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女体化薬を手に入れろ!

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女体化薬を手に入れろ!
女体化薬を手に入れろ! 女体化薬を手に入れろ!

リアクション

「くそ……なぜだ……どうして短冊がつるせないんだ…」
 吹き飛んだ先に這いつくばって、エヴァルトはうめいた。
「あんな少女にだってできていたじゃないか。なのになぜ俺にはできないんだ…?」
 不甲斐なさのあまり、立ち上がる気力も沸かせられないでいるエヴァルト。

 やがてそんな彼の前に、ひょこっと人影(?)が落ちた。
 それはどう見ても笹竹と、そこにつるされた短冊型の影…。

「つるしたければ、つるしてもいいのヨ」

「さ、笹飾りくん…!」
 笹飾りくんの方から来てくれた…!
 パッと顔を上げる。
 感激の涙に潤んだエヴァルトの目に映ったのは、笹飾りくん――らしきモノの姿だった。

 たしかに着ているものは笹竹の着ぐるみなのだが、なんだか微妙に細部が違う気がする。手足赤いし。顔、こんなだったか?
 あと、サイズも。
 エヴァルトは首をひねる。
 それもそのはず。
 彼は笹飾りくんにあらず、そのバチもん『ロクリくん』なのだ!

  ――って「リ」しか合ってねーよ。

 しかしてその正体は、もちろん言わずと知れた百合園女学院生茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)のパートナーキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)である。
 
 なにしろ、笹飾りくんを見かけていたとはいえ、あくまで遠巻きに見ただけ。近寄ることもできなかったエヴァルトである。
 笹竹の着ぐるみのゆる族は彼しかいないと結論づければ、疑う余地はなかった。

 彼は笹飾りくんだ。

「笹飾りくん!」
「さあさあ。つるすといいワ〜。お願い事がかなうワヨ〜。
 ただし、使うのはこの短冊ネ」
 ――バサッ。
 まるで札束のように100枚ひと束ねされた長方形の白紙を、どこからともなく取り出すロクリくん。

「なんだ? これは…」
 触れてみると、ツルツルのコート紙だった。
 和紙の短冊と違い、書きにくそうだ。
「フフッ。ご利益あるワヨ〜。1枚200Gネ!」
「か、金取るのかっ!? しかも高ッッ」
「当たり前ネ。安いのはご利益のない、ただ笹竹につるすだけの和紙短冊ヨ。ご利益のある短冊がそれと同じハズないでショ」

「うーむ……言われみればそんなような気もする…」

 言われるまま、エヴァルトは3枚購入し、しみじみそのご利益のある短冊とやらを眺めた。
「ん?」
 よく見ると、下3分の1辺りの所に切り取り線が入っている。
「一体…」
 ひっくり返した裏面には『2020年ろくりんピック観戦チケット』の印刷文字が。

「ってこれ、去年の売れ残りチケットじゃないか!!」

「去年作ったんだけど、粗悪だったのですぐ偽造品とバレちゃって、売れなかったのヨ〜」
 いい処分方法が見つかったワ。これもエコリサイクルよネ〜。
 ホ〜〜〜〜〜ッホッホッホ。

「さぁどんっどん売りさばくワヨ〜」

 呆然となっているエヴァルトの前、早くも3枚売れたことに嬉々としながらロクリくんはとっとことっとこ人通りの多い町の商店街へ向かう。


「知ってるデショ? 笹竹の着ぐるみに短冊をつるしたら願い事がかなったっていうウワサ!」

「月遅れの七夕ってご存知〜? 8月7日にアナタの願いをかなえるワヨ〜」

「性別を変える願いもバッチリヨ。デモ特別追加料金が必要ネ!」

 道行く人に、積極的にアピるロクリくん。
 だが予想に反して、その短冊は1枚も売れなかった。

「なぜ!? なぜなの? ドウシテ!?」

  ――無口な笹飾りくんが客寄せするわけないって。

☆               ☆               ☆

「ふっふーん。やったやった、大成功〜っ♪」
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は、先の戦いのドサクサにまぎれてかすめ取ってきた女体化の瓶を高々と掲げた。
 笹飾りくんに守護者がいかったわけではなかったが、ほかのことに夢中だったし、ブラックコートと隠れ身で気配を立ったクマラに気付く者はだれもいなかった。

