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屍の上の正義

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屍の上の正義

リアクション

「あっち、あっちに補給が必要そうな機体がいる」
「はーい! 今いくから待ってー!」
 慌しく戦場を駆け回る紫色が特徴なイコンハイルシュテルンに乗って、あっちにこっちに補給をしているのは美常 雪乃(みじょう・ゆきの)神翠 清明(しんすい・きよあき)の二人。
 今回は支援機として補給をしつつ、たまに味方の援護をこなす役割をしていた。
「結構いろんなとこ回ったけど、どこへ行ってもスポーンだらけだね、まったく」
「愚痴っても相手の多さは変わらないよ。今はできることをやろう」
「うん、その通りだ」
 彼女たちの立ち回りは前線より一線引いた位置から補給が必要そうな機体のところまで向かい、補給をしたらすぐさま下がる、といったものだ。
 しかし、雪乃は補給が必要だと思われる機体以外にも、ある人を知らず知らずのうちに探していた。
(なんだか、近くに兄さんがいるような気がする……気のせいかな……?)
「ユキちゃん! 前に出過ぎだって!」
「ええ? ああっ!」
 言われて気づく雪乃。そこは前線そのもの。気づいた雪乃は速やかに前線から下がる。だが、運悪くそれを小型スポーンに補足されてしまったのだ。
「ああ! やっちゃった!」
「大丈夫、ユキちゃんはオレが守る」
 二体の小型スポーンに向き直り、迎撃態勢に入る。直進してくる敵に『レーザーマシンガン』で攻撃。うち1体は走っている途中で撃沈するも、もう1体が飛び掛ってくる。
「支援機だからって、なめんな!」
 飛び掛ってきた小型スポーンに『パイルバンカー・シールド』を突き立てる。その威力の前に動かなくなるスポーン。
「よ、よかったー……」
「これでなんとか安心して下が―――っ!」
 小型スポーンは2体だけではなかった。更にもう1体、ハイルシュテルンの背後に回っていた。
「うそっ!?」
「くそ、間に合わないっ」
 スポーンがハイルシュテルンに取り付こうとしたその刹那。
『させるかっ!』
 『ダブルビームサーベル』でスポーンを叩き斬る味方イコン。
 どうにか危機を脱した二人。そして雪乃が感じる先ほどから消えない兄の感覚。もしや、この人は。
「すいません、助かりました」
「あの、ありがとうございます。あなたのお名前は…」
『ごめん! あっちで仲間……援護して……きてるから、……じゃ!』
 慌てて飛んでいく味方イコン機。通信状況が悪かったせいか、その声から判別するのは難しかった。
「気のせい、だよね。……うん、今は集中しなきゃ。助けてくれたあの人みたいに、誰かの役にたたないと!」
 そう思い直して、補給をするためにまた前線を転々とする雪乃だった。

「いきなり実践運用とは、考えても見なかったよ」
「まったく同意だよ!」
 白いカラーリングが印象的な装甲強化型のイコンアーマードッグに乗り込んで、
 中間地点で支援攻撃をしているのはローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)フルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)の二人だ。
「というか、多すぎだよ! もうこっちの弾だってかつかつなのに!」
「その時は【イコン格納庫】に戻って修復がてら補給だな。だがしかし、かなり使われてるからな……全員分まで補給が回るか」
 【イコン格納庫】の建築申請を出して早い段階で完成させたはいいものの、いきなりの実践運用かつ大規模なイコン戦ということもあり、現状補給物資が若干足りていないのだ。
「また来た! でもここから先へは行かせないんだから!」
「そうだな。せっかく建てた【イコン格納庫】も「中継基地」も、もちろん俺たちの家も壊されちゃたまらないからな。2時、3時の間の方向からくるぞ」
「ここから先は! 行かせないんだから!」
 『サンダービーム』を使って敵を次々と撃ち倒していく。
「お見事だ。一旦【イコン格納庫】に戻るぞ、エネルギー消費が激しい」
「でも、今ここを離れたらっ」
「これ以降は戻らない。さっき通達が来た超大型スポーンが出現する可能性は無視できん。
 それに今は何とか各イコンが持ちこたえてる。逆を言えば今しかいけないんだよ」
「そ、そっか! それじゃ戻ろう!」
 中間地点を後に、【イコン格納庫】に戻る二人。
 ブースト全開で戻ってきた【イコン格納庫】は慌しく作業している人でいっぱいだった。
「戻ったぜ」
「ローグさん! お疲れ様です!」
 作業員の一人が駆け寄ってきた。今までずっと補給や修理をしてたらしく、体中油だらけの泥だらけだ。
「ああ、その後どんな感じだ?」
「いやあもう大盛況ですよ。それだけ切羽詰ってるって考えると素直に喜べないっすけど、それでもここが使われることに自分は感激っす」
「そうか」
「修理しちゃってていいかなー?」
「ああー! 頼む!」
 ローグの許可を得たフルーネが愛機の修理を開始した。
「それで、実際動かした感想としていろいろあると思うが」
「やっぱり補給物資が足らないっすね。ミサイル系がダンチで、次いでエネルギー系ってところですかね」
「なるほどな。人員的にはどうだ?」
「正直、パイロットの方が結構手伝ってくれるんでどうにかなってますが、俺たちだけだと厳しいところはあるっす」
「そうか。……課題はまだまだ、か」
「だけど、皆さん口を揃えて言うっす。『あってよかった』って!」
「……その言葉だけでも報われた気分だな」
「よし! スピード修復完了! いつでもいけるよー!」
「はやっ!?」
「ああ、あいつイコンについてはすごいからな。それじゃ引き続き頼む。あるもの全部使ってくれ!」
「了解っす! ローグさんも気をつけて!」
 【イコン格納庫】の現状に課題を残しながら、確実にその成果を目の当たりにしたローグ。
 その成果と課題を次に生かすべく今はこの局面を絶対に切り抜ける、そう考えながら中間地点へと戻るのだった。
 それぞれが最善を尽くし数え切れぬほどの戦果をあげるものの、イレイザー・スポーンの数はそれを凌駕する。
 そして皆に知らされる、最悪の事態。
『ホークアイより各員へ。超大型スポーンの反応を確認、また防衛ラインからも徐々に抜け出てくるイレイザー・スポーンが多数出現。
 更に、正体不明イコン機が敵に乗っ取られている模様』
 ありったけとも思える3つの懸案事項。しかし、敵の数は確実に減っている。
 殲滅が先か飲み込まれるのが先か。全契約者たちは最後の戦いへと臨む。

