蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

鳴動する、古代の超弩級戦艦

リアクション公開中!

鳴動する、古代の超弩級戦艦

リアクション



6章 「絶望の戦線」


 〜テメレーア・戦闘指揮エリア〜


 古代兵器からの攻撃が激しくなり、戦闘指揮エリアには様々な情報が入ってきていた。

「ウォードッグ小隊、補給の為に一時帰還」
「損傷受けたイコンは、修理完了したものから再度出撃!」

 ローザマリアがネルソンに報告する。

「古代兵器が変貌してから、こちらの損害が拡大しているみたい……戦闘続行不可能なイコンも出てきてる」
「このままでは、損害が拡大する一方だな……よし、出撃した全イコンに要請、来るべき反攻の時の為、
 一時的に帰還せよ、とな」

 了解と答え、ローザマリアは全イコン部隊に通信を送った。

 直後、テメレーアが激しく振動、強い衝撃が全体を襲う。

「な、何事だ! 状況を報告せよ!」
「て、敵、古代兵器の艦首より高エネルギー体が放たれた模様、高エネルギー体はテメレーア右舷に着弾、
 火災発生中!」

 慌てることなく、ネルソンは冷静に指示を出す。

「第21ブロックから25ブロックまでの隔壁を閉鎖、消化班と修理班を向かわせろ」
「了解、21から25ブロックまでの隔壁閉鎖、消化班、修理班は損傷ブロックへ」

 テメレーアは右舷から黒煙を上げながら、高度を徐々に落としていく。

「先程の損傷の影響で機関部の効率が60%低下! 高度を保てません!!」
「ぬぅ……やってくれるではないか……古代兵器。よし、わかった無理に高度を維持するな。
 不時着し、その間に機関部の修理を行う。 総員、対ショック防御! 不時着に備えろ!!」

 高度を落とし、地面を抉りながらテメレーアは不時着する。


 〜オリュンポス・パレス内部・中枢〜


「ネルソンめ、敵を甘くみるからこうなるのだ! 主砲の準備はできているか」

 ハデスはモニターに映った黒煙を上げるテメレーアを見ながら
 天樹に問いかけた。

「充填率、発射タイミング共にベストの状態です。いつでもどうぞ」
「よし、我らが秘密結社オリュンポスの居城、オリュンポス・パレスの力を見せつけてくれるわ!
 フアーハハハハハハッ!! 主砲、はっ……」

 直後、強力な衝撃を受け、オリュンポス・パレスが大きく揺れる。
 踏ん反り返っていたハデスがその場に転がった。

「ぬぐあああー! な、なんだというのだ!! 天樹十六凪、何が起きている!」
「テメレーアが受けたのと同型の高エネルギー体のようですね。
 しかも、今の攻撃で主砲が損傷を受けました……修理には少し掛かりますね」
「ぬぬぬぬ……おのれ古代兵器、おのれ鏖殺寺院!! 今に目にもの見せてくれるっ!!」


 〜荒野・地上〜


「ちょっと、待ちなさい!……待っ、て……はぁ、はぁ……イコンに追いつけるはずもない、わよね……」

 息を切らし、呼吸を整えているのはテクノクラートイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)
 グラップラーの未来人ヴァディーシャ・アカーシ(う゛ぁでぃーしゃ・あかーし)と共に、古代兵器の調査に来たのだが。

 一人でWarstrider【ウォーストライダー】イーグリットIIIを駆り、
 何を思ったか古代兵器ではなく、翼の生えた大蛇の魔物の方へ向かっていったのである。

「こうなったら通信を……ヴァディーシャ、聞こえる!?」
「え、あ、うん……聞こえるよー」
「はぁ……まったくあなたはどうして一人で飛び出しちゃうのよ……」

 ヴァディーシャは申し訳なさそうに声のトーンを落とす。

「ご、ごめんなさいです……ママの役に立ちたくて……」
「もう向かってしまったならいいわ。魔物と戦闘した時に、その魔物の一部を持って帰ってきてちょうだい。
 そうすれば、分析して色々なことが分かると思うから」
「は、はいです! 殴って、殴って、蹴り倒して持って帰るです!!」
「えーと、ちょっとニュアンスが違うんだけれども、まぁいいわ。
 と、とにかく……そうやって持って帰ってきてくれたら、文献や学園のデータベースの中から何か
 古代兵器の情報が掴めるはずよ」
「はいです! 絶対に持って帰って来るですよー!」

