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第3章 自習時間Story3

「皆、早いな。8時前に来ている人もいるんだね?」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)は訓練場から出てきたレイカたちを見送った。
「ありえねぇ、どんだけ気合入りすぎなんだ」
「自習を早めに終わらせて、遊びたいからじゃないのかな」
「俺らも自習すんのかよ、面倒だな。しかも朝とか…俺が吸血鬼だってこと忘れてないか?」
「合宿で早朝移動もありましたからね。ソーマさんも慣れましょう」
 グチるソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)に、リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)が言う。
「まだ来てねぇ吸血鬼がいるだろう」
「人はそれぞれですし、吸血鬼もそれぞれですよ。それに合宿の時はベルクさん普通に、朝5時に集合してましたし」
「は…?どんだけ早起き要求するつもりなんだ…」
「さぁ、先生方の連絡で決まりますからね。それに、エクソシストに関しては私の方が先輩ですからね、えっへん」
 リオンはソーマに先輩的態度を取ってみせた。
「とりあえず、力を上げて守る範囲を広げて頂かないと。この前のようにくっつかないと守られないのでは、行動が取れませんし」
「石化だとかはあれで仕方ないだろ」
 だがソーマは、効果によってはかばうくらいしか出来ないと告げた。
「うん、今のところ猛毒と石化の抵抗力をもつ部分はそうだね」
「詠唱中は俺の後ろとかにいればいいし、宝石使いの俺は北都たちを守る役割をするわけだしな」
「となると…仲間を守る範囲を広げるのは、闇黒属性に対してになりますか」
「そういうことになるね」
「なんというか、ただ使えばいいっていうわけでなく、使うためのイメージも必要ですよ。私が使ってるのは本ですけど、あの岩を的に使ってみますから見ててくださいね」
 得意げに言うとリオンは、哀切の章を開いて詠唱する。
 本から放たれた光の波は地面を滑るように伸びていき岩場へ迫る。
 それが的の周りをぐるりと囲んだかと思うと、飲み込むように包み消えてしまった。
「と…、こんな感じです」
「消えたようだが、いいのか?」
「えぇ。ソーマさんに範囲を広げてくイメージを見せただけですから」
「僕もやってみるから見ててね」
 リオンに続き北都もソーマに魔道具の使い方を見せる。
「本当に何もないところから雨が降るんだな」
 裁きの章の酸の雨が降る様子を、ソーマは不思議そうに眺める。
「僕のほうは雨だけなんだけど。もっと使い慣れれば、もっと離れたところに降らせることも可能になるかな」
「ソーマさん、周囲の仲間をどうやって守るかも考える必要がありますよ。あぁそれと仲間に付与して、効果を適応させるとかは無理ですからね。ソーマさんの周りにいる者だけを守る感じになるんです」
「見てろよ、早々にマスターしてお前らを驚かせてやるからな!」
 祓魔師の授業が始まってだいぶ経ってから呼ばれたソーマは、リオンたちより知識も魔道具を扱う技術もないは当然。
 それでも早く追いついて宝石を使いこなしてやろうと彼らに宣言した。
「やぁ、皆早いね」
「あっ、おはようございます。弥十郎さん」
「俺、吸血鬼なんだが。こんな朝早く…驚きだろ」
「ソーマ君はアークソウルを使ってるんだね♪」
 彼のペンダントの中にある琥珀色のような宝石を、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が発見し、にやっと笑みを浮かべた。
「よかったですね、ソーマさん。同じ宝石使いの人が来ましたよ」
「ふふ♪一緒に練習しようか。仲間を守ることも大事だけど、気配を探知する力を引き出すことも重要だよ。守るためには相手がどこにいるか、分からないといけないからね」
「まぁ…そりゃそうだけどな」
「憑依じゃなくって物陰とかに隠れているだけの相手を、透視出来るわけじゃないからね。この宝石の力も必要になってくるんだ」
「へぇーそうなのか」
「使い慣れれば、どの気配が魔性かとか分かるようになるよ。―…例えば、こっちに来て」
 アークソウルに祈りを込めた弥十郎は、訓練場内をうろついている魔性の元へ行こうと、ソーマたちを手招きする。
「―…んーと、この辺に1体いるんだけど。分かるかな?」
 小さな花が咲いているところへ指差し、気配を感じるか聞く。
「1体?複数いるような気がするが」
「うーん。ここにいる魔性は1体だけなんだけど。ソーマ君はまだ地球人以外の生物も探知しちゃうから、動きとかで除外して判断するしかないかな」
「気配別に分かるようになるんだな」
「そうだよ♪」
 パートナーが“黄色”と言われたことを思い出して、へそを曲げてしまうだろうと思い、色別で判断していることは言わなかった。
「魔性は夜の方が活発化しやすいイメージがあるけど、時間帯によって違ったりするのかな?」 
「目的に合わせて行動してる感じがするから、昼夜関係なさそうだよ北都君」
「そういうものなのかな…」
「次はアークソウルだけの探知だけじゃない方法をやってみたいね」
「例えばどんなの?」
「アークソウルと上級者が使うエターナルソウルを組み合わせれば、時を巻き戻してその空間に何がいたかを感知できるんじゃないかってね」
