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屍の上の正義

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屍の上の正義

リアクション

「これは、大型スポーンを確認したでござる! 防衛ラインを超えた後、合体。現在3機が交戦中! 陣形を崩されて苦戦中の模様でござるよ!」
「すぐに向かうわよ。念のため『EMジャマー』を使って、背後から気づかれないように接近して」
「了解でござる」
 空から戦場を見渡す電子線特化型試作機体マスティマが味方の危機を察知し、現場へ急行する。
 搭乗している天貴 彩羽(あまむち・あやは)スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)は決して焦らず、けれど迅速に大型スポーンの背後へ向かう。
「交戦中の3機の状態はどう?」
「2機が砲撃形態を取っている1機のフォローに入っているみたいでござるな。変形しようにもタイミングがないようでござる」
「なら背後に回る前に、『ツインレーザーライフル』で援護」
「マスティマが発見される可能性があるでござるが?」
「敵に発見されないギリギリから『EMジャマー』を使用しつつであれば問題ないわ。ギリギリまで近づける」
 言ったとおり敵に見つかるか否かのギリギリを飛行させる彩羽。
「ストップ! これ以上は気づかれるでござるよ!」
「……結構遠いわね。でも、やるしかないか。明確な位置を出して」
「もう出してそっちに回してるでござるよ」
「さすが、仕事が速いわね。……それじゃ行くわよ!」
 ギリギリのラインから『ツインレーザーライフル』を放つ。一線の光がアウクトールに襲い掛かるスポーンを見事に射抜く。
 それを好奇と見たキャロラインたちはすぐさま変形し、後退。
『ありがとう、助かったわ』
「お礼はいいわ。私たちはこのまま背後から回り込んで攻撃してダメージを与えた後、注意を引く。後はわかるわね?」
『ええ。やられた分をお返ししてやらないとね!』
「それじゃよろしくね」
 通信を閉じて自慢のステルス性能を武器に背後に回りこむことに成功したマスティマ。
「敵はこちらに気づいていない、今がチャンスでござる!」
「言われなくとも、ぶった斬るわ!」
 高度から急降下、その速度をそのまま威力に代えて『ギロチンアーム』で背後から強烈な一撃を見舞う。
 突然の出来事に前にいた3機を無視して、マスティマに向き直る大型スポーン。
「さあ、今よ!」

「はあああああああああっ!」
 注意がそれた大型スポーンに向かう貴仁がその背後から『ファイナルイコンソード』で一瞬のうちに斬り捨てる。
『これは、お返しよ!』
 先ほどの分もまとめてキャロラインが『ヴリトラ砲』を発射。たちまち大型スポーンは砕け散り後に残ったのは小型のみ。
『細かいのは任せて』
 『ツインレーザーライフル』で周りに散ったスポーンを的確に排除する鉄心。
 こうして防衛ラインより内側で発生した大型スポーンも何とか倒し、4機はそれぞれ防衛ラインの穴を埋めるために行動を再開するのだった。

 防衛ラインはいくつか超えられたものの各員が善戦し、どうにか敵の進行を食い止めることに成功。
 ホークアイを名乗り高高度から戦況を分析し各員に伝えていたブラックバード搭乗者、佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)
「今のところ俺たちに気づいている敵はいないようだな」
「これだけ高く飛んでるからかな〜?」
「それはいいとしても、さっきの地鳴りが気になるな。地震ではないようだが……何かわかったことはあるか?」
「この辺の地理なんかを解析とかいろいろしたけどわからないや、ごめんね……あれ? 通信がきてるよ?」
「了解した。こちらホークアイ」
『マルコキアス、鉄心だ。一つ気になることを発見したので伝えておく』
「気になること?」
 首をかしげる和輝とアニス。
『さっきもらった、飲み込まれてしまった街の資料を見ていたんだが、あの街には要塞があった』
「それはこちらでも確認しているが、何かまずいことでも?」
『どうやら不測の事態に備えて作られていた要塞らしい。その規模や備蓄されていた物資等が小さな字で書かれているのをうちのパートナーが発見した』
「何だと?」
「……うわぁ、ホントだ。すっごい小さいけど端っこの方に書いてある。確かに、資料通りならかなり大きいかも」
 こうなることに対して、何もしなかったわけではなかった。要塞を作り、対処をしようとしていたのである。
『人員が足りなかったか、未完成だったのか……いずれにせよそれだけの規模のものがあった』
「……そこに奴らが現れたのなら、使わない手はないか。さっきの地鳴りも、これが関係しているか可能性があるな」
『俺からは以上だ。有益だと判断したら他の人にも伝えてくれ、以上だ』
 鉄心からの通信が閉じられる。和輝はすぐさま「中継基地」にある【情報管理室】へ通信を試みる。

