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リアクション
「全く!気持ちはわかりますが、何もかもが誠実に言えばいいってわけじゃありませんのよ!
あれだけ他のみんなが彼女のことを考えて接しているというのに……デリカシーがないにも程があります!」
リリアのまだ続く説教に頭をうなだれるエースとメシエ
彼女の剣幕は時としていつもの事なのだが、流石に女性陣にも思うところがあるらしく
アルセーネやルカルカまでもが彼女の横で冷徹な目を向けているので、観念せざるを得ない
しかし彼らの意見も最もなので
代表として大谷地 康之(おおやち・やすゆき)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が仲裁と言う名の救助活動に入ることにした
「まぁホラ、ヤクモ本人は怒ってなかったんだろ?
それにあっちは真人や加夜達が一緒にいるんだから大丈夫だって」
「康之の言うとおりだ。それに元々エース達が言ってる事と向き合うことが本題な事には変わりないんだ
彼女への接し方はともかくとしても、俺達がそれから目をそらすわけにはいかない
今ここにいるのが我々だけなら、問題ないのだろう?
なら今のうちに聞こうじゃないか、メシエの言いかかった見解を」
真理を述べられ、女性陣もやむなく話の再開を受諾する
ようやくペースが元に戻り、メシエが先程中断された話を続けることにした
「作成者の考え方によっては、機晶姫を兵器として造らずに、自身の家族として造る者もいただろう
ヤクモの記憶が欠落している……という事は、当初の製作目的はもう達成していて、それでも破棄するには忍びなく
遠い未来にヤクモ自身の人生を再び歩めるように封印をした……等の製作者側の意図があるのかもしれない」
彼の見解に、ダリルが一度ルカルカと目を合わせた後、頷く
「俺も同意見だ
彼女の構造機構を2日間に渡って調べた結果、君が認識してる兵器としての有り様は彼女の中に存在してなかった
むしろ、節操の無いほどの【人体構造】の再現を目指した技術
初めは、創造主の趣味思考か酔狂のなせる業かとも思ったが……今回の件に関わったメンバーの中
その中の一人、彼女と同じ髪を持つ同族の子の名前を見て気がついたんだ……彼女が作られた目的はおそらく……」
「死んだ人間の蘇生……もしくは機械技術を利用しての再生、そう言いたいんでしょ?」
草叢から聞こえた声に、そこにいた全員が振り向く
そこには一人帰ってきた霧島 春美(きりしま・はるみ)がいた
気がつけば、真人達も戻って来て、ダリルの言葉を聞いていたようだ
「春美か……ヤクモは?」
「雅羅と一緒に先に祭壇の方に向かったわ、色々あって別のルートから行くことにしたの
彼女の方は大丈夫、私は彼女のメッセージを伝えに来ただけよ……正確には【彼女】ではないけどね」
春美の口ぶりに、それぞれが思うところを察し、彼女の話の続きを聞こうと静かに集まってくる
その全員を見渡し、一人の探偵は一人の【機晶姫】が語った、誰もが求めていた真実を語る事にした
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遥か昔、今を生きる誰もが【古王国】とその都市を称する時代
一人の技術者がいました
卓越した【機晶技術】を持ちながら、戦う事を望まず多くの知識を学び、芸術を愛する若者
彼には一人の将来を約束した恋人がいたのです
兵器としての存在意義を求め、多くの技術者が機晶の姫を組み上げ、戦場へ送り出す中
