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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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第1章 長屋のお天気は台風並み!? Story1

 座敷わらしばかり大切にされ、お供え物をもらえない猫又は怒ってしまい、ゴシゴシと顔を洗って大雨を降らせる。
 長屋の住人は妖怪の少女の怒りを静めるようと、彼女の大好物であるかつおぶしをあげようとするが…。
 ずっと放置されていたのだから、そんなものだけで許してくれるはずもない。
「大雨だけじゃ、お仕置きにならないみたいようだにゃ。大嵐を起こしてやるにゃーー!」
 さらに怒った猫又は大雨のお仕置きだけじゃ気が済まず、建物が吹き飛んでしまいそうな突風や、長屋の周辺に落雷が落ちる大嵐を起こす。
 困った住人は座敷わらしに相談しようと社へ向かう。
「かつおぶしだけ、そのままあげるんじゃ満足しないと思うよ。わらしがもらったご馳走よりも、もっと美味しいー料理をあげてみてよ」
「長屋の住人の中に、すげぇーウメェーもん作れるヤツなんていないべさぁー」
 しかし、ずっと大嵐が続くと農作物が腐り、収穫が出来なくなってしまう。
 この大嵐を止めるためには、猫又を捕獲して説得するしかないのだが、足が速い者がいないためそれも不可能だ。
 彼らは1つの家に集まり、怒りを静めてもらえる方法を考えてる。
「ほう、お供え物が必要なのか。私たちが作ってやろう」
 住人たちの話を聞いた透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)は、戸を開けて無遠慮に家の中へ入る。
「この嵐では、作って持ってくるわけにもいかないからな…。台所を借りたいのだが…、よいか?」
「座敷わらしにお供え物を作ってくれたお嬢ちゃんたちでねぇか。遠慮なく使ってくれ」
「さて、材料を買ってくるか」
 透玻が引き戸を開けると、木が折れそうな強風が吹いている。
 だが、外に出なければ材料を購入しに行くことも出来ない。
 2人は傘を開き外へ出た。
「…物理的に凄い事になってはいるが。ええい、傘を差していても服が濡れる…!」
「小型飛空艇で運ぶと、荷物を突風に飛ばされてしまうかもしれませんね」
「拾って積み直すのが面倒だな…」
「透玻様。雑貨屋で必要な材料を購入した後に、米問屋へ行きましょう」
「重いものは最後に買いに行くほうがよいな…。それにしても、なかなか前へ進めないのだが…っ」
 透玻たちは傘が壊れないように中棒を握り雑貨屋へ向かう。
 そこへたどり着いた透玻は体力を消耗し、ぜぇぜぇと息をきらせている。
「はぁ…。買い物するだけで、なぜこんなに疲れるのだ…」
 璃央に傘を預け、嵐が酷くなる前に買い物を済ませようと、材料をカゴの中へ入れる。
「…透玻様、重いものは私が持ちますよ?」
「すまない、砂糖だけ頼む」
 会計を済ませると、璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)に砂糖を渡し、傘を受け取る。
「次は、米問屋へ行くんだったな…」
 もち米やうるち米を購入しようと、傘を開き店の外へ出た。
 透玻と璃央が米問屋へ向かっている頃、天城 一輝(あまぎ・いっき)たちも住人たちが集まる家へたどり着く。
「(また妖怪を怒らせたのか…)」
 ご利益を受けているのに、長屋の者が彼女たちを大切にしているように思えず、はぁ…と嘆息する。
「座敷わらしに会うのは、これで3度目ね」
 一刻も早く座敷わらしと再会したいコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は家の戸を開ける。
「あれっ、どうしてここにいるの?」
 社にいると思っていた少女の姿を見たコレットは、驚いて目を丸くした。
「うーん。そろそろ、コレットお姉ちゃんたちが、来るかなーっと思って、ここで待ってたんだよ」
「そうだったの。それにしても久しぶりね。ちゃんとお供え物もらえてる?」
