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今年もアツい夏の予感

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今年もアツい夏の予感
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その2:ほかほか我慢大会も始まります。


 さて……。プールの水が抜けるのを待つ間に、ちょっとだけ我慢大会の様子に視点を移してみましょう。
「救命救急医師を引き受けることになったダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だ。呼吸が止まっても直後なら何とかなるから大事には至らんだろう」
 サウナの前。これから我慢大会に挑む参加者たちに力強いエールを送ってくれたのは、教団から派遣されてやってきた医師のダリルでありました。医療用の大型テントまで用意して万全のお出迎えです。彼が軽く見渡しただけでも、心もとなさそうな参加者が結構見受けられます。雰囲気的にも身体的にも。口には出して言いませんが、倒れるでしょう。ええ、それは派手に途中棄権してくれるはずです。忙しくなる予感がヒシヒシとしています。
「皆の健闘を祈っている」
 そんな彼の台詞にゴクリと唾を飲み込んだのは、我慢大会で一皮むけようと参加を決めた、【魔法少女ポラリス】こと遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)でした。これからアルプスへとスキーにでも出かけるような厚着で、事前のやる気は充分にうかがえましたが、参加者たちをみて弱気になったようです。涙目になってガクガク震えだします。
「そ、それって……呼吸が止まること前提のような気がするんだけど。私……死ぬの……?」
「やる気を削いだり他人の不幸を期待するつもりは毛頭ない。ただ……覚えておいてほしい。俺がいる限り死にはしない、と」
「そういうこと、よ。ダリルが救護要員してるから、心置きなく倒れていいからね」
 サラリとそう言って微笑んだのは、ダリルたちと一緒にやってきたルカルカ・ルー(るかるか・るー)です。彼女、凄いんです。今回、教導団の他のメンバーとともに我慢大会に参加することになったわけですが、『ファイアーリング』とか防御系スキルいっぱい装備しています。もう炎熱対策バリバリ勝つ気十分で、その一切躊躇のない大人げのなさは見ていて清々しくなるほどです。『黄金の闘気』で金髪が逆立っています。スーパーの名がつく宇宙戦闘民族みたいなオーラを全身に纏い、今にも敵を倒さんばかりの気合が入っているのですが、そんなルカルカの姿を見ただけで寿子はその場で腰を抜かしそうなほど怯えています。
「あ、あわわ……あううううぅぅぅっっ。やっぱり私、倒れるんだぁ……途中で死んじゃうんだぁ……」
 サウナに入る前からリタイヤしそうな表情の寿子。何と言いますか……金髪逆毛のスーパー宇宙戦闘民族とガチで戦うことになったヤムチ(以下略)みたいで、明らかに勝負はついています。
「そんなに怖がらないでよ。楽しく頑張って、終わったら思い切り泳ごうね」
 手を差し出すルカルカですが、寿子はパートナーの【魔法少女アウストラリス】、アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)の背後にさっと隠れてしまいます。あらら……と苦笑するルカルカ。
「すいません、ルカルカさん。彼女……悪気はないんです。他人と接するのが上手くありませんけど、きっと頑張れますから……私がサポートしますから……ともどもよろしくお願いいたします」
 こちらももこもこしたジャンバーの下に大量のカイロを装着しているらしく、着ぶくれ状態ですが、平然とした口調でアイリはぺこりとお辞儀をします。
「いいのよ。こちらこそちょっと馴れ馴れしすぎたかしら。でも……一緒に仲良くしたいね、って気持ちは本当だからね」
 アイリのフォローにルカルカは気さくに答えます。
「ありがとうございます」
 表情を和らげるアイリ。そんな彼女たちを牽制するようにじっと見つめ返したのは、シャンバラ教導団の威信を背負って我慢大会に挑む小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)です。
「悪いことは言わない。退散するなら今のうちだ。教導団が敗れる確率が0%であることは間違いないのだからな」
 サウナに入る前から防寒着を何枚も纏い分厚い手袋をしマフラーを巻いている小暮は、国軍の我慢強さと粘り強さそしてどんな強敵にも怯むことの無い勇気を他の参加者にも見せ付けようと腕を組み胸を張ります。
「……こら。教導団員が、むやみに他校の生徒を威嚇しちゃだめでしょ。国軍は善良な市民を怖がらせるためにあるんじゃないわ」 
 ルカルカはペシリと小暮の頭を叩きながら、サウナの扉を開き参加者たちを招き入れるように中に入っていきます。すでに、内部は熱気流により蜃気楼が立って見えるほど温度が上げられています。
「うむ……そんなつもりは無かったのだが。おかしいな、早くも頭がぼんやりしてきたような気がする……。思考能力は通常の30%くらいかもしれない。だが、暑くない。断じて暑くはないぞ……」
「熱帯雨林での作戦だと思えばなんとも無いわ。いつもどおりに行けばいいのよ。イベントなんだから、楽しく遊びましょ」
 ルカルカは涼しい顔をして、熱風のゴウゴウと吹き出る噴出孔の下あたりに陣取ります。
「さっそく始めましょ。ほらほら、秀幸もこっち来なさい。それほど悪くないわよ」
 意外と広い特設サウナ、小暮はそんなルカルカの手招きはよそに、置かれていたコタツに入り込みます。
「ふう、寒いな……雪が降る確率は、マイナス100%だ」
「学食券が欲しいのはわかったから、少し落ち着きなさい」
 ルカルカは、勝たねばならぬと気合入れまくりの小暮の緊張を解きほぐすように微笑みます。
「そ、そっかー……。熱帯雨林で……敵と戦うことあるのかな、魔法少女が……」
 寿子も不安げな表情ながらも心を強くもってサウナに入っていきます。そんな彼女を支えるように、アイリももこもことついていくのでした。
 かくして、我慢大会は始まります。