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リアクション
「これが……水晶短剣……」
涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は、レキ達の見つけた水晶短剣をじっと見つめる。
それは、確かに総水晶製だった。
細工としても、上等である事は分かる。
だが、それだけに見えた。
短剣としては性能は低く見え、儀礼用短剣としては使えそうだが……やはり、古ぼけていた。
女王器というイメージからは酷く遠いものに見える……というのが、涼介の素直な感想だった。
「これが水晶短剣か。これを持ってる間、兄ぃは魔法を使えないんだよね。それに今回のことは失敗が出来ないんでしょ。よし、それならボクが兄ぃのことを守ってあげるよ」
「ああ、ありがとう」
ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)に頷くと、涼介は水晶短剣に手を伸ばす。
「気をつけろ、噛むかもしれんぞ」
「いや、噛まないでしょ……」
甚五郎のボケにレキがツッコミを入れている間に、涼介は水晶短剣を手に取る。
「復活した邪竜に狂った大英雄か。二つの部族を結ぶ云々ではなく、あの悪しきモノを打ち滅ぼさないとシボラ自体が滅びてしまうからね」
その為には、水晶短剣の力がどうしても必要になる。
そしてそれは、この部族の長を殺すということでもある。
「ドニアさんに悲しい現実を突きつけてしまうが……復活した邪竜と狂った英雄を鎮める為にこの剣を振るおう」
そう言って涼介が水晶短剣を握り締めた、その瞬間。
身体の中からありとあらゆる力がごっそりと抜き取られたような、そんな感覚を涼介は味わう。
同時に、古ぼけた短剣だったはずの水晶短剣の透明な刃から鮮烈な青い輝きが放たれ始める。
その輝きは少しの時間と共に収まり……やがて涼介の手には、青く煌く短剣が握られていた。
「はは、まさか……自分から力を吸い取りにくるとは」
こうしている間にも、水晶短剣は涼介の力を吸い続けているのが分かる。
それは魔力だけではない。筋力、精神力。
ありとあらゆる力が、ギリギリまで吸い取られている。
水晶短剣自体は重さを感じないが、他の武器などはとても持てないだろう。
たった1つの目的の為だけに、涼介自身が調整されてしまったかのようだ。
「こんなに恐ろしいものだったとはね……道中、よろしく頼むよ」
こうしている間にも、水晶短剣の中で涼介の力の全てが増幅し、変換を繰り返している。
それは、たった1つの目的の為。
ただそれだけの為に。
他の一切には通用しない、しかし怖気を感じるほどの力を水晶短剣はその中で練り続けている。
「任せてよ、兄ぃ!」
「勿論じゃ。しっかり送り届けてやろう」
その恐ろしさは、涼介しか知らない。
自分の責任の重さを感じながら、涼介は笑顔で歩みを進める。
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