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オオカミさんにご用心

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オオカミさんにご用心
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 旅館のタノベさんの部屋では、碁石を打つ音が響いている。
 縁側に置いた碁盤で打っているのはタノベさんと藍澤 黎(あいざわ・れい)
 電気を消しているが、月明かりだけで十分。
 勝負はもう中盤。
 しかし、どちらも一歩も退かずにいるため、あまり差はついていない。
 1目、2目の間で揺れ動いている。
 黎は白い浴衣、タノベさんは黒い浴衣を着て、まるで碁を打つために用意したのではないかと思うが、たまたまこうなっただけ。
「パラミタの人たちが楽しめる和風……ですか」
「ああ。せっかく色々な種族がいるのだから、それを活かさない手はないと思う」
「たしかに……」
 黎が提案している旅館のプランにタノベさんは興味を示しているようだ。
 タノベさんは右上隅の急所に打ち込むと、にやりと笑った。
「いくつか実現できそうなものもありますし、やってみます」
「ああ」
 黎は無表情で中央に打つ。
「他にももしプランがあればぜひ聞かせてください」
 タノベさんは右上を厚くしようと中央には打ち込まず、右上に打った。
「では……ホイップ殿のプラン……なんてどうだ?」
 それを待っていたのは黎はタノベさんが見ていなかった左側の甘いところに打ち込んだ。
「おっと……やりますね。ホイップさんですか」
 左をカバーしながら、右上も厚くしていくタノベさん。
「何か借金を返すための働き口があればと」
 黎は右上に強い一手を打つ。
「実は……ちょっと考えているものがあるんです。少々お待ちいただけますか?」
「そうか……」
 タノベさんはその強い一手をかわしながら、中央へ切り込んだ。
「っと、勝負はここまでにしておきますか」
「そうだな。3コウになってしまった」
 そう言うと、2人は碁石を片付け始める。
「またいつか再戦を。なかなか楽しい勝負だった」
「そうですね。有意義な戦いでした」
 碁石を片付け終わると、黎は部屋を出て行ったのだった。


 翌朝、朝食のあとの散歩に行こうとして、エルの部屋の前を通った黎。
 扉が開いていて、中の様子が見えた黎はやれやれと肩を落とすのだった。