「いっぱいもらってるよ。社のお掃除もしてくれるし」
「ちゃんと大切にしてもらってるのね」
 彼らは妖怪を軽視しているのか不安だったが…。
 住人たちを心配したり、コレットとの再会を喜んでいる座敷わらしの表情を見ると、大事に扱われていることがすぐに分かった。
「(確か最後に会ったのは、夏祭りだったか)」
 嬉しそうなコレットを見た彼まで嬉しくなってくるが、いくつか言っておかないとな…と、住人たちの方へ寄る。
「この中に村長はいるか?」
「おらんなぁ」
「何…、いないのかっ。まぁ、それはいい。座敷わらしの一件もそうだったけど、あんたたちは妖怪のことをないがしろにしすぎじゃないのか?」
「座敷わらしのことが解決して、うっかり忘れてしまったかもしれんなぁ」
「今回は、料理や神楽舞で妖怪をもてなしているから、それを見て次からはあんたたちが妖怪をもてなすんだ。そうでないと、いつまでも繰り返すだけだぞ」
「んだなぁ、すまなんだ」
「(うっかりでこんなことばかり起こるのかな…)」
 長屋の人々はひょっとして天然なのだろうか。
 一輝と彼らの会話を聞きながら、コレットは妖怪たちに同情する。



「皆、ここに集まっているのか」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は戸を開け、閉じた傘を玄関の壁に立てかける。
「ふむ?妖怪ならば掴まえて懲らし…」
「しかしなぁ。猫又が満足するようなお供え物をせんと、嵐を止めてくれないんだ」
「(な!?猫又…だと?)」
 住人が言う“猫又”という単語に反応したレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)が、セリフを強制終了させた。
「えぇと…。長屋の皆様もお困りでして、私も少々困っておりますが、猫又さんにも事情がある故に手荒な真似は出来ませぬ。何とかご機嫌がとれれば良いのですが…。マスターにレティシアさん、何か良案は御座いませんでしょうか?」
 力任せに捕まえても説得出来るはずもなく、何かよい策はないかとフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)はパートなーに聞く。
「ふ、ふん…。単なる我儘ならば無暗に暴力を振るう必要もあるまいて。我としては戦えないのならば興味は無いが、…仕方がない」
 見た目通り、普段はクールなレティシアは、猫又に手荒な手段で捕獲しようと考えている連中がいないか、周囲にいる者たちを睨む。
「まぁ、流石にその状況は暮らしてくのに支障はあるよな。やっぱ美味ぇ料理でも作って、ご機嫌取りするしかねぇんじゃねーか?つーか…(何だ?レティシアの奴なんか怖ぇな…)」
 目を合わせた者をナラカに落としてまうのでは、と思うほどレティシアは恐ろしい目つきをしている。
「(うわ、こっち見た!超こぇええーっ)」
 今の彼女と目を合わせるのは危険だと思い、ベルクは彼女と目を合わせようとしない。
「普段モミジとサクラの二匹と共におり、猫に詳しい我が協力しようぞ。さあフレンディス、我の猫又料理作成を手伝え!行灯の油でも何でも作ろうぞ。ベルクは猫又のご機嫌取りでもしておくがいい!!」
「私、和食しか作れませぬが…解りました!頑張って猫又さんのお気に召す魚料理を作りましょう。でも猫又さんって行灯の油が一番の好物と聞いたことも御座いますので、鰯料理が良いのでしょうか?」
「鰯料理つっても、どんなもんを作るんだ?」
 気に入るようなお供え物を用意するとなると、好物ならどんな料理でもいいというわけにもいかない。
 何を作るかもう決めたのかとベルクがフレンディスに聞く。
「そ、そうですよね…マスター。それとも猫さんなのできゃっとふーどの方が良いのでしょうか?」
「フレイ、それも機嫌を直すのは難しいんじゃないか。相手は普段食べたことがないような、美味いモンをよこせと言ってるみたいだしな。あぁそれと…猫だし、山椒とか入れない薄味のモンな」
 困っている想い人の彼女に相談に乗りつつ、刺激物を使わないモンがいいのでは、と言う。
「つみれ汁とかはどうだ?キャットフードは料理が出来るまでの前菜みたいなもんだな」
 料理を作る者フレンディスだけなら問題なさそうだが…。