彼が行なっていたのはその整備のみで、人と等しく公平に接して彼女達を診る姿は、同胞からは異端であり
決して名声が高いわけではありませんでしたが、それでも一番の理解者とともに幸せに暮らしていたのです
【機晶技術】の研鑽の過程で身につけた【水晶工芸】
そして愛する者が好きな花……その二つの思いが重なり
川のほとりにある小さな家は、沢山の水晶の花々で溢れていました
ところが、その幸せも最後まで続きませんでした
今の貴方達も知る【戦い】……その火は彼らの所にも訪れ、恋人は命を落としてしまったのです
戦いで傷ついた多くの【機晶姫】の治療……彼がそれに奔走して家を留守にした時
気まぐれにも訪れた火種が、容赦なく川面で彼の無事を祈る事を日課としていた彼女の命を奪ったのです
優しい彼にとって、彼女とひっそりと共に暮らすだけを望んだ彼にとって……それは誰よりも深い悲しみ
一人だけの世界など望むこともできず……何日も絶望に沈んだ後…彼が望んだ結論は【彼女の再生】だったのです
それから何年も、彼は持てる知識と技術を費やし【人と等しき機晶の娘】を目指して研究に没頭しました
いつの世にもある【派閥】や【流派】の壁……それを意に介さず、ひたすら足りない物を学び取り込んでいく行為
元々、人と接する事をそれほどしなかった彼は、次第に人との関わりを閉ざし
ついには【異端】として王国を追われ、ただ一人この地に辿り着きました
その頃には、彼女の記憶や遺伝子を量子的段階で保存する事も独自の方法で生み出し
ひとつの結果を生み出す段階まで辿り着いたといいます
それでも、たった一つの壁だけを越える事は出来なかった
それは【機晶姫の寿命】……今も誰も克服できない永遠の課題です
もちろん、彼がメンテナンスしながら共に寄り添うことも可能だったかの知れません
けれど、あの戦火で命の重さを知った彼は、自分が消えた後も彼女が生き続ける事を望んでいたのでしょう
懸命に試行錯誤しながらも、技術の研鑽が日々行なわれていた場所から遠ざかっていた彼は行き詰まり
そして……決めたのです、今一度あの王国に戻ろうと
全てを整え、覚醒を待つまでの段階に作り上げた彼女の新しい体を保存器に残し
きっと戻ってくるからと彼女に誓って旅立ち
………そして二度と戻って来ませんでした
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「……その彼の作った恋人……それがヤクモなのね」
『はい、そして眠る彼女を管理し、目覚めた環境に適応できるよう外部から情報を吸収し、眠る彼女に学習させる
そのためのAIが私なのです』
雅羅の言葉にヤクモの体を通して【オモイカネ】が答える
『彼は必ず戻ってくると思っていたのでしょう、私の学習機能に上限を設定しなかった
初めは私も命令どおりに、外の情報を吸収しながら、彼女の覚醒のための最適化を続けるだけの存在でした
けれど、あまりに多くの時を重ね、私が集めた膨大な情報量は、私に感情と思考力を与えるのに十分だったのです』
自嘲的な……深遠の時を重ねた人間にしか出来ない表情と共に、彼女の言葉は続く
『彼が過ごしたこの場所が無残に風化し、跡形も無くなって……遥かな時を過ごしながら
次第に彼と彼女の想いを理解していった私は、次第に疑問に思うようになったのです
もし、このまま彼女が目覚める事になった時……彼女は幸せなのだろうか?
邂逅も無い、時間の重なりだけを受け継いだ彼女が、新しい体を受け入れて生きていけるのか?
