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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

リアクション

 突然ではあるが、ダリルは数名の協力者の元、屋敷の中に小型のカメラを設置していたりする。彼等はただのぶつかり合いと思っているがしかし、ダリルは危険度を理解する事を優先した。敵に遭遇するよりも先に、敵が来ることを身構えている方が早いに越したことはない。と。だからこそ、此処に至るまでの突然の訪問者で彼が驚きを感じた事はなく、全てが予定調和と言った体で部屋を見回してた、が、それは此処で、停止する。
 静かにトレーネの淹れた珈琲を口に運び、自らの前に置いてあるパソコンに目を向けていた彼はしかし、そこで一気に表情を変える。
立ち上がった彼はそのまま一同に聞こえる様に大声を上げるのだ。「敵が来たぞ」と。

「ダリル! どういう事!?」
「俺が仕組んだ訳じゃない。知らないよ」
「敵は何人単位なんだ?」
「詳細は不明、ただし言える事は――今此処に集まっている人数よりも多い」
 ルカルカ、グラキエスの問いに順を追って答えた彼は、しかし自らも武器を携えて扉へと向かった。
「敵はすぐそこにいる。良いな、くれぐれも――」
「出番やで」
 言いかけている最中で、泰助の声が聞えた。勿論、彼の言葉に反応したのはフランツ、レイチェル、顕仁の三人――だけではない。アルテッツァも共に立ち上がり、それぞれがそれぞれに、まるで口裏を合わせていたかのように、楽器の置いてある椅子へと着座し、楽器を手に取った。
「何をする気だ?」
 故に思わず、壁に凭れ掛かり、今まで全く口を開かなかった馬超がそこで、初めて声を上げる。
「何言うてるん? 楽器は奏でる為にあるんやろ。だから今から演奏すんねや」
「相手も楽器を奪いに来ている筈。我々が持っていれば、そうやすやすと奪う事は出来ませんから」
 泰助の言葉の続きをレイチェルが述べ、そして一同は奏で始める。

 これはまた、違った趣の旋律だった。

「アキュート! アキュート! 楽器が呼んでいるのです。と言う事で、楽器に合わせてペトも歌っちゃうのです!」
「はぁ? んー、まあじゃあ……いいんじゃねぇの?」
 きょろきょろと辺りの慌ただしさに目を向けていたペトが、元気よくウーマに跨り、彼の側面を踵で蹴る。
「ぎょ!? それがし馬では――」
「早く行くのです! 出遅れてしまいます」
「ぎょ! それが――ぎょ!」
 数回踵を側面に入れられ、泣く泣く楽器の近くへと向かうウーマ。と、ペトは何処からともなくギターを取り出し、五人に聞こえる様にそれを奏で始めた。
「お、なんや嬢ちゃんもやるねや! ええよぉ! 此処は楽しもや!」
 ギターだけだった部屋の中の音色が次第に膨れ上がって行くのは、それぞれがそれぞれのタイミングで、楽譜のない旋律を奏で始めたからである。ウーマに乗ったペトは、次いで数回咳払いをすると歌い始めた。

 軽く弦を 爪弾く
 澄んだ音色 鳴り響く

 沁み込んで行く 月夜に
 ほら歌い出す 仲間も
 重なってく 弾き手の
 想い越えて 響く

 退屈してた 神々も
 聞き惚れる 程に
 闇照らす 星々の
 輝きの ように

 流れる音色に合わせ歌う彼女は、一頻歌い終えると満足そうな笑顔になって、ウーマから楽器を見下ろした。
「やはり楽器さん達も、歌いたかったのですね。漸く歌、聞けました。またペトと、歌ってくださいね」
 その歌が終わったのを皮切りに――扉がけたたましく鳴り響いた。

「この扉を速やかに開け、中の楽器を我々に寄越すのだ! 三秒待ってやる。今すぐ演奏をやめて扉を開けよ!」
 ハデスの声が響き渡る。
「あれ、この声何処かで……」
 凶司がふと顎に手を当て記憶を巡らせるが、それよりも先に三カウントが終わり、強引に扉が開く。
「今日の我々をいつもと同じに思うなよ? 皆の衆。こんばんは。御機嫌よう、そして――さようなら」
 開け放たれた扉の真ん中。ハデスが指を鳴らすと、扉の両脇から無数の敵が現れて構えを取っていた。
「やっぱりハデス様……いつもと違って凛々しいですね! いや、いつも凛々しいですけど」
 アルテミスの言葉を聞いた十六凪は、しかし何処か腑に落ちなさそうな顔を浮かべてハデスを見つめた。何が違い、そのきっかけはなんであるのか。それを理解、出来なかった。
「大人しく楽器を渡せば良いのだ。まあ、初めから貴様等の命の保証は出来んがね」
「ハデス……貴様っ!」
 コアが口惜しそうに声を荒げるが、最早誰の言葉も聞いていないだろうハデスが、兵士たちに命を下す。
「やれ」
 返事はなく、彼等が部屋にいる面々に攻撃を始めたのは、その号令から僅か数秒の間。彼等は慌てて攻撃を防ぎつつ、反撃しながらも誰も楽器の方へと向かわない様に敵を足止めし始めた。
「くっ! 数が多い! ラナロック、貴様なんとかできんのか!」
「この状況では流石に、難しいですわね……」
 馬超の雄叫びが響き、数人の兵士が一気に出入り口まで吹き飛んだ。
「此処は通さんよ」
「その心意気だ! 私達も行くぞ!」
 巨体を生かし、握り拳をそのままスイングしたコアは、敵を纏めて三、四人捉え、ラリアットの様な形で以て馬超へ放る。
「馬超! 受け取れ!」
「承知した」
 手にする槍の石突で数回床を叩いた彼は、今度はそれを思い切り地面に叩きつけ、槍から手を離して体を低くした。
「一匹ずつ倒していては埒があかん。まとめて倒すとしよう」
 敵がコアから投げ飛ばされ、馬超に近付くその状態で、数秒間宙に浮き、刃の重みで地面と水平になったそれを、いつの間にか彼の後ろに回り込んでいたアキュートが思い切り蹴り飛ばした。片一方を蹴り飛ばしている以上、それは回転しながら進み、今飛んできた兵士を両断してなお、凶悪な風切り音を発しながら飛んで行く。
「ナイスパスですよ。ってまぁ、俺は槍をあまり使った事がないんで、渡されたところで困りますがね」
 回転し、飛んでいたそれを受け止めたのは唯斗だった。受け止めた、と言うよりは、回転している中心に手を突っ込んで握り、回転を止めた。と言う方が、適切な表現ではあるが。