 イーグリットIIIは前方に大蛇の魔物を捉えた。イコンアビリティのストライダーを使用し、
 急接近、大蛇の魔物が攻撃する前に機神掌を勢いよく撃ち込んだ。
 よろめく大蛇へ続けざまに旋風回し蹴りを放つ。

 大蛇は大きく吹き飛び、丘に激突しめり込んだ。大蛇は動きを止め、気を失ったようにも見える。

「やったです! これであとは持って帰るだけです!」

 持ち帰ろうと不用意に近づいたイーグリットIIIを突如目を覚ました大蛇が巻き付き、締め上げる。
 強力な締め付けの力に機体の装甲が軋み、メリメリと嫌な音を立てた。

「わっわっ……やめるです!! そんなにしたら、壊れてしまうですよーーッ!!」


「あーもう、既に戦闘が始まってるよ……こっちが行く前に倒しといてくれないかなー」
「その割にはリベル、先頭を走ってるじゃない……結構乗り気なのね」

 ヘクススリンガーリゼネリ・べルザァート(りぜねり・べるざぁーと)
 コンジュラーの強化人間エリエス・アーマデリア(えりえす・あーまでりあ)はそんな緊張感のないやり取りをしながら
 大蛇の元を目指していた。

「ふーむ……」
「どうしたの? 考え事?」

 リゼネリはエリエスに聞かれ、走りながら答える。

「なんかあの巻き付かれてる機体さ、イーグリットっぽいけど何か違う気がするんだよ」
「そうかしら? イーグリットにしたら少し小型な気がするけれど……見た目も似てるし、ウォーストライダー系列の
 自己改造機って所なんじゃない?」
「未来から持ち込まれた謎の機体ってのだったら……おもしろいと思うんだけどなー」
「そんなことあるわけないじゃない。ほら、そろそろ着くんだから、気を引き締めていきましょう」

 大蛇がよく見える丘の裏に既に待機してる影がいくつか。
 シーアルジスト天禰 薫(あまね・かおる)、アーティフィサーの機晶姫わたげうさぎロボット わたぼちゃん(わたげうさぎろぼっと・わたぼちゃん)
 ケンセイの獣人天禰 ピカ(あまね・ぴか)、サイオニックの悪魔天王 神楽(てんおう・かぐら)だった。

 神楽が見渡すように言う。

「役者は揃ったようだな……それでは始めるとしようか……あの機体も、もう持ちそうにないからな。
 薫も、それでいいな」
「我は……あの人がもう元に戻れないのか、確かめてみたいのだ!」
「薫、お前が異形化した奴らを助けたいって気持ちはわかる。
だが、元の姿に戻れず苦しんでいるとしたら、どうする?」
「そ、それは……」
「一息で死なせ、解放しようと思わないか?」

 神楽は薫の顔を覗き込むように話しかける。
 少々俯きながら、薫は答える。

「神楽さんは現実的な事を言うのだ。
 神楽さん、それが神様の采配なら、我はその神様を信じたくない。
 本当に神様がいるなら、悪い人達にも救いがあってもいいと思うのだ。」

 神楽はその顔に薄笑いを浮かべ、

「ほう、随分とまあ意見してくれるな。皮肉まで言いやがって。
まあいい、お前がどう行動するか、見定めさせてもらう」

「では、行ってくるのだ! きっと戻ってくれるって信じてるから」

 薫は大蛇の前に出ると、大蛇に向かって声をかける。

「聞いて欲しいのだ! もしも、人の心がまだあるのなら……我の声に……」

 大蛇は巻き付いていたイーグリットIIIを投げ捨てると、薫に向かって襲い掛かった。
 薫は咄嗟に後方に避け、攻撃を何とか躱す。
 その後も声をかけ続けるが、反応する様子は一切なかった。

