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リアクション
4章 「目覚めの時」
〜荒野・上空・高高度地点〜
「ん? なんだ……古代兵器のパラメーターが……急速に変化している……?」
和輝のモニターに表示されている古代兵器のパラメーターが急速に書き換わり、
先程とは全く違う物へと変化していく。
今までの取集データが役に立たなくなるほどに。
「それだけじゃない、これは……なんだ……中心から熱量が上昇……このパターン……まるで、
生物そのものじゃないか……おい、アニスッ! 詳細情報を……アニス、聞いているのか!」
和輝はアニスに呼びかけるが応答はない。
後ろを振り返ると、アニスは目を開けてはいるものの、その焦点は定まっていない。
何かを呟いている。
「……主……誰……怖い、いし……き……こっちに……くる…」
「アニスッ! おい、その声に耳を傾けるな! 聞こえていないか、ならば……」
和輝は目を閉じ、精神を集中させ、アニスの精神に語りかける。
(アニス……いいか、落ち着いてよく聞け……他の声を聞くな……俺の声だけを聞くんだ……できるな?)
(か……ず……き? かず……き……う、ん……聞くよ……か……ずきの声、だけ……)
(そうだ……それでいい……他の声は無視しろ……)
(かず……き、かずき……和輝ッ!!)
アニスが意識を取り戻し、和輝は安堵する。
「ごめんね……なんか、どこかで聞いたことのある声がして、それからあんまり覚えてない……」
「気にするな、それよりも古代兵器が変化した、それも急激にな。データを解析してテメレーアに送るぞ」
小さく返事し、アニスはモニターと端末を操作し始めた。
〜古代兵器・艦首付近〜
IRR-SFIDA【スフィーダ】バルムングを駆る、
ラヴェイジャー猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)とバトラーの機晶姫セイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)は
古代兵器の急激な変化を間近で目撃していた。
「おいおい……なんだよ、あれは!! 主砲とか、なんか歪な形に変化してやがるぜ……」
「何を言うんです、あの程度の変化など……恐れるに値しません」
(そんな、あんな急激な変化をするなんて……一体どうしたら……)
古代兵器の艦首部分には紅い瞳のようなものが出現し、大きく口を開け、咆哮する。
それは既に艦首ではなく、頭部といえる形に変化していた。
側面からは巨大な手足が出現し、戦艦の姿から、機械の獣の姿へと変貌を遂げていく。
それに伴い、武装も凶悪で、歪……どこか不気味さを感じさせる形へと変わった。
歪な形の主砲がバルムングを捉え、砲撃を開始。
実弾、ビーム、レーザーの入り混じった砲火は容赦なくバルムングに襲い掛かる。
「うわぁッ! そんなに色々混ぜるなんて反則だろッ!」
咄嗟に回避行動を行うが、いくつか着弾し、多少のダメージを受ける。
「くっ……これしきのダメージ……!」
セイファーはその身に感じる痛みに耐えながら、バルムングの出力調整に集中する。
ダメージを受けた部位の動作の遅れを修正しながら、勇平が最適な条件下で操縦できるように調整していく。
「やられてばかりってのは性に合わないからな! 今度はこっちから行くぜッ!」
バルムングは浴びせられる砲火を巧みに避けながら主砲に迫った。
高初速滑空砲を構え、数回の砲撃後コロージョン・グレネードをばら撒いた。
砲弾が着弾し、開いた穴の中にコロージョン・グレネードが入り込んだ。
主砲は内部から溶け、その機能を停止する。
「よし! 完全に破壊せず、機能停止追い込めば修復はされない……思った通りだ!」
「そんなこと、誰でも考え付きます。浮かれないでください」
(凄い……そんな事、考え付きもしなかった、勇平って……凄いなぁ)
離脱しようとしたバルムングを突如強力な衝撃が襲った。
機体は衝撃に吹き飛ばされ、激しく回転しながら荒野の丘に叩きつけられた。
「うわああああああーー!!」
「きゃあああああーーーッ!」
機体内にダメージの危険域到達を知らせるブザーが鳴り響く。
勇平は頭を振り、体を起こすと、モニターにはひびが入り、
座席の近くの精密機器のいくつかが壊れて使用不可能になっている。
体を動かそうとすると激痛が走る。
「くそ……何が起きて、セイファー……大丈夫か?」
呼びかけるが応答はない。
「セイファーッ! 返事をしろ! おいっ!」
