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●笑う門には……

 樹や託のいる敷地は大きく、そこに五十嵐 理沙(いがらし・りさ)の姿もあった。
「君が噂のユマちゃん? 私、五十嵐理沙」
 手を差し出し、理沙はユマを招いた。
「ユマちゃんってローラちゃんの友達よね? 私も同じ学校で、ローラちゃんとはハロウィンなんかで遊んだ仲よ」
「友達……そうとも言えます」
「あら、なんか含みのある言い方ね? 本当は仲悪いとか?」
「いえ」正座してユマは言った。「どちらかというと、『姉妹(シスター)』というほうが近いというか……義理の姉妹のようなものです」
「義理の姉妹ね? オッケィ。それならローラちゃんに伝えてほしいの、今日彼女、昼間だけしか出てなかったみたいだから……『仕事はすっかり慣れた? 校長人使い荒いからキッパリとムリって言ってやってもいいのよ?』って」
「はい、会えば伝えます」
 ユマを見て理沙は不思議に思う。義理と言ったところで姉妹ならばもう少し近いところがあってよさそうなものだが、まるでタイプが逆なのだ。ひまわりのようなローラと比べると、ユマは百合の花のようである。どちらも美しい花には違いはないが。
「さてさてそれでは」
 歌うように宣言すると、理沙は傍らに置いた包みをぐいっと紐解いた。
「花見には日本酒が必須よね。神宮に奉納されているお酒で、純米大吟醸にして入魂の逸品を持ってきたわよ」
 それはそれは惚れ惚れするような一升瓶である。日本酒ファンであれば泣いて喜び、そのためには死すら厭わないような逸品ではないか。そればかりではなく、
「ツマミは海産物が合うので、お刺身と大海老とサザエのツボ焼き。これぞ日本有数のグルメ県の味覚☆ さあ、とくと愉しむがいいわ!」
 七輪も準備してまさしくゴージャス、堂々、酒の栓を外した……かと思いきや、
「理沙……あなた、まだ未成年でしょ」
 めっ。
 おでこ、コイーン。
 理沙を停止させたのは彼女のパートナーセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)なのであった。
「え〜〜〜!」
 全力で『そりゃないよ』の顔を理沙は作った。
「だってさ、今度の五月十五日で二十歳なのよ。未成年だからってセレスも目くじら立てないで。一ヵ月位オマケしてくれたって……しくしく」
「嘘泣きしても、駄目なものは駄目ですわ。素面なのに何酔っ払いみたいなこと言っているの」
 半ば以上呆れ顔で、セレスティアは冷え冷えのビール……っぽいものを持ってきた。
「そんなに呑みたいのなら……0.00%アルコールフリー飲料を持って来てあげましたわ。これで我慢しなさいな」
 ところが理沙の『そりゃないよ』顔は解けない。
「アルコール飲料ってこのビールモドキ? 夜桜にビールは邪道よ。日本人ならここは日本酒……」
 ここでふたたび、おでこ、コーン。
「あいたたた……しかもこれ只のビール味炭酸飲料じゃない…一部コンビニでは未成年でも買えちゃうのよ」
 豆知識だ。なお、一部では買えないらしい。それもそのはず、メーカーは二十歳超えてる人が飲むことを想定してると言っているそうだ。扱いが難しいのである。
 閑話休題。
 理沙はぶーたれつつも缶を手にした。
「これじゃ夜桜の楽しみ半減よ。飲むけど……」
 それを見てユマもご相伴にあずかった。
「それでは私も……」
 というわけで理沙はユマと共に、行楽弁当を楽しむのであった。
 これはセレスティアが腕によりをかけたもので、ソーセージはタコさんで。リンゴは飾り切り活用の白鳥さんという、眼にも嬉しいものなのだった。
「理沙もその日本酒、二十歳を越えている方に振舞いなさいな」
「くー、自分が呑めないだけにクヤシー!」
 言いながら理沙はさっそく、通りかかったカエルのゆる族にこれを勧めた。
「そこのきみ! 日本酒飲まない? え、七歳? まあ、ゆる族だったら黙っていたらバレないと……あっ、セレス」
 またまたおでこ、コーン。