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暴走する機械と彫像の遺跡

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暴走する機械と彫像の遺跡

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■第三幕:街に残る軌跡

「まったく康之も妙なモンに興味示しやがって……ああ、でも綾耶は大丈夫かな。心配だ。一応なにかあったら連絡するようには言ってあるけど」
 ここは街の東部、石女神の遺跡から発掘された出土品を展示している博物館だ。
 出土品を眺めながら、そわそわと落ち着きのない様子で匿名 某(とくな・なにがし)は館内を見て回っていた。
 だが見るものは見ているようで、気になった出土品の前ではゆっくりと説明文を読んでいる。
「へえ、街の方が遺跡よりも古いのか」
 どうやらある時期以降の歴史的資料はすでに失われているようだ。遠い昔、この街を何かしらの災害が襲ったのだそうで、このあたりは口伝で今に伝えられたらしい。石女神の遺跡はその災害を鎮める意味で建てられたのではないかとここには書かれていた。
「災いを鎮めるといえば人柱だよな。この街で起こってるという妙な事件はこの遺跡と何か関係があるんだろうか。例えば出土したナニカが、実は女王器めいた道具だった〜とか、彫像の一つに昔の人の念がこもってて〜とか」
 言い、館内を見渡す。
 薄暗い場所がチラホラと見受けられるが幽霊などの姿は見当たらない。
「……もしかして最深部にあるっていう女性の彫像がそれとか……まさかな、あまりに出来すぎてる」
 ないな、と自分の考えを否定すると博物館を後にする。
 露店でも見て回るかと、表の通りに出たところで人とぶつかってしまった。
「おっと、すまない。前方不注意だった」
「気にスルナ。私もオナジだから……持ちつ持たれつ?」
「なんか違うけどだいたい合ってる」
「それはナニヨリ」
 少女、はぺこりと頭を下げると博物館の中へと入っていった。
 匿名は背伸びをして新鮮な空気を肺に吸い込むと、気分を一新するように歩き始めた。
「さて土産品でも買いに行くか」

                                   ■

 展示品を眺めながら夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は呟いた。
「それにしても機械暴走の話があるんだよなぁ、大昔の技術とかで紹介なんぞされてないよなぁ」
 ガイドに聞こうにもガイドは見当たらない。
 視界に映るものといえば数多くの展示品と、それらを眺めてはうんうんと頷き笑みを浮かべている阿部 勇(あべ・いさむ)、子供のように瞳を輝かせて館内を歩き回っているホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)、そして感慨深げに機晶姫のパーツを見つめているブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)と――
「クゥじゃないか。久しいな」
「夜刀神。これはキグウ?」
 ツァンダ東部の森で魔女と暮らしている知人の機晶姫の姿がそこにあった
 大事そうに鞄を抱えている。
「一人か?」
「そう。今回はオツカイでヒラニプラに行くトチュウ」
 お使い、というのはカバンの中身と関係しているのだろう。
「あれ〜? クゥさんじゃないですか。奇遇です〜」
 ホリィが近寄ってきた。ブリジットもこちらに気付いたようで頭を下げる。
 遠くからでは分かりにくいが挨拶なのだろう。
 阿部はどうやら展示品に熱中していたこちらに気付く様子はない。
「クゥさんも博物館に興味あったんですか?」
「久瀬が自分のコトを知りたいなら関係のあるチシキは得たほうがイイって」
「なるほど、それでここの博物館か。たしかに機晶姫に関係した物も展示されているようだし、良いんじゃないか?」
 夜刀神は言うとクゥを連れ立ってブリジットの元へ向かう。
 そこには機晶姫のパーツが展示されていた。
「お変わりないようでなによりです」
「ブリジットもカワリないね」
 と、夜刀神はしまったというように顔をゆがめた。
「どうかした?」
「ああ、街のことをちょっと調べようと思ってたんだが忘れていた」
「それなら僕が見てきましたよ」
 いつの間に戻ってきたのか、そこには阿部がいた。
 ご満悦といった様子で笑顔を浮かべている。
「この街にはなかなか面白い伝承が残ってますよ」
「どんなコト?」
「遠い昔のことですがここの土地、シャンバラに鬼がやってきて街の住民らと仲良く暮らしていたそうです。鬼は東からやってきた黒い鬼を打ち払い、街の人々を助けたそうです」
「鬼ってのはパラミタ古代種族のことですね」
「元々はマホロバにいたという伝説の存在だったな」
「ええ、それだけなら良い話で済むのですが続きがあります」
 阿部はコホン、と咳をすると姿勢を整えて続けた。
「人々を救った鬼、街では白い鬼と呼ばれたこの白鬼は黒い鬼に攫われてしまうのです。そして再び白鬼が姿を現したとき、白鬼は灰鬼の姿で黒鬼らとともに人々を襲ったそうです」
「鬼に種類があるのはわかったが……どういうことだ?」
「それに関しては資料が残っていないそうです。これも口伝だそうで細かい部分は忘れ去られてしまったみたいですね。最後に人々は灰鬼を退治してめでたしめでたし、だそうです」
 夜刀神は顔をしかめる。
「それはめでたしで合ってるのだろうか」
「なんか可哀想な終わり方です」
 ホリイもどこか納得がいかない様子でぶすっとしている。
「鬼退治の昔話ですからね。実際は何かの比喩なのでしょう」
 阿部の話が終わるとクウが告げた。
「カンケイあるかわからないけど、ここにあるパーツ――」
 続く彼女の言葉にブリジットは身体を軽く震わせた。
「全部ニルヴァーナで見つかってるのとオナジみたい」
 自分の出自が知りたくて調べて回ってるから、とクウは付け足した。