再び呼びかけても応答はなかった。セイファーの姿を表示しているモニターで確認すると
息をしているのは確かのようだった。
「……気を失っているのか……しかし、どうにか艦まで戻らないと……」
フラフラと立ち上がるバルムングに先程の衝撃を与えた張本人、古代兵器の巨大な腕が迫った。
「なっ……!? ならば……これで!!」
よろめきながらも、バルムングは巨大な腕に対し機神掌を放つ。
相殺とまではいかないが、後方に吹き飛ばされるだけで済んだ。
バルムングはその場に膝をついた状態になる。
「右足と……腕が使用不可能か……変形も……無理か……くっ!」
迫る古代兵器の腕。
「動いてくれッ! バルムングッ! こんな所で終わるわけにはいかないんだッ!」
願い空しくバルムングが動く様子はない。
その時、迫っていた古代兵器の腕が何者かによって受け止められた。
勇平はその者を確認しようとするが、意識が朦朧としている上に
光が正面から入っている為、黒い影のようにしか見えない。
黒い影は鬼刀とアンチビームソードで巨大な腕を受け止め、弾き返した。
数度、巨大な腕が迫るが、その度に難なく受け止め、弾き返している。
黒い影は跳躍すると、鬼刀で巨大な腕の手の指を切り落とし、振り返り様に
アンチビームソードで手首を両断する。
しかし、巨大な腕の再生速度は早く、切断された腕ごと修復してしまった。
黒い影は怯むことなく勇猛果敢に立ち向かい、バルムンクへ攻撃がいかないように
立ち回っている。
「あれは……いった……い……」
黒い影の正体を確かめる間もなく、彼は気絶し、その意識を沈ませていった。
黒い影の正体は、Nagareboshi【流星】魂剛を駆る、ラセツ紫月 唯斗(しづき・ゆいと)と
クイーン・ヴァンガードの剣の花嫁エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)。
「悪いな、勇平をお前にやらせるわけにはいかん。大人しく切り裂かれてもらおうかッ!」
魂剛は鬼刀とアンチビームソードを構え直し、巨大な腕に突進する。
「エクス、エナジーバースト展開ッ! 一気に決めるぞ!」
「了解した、エナジーバースト前面に集中展開ッッ!」
エクスの指がコンソールを素早く叩き、エナジーバーストに使う出力の調整、
突進中の推進器出力の最適化等が高速で行われていく。
パラメーターがリアルタイムに更新され、常に最適の動きができるように調整している。
「展開完了ッ! 唯斗! 思いっきりやって構わん!」
「おうッッ!!」
魂剛の前面にバリアが展開され、さらに魂剛の速度が加速していく。
鬼刀とアンチビームソードをクロスさせて構え、巨大な腕に体当たりを行った。
前面に展開されたバリアが巨大な腕の肉を裂いていく。
「うおぉぉぉおおおッッーー! 鬼神・剛一閃ッッ!!」
魂剛は鬼刀とアンチビームソードを振り抜き、強大な腕を引き裂いた。
そのまま巨大な腕の後ろに抜け、着地する。
着地と同時に巨大な腕は形を保てなくなり、崩れ落ちた。
「これだけやれば、すぐに再生はできないだろう……エクス、この間に
バルムングの二人を回収、一時帰還するぞ」
「うむ、それがよいだろう。二人の傷も気になるのでな、早く手当をしてやったほうがいい」
魂剛はバルムングを抱えると、テメレーアに向かって帰投していった。
〜荒野・地上〜
ディーヴァリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の前ではまさに怪獣大決戦ともいえる
状況が繰り広げられていた。
重装鎧を着た三つ頭の巨人と本を連れたT-REX【ティラノサウルス】キャロリーヌが
肉弾戦という名の愛を語り合っていた。もちろん巨人にとっては命のやり取りなのだが、
キャロリーヌと本……ネクロマンサーの魔導書禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)にとっては違うようだ。
「キャロリーヌ、どうやら三つ頭の巨人は照れているようだ……お前の熱視線で
巨人の冷えた心に情熱という名の火をつけてやれ!」
河馬吸虎の発言に突っ込みを入れるリカイン。
「絶対に違うと思う……ああ、どうしていつもこんな流れに……」
キャロリーヌは少し巨人から距離を取ると、熱視線……もとい、目からビームを放った。
ビームは巨人の重装鎧の隙間に見事命中し、巨人は悶え苦しんだ。
「よーし、お前の熱視線で巨人心に情熱の炎が灯ったぞ……今、あいつは自分の未知の気持ちに
悶え、苦しんでいるッ! キャロリーヌ! 救えるのはお前だけだ!