 “このこが上級者だったらなぁ”と思いながら、賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書をちらりと見た。
「―…何?」
 何かまた考えているのだろうと感じた斉民が言う。
「ううん、別に♪」
 かぶりを振った弥十郎は何も考えてないような態度を取った。
「やっぱ気配だけじゃなくって、守る範囲のイメージも学んでおきたいんだよな」
「ワタシとかは自分を中心に、光を広げる感じでやってるかな。術者が複数いれば、光の層を作って段階的に弱めやすいけど。いつも一緒に行動出来るってわけじゃないからね、ソーマ君」
「そりゃそうだな。よし、やってみるか…」
「まずは邪念を捨てることからかなぁ、ソーマの場合」
「俺がいつも煩悩だらけな言い方だな」
「そう?じゃあ、ご褒美とか絶対…考えないでよね」
 北都の魅力的な言葉に反応しかけたが、落胆の声に刺されそうな気がしたソーマはぐっと耐えた。
「僕のノート見せてあげるからやってみて」
「(―…欲も焦りだとかマジで全部影響すんのか。精神を沈めて…、唱えればいいんだな)」
 ノートに細かく書かれた注意書きを読んだソーマは、エレメンタルケイジに触れて詠唱をする。
 彼の言葉にペンダントの中の宝石が反応を示し、広がっていく光の球体はソーマだけでなく北都たちも一緒に包み込む。
「守りの光は1つだけか」
「こうやって皆、一緒に入る感じになるんだよ。あ…、消えちゃった」
「いや、消しただけだ。維持するにはかなり意識を集中しなきゃな。…で、リングはどうやって使うんだ?」
「せっかくだからリングの使い方は、ラスコット先生に聞いてやってみるといいよ。たぶん、見回りしてると思うし。―…あっ」
 北都は“ラスコット先生、こっちに来てっ”と大きな声で呼ぶ。
「何かな?」
「ソーマにリングの使い方を教えてほしいんだ」
「どっちの手でもいいのか?」
「えっと。基本的に空いる片手に使ったほうがいいかな。物理的な打撃を与えることはないんだけど、憑依した者を掴んで器から引き離したり、憑依しなくっても捕まえたりすることは出来ないよ」
「確か…別の魔道具でなら可能だって言ってたよな」
 説明を聞きながらエリザベートが授業で言っていたことを思い出す。
「そうだね。エレメンタルリングのほうは章を唱えてたり、使い魔を呼び出している途中の者を守ったりするのにいいかな。かといって、打撃と変わらない距離で使うわけだから。術者自身も攻撃を受けないように、気をつけなきゃいけないんだ」
「あぁ、だから俺らが倒れるわけにいかねぇってことか。物理属性がないってことは、器はまったく傷つかないってことだよな」
「章のような祓うための強い能力があるってわけじゃないけどさ。守る側が簡単に、憑かれるわけにはいかないだろ?リングに属性魔力を付与する時は、相手の特性を把握してからのほうがいいな」
「―…ほぅ、やっぱり属性の相性があるのか」
「まぁ、リングだけでも光属性の攻撃は出来るし。相手が憑依してなくっても、アークソウルで気配を感知したほうを殴る感じかな」
 急いで通りすがり損ねた魔性が、光の拳にぶつかった。
 それを目撃した斉民が“あ、殴った…”と呟く。
「ヘブシッ」
「大げさだなぁ。ちゃんと加減したじゃないか」
「ここの辺にいるんだよな?なぁ、俺も殴っていいのか?」
 リングをはめた手に精神を集中させたソーマは拳に白い光を纏わせる。
「殴ラレ屋、殴ラレテヤルヨ。…ヘブッ!チクショウ、ヒデェ」
「何言ってるんだよ、ウソはよくないな。加減してもらってるだろ」
「演技かよ…」
「憑依してない相手には威力が下がるからね」
「なるほどな」
「ソーマさん、理解出来ました?」
「あぁ、なんとなくな」
「それじゃあ、遊びに行こうか」
 パートナーが手持ちの魔道具のことを把握した様子を見て、北都は自習を終了して遊ぼうと告げた。
「あ…弥十郎さんたちはまだ自習続ける?」
「ワタシたちはまだここにいようかな、いってらっしゃーい」
 弥十郎は退出する彼らに手を振った。



「前回の授業じゃ、ほとんど強化した章の説明だけだったしな。…試してみるか」
 どんな能力に変化しているか確認しようと、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)はハイリヒ・バイベルを開く。
「魔性相手じゃないと分かりづらいか」
 ラルクは章の確認相手を探そうと大声で呼びかける。
「ヨンダー?」
 彼の声に地下訓練場でうろついていた不可視の者がやってきた。
「そこにいるのか?俺からは見えないんだが…」
「エ、ジャ…。植物ニ、憑ク」
 姿が見えるように、魔性は背の高い草に憑依してみせる。
「(裁きの章からやってみるか)」
 ぽやぽやと突っ立っている相手に酸の雨を降らせる。
「ン、魔法カラ、マモルチカラ、減ッタ」
「痛かったり溶けたりしていないか?」
「叩カレタ、クライ。溶ケテハナイ」
「(次は哀切の章を試すか)」
 ページを捲ったラルクは詠唱して基本形態の光の嵐を放つ。
「ワー…ワワー」
 憑依する力を失った魔性が器から飛び出る。
「痛ミ、サッキト、同ジクライ」
「(最後はこれだな)」
 悔悟の章の重力の波を放つと、ぽやぽやしている魔性は小さくなった。
 どの章も限界距離まで試してみたが、実戦と同じ距離までだった。
「強化したほうは、強化前に使ってたやつの距離だとか継続して使えるのか。章のほうは強化後になくなった能力はねぇから、問題なさそうだな」
 中級に上がった能力も、そのまま使えていることを確認した。