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第4章 自習時間Story4

「また会えたね、アーリア」
「自習したいの?んー…どうしようかしらね」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に呼び出させられたクローリスのアーリアは、上から目線な物言いで言い放つ。
「マイマスターの言うことなら聞いてあげてもいいけど」
「ありがとう。異常発生の抑えたり出来るかな」
「ある程度の呪いならいいんだけど、毒や睡眠とかは無理ね。それと、マイマスターの今の力じゃ強い守りは厳しいわ」
 もらった血の情報でエースが考えていることはアーリアは全て把握している。
「うーん…かなり厳しい意見だね」
「気を悪くしないでね?出来るだけ言うことを聞いてあげたいんだけど、現時点じゃ難しいこともあるのよ。わたしの能力を引き出すためには、マイマスター自身の力が必要よ。だから、マイマスターが育ってくれないといけないのよね」
「(…俺が思っていることとか、全部アーリアに分かってしまうみたいだね)」
 手厳しい態度にエースは困り顔して頬を掻く。
「あとね、わたしはマイマスターの精神力をもらって能力を引き出すの。それをもらわずに、力を使うってことは出来ないわ」
「うん、よく分かったよ。…クマラ、実験台よろしく」
「へー!?」
 驚いた少年が目をまんまるにする。
「毒とかあれだから睡眠だけさ」
「いやにゃーっ」
「眠らせるスキルを頼むから大丈夫だって。後でおやつ1つ食べていいからさ」
「うぅ、分かったにゃー…」
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は“おやつ”という魔法の言葉の誘惑に負けてしまった。
「メシエ、エアロソウルで探してもらえるか?」
「宝石を入れて、エレメンタルケイジに祈りを込めればいいんだったね」
 ペンダントを首から下げたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は、静かに呼吸を整えてそれに触れた。
「―…おや、こんなところに赤い髪の子が」
「俺からはみえないな、メシエ」
「ふむ、あれが魔性なのかな」
「えっと…、俺の傍にいる本を持っているのがクマラなんだけど。普段、俺たちが使っているような魔法で、眠らせてくれないかな」
 メシエ以外には見えていないが、魔性はこくこくと頷いた。
「なんか歌が聞こえてきたよ?はっ、眠らされる感じ!?うぅ、ねむねむぅー…ふぁ〜〜っ、すやすや〜」
「アーリア、君の香りでクマラを起こしてもらえる?」
「えー…なんか面倒だけど。マイマスターの頼みなら仕方ないわね」
 虚空から一輪の花を咲かせたアーリアは茎をつまみ、花弁にふぅっと息をかけた。
 甘く涼しげな香りがクマラの鼻をくすぐった。
「ぅ…ん?ふぁ〜っ」
「すぐに目を覚ますんだね?」
「あまり深い眠りじゃなかったからよ。あーそうそう!呪いはかかりにくくするだけで、かからないってわけじゃないからね。これも、マイマスターの精神力をもらわなきゃいけなくって、場合によっては結構負担してもらうことになるわ」
「一緒に行動する仲間の行動を考えて頼むよ、アーリア。暗闇属性の防御や呪いの抵抗も学ばせてもらえるかな。…皆、ちょっとそこで練習してくるけど。目の届く範囲にいるからさ、終わったら呼んでくれ」
「分かったっ!魔性さんたち、オイラにお付き合いしてねぇ」
 そこにいるであろう者にクマラが元気よく言う。
「見えないにゃー」
「クマラ、私と練習しようか?」
「そうだね、メシエ。相手に護符は投げるか、地面とかに貼っておけばいいんだよ。何も憑依してない相手とかに有効的だね。それも力の加減がきくと思うよ」
「ふむふむ、やってみるよ」
 ふらふらとゆらめく魔性に、メシエが祓魔の護符を投げつける。
「全然…、平気」
「なるほど…。地球人でない者には、宝石の光が点滅するようだね。エースだと淡く光ったままか」
 クマラとエースでエアロソウルの反応の違いを試してみる。
「憑依されているかどうかも確認しておきたいね。クマラ、いいかな?」
「いやにゃ!!もう、おかしの誘惑にも負けないもんねっ」
 少年はぶんぶんとかぶりを振り全力で拒否する。
「それは残念」
