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暴走する機械と彫像の遺跡

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暴走する機械と彫像の遺跡

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■第一幕:暴走する機械

「だったらオイラは現場に行ってみるぜ」
 ふさふさと毛並みの良い耳と尻尾、未成年特有のわんぱくさを感じさせる笑顔を見せる獣人の少年、トーマ・サイオン(とーま・さいおん)はパートナーの御凪 真人(みなぎ・まこと)に親指を立てて見せた。任せろという意思表示だ。
「俺は暴走した物について聞き込みをしてきます。そちらはお任せしますね。こっちはある程度は見当がついてるので確証を得たら合流しますよ」
「任されたっ!」
 トーマが事故現場の調査に向かったのを確認してから、御凪は己の推測が正しいかを確認するべく行動を開始した。向かう先は暴走したという報告がされた『機械の保管されている倉庫』だ。車など比較的大きい証拠品もあったために専用で倉庫を用意したらしい話を警備員から聞いている。
「話によれば車や銃だけでなく、ランプや包丁まで暴走したとか。暴走というよりは機器の異常と言うべきなのでしょうけど、共通点があるとすれば『威力が増しすぎた』という点でしょうかね」
 御凪は考える。
 ランプや包丁は機械と呼ぶには作りが単純すぎる。特に後者に関して言えば鉱物を加工しただけの金属の塊のようなものだ。現物を見ない限り断定はしかねるが、機械とは言い難い。ランプは火力、包丁は切れ味、ドリルは回転力、銃は火薬ないし発射する威力が強すぎて暴発といったあたりだろうか……。
「これは機械がどうなったかも知りたいですね。すでに他の方が聞き込みに言っているらしいですし、そちらはお任せして俺は自分の仕事に集中するとしましょう」
 外因的要因があるとすれば現場にもなにかしら証拠があるはず。
「トーマに任せておけばそちらも平気ですね」
 しばらくして倉庫に着いた。
 警備員に挨拶をして中へと入る。そこには様々な『物』が置かれていた。
 ほとんどが爆発したように内側から外に捲れたり、穴が開いているものばかりであった。
「これは調べるのが大変そうですね」
 元の形を残していない残骸を前にして御凪はため息をもらした。

                                   ■

 御凪が倉庫で調べ物に耽っているとき、街の東部でも彼と同様に暴走した機械について情報を得るべく奔走している者たちがいた。シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)の二人だ。彼女たちは暴走した機械の情報を得るべく街の人から話を聞きまわる。
「原因不明の暴走か・・・・・・ホラー映画みたいだな」
 シリウスは悩むように指先を口元にあてる。
「こういうのなんていうんだっけ。えぇとラ、ラ・・・・・・サランラップ現象?」
「それを言うなら『ラップ現象』!」
 ああそれだそれ、とシリウスは笑う。
 サビクは呆れたように「もう・・・・・・」とため息を吐いた。
「とりあえず事故の共通点を調べないとな。『共通する何か』がわかれば原因は見えてくるもんだし。後は知識と照らし合わせて正解を探すわけだけど・・・・・・」
 シリウスはサビクを見やる。その視線には期待が込められていた。
「サビク、どうだ?」
「どうだって・・・・・・なにがさ?」
「古王国の女王器でこういうものってあったりしない?」
「ボクはたしかに古王国の人間だけど、その全てを知ってるわけじゃないの! ったくもう……こういう時だけ頼りにしないでほしいなぁ。無責任なんだから」
「仕方ない。地道に情報を得るしかないか――なんだありゃ?」
 シリウスの視線の先、おかしな光景が近づいてきていた。
 地球にある古い時代のSF作品によく見られた、お手伝いロボットのような姿の何かがホウキやチリトリ、包丁にドリル、銃にランプに傘に……。といったように雑多に手にしてこちらに迫ってくる。
「もうやだーっ!」
 迫ってきていたのは謎のロボットもどきだけではなかった。
 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)もまた追われるままに逃げてきていた。
「おお、よく分からないけど早いな」
 シリウスの言うとおり彼女たちはものすごい速さで近づいてきている。土煙をあげ、露店に並んだ商品を宙へと弾きながらだが。
 このままではぶつかるかもしれない。そう思ったサビクはシリウスの前に立つと片手剣を両手に構える。
 そして右手を前に突き出すと腰を低くした。
「敵性反応確認……排除ヲ開始シマス」
 ロボットもどきの口から発せられた声にサビクは技で応えた。
「――ッシィ!」
 力を込めるように息をもらす。
 迫るドリルを、右手に構えた短剣の刃先で逸らす。ギイイィィッ! という金属音が鳴り響き火花が散った。
 そのまま弾くと勢いに任せて身体を回す。正面に戻った左の短剣でドリルと胴体を接続している腕らしき部分を切り払った。
 パキン、という軽い音が鳴ると同時にドリルはロボットもどきから離れて宙を舞う。しかしその回転は止まる様子はなく――。
「――あ」
「――え?」
 サビクの視界には迫るドリルから逃げることもできない咲耶の姿があった。

 そして発砲音が辺りに鳴り響いた。