「わかったのだ……皆、辛いけれどあとはよろしくお願いするのだ……
 我は援護に回る……」
「……リゼネリ、エリエス、俺が敵を抑えるからその隙に攻撃してくれ」

 リゼネリとエリエスは頷くと戦闘態勢に入り、連携の準備をする。

 超人猿に担いでもらったニルヴァーナライフルの引き金に一生懸命手を伸ばすわたぼちゃん。

「ぴ……ぴきゅーー……ぴ、ぴきゅー……」

 届きそうで届かない、数分掛けてやっと引き金に手が届き、反動で吹き飛ばないようにその身体は
 超人猿にしっかりと支えてもらい、その引き金を引いたわたぼちゃん。
 
 銃身から放たれたビームは一直線に飛び、大蛇の右の翼を撃ち抜いた。
 苦しそうな声を上げる大蛇はわたぼちゃんに向かって土煙を上げながら突進してくる。

「さて、お前の瞳から光ある世界を奪ってやろう……安心しろ、じきに楽になる」

 神楽は大蛇の前に立つと、大蛇の顔面付近に光術を放つ。
 眩い光が一時的に大蛇の視力を奪った。

 視力を奪われた大蛇は混乱し、暴れまわろうとする。

「おっと、そうはさせない……すこしじっとしていてもらおうか?」

 神楽は大蛇に向かってスクイズマフラーを放ち、その暴れまわる身体を締め上げ、その動きを止めた。

「よし、神楽さんが動きを止めた……それじゃ、こっちの番だ」

 月削ぎのスキアと星掬いプロセウケを構え、大魔弾『コキュートス』を放つ体制に移行する。
 力をチャージし、その照準を胴体中央に合わせる。

「これで撃ち抜く……」

 リゼネリは大魔弾『コキュートス』を放った。黒と青の混ざり合った光が大蛇に向かう。
 大蛇は身動きが取れないまま、大魔弾『コキュートス』の直撃を受けるが、大きく吹き飛んだものの
 絶命には至っていなかった。
 
「リゼル、もう一度連携を掛けるわ、私が凍らせるからその隙に!」

 エリエスは氷像のフラワシを取り出して掲げる。
 大蛇の周りに氷が集まっていき、その足元から徐々に凍っていく。

 再び動きを止めた大蛇目掛けてピカが突進を掛ける。
 至近距離で雷霆の拳を叩き込み、滑らかな動きで則天去私へと繋げていく。
 その動きは洗練されており、まるで一つの芸術作品のように美しい動きであった。

 ピカは地面を蹴って跳躍し、空中で体勢を整えると、全体重をかけて踵落としを頭部に打ち込んだ。
 ぐらつき、地面に倒れ伏す大蛇。

「これで、あとは止めを……ん? この声は……いかん! 全員この場から退避しろ!」
「え? なんで急に……」
「いいから退避しろ! 死にたくなかったらなッ!!」

 神楽に急かされ、リゼネリ達は全員その場を後にした。

 大蛇が意識を取り戻し、動き出そうした時、大蛇の前に黒い巨体が降り立つ。
 ソウルアベレイターエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)
 不気味に呻くその顔には、白い仮面が付けられていた。

 仮面の異形と大蛇の戦いが今ここに始まったのである。

 大蛇は身体をお越し、口から数発、人の頭大の火球を放った。
 エッツェルは水晶翼を広げると、全ての火球を防ぎきる。

 じりじりと距離を詰めていくエッツェルに恐怖心を抱いているのか、大蛇は徐々に後ずさる。
 大蛇の顔の前に魔法陣が展開、魔方陣から鋭い雷撃が放たれた。
 
 エッツェルに直撃する直前、障壁のような物が展開され、雷撃を容易く弾いてしまう。

「があああぁぁ嗚呼あああーーーーッ!!」

 一際大きくエッツェルが呻くと、大蛇の頭上に魔方陣が高速展開。クライオクラズムが発動し、
 暗黒の凍気が大蛇の身体をズタズタに破壊する。

 動かなくなった大蛇に近づき、エッツェルは心行くまで己の欲望を満たす。
 どうやら勝負はエッツェルの圧勝に終わったようだ。

 エッツェルは満足そうに水晶翼を広げ、空の彼方へと飛び去って行った。