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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション


ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)

人には向き不向きがあって、できることとできないこと、得意と苦手がある。
子供の僕が知ってるんだから、大人なら当然、知ってる世間の常識だよね。
そのわりには、自己評価がおかしくって、自分を正確に把握してない人がずいぶんいる気がするけど、僕とは関係ないからどうでもいいや。
え。十五歳は子供じゃないだろ、って。
そうだね。僕もそう思うけど、十五歳の僕が子供かどうかは、社会や大人の都合でどうにでもなるんでしょ。だったら、なんでもいいよ。僕は気にしないから。
得意と苦手の話なんだけど、僕は自分のそれをよく知っている。
だから、鴉赤紫にお願いしたのさ。
「シュリンプの死体を僕の自由にさせてくれたら、やつを甦らせて事件の真相を聞きだしてみせるよ。
僕は死霊術師なんだ。
子供の頃から死者と仲良くするのは大得意さ。
鴉流に言うなら、死者や霊は僕の大切な仲間だ。生きてる人間よりずっとね」
「おまえ」
鴉は、僕の瞳をじっと覗きこんだ。
僕と、ショートカットで白学ランの男装? 少女の鴉が見つめ合う。
「ガチでそんなこと言ってんのか」
「う、うん」
また殴られそうな気がしたんで、声が震えちゃったよ。
キミは人間の仲間がたくさんいるのが自慢みたいだけど、僕にだって仲間はいるんだ。
鴉にはわからないよね。
死者や霊は、自分にも人にもほとんど嘘をつかないんだ。
生きてる人よりも正直で、ずっと、ずっと信頼できるんだよ。
鴉、本当は、キミは人に裏切られるのが怖いから、保険やスペアとして仲間を何人も集めてるんじゃないの。
ようするに、人間は自分以外の誰かを心の底から信頼なんてできないってことさ。
僕はそれを知ってる。
「ニコは、一緒にいて楽しいダチとかいないのかよ」
「いるよ」
うるさいなー。余計なこと聞くなよ。
僕にだって、パートナーのナインやユーノ。
それに。
「僕は、弓月くるととは友達なんだ。
あいつこそ病弱で友達のいないさびしいやつさ。
ノーマンせんせーもいつも僕を気にかけてくれているよ」
「そっか。
わかった。死体だな。
用意してやるよ。
オレたちカラスが疑われるのは迷惑だ。
真犯人とやらをやつにしゃべらせろ。
おまえの力をみせてくれ」
「ああ」
言われなくても、見せてあげるよ。

