リアクション
*** *** 「雅羅さんにお伺い致したのですが、ジヴォートさんが社会見学をなされるそうです。 そこで私も、社会の先輩として一緒に働きたいと思うのです!」 まずフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)がそんな話をし出した時から、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は嫌な予感がしていた。 「せっかくなのでグラキエスさんもお誘いしましょう」 (ジヴォートとフレイが一緒に働くっつーのは嫌な予感しかねぇが……まぁ、雅羅やグラキエスもいるなら大丈夫だろ) そうしてベルクは社会見学に参加した。 (アウレウス達は色々良くしてくれる。だが、甘えてばかりでは一人で何もできなくなる。 これはいい機会だ) グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はそんなことを思って、フレンディスの誘いを受けた。 待ち合わせ場所で立っている彼は1人に見えたが、実は身につけている黒いロングコートはアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)だ。 (主よ、私をお連れ下さい! 社会勉強をなさるのは分かっています。 ですが、どうかお側に! 邪魔にならぬようアルバイトに向いた形状になって見せます!) それで銀装飾のロングコートとはどうなのだろうか。 「あ、グラキエスさん! お待たせしました」 互いに挨拶をすましたところでお仕事へ向かう。今回はデパート内のレストランで行うようだ。 「給仕だと! 主の容姿では不埒な視線が!」 異議を唱えたのはアウレウスだ。この瞬間、ベルクの中でたしかに警告音が鳴った。 「疲れたらすぐに言ってください。無理は禁物ですよ」 「ああ、ありがとう」 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)はポチの助でグラキエスの身体を気遣い、いつでも彼が休めるようにと猛き霊獣(でかい豆柴)=ベッドを準備。 随分とグラキエスには懐いているようだ。 「給仕か……敬語使わないとだよな」 「む、仕方ないですね。僕が教えてあげますよ」 「ほんとか。助かる。ありがとな」 「勘違いしないでください。あなたがミスするとご主人様に迷惑がかかるからですよ」 不安げなジヴォートにはツンツンしてそう言う。でもポチの助さん、尻尾が動いてますよ。 「本人がやりたいと言っているんだから、やらせてやれよ。な?」 「……む、それは」 ベルクはアウレウスを必死に説得。なんとか場を収める。 しかしまあ、大変なのはここからだった。 「れしーと? って何だ?」 グラキエスがレジの前で首をかしげる。実はグラキエスもかなりの世間知らずだったのだ。 え、ジヴォートとフレンディスはどうか? 言うまでもない。 「……グラキエス、お前もか」 天然&世間知らずトリオ+心配性の様子に、ベルクはお腹を押さえつつ、皿洗いへと仕事内容を変更すべく店側と交渉する。 「主の手が荒れてしまっては大変です」 エプロンになったアウレウスが用意していた手袋に指を入れて、皿を洗いはじめるグラキエス。隣ではジヴォートとフレンディスも黙々と作業をしている。 だが、グラキエスが無駄に泡立たせ始めた。どうも泡が楽しくなってきたらしい。 「これはいいな」 「グラキエスすげーな! 俺も頑張ろう」 「私も負けてられません」 「主。少し水分をスポンジに含ませた方が泡立ちます」 「いや、そういう競技じゃねぇから!」 なぜか泡立たせ合戦をしはじめた3人とアドバイスしていたアウレウスにつっこむ。ちなみにポチの助は黙々と皿を洗い、3人のフォローをしていた。 「まったく。エロ吸血鬼はうるさくてかないません!」 「んだと?」 でもしっかりベルクに嫌味を言うことは忘れない。 「ところで漂白剤と洗剤はどう違うんだ? どちらも綺麗にするんだろ?」 グラキエスが台所用の漂白剤を見て首をかしげ、ジヴォートも首をひねった。ベルクが疲れつつ説明しようとしたのをフレンディスが遮る。 「あ、漂白剤は気をつけないといけませんよ」 「(お?)そうだぜ。材質とか――」 「肌に触れてしまうと、透明人間になってしまうそうです!」 堂々と、誇らしげに言うフレンディスにベルクが言葉を失う。 「そうなのか」 「はい。しかも一生治らないそうなので取扱注意です」 「治らないのか。それはこえーな」 「気をつける」 普通に信じるグラキエスとジヴォートに、 「ちげーからな! その知識間違ってるからな!」 とベルクは必死に誤りを訂正した。きりきりきりっとベルクの胃が限界を訴え始めていた。 お客様ー! お客様の中に、胃薬をお持ちの方はいらっしゃいませんかー! 今すぐ、今すぐ彼に飲ませてあげてください。 *** *** そうして楽しく(一名燃え尽きた)皿洗いを終えた一行は、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の元にいた。 