「オイラも魔道具の練習をしておきたいからね。メシエ、魔性の場所を教えて!」
「よいけど等価交換は?」
「ないっ」
「ふぅ…仕方ない子だね。ホーリーソウルを使える人は訓練中で、誘うのが難しそうだから手伝ってあげるよ。その椅子に座ってるみたいだね」
 生物に憑依させたらその後のケアの問題があるため、器にされた状態の者を判断する練習はやめることにした。
 教壇のすぐ近くのパイプ椅子へ人差し指を向けてクマラに教えてやった。
「分かったにゃっ。(どろどろは見えなくてもやっぱり怖いのにゃ。溶かさないようにする感覚で…っ)」
 強化した裁きの章のページを開いたクマラは詠唱する。
「ナンカ、降ッテキタ」
 降りしきる赤紫色の雨を魔性が見上げる。
「メシエ、魔性の状態はどんな感じ?」
「見た目は雨を受ける前と変わらないね」
「凄いですわ、クマラさん」
「ふっふっふ〜。オイラ、ちゃーんとまじめに学んできたからねっ。お茶の時間にしよう!」
「エース、休憩しよう」
「今、そっちに行く。アーリアも一緒に休憩しようか」
「ふぅ〜ん。それが、マイマスターたち人が好むものなのね」
 テーブルの上に茶器を並べたエースがお茶を淹れる様子を眺める。
 血の情報で知っているが、知っているのと見るのとでは少し違う気がした。
「むうっ。エース、例のものちょうだい!」
「あぁ、そうだったな」
「オメガちゃん、一緒に食べよう」
 菓子袋を受け取ったクマラはさっそくぱりっと開けて紙皿に盛る。
「スナック菓子とか食べたことある?」
「えぇ、出かけた先で少し…。でも、これは初めて食べましたわ」
「よかったにゃ!」
「わたくしもおやつを作ってきましたの。よろしければどうぞ」
「手作りクッキーかにゃ?いただきまーすっ、はむはむ…」
「クマラ、俺の分も残しておいてくれよな。1人で抱え込むなよ」
「んぇ?食べちゃったにゃ、てへ♪」
 小さな包みに入っていたチョコクッキーをクマラが全部食べてしまった。
「なぁ…酷くないか、クマラ」
「食べられてしまったものは仕方がないね」
 彼らのやりとりを静観していたメシエが言う。
「すみません。あとは他の人の分なんですの」
「うん……、そうだよね」
「マイマスター!わたしに早くお茶をちょうだい」
 ほっとかれた気分になったアーリアが頬を膨らませる。
「もうなくなっちゃったのかな。ごめん、いま淹れるよ。アーリア、どうぞ」
 ご機嫌を損ねないようにエースは彼女のカップにお茶を淹れた。




「私たちも魔道具の練習したいね。刀真、お願い」
「光術だとかって普段使わないし。結構面倒臭い気がするのは、剣と色々な所が違うせいだよな…」
 傍に寄ってきた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)にすら気づかず、光術の練習に集中している。
 光量を調節したり光をポツポツと順番に出してみたりしてみる。
「うーん、もっと光を出す速度をあげなきゃな」
「ねぇねぇ。刀真ってば!」
「月夜が呼んでいるのに、返事をしないか」
「イッて!?」
 玉藻 前(たまもの・まえ)の尾が樹月 刀真(きづき・とうま)の背にヒットする。
「何だよ…」
「光術とかの魔法ってほとんど一瞬だよ?練習してもあまり変わらないと思う」
「普段使わないから分からなかったんだよ」
「そうなの?通常のスキルがまったく効かない相手だって、これから出てくる気がするわ」
 これから先、光術などでは厳しいかも…と月夜が言う。
「刀真、光術を使うっていうよりも。それを覚えてれば使える魔道具を使ってみたら?」
「それはまだ考え中なんだよな…」
「うーんそっか。じゃあ刀真、的になって」
「じゃあって何?」
「他の人に頼むのは無理だもの。魔性相手でも協力してくれる人がいるかも分からないからね。どうせなら見える的のほうがいいし」
 誰かに頼めないからパートナーである刀真しかいないと言い放つ。
「いや、ちょっと待て、危ないじゃん!」
「普段使う魔法とかと違って、巻き込まれても大丈夫なはずよ」
「あ…うん」
 ここで承諾しなければ、また玉藻に尻尾でぶたれると思い、しぶしぶ的になってやる。
「刀真は私たちに敵対心がないし、悪い感情とかないから平気だと思うの」
「そりゃそうだけどさ、心の準備させてくれない?って、うわぁあっ」
 問答無用で詠唱を始められ、光の嵐に襲われる。