 あまり難しいものを作るとレティシアによって、謎料理的な危険物に成り果ててしまうだろうと思い、簡単な料理を提案した。
「はいっ。それくらいなら、なんとか作れそうです」
「普段、俺が教えてやってれば、もっと違うもんが作れたかもしれないけどな」
「そうですね…。こうして料理を作る機会が増えるかもしれませんし…」
「…まぁ、今回は教えている時間もないしな」
 なら一緒に暮らさないか、なんて今は言い出せるはずもなく、フレンディスに言ったとしても意図が伝わる確立はゼロに近い。
「ふぅ…、買出しに行ってくるか。(何で俺がこんなことしねぇといけねーんだ)」
 ベルクは嘆息しつつ、彼女のために材料とキャットフードを買いに行く。



「猫又が喜ぶのって、どんな感じの料理かな?皆にも食べてもらいたいし…。うーん…」
 やっぱりかつおぶしを使ったものがよいのだろうか…。
 妖怪の少女だけでなく、他の人にも食べてもらえるようなものを作りたい。
 コレットが悩んでいると、猫又が暴れていると聞きつけた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)たちも、家の中に駆け込んできた。
「ふぅ、酷い大雨ね」
「私は料理を作りますから。美羽さんは皆さんが到着したら、猫又を捕まえてください」
「分かったわ」
「コレットさん。何を作るか決まってないんでしたら、一緒に作りませんか?」
 考え込んでいるコレットにベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が声をかけ、一緒に料理を作ろうと誘う。
「猫又だけじゃなくって、他の人にも喜んでもらえたらいいなって思っているの。どんな料理がいいかな?」
「マグロ料理のフルコースはどうですか?」
「それいいね。マグロとご飯以外に、必要なものはある?」
「胡麻油もほしいですね。とりあえず、それくらいあれば十分です。猫又さんが食べられないものを他の方が美味しそうに食べていると、へそを曲げてしまいそうですし」
「うん、自分が食べられないものを食べているのを見るのってイヤよね。…ねぇ、その中にマグロが入っているの?」
 コレットが大きなクーラーボックスへ視線を向ける。
「海京の冷凍マグロを持ってきたんです。痛まないように、ボックスの中に入れてあるんですよ」
「じゃあ必要なものは、お米と胡麻油ね。一輝、買ってきて」
「油は雑貨屋か?」
「日用品もあるっぽいから、その店ね。あっ、誰か来たみたい」
 “誰かいない?開けてー”という声が聞こえ、コレットが戸を開けてやる。
「ふぅ、凄い嵐だなぁ。んっ、今から買出しに行くんだね?」
 声の主である佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は家に入り、買い物袋を抱えている一輝を見つける。
「料理は得意じゃないからな。これから材料集めに行くところなんだ」
「ごはんも買うの?」
「あぁ、そうだけど…」
「同じもの買うなら共同購入して、1袋でいいんじゃない?」
 余った分を持って帰るよりも分けようよ、とコレットが言う。
「うーん…5kgあれば十分だろうしな」
「先生、お財布からお金ちょこっと出してくれる?」
「これくらいで足りるかな…」
 真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)は財布からお金を出し、弥十郎に渡した。
「分けてもらう程度だし、それくらいあればよさそうだね」
「買ったらここに戻ってくるから、この家の中で待っててくれ」
「行ってらっしゃい」
「弥十郎、買う材料を紙に書いて」
「一応、油性ペンで書いておいたよ。雨に濡れて見づらかったら電話してね」
 米やササミなどの欲しい材料をメモ用紙に書き込み、真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)に見せる。
「分かった、行ってくるね!」
「…それにしても、凄い嵐だな。来た時よりも酷くなっている気がするんだが…」
 材料が足りないから、いろんな料理が作れない…とコレットをションボリさせるわけにもいかず、一輝も買出しに行く。