「有害指定魔道書……やはり再封印の必要性が……ぶつぶつ」
リカインの発言を無視し、有害指定魔道書……もとい河馬吸虎はキャロリーヌに話し掛け続ける。
「さあ、運命の赤い糸って物を教えてやれ!!」
キャロリーヌは振り被ると運命の赤い糸……ワイアークローを巨人に向けて射出する。
巨人は武器を振り回し、ワイアークローを切断すると、そのまま突進。
「ほほう! 赤い糸なんぞもう知っていると!! 情熱は止められないと!
フハハハハハ! 気持ちいいは……せいぎだ!!」
雄叫びを上げ、仏斗羽素によって加速したキャロリーヌは、巨人の振り下ろされる刃など
物ともせず、巨人を全力で抱き締めた。余りの力強さに巨人は苦しみの声を上げ、
持っていた武器を地面に落とす。
みしみしと締め上げるキャロリーヌの力に耐えられず徐々に重装鎧にひびが入り、ひしゃげていく。
巨人は激しく抵抗していたのだが、その力は失われていき、ついには抵抗できないほどになっていった。
キャロリーヌは巨人の背中に爪……クローを立て、その鎧ごと体を抉り取った。
断末魔の声を上げ、背中から血を激しく吹き出しながら巨人はその場に崩れ落ちた。
キャロリーヌが次の目標を探し始めた所で、リカインが素早くキャロリーヌの身体を駆けあがる。
頭の真横まで駆けあがったリカインは息を思いっきり吸うと、咆哮する。
空気が揺さぶられ、耳元でそれを聞いたキャロリーヌは目眩を起こし、ふらりとよろめく。
「これで、沈みなさぁああぁぁァァああーーいッッ!!」
レゾナント・アームズで思いっきりキャロリーヌの頭を殴りつける。
声と共鳴し、レゾナント・アームズはその力を増し、かなりの力で殴り付けられたらしく、
キャロリーヌは思いっきり地面に叩きつけられ、気を失った。
地面に着地し、大きく息を吐くリカイン。
「ふぅ……これでしばらくは一安心ね……ほんとに、どうしていつもこうなってしまうのよ……」
肩をがくりと落とすリカインには言いようのない哀愁が漂っていた。
〜古代兵器・上空〜
古代兵器の高高度に
CHP008ST【プラヴァー・ステルスアクティブ】{ICN0004807#プラヴァー・ステルスアクティブ}がいた。
ステルス機能を用いて、徐々に降下している。
現在ある理由の為、戦闘行動がとれない状況下にあった。
「さて、このまま行けば数分後に古代兵器の甲板に降りることができるだろう。
敵は戦艦型と思いきや、獣の姿に変貌するような輩だ……気を引き締めていくぞ」
そう声をかけるのは、ラヴェイジャー夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)。
「皆様が降りた後のプラヴァーのお守りはワタシにお任せください。古代兵器から一定距離を取りつつ、
ハッキングにて情報を収集しておきます」
スカイレイダーの機晶姫ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)がそう言うと、通信に女性の声が入ってくる。
「どうでもいいんじゃが、この風はーどうにかならんのかのー!」
プラヴァーの手の平に包まれ、しっかりと掴まっているミコの剣の花嫁草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)。
どうやら降下中の風に悪戦苦闘しているようである。
「し、仕方ありませんよ……操縦席には全員は入らないんですから!」
