと光一郎は聴いていた。
「じゃあ俺は加勢に行ってくるわ」
 光一郎は頷くと、再び上階目指して走り出したのだった。


「目の前の事象にのみ心奪われ、本質を見抜けぬ愚か者どもの刃、1億光年経とうとわしには届かぬ」
 紳撰組の面々を前に、高々と六黒がそう宣言をした。
「待て――っ!」
 熱意に駆られた一番隊の隊士達が踏み込んでいく。それを正悟が止めたときには遅かった。
 六黒の手による百戦錬磨で立ち回り、そして刃と盾。腕甲でなぎ払われる。
「飛鳥尽きて良弓蔵められ、狡兎死して走狗烹らる」
 ――我らの存在を滅ぼした貴様ら、これより如何にして滅ぶか、見させてもらおうではないか。
 六黒は喉で笑っていた。
 ――目下の敵が居なくなった戦闘集団がどうなるか。
 そこへたたみかけるように、両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)が笑みを投げる。
 艶やかな扇子が、悪路の麗しい表情を彩っているようだった。
「近藤勇理――ただの祀り上げられていたお飾り。それに気付いてしまった今は、どんな気持ちですか?」
 不意に問いかけられた紳撰組の局長は、短く息を飲み込んだ。
「貴方が奪った命は、奪うに値した命ですか? 奪ってまで掴み取った平和に、意味を持たせるだけの答と、それを口にするだけの覚悟はできましたか? 善悪など、観測する位置で容易に姿を変える。大事なのは、出した答えそのものよりも、自分の為す事と結果を理解し、それを貫く覚悟を持つ事。己が踏みにじった命に意味を与える事」
「私は――」
 回答を模索するように、勇理が唇を噛む。
 だが、その後強い空色の瞳で悪路の顔を見返した。
「奪った命に――そしてこれから奪う命に、それ相応の生があったと思っている。貴方の言うとおり、それは、私が『此処にいるから』そう感じるのかも知れない。だがそれでも、『私は此処にいて、立っている』。だから立っている私が思いだけは継いでいく。それだけの覚悟を持っている――そして、それは、攘夷の機運を煽り、余計な争乱を招くことではない」
「ああ良かった間に合った。これで、貴方の覚悟を食うことが出来る。貴方の覚悟を喰らい、命を背負い、私たちはまた一歩、道を進みます」
 扇で顔を隠していた悪路が、静かにそれを閉じ、勇理達を指し示した。
 すると朱辺虎衆の配下の者達が、一斉に襲いかかってくる。
「待ちなさい。貴方のことは絶対に許さないんだから」
 皆が構える中、永倉 八重(ながくら・やえ)が一歩前へと出た。
 周囲には朗らかな音が響き渡る。
 それまで黒い髪の色をしていた彼女が、大太刀『紅嵐』――『ファルシオン』をふるった。これは彼女の父親の形見でもある。その瞬間、彼女の漆黒の髪と瞳は情熱の紅へと変わり、服はイルミンスールの制服からバトル系魔法少女の纏うものへと変わった。

魔法少女ヤエ 題10話 「新たな出会い。その名は紳撰組!」

 どこからか、そんなナレーションが響いてくる。
「革命にも扶桑の安定にも興味はないな。僕はただ強くなりたい。己の力を磨きたい。それだけだッ!」
 高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)がそう告げると一歩踏み込んだ。その後ろから、ティアン・メイ(てぃあん・めい)が強襲する。それから一歩退いた玄秀は、氷術で氷刃を複数周囲に展開して前衛のフォローを行う。
 それには、自分へ向かってくる敵への牽制も含まれている。
 ティアンが敵の隙を作ってくれるタイミングを測りながら、敵は対魔抵抗を上げているので、低レベルのこちらの術はそのままでは通じないと予測する。
 そこで彼は、広範囲魔法のファイアーストームを打ち出すと同時にサイコキネシスで火線を集束させ、対象に向けて投射し、魔力の一点集中により敵への打撃貫通を狙っていた。
「たとえ地力で劣っていたとしても! 戦い方次第ではッ!」
 ティアンはといえば、プロテクト系を重ね掛けして守りを固め、ガードをメインに敵の前に立ちふさがっていた。


 その頃ブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)は、もどかしい思いで池田屋を見上げていた。
 ――合図をするまで待て、か。
 思わず溜息をつきそうになりながら、ブラックは考えていた。
 ――八重よくれぐれも無茶はするなよ。
 ――三道六黒が絡んでいるとなれば油断はできん。
 ――八重の合図を待たずに突入することも考えねばならんな。
 まさに、池田屋に火の気があがったのはその時のことだった。


 他の戦闘風景など顧みず、ブラックは八重の元まで走った。
「なんで、ここに?」
 愚問だと思いながらも、ブラックは背に八重を乗せる。
 ――戦場に突入したならば人機一体!
「全速でいく! 落ちるなよ!」