「そもそも器を傷つけたりしない術だから痛くなかったでしょ?」
「―…巻き込まれても大丈夫ってことか。ていうか月夜、いきなり唱えないでくれよ。怖いじゃないか!」
「えー?だって時間がもたいないよ」
「効果の適正者でない相手には威力は下がるが、攻撃もできるのだな」
「ん、そんなことする必要もない気がするけどやってみる?的は刀真だし」
「俺だからってどういうこと!?」
「避けないでね」
 逃げ腰のパートナーに対し、月夜はスペルブックを開いたままにこっと微笑む。
「イタッ、これ結構厳しいぞ…ちょっと手加減してくれって」
 相手が自分だからかパートナーは安心しきって加減しようとしない。
「それじゃ単純に章を試してるだけになっちゃうわ。じゃないと訓練にならないし」
「いや、訓練にならないじゃなくて、俺が危ないから!」
 そもそも訓練といっても、本来ダメージ対象外である自分にダメージを与えようとするのか、刀真には理解出来なかった。
「む、我の術を何故避ける?」
「玉藻は裁きの章だろ。溶けるとか無理だって!」
「ふむ…刀真は機械に憑く魔性ではないだろう。ならば、少し痛いだけで済むはず」
「玉ちゃん、もっと詠唱を速くしよう」
「―…む?分かった。(我がぼやけばまた、悲しい顔をされてるだろうな…)」
 月夜の練習に付き合うために、いろいろ諦めきった玉藻が頷く。
「……〜ッ、ぃたっ。むー…早口って難しいね」
「うーむ。速く唱えても効果の発動タイムは上がらないようだが」
「ん、じゃあ当てる練習を頑張ろう」
「ぇ……、まだ続けるってこと?あ、ハイ…」
 無言で頷く女子たちに勝てず、あっさりと承諾してしまった。



「この時間帯に来ている生徒は少ないのかのぅ?」
 特別訓練教室に入った草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)だったが、辺りを見回してみるとかなり空席が目立つ。
「早朝に自習していった人もいますよぉ〜、羽純さん」
「なるほどのぅ。甚五郎、今日も聞いておくことがあるのなら、先に質問したらどうじゃ?」
「先生、質問なのだが祓魔の護符は投射した場合直線的な動きにしかならないんだが、追尾させたりとかの方法が無いだろうか」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)はパートナーに頷くとエリザベートに質問する。
「魔道具だけでの追尾は、相手に気づかれる確率もありますからぁ〜。あえて、そういうのは考えなかったですぅ〜」
「例えばだが祓魔の護符に、式神の術なんかを掛けてみたりするとどうなるんだろうか?それとも風術とかで強引に進路を調節するとかしかないのか?」
「すみません〜。魔道具は皆さんが普段使うスキルに対応しないんですよぉ。ん〜、あとはちょっと今考え中のこともあるので、答えられないのもあるんですけどねぇ」
「あぁ、そうか…分かった」
「ねぇねぇ自習まだ〜?」
 ルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)は草薙羽純を見上げ、彼女の服を掴んで急かす。
「うむ、始めるとしよう」
「あたしたちも一緒にいいかな?」
「構わぬぞ」
「ありがとう!」
「クリストファー、2人も俺たちとどうだ?」
「そうだな。混ぜてもらおうか、天城くん」
「羽純おねーちゃん。ルルゥ早く宝石の練習したいよ!」
 もう待てない!という態度でぴょんぴょん跳ねる。
「おお、分かったルルゥ。エレメンタルケイジにちゃんと入れておいたのかのぅ?」
「まだだよ。え〜と、ペンダントに宝石を入れて使うんだよね…?」
 銀の蓋のようなものをつまんで開けたルルゥは、コロコロンと宝石を入れる。
「しっかり締めてっと。気持ちを落ち着けて、祈るんだったよね」
 首から下げたペンダントに触れて静かに祈ると…。
「わ、地球人の人以外全部探知しちゃってよくわかんないんだよ〜」
 目の前にいる草薙羽純たちだけでなく、小さな虫まで探知してしまい驚いてしまう。
「え〜と…、この反応が魔性?」
「基本的にはな、目に見えぬ者がその可能性があるのじゃ。ルルゥ自身や妾たちの気配の位置と数を、除外した者を感じ取るとよい」
「むぅ〜。言ってることは分かるけど難しいな〜」
「徐々に慣れればよいのじゃ。例えば、そうじゃのぅ…。あの黒板のところにおるようじゃ」