そう羽純に言い聞かせようとするのは、テクノクラートの未来人阿部 勇(あべ・いさむ)。
「じゃがの……こう風が強くては、色々と困るのじゃが……」
プラヴァーのもう一方の手の平からそのやり取りを眺めているのは、
アーティフィサー玖純 飛都(くすみ・ひさと)、ソルジャーラトス・アトランティス(らとす・あとらんてぃす)、
サイオニックの強化人間七瀬 灯(ななせ・あかり)の三人であった。
三人というには少し語弊があるのかもしれないが。
「なんだか楽しそうですね……向こうの手の平」
「……楽しいも何もないと思うがな」
「だって楽しい方がいいじゃないですか、何事も」
ラトスと七瀬のやり取りを無視するかのように、玖純は目を閉じている。
(変化が始まっているという事は……取り込まれた細胞の役割が……)
「あの、玖純さん……玖純さんー」
「ん、ああ……すまない、少し考え事をしていた……」
夜刀神は通信で全員に呼びかける。
「さあ、お喋りはそこまでだ。そろそろ甲板に付く。降下準備をしておいてくれ」
プラヴァー・ステルスアクティブは砲火を避けながら、古代兵器のブリッジに近づいていった。
ブリッジに両腕を差し込み、夜刀神、草薙、阿部、玖純、ラトスと七瀬が降り立つ。
「では、ワタシはこのまま付近に待機しています。脱出の際はご連絡をお願いします」
「ああ、その時は頼む」
ブリッジを見渡すものの、人の姿はない。
「稼働しているのに、人の姿がない……自動操縦とでもいうのか?」
玖純は考えを巡らせるが、いまいち確証を得ない。
「玖純、わしはこのブリッジを粗方調べつくしてみようと思う。当初の予定通り、おぬしは動力部を
目指してくれ」
「わかった、元よりそのつもりだしな」
「私は玖純さんと一緒に動力部を目指しますね」
ラトスと七瀬、玖純は動力部を目指しブリッジを後にした。
夜刀神は端末を操作する。しかしどのボタンを押しても何の反応もない。
「壊れている……わけではなさそうだな……どういうことだ?
この場所自体が壮大なダミーだとでもいうのか……それにしては設備が整っている」
辺りを見回すと、戦艦の環境に必要な物は全て設置されているようだった。
草薙が別の端末を操作するも反応はない。
「駄目じゃ……こっちの端末も反応はないぞ。まるで観光船の艦橋に来た気分じゃな。
展示品だから触っても反応せんっちゅうやつじゃ」
すかさず阿部が突っ込みを入れる。
「ああいう所は展示品には触っちゃいけないはずですよ? もしかしてべたべた触ってたんですか!?」
「そ、そんなことはないぞ……そんな事するはずがあるまい……あはは……は」
「その笑いがなおさら怪しいです、草薙さんとは観光船には絶対に行かないと決めましたよ
ええ、もう決めました、絶対に行きません」
「なんじゃとっ! あれか、楽しさを独り占めって言うやつか! そんなことは認めんぞ!」
「一人で行くのもまた、楽しみがあってですね……」
「ああー行くような友達がおらんのじゃろう? 可哀そうじゃなー、おおー可哀そう」
「そんな、ただ一人で行くときの良さをですね……」
すでに二人は調べる事よりもコントに夢中のようであった。
「ふむ、このコンソールもダメか……となるとにわかには信じがたいが自律起動の
可能性が出てくるな……この古代兵器、とんでもないものかもしれん……」
夜刀神が真面目に考える横で、二人のコントの声がブリッジに響き渡っていた。
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