 その正面で、六黒は、まず魔鎧である葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)を纏っていた。
「世に正義を名乗る者は尽きずとも、悪を名乗る者には限りあり」
 纏われる前にそう口にした狂骨は、アンデッドを起動していた。
 ――白虎・青龍、彼奴等は己の満足を胸に抱いて死んだ。
 ――故に、死霊術師たる我にも彼奴等は呼び出す事あたわず。
 ――だが、無念を残して死んだ暁津勤王党、そして朱辺虎衆。
 ――彼奴等の魂は未だ我の手の中。
 狂骨は優しい目をした。
「主らがいかにその肉体を滅しようと、こ奴らの無念ある限り、平穏が訪れる事無きと知れ。対話でなく、滅ぼす事を選んだ貴様らの平穏をな」
 俊足で勇理の傍へと歩み寄った狂骨は、ネクロマンサーとしてアンデッドを操作し、勇理が足を止めたところを虚空より闇黒ギロチンでもろとも真っ二つに裂こうとした。だがそれは庇いに入った、一番組の隊士の手で阻まれる。そこで続いて、ダメージを無視して相手に近寄り、スキルであるペトリファイを発動させた。
 正面から攻撃を受けそうになった勇理の手を、ヘイズ・ウィスタリア(へいず・うぃすたりあ)がひく。
 そしてかろうじて六黒の攻撃をかわしたとき、彼は続いて奈落人である虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)の表意の力を用いた。
 六黒単体でも、加速と怪力による大剣士としての戦いがなされ、魔鎧を纏った後は、封印解凍し、絶対暗黒領域・闇の力を手に入れてアボミネーション撒き散らしていたというのに。今度は、チャージブレイクと神速による人・魔・神の三位一体となり、己の身を削る状態で、六黒はしかけてくる。


 こうして四方を六黒が囲まれたとき、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)がアプソリュート・アキシオンを構えた。他の人々の手による足止めを幸いに、彼は六黒に対し正面から斬りかかった。
同時に六黒を矢ねらい打ちしようとしたヘイズの手は、駆けつけてきた南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)によって阻まれる。

 その時情報から、火に包まれた柱が、皆の前へと落下してきた。

「速く逃げなければ紳撰組とて、火に飲まれるぞ」
 そう口にした六黒自身が、召還したアンデッドが柱を支えていることに目を剥いた。
「例え此処で命を落とそうとも、朱辺虎衆は壊滅する」
 強い決意で近藤 勇理(こんどう・ゆうり)はそう告げた。
 だが、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)がつけた火の勢いは、とどまる所を知らない。
 正悟が、六黒の胸を斬りつけたのは、その時のことだった。
 永倉 八重(ながくら・やえ)ブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)の援護のもと、高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)ティアン・メイ(てぃあん・めい)が補助をした。
「これが終焉――私は滅びに立ち会いし者」
 両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)がひっそりと呟いた。
 それを最後に、紳撰組と加勢した人々は、その場を後にしたのだった。


 逃げまどっていく不逞浪士や朱辺虎衆達を、土方 伊織(ひじかた・いおり)サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)、 そしてサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)が追い込んでいく。
「これで3度目の討ち入りなのです。事前に監察が池田屋に関しての情報収集てくれてるですから、それを元に逃走出来ない様にしてやるです。なので、今回も二番隊は裏方です。池田屋を完全包囲するですよ。包囲に関してはボクが正面、ベディさんが裏側、サティナさんには池田屋の周囲を警戒して貰って逃走者を発見次第捕獲して貰うです」
 討ち入り前に、伊織はそう指示を出した。
「それと、今回は通常の不逞浪士さんじゃなくって、朱辺虎衆の人を優先的に捕らえる様にした方が良いかもです。諸悪の根源みたいな人達ですし」
 伊織のそんな指示を思い出しながら、サティナは呟いた。
「ふむ、伊織が正面でベディが裏。そして我は周囲の警戒…即ち遊撃じゃな。よかろう、無様にこの戦場から逃走なぞしようとする者共には、もれなく雷電の精霊による『天のいかづち』をくれてやろうぞ。じゃが、ただの不逞浪士ではなく、朱辺虎衆の者共を捕らえるのを優先すべきじゃからな、その辺りの事を念頭に入れつつ行動すべきかのう」






「お縄につけ!」
 池田屋からの一つしかない退路で、隠代 銀澄(おぬしろ・ぎすみ)が声をはりあげた。
 七篠 類(ななしの・たぐい)尾長 黒羽(おなが・くろは)もまた、その様子を見守っている。
 続々と捕まっていく人々を眺めている中には、棗 絃弥(なつめ・げんや)罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)の姿もある。


 その数刻程前のことである。
「使いの者です」
 そう言って訪れた人間の顔を、オルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)久坂 玄瑞(くさか・げんずい)はまじまじと見上げていた。
「出て行かれるのですか――寂しいものですね」
 それが本心か否かは分からなかったが、継井河之助はそう口にして二人を送り出したのだった。
 暗い夜道で、月だけが二人を見送る。
 すると僅差で、まるで入れ替わるように、継井邸には武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)武神 雅(たけがみ・みやび)、そして重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が訪れた。
「このような時間にいかがされたのですか?」
 起きていたくせに、わざとらしいあくびをして見せた継井は、細く息をついた。
「違法契約者をご存じないか」
 率直な牙竜の言葉に、あくびをかみ殺しながら、継井は首を振る。
「さぁ。なんのお話やら――陸軍奉行並、疑われるというのであれば、家捜しでも何でも好きにしてくださらんか。眠くて叶わない」
 松風堅守が自分をつぶしに来たのであろう事を察知しながら、継井は子供らしい笑みを浮かべた。懸案の主は、今し方出て行ったばかりである。


 丁度その時、扶桑の都で指名手配を受けていたオルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)久坂 玄瑞(くさか・げんずい)は、正面に立ちふさがる人気に息を飲んだ。
「こんな所で、何をしていやがる、指名手配犯」
 刀を向けたのは、紳撰組の副長棗 絃弥(なつめ・げんや)だった。
 二人が退路を探して辺りへ視線を彷徨わせると、扶桑見廻組の面々が取り囲んでいる。
「逃がしはしません」
 七篠 類(ななしの・たぐい)のその言葉に、隠代 銀澄(おぬしろ・ぎすみ)が刀の柄へと手をかけた。

 こうして討ち入りが行われていたその夜、一人の大老暗殺犯の身柄が拘束されたのだった。
 ――この件で紳撰組に捕まったオルレアーヌは、所属学校から放校されることとなった。