「昨夜緊急保護した生まれたてほやほやの子猫が6匹いて、手が離せないんだ」 ジヴォートが子猫を見て神妙に頷く。 猫カフェの用品を仕入れなければいけないそうなのだが、エースは上記の理由で行くことができない。 「リリアに買いに行って貰う事にしたけれど、ジヴォート君も手伝ってくれないかな」 (何よりリリア、馬には詳しいけど……猫に関しては心配だ) そうエースがリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)を見ると、リリアは少し怒った様子で立っている。 「あらあらあら。失礼ね。私だって初めてのお使い位ちゃんとできますっ」 初めて、という当たりがなんとも不安だ。 「君達の任務は猫砂5袋、子猫ミルクふた缶、猫カリカリを5袋と猫缶20個を買ってくること。判んない事はジヴォートくんと相談すれば大丈夫だよ。動物には……詳しいんだよね?」 また後で連絡する、とエースは2人を送りだした。 そうしてたどり着いたペットショップで、リリアは戸惑っていた。 「猫砂とかカリカリって、どうしてこんなに種類が多いのよ!? エレス達の飼葉はそんなに種類多くないのに」 エースから渡されたメモにはメーカーなどは書いておらず、リリアは「ジヴォートくぅん、お願い、助けてっ」と興味深そうに店内を眺めていたジヴォートに助けを求める。 「うえっ? そ、そうだな……猫の種類とか年齢とか分かるか?」 あまり頼られると言う経験がないジヴォートは慌てた後、リリアに質問した。 「種類は分からないけど、年齢は――」 それから商品を選んでいく。買い物は今回までしたことがないジヴォートだが、囚われていた時から動物の世話は彼がほとんどしていた。動物に関する知識は豊富だ。 「あー、生まれたての子猫はこっちの方がいいな。それと――」 「そうなんだ。ほんと、色々あるのね」 てきぱきと選んでいくジヴォートに素直に従うリリア。 買い物は順調そう……に思われたが。 「ぐぁあおおお」 「きーっ」 突如動物たちの籠や檻が開かれ、中から動物たちが飛び出て来た。突然のことに店内がパニックに陥った。 「え、何?」 「なんだ?」 その混乱に乗じてジヴォートに接近する1つの影があった。 *** *** 『よっし! 俺がそいつらから息子さんを守ってやるぜ、イキモさんよ。大船に乗ったつもりでいろよ』 そう力強く言い切った、その後。 「それにしてもイキモ怖かった。でも父親だし、息子が狙われたら当然……なのかな? 不動 煙(ふどう・けむい)はそう首をかしげつつ、ジヴォート一行の後をついて行っていた。 「さあ? わらわには分からないアル」 首をかしげる古代禁断 死者の書(こだいきんだん・ししゃのしょ)の斜め後ろで、コール・スコール(こーる・すこーる)が不動 冥利(ふどう・みょうり)に声をかける。 「……殺気、する」 「煙にぃ、きたみたいだよ!」 「お、どれどれぇ……なるほどねぇ。動物の混乱に乗じて、か」 煙が店内の様子を覗き込んで納得する。どうするのか、と仲間たちが煙を見る。 「じゃあこっちもペットでいくとするか」 不動明王のランプにデュラハンランチャー版、死鎧:デュラハン接近版、デュランチャーを始めとした、煙だけでなく冥利やコールのペット(?)たちを突撃させる。 「不動明王のランプのキングゾンビ10mあるし歩幅大きいし! 異臭に耐えれなかったら厳しいよ? 煙一家は耐性あるからいいけど」 そう言いつつ自身は死者が乗る海賊幽霊船に乗りこむ。使者の書が氷術を用いて暗殺者の足元を凍らせて動きを止める。 「うっこれは」 わずかに身動きした暗殺者を見て、冥利は瞬時に弱点を見抜く。煙が闇で周囲を覆い、ジヴォートに気づかれぬよう冥利は混乱をくぐりぬけて暗殺者に則天去私を叩きこんだ。 そして最後はコールがペットたちに指示をしてその暗殺者を密かに運び出す。ここまでわずか数秒の出来事だった。 殺気がもうないことを確認してから煙が暗闇を解けば、あとには混乱している動物たちだけが残っていた。 「……なんか臭いな」 いや、臭いも残っていたようだ。――え? 10mもの巨漢をどうやって中に入れたのかって? 考えるんじゃない。感じろ! ペットショップの店員が慌てて謝罪や動物の捕獲に駆けだす。ジヴォートも放っておけずに手伝ったが、どうも籠が人の手によって破壊されていたらしい。 幸い怪我人はおらず、動物たちも全員無事だった。 後日、ペットショップで起きた事件についてはニュースで流れ、犯人も捕まったと報道された。このペットショップに比がないことが証明されたおかげか、特に悪影響はなかったようだ。 どこかの大企業からのサポートも受けたという話だが、真相は定かではない。 とにもかくにも、ペットショップでの買い物はなんとか無事に終わった。 「猫ちゃんの年齢とかから選んでくれたんだね、嬉しいよ。リリアとジヴォートくんにありがとう」 エースの満足そうな笑みに、初めてのお使いを成し遂げた2人もまた、満足げな笑みを浮かべた。 |
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