「えー?ルルゥからは分からないよ」
 草薙羽純が指差す方向へ目を向けてみるが何も感じなかった。
 アークソウルは輝きを見せているが、それは彼女たちや教室にいる他の生き物に対しても反応してしまっているからだ。
「もう少し近づいてみれば分かるはずじゃ」
「う、うん…。ああっ、なんとなくそこにいるっていう感じがしたよ〜。探知ってこういうふうにするんだね?」
「魔性の気配を探るもの宝石使いの役目なのじゃ」
「でも、ルルゥは羽純おねーちゃんより分かる範囲が狭いかも…。たぶん、分かるのは10mくらいかな?」
 どこまで感じ取れるか、とことこと歩きながら間隔を図ってみる。
「ルルゥはまだ実戦にも出ておらぬのぅ。これから妾たちと上達してゆければよい」
「ん〜、今日は探知だけ頑張ればいいんだね?」
「アークソウルには他の力もあるのじゃが。それは後々、現場へ赴いた時にでも妾がやっていることを学べばよい」
「見て学ぶのも大事だよね〜」
「そうじゃな。ゆえに今日は先に、探知のやり方を学んでおくのじゃ」
「うん、頑張るよ〜!…んん〜?何もいないからここかな」
 元気よく言うとルルゥは夢中で探知に集中を始めた。
 床をじっと眺めて目に見える小さな生き物などがいないかチェックする。
「もしもーし?いたら返事してほしいんだよ〜」
「イルヨッ」
「羽純おねーちゃん見つけたよ」
「おお、発見したのかのぅ」
 草薙羽純は屈んで嬉しそうにはしゃぐルルゥの金色の髪を撫でる。
「オヤブン、あたしも練習したいな」
「俺たちは魔性の気配が分からないからな。少し協力してくれないか?」
「うむ、探知すればよいのじゃな?」
「それと出来れば俺を狙うように言ってもらいたい。コレットは前の授業みたいに訓練しようか」
「皆との実技でやったことでいいんだよね?」
 コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は前回の授業を思い出しながら天城 一輝(あまぎ・いっき)に確認する。
「魔法攻撃がきたら受け流す感じだな」
「ええっと…?哀切の章にそんな効果はないよ、オヤブン。魔法攻撃が使われそうな時に止めたり、近づいてきたら退かせたりはしたね」
 ハテナと首を傾げたコレットが受け流す力はない告げる。
「てことはそれを使われる前ってことか」
「そうだよ!」
「あぁ…そういうことか」
「訓練を始めよう、オヤブン」
 前回の授業を元に訓練しようとコレットはスペルブックを開いた。
「一輝、あのテーブルから気配がするようじゃ」
「ルルゥに見える生き物がいないね」
 物質として見えるないものがいるかどうかルルゥが調べる。
「む〜、やっぱりじっくり調べないと分からないね」
「焦らずともよいのじゃ。焦りは魔道具の力を弱めてしまうからのぅ」
「お勉強しなきゃいけないことがたくさんあるんだね〜。いろんなこと覚えたら疲れちゃったよ」
 糖分を補給しようとルルゥは飴をなめなる。
「さて…。魔性、そこにるのじゃな?あの者が攻撃を仕掛けてほしいと言っているようじゃ」
「アノ人カ、…ナ。遊ンデイインダ?フフ…ッ」
 エリザベートが訓練用に放っておいた魔性が小さく笑いを漏らした。
「魔法攻撃ダケデ、イイ?」
「いや、そこにいる一輝と話して決めた方がいいじゃろう」
「ンー……」
 低い声音で言うと魔性は一輝へ顔を向け、“アイツカ…?”と小さく呟く。
「オイ、オマエ。ナニナニ、ドウシテホシイ?」
「魔法攻撃だけじゃ俺も練習にならないから、物理攻撃も頼んでいいか?」
「―…ン?…ンー……。アイツラ、ノ頼ミ、ダカラ。加減ハシテアゲル、…ツモリ」
「おや、2人だけか?」
 協力してくれる相手を探さないで練習を始めるのかと、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が一輝に聞く。
「一緒にっていうか、近くで練習してる感じかな」
「自習時間だからいつものように…とはいかないから。こういう時の声かけは自主的にやらないとな」
「ボクたちも始めようよ」
「待たせてしまったね。ここで実技をやりたいみたいだから、俺たちは向こうで練習しようか」
 使い魔の召喚に集中しやすいところへ移動しようと、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)と教室の後ろ側へ向かった。