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●ガード硬いぜ百合園!

 百合園の乙女たちがカレーを作っている。
「火加減が弱いですわね」
「ご飯の様子を見て下さいまし」
「あら、お米かと思ったら麦でしたわ」
 といった感じで和気あいあいきゃあきゃあいいながら作業しているその中に、
「火加減が弱い? なら、俺の出番だ」
 すっくと一人、見慣れぬ青年が降り立った。
 青年は、きらっ、と歯を光らせると出し抜けに火術を披露した。
 ファイア、と彼が指をパチンと鳴らすと、火の勢いが一気に強まり、カレー鍋がぐつぐつ煮えだした。
 とはいえ男性には不慣れな百合園少女たち、遠巻きに彼を見守りながら、
「あなたは?」
 と問うた。
 舞ってました、とばかりに彼はまた歯を輝かせた。
「俺はアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)! 人呼んで炎の貴公子! 君の手作りのカレーを一緒に食べたいんだ!」
 乙女たちはどう反応したものやら困ったような顔を見合わせている。
「あ、じゃあ『炎の貴公子』はなしで……」
 少々自身をなくした様子でアルフは訂正した。
「俺はアルフ・シュライア! カレーの美味しさは2人の愛から生まれるんだぜ!」
「いいですか?」
 乙女三人のリーダと思われる者が片手を上げた。
「お気持ちだけいただいておきます。お引き取り下さい」
「はい……」
「あと、炎のお礼に麦飯を差し上げます」
「どうも」
 とぼとぼとアルフは、エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)のところに戻った。
「どこ行ってたんだ? そろそろできるよ」
 掘って作った竈にて土鍋を使って米を炊きつつ、カレーの加減も見たりと、エールヴァントは忙しくしていた。
 アルフが肩を落としているのを見て、やれやれ、とエールヴァントは言う。
「どうせ『百合園は女の子ばかりのパラダイス!』とか言ってナンパに勤しんでたんだろう。言っておくけどね、こういうところはお嬢様ばっかりだから総じてガードは堅いよ。下心丸出しで行ってもうまくいかないから」
 めちゃくちゃ図星だったりする。たてつづけに四回ほどアルフは袖にされていた。
 だがめげない、アルフはめげない。逆に胸を張った。
「はっ、甘いな。甘口カレーより断然甘いぜエールヴァント! さっきなんか大活躍して、いずれ劣らぬ可愛い女の子三人に感謝されて、健康食品までもらっちゃったんだからな!」
 ちなみに嘘は言ってない。一つも。
 どん、と彼はヤケクソ気味に、もらった麦飯入り飯ごうを出した。
「あ、麦ご飯じゃないか。へえ、全部麦って珍しいな。よく炊けてるし……アルフ、見くびって悪かったよ。君のナンパ癖も役立つことあるじゃないか。見直したよ」
「ふ、まあ、それほどでも……あるな」
 ところでその女の子たちの名前は? とか訊かれたら一発アウトなのでアルフは大急ぎで話題を変えた。
 美緒の姿を見つけて手を振る。
「お、美緒のところのカレーもできたみたいだな。もらいに行こうぜかー。お、こっちに来てくれるみたいだな。モテる男はやっぱ違うなぁ。あ、『モテる男』ってのはもちろん俺のことだからな」
「ごきげんよう、わたくしのカレーも召し上がって下さいな」
 小皿を手に、泉美緒じきじきの手渡しだ。スタイルの良い美緒だけに、渡すという基本動作ですら揺れるべきものが揺れた。
「いただきます」
 手に取りつつエールヴァントは少々不安を感じてもいた。
(「美緒さんっていきなりまな板両断してたりしてたからなぁ……でも、ちゃんと料理のできるひとたちが指導してたみたいだから大丈夫だよね」)
 最悪な事態(!)があっても、イナンナの加護と治療を用意している。大丈夫大丈夫……と、思いながらもつい、スプーン運びがゆっくりになってしまう。
 その一方、
「ぷはー、美味かった〜! 美緒ちゃん上手じゃないか」
 あっさりとアルフは小皿のカレーを食べ終えていた。美味しいカレーだ。
 そう、ちゃんと指導されて作ったから、いくら美緒でも危ないものは作らなかったのだ。
「ありがとうございます」
 褒められて喜ぶ美緒に、きらん、と歯を光らせてアルフはこう言うのも忘れなかった。
「でも、君の方が美味しそうだよ」
 決まった……とアルフは思ったのだが、にっこり笑って美緒は答えた。
「お引き取り下さいな」
 やっぱり百合園女学院のお嬢様はガードが硬いのであった。