「はい、こちら【情報管理室】です」
『ホークアイだ。新しい情報が入ったのでそちらにも伝えてほしい』
「わかったわ」
 和輝の通信を受け取ったのはスノー・クライム(すのー・くらいむ)、その隣には松永 久秀(まつなが・ひさひで)の姿もあった。
「……成る程。これからその大型機動要塞を取り込んだ、超大型のイレイザー・スポーンが現れる可能性が高い、ということね?」
『その通りだ。さっきの揺れも、そいつらが関連してる可能性があると見ている』
「はあ、成る程ね。どうにもこうにも、次から次へと不測の事態。ふふっ、何かが暗躍しているようね」
 久秀が笑う。この事態を楽しむかのように。
『前線部隊には笑い事ではないと思うが……ともかく、スノーはこの情報を「中継基地」周辺にいる契約者たちに伝えてくれ』
「わかりました」
『それと久秀。何か対応策はあるか?』
「挟み撃ち、と行きたいところだけど今回は前線を崩すわけにはいかないしねぇ。小物を倒しつつ、大物がでてきたら火力をもって一気に落とすくらいかしら」
『……単機の攻撃で倒せると思うか?』
「無理ね。要塞の名を冠して作られているのなら、それなりの耐久度もあるでしょうし、相当数のスポーンが群がってるとも考えられる。単独での攻撃は無意味よ」
『わかった。それも合わせてスノーはそっちの通達を頼む。俺たちは前線と中間地点で戦う各員に通達する、以上だ』
「了解。こちらも通達後、情報の統制に戻るわ。それと平行して大量発生の原因、あとここに向かってきている理由にも探りを入れておく」
『頼む』
 和輝が通信を終了させる。すぐさまスノーは「中継基地」周辺にいる契約者たちに情報を通達するのだった。

「そろそろ、近いな」
 一人思案するのは玖純 飛都(くすみ・ひさと)。イコンがなく直接的に参加できるわけではない彼も、彼にできることを行っていた。
「おや、このような暗いところでどうしたのです?」
 そこに現れたのはカルディナル・ロート(かるでぃなる・ろーと)、レリウスたちとは別行動をし、彼もまた自分の為せることをしていた。
「ああ、戦えないなりにどうすればいいか考えていてな。今からそれを実行するところだ」
「はて? その策とは?」
「……奴等イレイザー・スポーンについては未だにわからない部分が多い。だが奴らの特性は知っている」
「合体したり、取り込んだりする、ということでしょうか?」
「そうだ。そして取り込むということは奴らの体内に、俺たちでも知っている物体、あるいは物質が奴らの体の一部となる」
「なるほど」
「ならばそこに干渉することで、奴らの動きをかく乱することができるかもしれない。幸いにもここには巨大なアンテナがある。ここから干渉することができるはずだ」
「成る程……先ほどから顔色が悪いですが?」
 見るに飛都の顔はかなり青い。カルディナルが心配するのも無理はない。
「ああ、長時間ずっと考え込んでいたせいかもしれん。だがあとはこれ起動させれば」
 そうして飛都が最後にボタンを押す。目には見えないが、巨大アンテナを通じて一部の機械機能に干渉する電波が流される。
「でも、他のイコンに影響があるのでは」
「微弱な電波だ。イコンクラスのものや高度なシステムが使われているものにまで干渉することはできん」
「そうですか。でもとにかくこれでひと段落したのでしょう? なら一旦休みましょう」
「……ああ、俺にできることは終わった」
「でしたら、一度休まれた後に私と一緒に怪我をしている人たちの救護に回りませんか?」
「あまりやったことはないが、できることから、か」
「はい」
「わかった」
 為すべきことを終えた飛都は一度休み、その後カルディナルと共に救護に回ることにするのだった。