「おー、よくやったクマラ」
 戻ってきたクマラの手に握られた瓶を見て、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が褒める。
「へへっ。でもこれ、何に使うの? とってもおいしそーだよね」
「クマラに飲ませるために取ってきてもらったんじゃないですよ」
 飲むな、とエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が釘をさしたにもかかわらず、クマラはひょうたん型の瓶に入ったキラキラ輝く液体から目が離せないようだった。

 なにしろ、クマラがこれを選択した基準は「一番おいしそうに見えたから」である。
 光の加減によって虹色に輝いて見えるそれを、クマラはうっとりと眺めた。

「さあ行こう。待ち合わせ時間にちょっと遅れてる。ルカたちは先に来ちゃってるかもなぁ」
「それもありますが、どうやってダリルさんに飲ませるかも考えませんと。あの人、こういうことにかけては勘が鋭いですから」
「あー。そうだな。メシエや俺たちがただ渡しても、うさんくさがって飲まない可能性の方が高そうだ」
 普段が普段だし。特にここ最近は警戒されるようなことばかりしてきたから。
「いっそ、ルカさんをこちらに引き入れてはどうです?」
 などなど。
 キャンプで決行予定のダリル女体化作戦を練りつつ、エースとエオリアが前を行く。
 その後ろを飄々とついて歩くメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)だったが…。

「どうかしたのかい?」
 立ち止まって動こうとしないクマラに気付き、足を止める。
 彼の前、クマラは瓶の口を開けるとくーっと中身を一気飲みした。

「クマラ!? それは女性になる薬だと――」
「だーって、おいしそうだったんだもんっ。オイラ、我慢できなくってー」

  ――うまけりゃ女になってもいいのか? どこぞのだれかのように食欲が全てに優先するのか? おまえは。


「うにゅ? なーんか変な感じー」
 自分の体の中で起きている変調に、体をひねってあちこち見るクマラ。
「女性になりかけているんですよ」
 飲んでしまったものは取り返しがつかない。
 はーっと重い息を吐き出すメシエの前、突然クマラがポムッと軽い音をたてて爆発した。

「クマラ!?」
 白煙に包まれたクマラにギョッとなる。
 白煙の中では、さらにポポポポーーーーンと軽い爆発音が起きていて…。
「「「「はーーい」」」」
 煙の中から、たくさんのクマラの声がした。

 空耳か?
 エコー現象か?

 いまだ驚きに固まったままのメシエの前、白煙の中から小さい、たくさんのクマラが飛び出した。
 それこそ四方八方、クモの子を散らすように。

「きゃーーーははっ! これ、おもしろーーーいっ」


「だからそこで――って、うわわわわっ!? なんだこれっ!?」
 足元をすり抜けて行ったチビクマラに、エースとエオリアがたたらを踏む。
 転びかけたのをなんとか回避、前方を走って行く数人のチビクマラを、あっけにとられたまま見送る。
「げ、幻覚ですか? あれ。小さなクマラがいっぱい見えるんですが」
「いや、俺にも見える…」

「見えたならそうやってぼうっとしてないで、捕まえてくれるとありがたいんだがね」
 両手に数人のチビクマラを捕まえたメシエが、肩で息をしながら言う。
「メシエ! なんだ? あれ」
「本物のクマラだ。ところでエース、きみのリュックを開けてくれないか?」
「あ、ああ…」
 驚きが冷めやらない顔で、エースは言われるままにミニリュックの中身をエオリアに渡してカラにする。

「痛いぞ、メシエー。もっとていちょーに扱えー」
「そうだそうだー」
 中に押し込まれたチビクマラが、口々に文句を言った。

「それで、どうしたって?」
 ブーブーブーイングを飛ばすチビクマラは無視してリュックの口をしっかり閉じる。
「例の薬だ」
「飲んだのかっ!?」
「どうやらあれは女体化薬ではなかったようだね」
 なかなか興味深い現象ではある、と腕を組むメシエ。
 エースはあきれ顔でクマラがキャーキャー騒いでいるリュックを持ち上げる。
「薬だと分かってて、なんで飲むかなぁ」
「それはまぁ、クマラだからね。
 ダリルに使う前に分かったという点だけは不幸中の幸いかな」
 ダリル女体化という計画が失敗するばかりか、激怒した何十のダリルに一度に説教されてはたまらない。

「って、なんであなたたちは冷静にそんな会話してるんですかっ! 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」
 1人青ざめたエオリアだけが、木の枝にぶら下がったり物陰に隠れているチビクマラを懸命に捕獲していた。
「こんなのを町に野放しにして、ただですむと思ってるんですか!?」
 それを脅威に感じているのは自分だけですかっ!?

