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リアクション
▼序章 プロローグ
怪物から逃れるため、逃げ込んだ民家の中。
瑛菜がSOSメールを発信した、ものの数秒後のことだ。
「―――貴様ら、何をしているっ!」
「「!!?」」
熾月 瑛菜(しづき・えいな)とアテナ・リネア(あてな・りねあ)は、突然背後から降りかかった声に、驚いて飛びあがった。
無理もないだろう、ただでさえ生命の危機に晒されている状況下なのだから。
すぐさま、2人は振り返って声の主を確認する。
……そこにいたのは、謎の紋様が付いた赤いスカーフを身につけた男。
どうやら町人のようだった。
「あ、あんたこの家の人か? 勝手に入って悪かった。けど、今外が大変な事になってて……痛ッ」
この町人は外の惨状を把握していないのだろう―――
瑛菜はそう考えて、現在シズレが置かれている状況について話そうとしたが、鋭い脚の痛みに言葉を遮られた。
アテナを不安にさせないよう気丈にふるまっていた瑛菜だったが、
脚の怪我はだんだん痛みを増してきている……思った以上に深いのかもしれない。
「瑛菜おねーちゃん……?」
「あ、悪いアテナ。なんでもないよ。
とにかく……この人も連れて、どこか安全な場所に避難しないとな」
「うん、そーだよね。ここは怪物が近くにいて危ないもん」
アテナとやりとりを交わしてから、瑛菜は改めて男に事情を説明する。
ずっと警戒の面持ちを浮かべていた男だったが、
瑛菜達のこれまでの経緯を聞いたところで、表情を和らげる。
しかも、思いがけない解決策まで提示してきた。
「そういうことなら、この家の地下には避難用のシェルターがあるんだ。そこに隠れようぜ。
姉ちゃん怪我してるみてぇだし、長距離移動は難しいだろ?」
「避難用のシェルター……?」
口にこそしなかったが、瑛菜は男の話に違和感を感じた。
(外から見た限りじゃ、ここは本当にただの民家だった……なんでそんなものがあるんだ?)
それが表情に出てしまっていたのか、男は取り繕うように言葉を続けた。
「別に怪しいモンじゃないぜ?
シズレは数ヶ月前までは廃れた町でね、大荒野を根城にした蛮族の襲撃も多かったんだ。
そいつらから物資を守るために、昔作ったってわけさ……ハハッ」
一応、筋の通る言い分だが。
今こそ有効活用できる時だぜ、と調子の良さそうな男を見ても、
瑛菜は何故か違和感を拭えなかった。
考えこんでいるような瑛菜を見て、アテナが首をかしげる。
「瑛菜おねーちゃん、動くの辛いんでしょ? 入れてもらおうよ」
「ん……あぁ、そうだね。どっちみち身動きとれないし、そうするしかないかな」
話がまとまったと見た男は、「決まりだな」と手を叩いた。
そして、瑛菜とアテナ、そして赤いスカーフの男は、避難用のシェルターへ向かう。
男の誘導に従って民家の中を少し進むと、やがて頑丈そうな鉄の扉が現れた。
「この先が階段になってて、地下にいけるんだ。今開けるからちょっと待ってろ」
「あぁ、助かるよ……」
瑛菜は、今度は素直に礼を言った。
いよいよ歩くのもしんどい痛みに見舞われていたためである。
本来は動けなくなった時点で天命を待つしかなかったが、
この先に避難用シェルターがあるとすれば、そこで助けを待ち、脱出することが可能だ。
アテナも無傷のまま助かるだろう。
「親切な人でよかったね、瑛菜おねーちゃん」
「運がよかったよ。たまたま逃げ込んだ民家に、たまたま避難用のシェルターが備わってるなんて―――」
ゴゴォン……と、鉄の扉が重々しい音をあげて開放される。
その奥に見えたのは、確かに地下へと続く階段だった。
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