「……さて、イコン操縦赤点スレスレ。そんな私が久々のイコンに乗っての防衛任務。そして目の前に見えるのは、間違いじゃなければ敵よね」
「そう見えるのなら、そうなんでしょう。信じてあげなさい」
「あまり信じたくはないけどね……」
 シャンバラ王国で広く使用されている量産イコン機クェイルに搭乗して、
 「中家基地」周辺の哨戒任務に当たっていたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
 彼女たちが敵を視認する。それだけ相手に詰められているということ。その現実を理解しながらも焦らず、冷静に考える二人。
「……大戦末期の軍の人たちもこんな気持ちなのかしらね」
「腐ってないでさっさと報告しないと。量産期のクェイルに、セレンのイコンの腕前じゃあっという間に取り込まれるかも」
「そうなったら爆発させるから大丈夫」
「冗談に聞こえないから怖いわね」
「冗談じゃないもの。軍人は守るべきものがあるからこそ軍人、それを真っ当するだけよ」
 防衛任務こそ軍人の本懐と心得ているセレンの言葉に迷いはなかった。
「ならなおさら犬死しないように、連絡しないとね」
「わかってるわよっ! えーっと、通信が、これねっ」
「……ちょっと待って。敵の動きが急に鈍くなったわ」
「? どういうこと?」
「どうやら中継基地から微弱の妨害電波が出てるみたい。それが機械を取り込んだスポーンの動きをかく乱している、そんなところね」
「今までこっちの方には異常はなかったけど?」
「かなり微弱だからね。家電製品とか、それくらいの機械を狂わせる程度。それを体内の一部にしてるスポーンからしたら結構きついのかもね」
 レーダーを見ていたセレアナは気づいたのだ。特定のスポーンがある一定の範囲を超えた時スピードを落とすこと。
 正確には千鳥足のようにまともに動いていないことを。
「えーっと、こちらクェイルのセレンフィリティ・シャーレット。聞こえているかしら」
『こちらは【情報管理室】です』
「敵スポーンを確認。あと機械を取り込んでいるスポーンだけかもしれないけど、一定の範囲内に入ると動きが鈍くなることを確認したわ」
『なるほど、電波妨害のほうは成功したようですね』
「そうね。とりあえず私とクェイルだけじゃどうにもならないから、増援をお願い」
『それならもうすぐ着く筈です』
「着くって、まだ要請したばっかりじゃ……」
 そしてセレンは目撃する。「中継基地」とも防衛拠点からでもない、正真正銘の援護機が来たことを。
「……オーケー、確認したわ」
『「中継基地」からもこれから向かいます。それまで持ちこたえてください、以上です』
 通信が閉じられる。
「クェイルと私とセレアナと援護機。……まっ何とかしてやるわ!」
「とりあえず、後ろで援護機の援護、かしらね」
 自分たちの役割を改め、覚悟を決める二人だった。