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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

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【神劇の旋律】旋律と戦慄と

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 こちらはこちらで。それはもうどうしようもない程に潮時だった。思えばそれは、彼女が味方を次々に殺害していた時から、決められた事だったのかもしれない。
手駒を失った彼等は、自身たちで対峙するより他に手を持たず、故にそれは、かなり危険なものだった。先がある、先がないにかかわらず、賭け値が殆ど存在しないに等しいギャンブル。故に彼等は、何処か敗北を感じていたうえで戦っていたのだろう。
その場にいる全員が、これまた盛大な肩透かしをされた感を覚える程に呆気なく。二人は再び門前に集まった。
 男と対峙していた彼等、彼女等に怪我はなく、女と対峙していた彼等、彼女等はたった六度の攻撃を受け、しかもその全てが外れ、地面を抉っただけで、急速に物語はしぼんで行く。何のために、何をしに、此処に来たのか。皆がそれを疑問視する程に呆気なく、幕引きは訪れた。
「おい。夜が明けるぞ」
「それは困ったわね」
 二人がそうやり取りをしたものだから、彼等は全員で息を呑んだ。が、二人の言葉は、全員が思っている程に恐ろしい発言ではなく、寧ろその逆だった。
「奪えなかったのであれば仕方がないな。今回はさよならの時間だ」
「シンデレラは十二時になったら慌てて帰るものなのよ。それがたまたま、十二時ではなく夜明けであると言うだけの、そんな話なの」
 二人は言いたい事だけ言って、去って行く。捻じれた空間が現れたり、その中に飛び込んで行ったりと、まるで現実と言う話を度外視しているがしかし、その場の彼等としてみれば、そんな事はどうでも良かった。
無傷で退ける事に成功した敵は、しかし本気で命を奪おうとしていた彼等の渾身の攻撃を、無傷とは言わないまでも軽傷程度で、帰って行った。それはもう、良く考えなくともわかる事である。
 相手は息ひとつ切らす事無く刃を交え、しかし彼等は既に、立っているのもやっとな程に疲弊していた。それが差異であり、それが現実として突きつけられた。
「あれ……結局誰だったのかしら」
 地面にへたり込みながらに呟いたシェリエの発言は、きっと誰も答えを持たない。ただ一つ言える事は、男が述べた一言。

「今はさようなら」

 次回があると、そう言う事らしい。だからこそ、彼女の両足は自重を支えるだけの気力を失った。ああ、またあの敵と対峙する事があるのだと、嫌気がさす意味を持って。
「兎に角、今は帰ろうよシェリエ姉。皆も疲れてるしさ……まずはトレーネ姉に相談してみないと」
「そうね」
 疲れ切っている一同に肩を借り、シェリエがゆっくりと立ち上がった。立ち上がったところでそれは、最後の最後のダメ押し程度であるにせよ、発動する。

 五体満足、ただ気を失っているだけの、彼等に使われていた男たちが突如として、この世の物とは思えぬ奇声を一斉に――それこそ何百にもなる彼等が、上げた。

 周囲の人間の精神をむしばむ様に、凶音が響き渡る。

 耳を塞いでも聞こえてくるのはきっと、彼等からの最後の呪い。

 忘れるな ―― と言う類の、宣戦布告。


 そしてその凶音の元凶は、全く同じタイミングで全てが全て。全員が全員。罪ない彼等がそこで――絶命した。