私にはそれはとても耐えられない……そんな時、偶然彼女が発見されたのです
いずれ他者の手で覚醒を促される可能性を考えながら、私は彼女が今を生きていける道を考えました』
そこで言葉を区切り、手の指輪を見つめながら……再び語りだす
『彼女の【ツクモ】という記憶……それを消してしまおうと
けれども私は構造上、それを消す命令だけは構築することが出来なかった
だから……私が受け継ぐことにしたのです、彼女の記憶を……そうして目覚めたのが彼女
【九十九(つくも)】から記憶を欠いた【八十九(やくも)】、それが彼女の名前の由来です』
「それがヤクモに記憶が無かった理由なのですね
そして、貴女が本当の記憶の持ち主……でも、それならどうして今、彼女の体にいるのです?」
アルセーネの問いに、穏やかに彼女は答えとともに言葉を紡いでいく
『【ツクモ】の記憶を受け継いだ以上、私は自分の役目を終えて消えることが出来なくなりました
そこで考えたのです、この情報体である体を再び量子の段階まで拡散させ、彼女を構築する電子組織に同化する
そうすれば私は吸収され、再び構築されることはなくなるでしょう、彼女を生かすための一部になる
その行為に迷いはありませんでした……でもひとつだけ気がかりだった
全てが無である彼女が、この新しい世界で生きていけるのか……だから限界まで同化を留め、見つめていたのです』
「あなたは……どうしてそこまで彼女の事を、想えるの?あなたはそれでいいの?」
『いいんです、雅羅さん……そうする事が元々の私の存在意義……』
「【オモイカネ】の……あなたの言葉を聞きたいんじゃないのっ!」
いつまでも穏やかな【彼女】の佇まいと言葉に、雅羅が耐え切れないように叫ぶ
いつの間にか目から溢れる雫に構わず、目の前の【彼女】を見つめる
そのまま胸が詰まって言葉にならない雅羅に代わって、加夜が言葉を受け継いだ
「私達はあなたの本当の気持ちが聞きたいんです
記憶を……大切な人の想い出を受け継いだ【ツクモ】さんとしてのあなたの言葉を」
『優しいのですね、貴方達は……本当に出会えてよかった』
束の間の時間を過ごしながら、それでも【ヤクモ】でない自分の為に泣いてくれた目の前の存在に
どこまでも穏やかな笑顔で……【ツクモ】は答える
『あの人の事を想って悲しんだり、自分の新しい生を見つめるには、私はあまりに長い時間を過ごし過ぎました
むしろ嬉しいんですよ、あの人は私が死んだ後も、こんなに私のことを想って新しい命を生み出してくれたんです
私はそれで十分です……彼女は新しい生をうけて生きていけばいい
………だって、あの人と私の子供みたいなものですから、この子は』
いつの間にか4人の足は、遺跡の先に辿り着く
そこはあの【水晶の花の祭壇】があった場所……微かに残る岩と草が残る場所
改修後、速やかに復興できるように水源保存するべく、小さな貯水の池が残されている
その微かにゆれる水面に手を触れ、【ツクモ】は春美の方を向く
『みなさんには、春美さん……貴方の口から伝えてください
私の事を見抜けた貴方なら、きっと誤解なく、この子がお世話になった方達に全てを伝える事が出来ると思います』
「大役ね……でもわかった、まかせといて……イッエレメンタリマイディア」
ウィンクと共に去る彼女を見送ると、【ツクモ】はそっと指から指輪を抜き、それを水の中に沈めていく
『実はね……ここは、一度私達が旅をして、訪れた場所だったんですよ
あの時はこの水辺も大きくて、毎日彼と共に水辺で時を過ごして……いつも二人で空を見上げて幸せを祈ってた
そんな彼が、永遠を誓うために作ったのがこれなんです
あのときの幸せを忘れないように、ここに居を構えて、私と再びここで生きる事を望んだのでしょうね』
彼女の言葉と、あの藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)が念写したあの写真が重なり、全てがひとつになる
それは時を越えて共にいる幸せを願う【願い】の記憶……その願いは水面に残り
それを願った者も、ここで最後を迎えようとしている……ここを残そうと奮闘してよかったと雅羅は思う
悠久の時と向き合い、彼女達なりの【命】を残し……水晶の花の物語は終焉を迎える
『もっと先になれば、きっとこの子も誰の手も借りずに長く生きる術を手に入れるかもしれません
でも、もしこの子が共に生きる誰かを見つけるまで、今のままにしてあげてくださいね
それまでは、皆さんでこの子のことをよろしくお願いします』
彼女の体から【彼女】の存在が希薄になっていくのがわかる
透き通るような笑顔と共に【ヤクモ】という存在を守り続けた【彼女】は最後の言葉を届ける
『ひとつだけ、この子が生きていけるように、贈り物を残します
ありがとう……貴方達に出会えて、本当に良かった』
そっと目を閉じ……そして静かに【彼女】の物語が終わった
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