□□□□□□

古森あまね

コリィベル内の一大勢力“新カラス”のみなさんに連れられて、あたしとくるとくんがむかった先は、彼のいる独房でした。
そこにいたのは、ニコ・オールドワンドさん。
格子のむこうで膝を抱え、座り込んでいた彼は、あたしたちをみると立ち上がり、こちらへ歩み寄ってきました。
「なにしにきたのさ」
「あなた、どうしたの。あたしたちは、新カラスの人にここに連れてこられて」
「古森。弓月。久しぶりだね。調子はどうだい。
僕は上々だよ。
地球でぬくぬくとしている弓月とは違って、ストーンガーデンでも修羅場をくぐったんだ」
ニコさんは、あたしには目もくれず、くるとくんだけを眺めています。
マジェスティックの切り裂き魔事件の時といい、彼が捕らわれている場面にでくわすことが多いのはなんでかなぁ。
探偵のくるとくんに対抗して、各地で犯罪をしてまわってるわけ?
以前には、ノーマン・ゲインを尊敬! するような発言をしていた記憶もあるし、心配な人です。
「マッドマーディガン」
くるとくんがつぶやきました。
「マッド。って、僕が狂ってるって意味か。
おまえに言われたくないよ」
ニコさんが、バカにしたような笑みを浮かべます。
「マッドマーディガンは、SWのジョージ・ルーカス原案のファンタジー映画“ウィロー”にでてくる剣士。
彼は宙吊りの牢獄に捕らわれている」
「いいご身分だね。
捕らわれの狂剣士か。なんにために剣を振るったんだろう。
僕は剣を使いはしない。
剣を振ろうとしたのは、僕が甦らせたシュリンプさ。
凶器は、銃だけどね。
やつは目をさますといきなり鴉赤紫に襲いかかったんだ。
おまえが好きなB級ホラー映画にでてくるゾンビそのもの。
鴉とその仲間にフルボッコにされて、シュリンプは今度こそ復活できなくなっちゃったんだけど、あいつら、僕がシュリンプをけしかけたと思ってるんだ」
今回のニコさんはあらぬ疑いをかけられているというわけね。
「あなたは、自分の誤解を解くためにあたしたちをここへ呼んだの」
「不正解。
全然、違うよ。
僕は呼んでない」
「あんたたちは、オレが呼んだ」
あたしとニコさんの会話に入ってきたのは、新カラスのリーダー、白学ランのクールな少女鴉赤紫さんでした。
「あんたはどうだが知らないが、そこのガキ。
弓月くるとは、ニコのダチなんだろ。
ニコがこうなってる以上、体張ってでも助けようとするのが、本物のダチだよな。
そうだろ、ニコ。
おまえが力をみせられなかった責任は、弓月にとってもらう」
「ムチャクチャ言わないでください。くるとくんは子供です。
ケンカなんてできないし、ニコさんとは、お友達かもしれないけれど、だからって、なんでくるとくんが」
「メガネ女はるせーんだよ。
すっこんでろ。
男の友情みせてくれ。弓月。
それともニコの言葉はデタラメか。
ニコのために生きて死んでくれるダチなんていないってか。
大好きな死人にも裏切られたばっかだしな。
やっぱ、おまえ、ダチいねーんじゃねぇの」
あたしを怒鳴りつけた赤紫さんは、抑えた口調でニコさんにもひどいことを言います。
自分も女のクセに、この人、頭、おかしいんじゃない。
「弓月の得意技は推理なんだよな。
だったら、ニコと一緒にシュリンプを殺したやつを探しだしてオレのとこに連れてこい。
それができたら、ニコのフカシ(大口)は許してやる。
期限はおまえらの滞在期限までだ。明日か明後日だろ。
逃げようとすんなよ。ゆりかごのどこでも、カラスのメンバーがおまえらを見張ってるからな。
できるか弓月。
ニコのケツ、おまえが持ってやれんのか」
「くるとくん」
話かけようとしたあたしの口を赤紫さんが手の平でふさぎます。
「口だすなっうーの。
母親ヅラしたてめぇが、いい子いい子して、かわいがってやってたら、ガキはいつまでも男になれねぇんだよ」
あたしは、思わず赤紫さんの手に噛みつきそうになりましたが、寸前のところで思いとどまりました。
ヘンな病気がうつったらヤだからですっ。
「マッドマーディガンは、牢をでて結局、主人公のウィローと世界を救うために魔女と戦う」
「弓月は自分を世界を救う主人公だと思ってるんだね。
錯覚さ。思い上がりだよ」
くるとくんとニコさんはこんな場面でも、意味のない言葉を交わしてる。
二人が仲がいいのか悪いのかあたしには、わかりません。
「僕を見捨ててもいいよ。おまえにはなにも期待してない。
おまえがもし、犯人を推理したら、僕のところにまた来い。
僕がそれを聞いて添削してあげる。
いつまでここにいるか、わからないけどね」
くるとくんに背をむけ、ニコさんは格子を離れました。
「赤紫さん。鍵を開けて。
ボクが、犯人を見つけてくるから」
「おまえが開けてやりな」
くるとくんに、赤紫さんが鍵を渡します。
牢屋からでてきたニコさんは、どこか居心地の悪そうな顔をしていました。
くるとくんにお礼も言わず、目も合わせないまま、
「シュリンプ殺しの犯人なんて、僕はもう分かっちゃってるけどね。
ちょっと意地悪させてもらうよ。
さぁ弓月。キミが本当に探偵を名乗る資格があるのかどうか、試させてよ。
どう捜査するつもりだい、少年探偵サマ」
「あなた、助けてもらっておいてそれはないんじゃないの」
「助けてくれなんて、僕は頼んでないさ」
まったくこの子は。