「あー、ごめんごめん」

 かくしてチビクマラ捕獲作戦は始まった。


「はーい、チッチッチッ。おやつですよー」
 そこかしこに散ってしまっているクマラをおびき寄せるため、道の真ん中にお菓子をセットしおびき寄せるエオリア。
 甘いににおいに誘われて集まってきたところに3人で一斉に飛びかかるが、効率が悪い。大半は逃げてしまって、二度と同じ罠にはひっかかってくれない。
「くそっ。網か何か必要か」

 そこへ、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)たち一行が現れた。

「はーい、エース。ちっとも待ち合わせ場所に現れないから捜しに来ちゃった。
 どうしたの? こんな所で」
「ルカ! いいところへ来た、おまえたちも手伝え!」
 と、そちらに気をとられた隙をついて、チビクマラが手の中からすり抜ける。
 そのまま腕を駆け上がり、エースの頭を踏み台に、ポーーンと跳んだ。

「きゃははっ。ルカー、オイラもいるぞー」

「あっ? えっ?」
 いきなり自分の手の中に飛び込んできた小さなクマラに驚くルカ。クマラはぴょんっと地面に飛び降りると、タタタタッと逃げて行った。
「ルカでもダリルでもいいから、とにかくそいつを捕まえてくれ!!」

 エースの言葉は聞こえていたが、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)夏侯 淵(かこう・えん)もわが目を疑う驚きのあまり、とっさに対処できない。
 ただ1人、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)だけが反応した。
「なんだぁ? このチビ。えらくクマラに似てやがるな」
 ひょいっと首根っこを持ち上げて、しげしげと見る。
「コラー、放せー、放せよカニー」
 チビクマラはぶんぶん手を振ってカルキノスの鼻柱を殴りつけたが、せいぜい15センチあるかないかのサイズなので、蚊に刺されたほどにも感じない。

「た、助かった……ここに入れてくれ…」
 ぜいぜい肩で息をしながらエースがリュックを開ける。そこには、みっちりぎっしりチビクマラが詰まっていた。

「うわぁ。壮観ー」
 と口にしつつも、内心そのキモさに退くルカルカ。

「暑いー、暑いぞ、エースぅ」
「たいぐーかいぜんー」
「ジュースっ、ジュースっ」
「ジュースっ、ジュースっ」
「ジュースっ、ジュースっ」
 ブーブー、ブーブー。

「うるさいからこれでも食べてろ」
 板チョコを突っ込むと、チビクマラは大合唱をやめて一斉にかぶりついた。
「わーい、チョコー」
「すげー大っきー」
 巨大なチョコを口いっぱいほおばって、すっかりご満悦のうちにかぶせをかける。

「ええと、これって全部クマラ? 本物?」
「例の、笹飾りくんの持つ薬だよ。あれを飲んでこんなになったんだ」
 現状が全く把握できないでいる4人に、エースは手早く事情を説明した。

「つまり、こういうクマラがまだあと何十人もいるというのだな?」
 と、淵。
「ああ。あいつ、鬼ごっこでもしてるつもりなんだ。こっちをからかって楽しんでるんだよ」
 でなかったとうに町中に散ってしまっている。この近辺から離れないというのはそういうことだ。
「それを楽しんでいるうちはまだいいけど、飽きたら最悪ね」
「あれが町中に散らばって、どこかの菓子屋に突撃でもしたらと思うと…」
 まさにいつか見た映画のアレ状態だ。イナゴとかアリとかの大群と同じ。チビクマラの通りすぎたあとにはアイスバー1本残ってやしないに決まっている。
 間違いなく、ツァンダの町の被害甚大。
 そしてそれを弁償するエースの懐も被害甚大。
 ぞっとして身を震わせるエースの肩を、ぽんと淵が叩いた。

「まぁ俺たちに任せておけ」