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朱色の約束

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序:プロローグ





 天気予報でも雨の確率はほぼゼロと言う、良く晴れたその日。
 何事もなく、穏やかに過ぎるはずの日常の最中に、その一報は各々に届けられた。
 

「緊急事態、でありますか?」
 大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)が硬い声で呟いた隣で、ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)はむう、と眉を寄せた。
 二人は丁度ツァンダで買い物をしている最中だったのだ。折角のデート(とはいえ、ヒルダが買い物につき合わせているだけだが)を邪魔されたことに不満そうな顔をしていたが、何事かやり取りをしている丈二の言葉を漏れ聞くに、どうやら内容が救助要請であると悟って、もう一息をついたときには、既に揃って軍人の顔をしていた。
「了解。直ぐに合流するであります」




「ツァンダ駐留基地への連絡と、物資支援の交渉は一任するわ。合流するまで、できるだけ各方面への手配を」
 頼んだわよ、と丈二へ通信を終えた教導団大尉のスカーレッドに、こちらはツァンダ近郊のイコン基地に出向いていた一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)から通信が飛び込んだ。
『基地長から許可が取れました。基地の各種設備、並びに弾薬、人員などの物資を提供してもらえるそうです』
 イコン破損時の受け入れについても交渉中です、と続く言葉に、スカーレッドはふっと口元を和らげた。
「後方に憂いが無いのは、頼もしいことだわね」
 言って引き続き後方を任せ、その間も走らせていたバイクのアクセルを、スカーレッドは強く踏み込んで速度を上げた、その時だ。連絡を受けて直ぐに飛び乗って追いかけて来たのだろう、おっとしりた持ち主の見た目に反して、やたらとごついバイクを、クローディス・ルレンシア(くろーでぃす・るれんしあ)を乗せたスカーレッドのバイクの横に並ばせると、ツライッツ・ディクスは苦笑気味に「またですか」とため息をついた。
「無茶はしないでくださいって、何度も言ってると思うんですけど」
 せめて後方支援に留まっていてもらえないか、と言わんばかりの苦言を向けたが、クローディスは聞こえてないふりだ。いつものことなので、何とか説得してもらえないかと、やはりこれもいつものようにスカーレッドへと視線をやったが、普段は一応フォローなり何なりを入れてくれるはずのスカーレッドは、目線もくれすに真っ直ぐ前を向いたまま、ツライッツの言葉に乗ってくる気配が無い。真剣さとはまた違う妙な雰囲気に、説明を求めるようにクローディスに視線を送ったが、こちらも首を振るばかりだ。
「……一体、どうしたんです。ゴーレムの軍勢が向かってきている、って言うことだけじゃないんですか?」
 もっと何か、深刻な状況なのか、とその声は言いたげだったが、スカーレッドは否定するでもなく首を振る。
「説明している暇はないの。今はあれをどうにかするのが先決よ」
 はぐらかすように言って、その視線の先の土埃を見やりながらも、スカーレッドの目はそれより尚、どこか遠くを見ているようだった。