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リアクション
▼第三章 教導戦線
シズレの町中。
到着した教導団の各部隊は町の各地に散開し、
怪物の討伐をもって事態を鎮圧しようとしていた。
「教導団のルカルカ・ルー(るかるか・るー)です。皆さん、ご安心を!
私達が来たからには、これ以上1人の犠牲者も出させないわ!」
国軍大尉としてルカルカは、
まず【名声】のある自分が救助にやってきたとの周知を優先して回っている。
名が広く知れ渡っている者が来た事に、少なからず安心感を得た者もいるようだ。
「契約者の皆は、あの公園に避難民を集めてくれていたみたいだね。
そこから町の外までの道を作るのが、ルカ達の仕事だよ!」
搭乗した『機晶戦車』に『聖槍ジャガーナート』を2本装着。
結果として、ルカルカの搭乗する戦車は通常の3倍の速度を誇り、町中を突き進む。
更に、それと同じ戦車が他にも2台あった。
それぞれダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)の搭乗機だ。
「こちらコード……要救助者を発見した。
救助は俺とルカがいく。ダリル、援護を頼めるか?」
「了解。【アブソリュート・ゼロ】の氷壁で、怪物の追撃を阻もう」
おそらく、教導団がやってきた事を聞いて、外に出てきた町人だ。
今まで建物の中に隠れていたのだろうか?
何にせよ、言ったことは守らねばなるまい。
「【ポイントシフト】で瞬間的に隣接し、運び出す。
ダリルの氷壁が完成するまで、ルカは怪物の足止めを頼むぞ」
「了解したわ」
まずコードはルカの元へと移動し、そのままルカを抱えて【ポイントシフト】する。
怪物と逃げ遅れた町人の間に割って入った2人は、すかさず異なる方向へ散開し、
「はぁぁッ!!」
ルカは一直線に怪物に突っ込み【ドラゴンアーツ】をぶっ放す!
このスキルは一撃で岩や壁をも打ち抜くほどの威力で、敵を怯ませるには十二分である。
怪物は後方に吹き飛び、電信柱を巻き込んで転倒する。
「ダリル、今だよ!」
「任せておけ」
ルカが作った隙の間に、【アブソリュート・ゼロ】による氷壁が怪物を取り囲む。
これで短時間ではあるが動きを完全に封じられるはず。
「要救助者の収容を完了。ルカも運び出す。掴まってくれ」
ほとんど流れ作業のような正確さで救助をこなす3人。
運び出した町人はコードの『機晶戦車』にそのまま収容し、
【ホーリーブレス】で体力回復、及び不安を取り除くよう試みていた。
このような手順で、次々と町人の救助を行っていく。
「……ところで、さっきの話なんだが、ルカには伝えないでいいのか?」
不意にダリルの元へ、周波数の違う個人用の回線が繋がる。
聞こえる声はコードのものだ。
ダリルはルカの元に自分の声が届かないようにしてから、
「先の恐竜騎士団員の話か?
あれは俺の独断で、ルカには伝えない方が任務を円滑に遂行できると判断した」
「……なぜだ?」
「俺やコードは割り切れている部分もあるが、ルカは優しすぎる。
万一の時にその情報が原因で刃が鈍り、致命的になる可能性がある……」
それだけは御免だからな、と最後のダリルの声は何故か小さく、
コードの元へは届かなかった。
「わかった。その万一の時が訪れないよう、怪物を殺す必要が出ないよう、
俺達も全力を尽くそう。……後でこの事実をルカに知られても怒られないようにな」
「それは同感だ」
ダリルとコードが個人用回線を切ったところ、ちょうどルカの声が流れ込んできた。
「また町人がいるよ、今度は2人。コード、お願い!」
「……すぐに行く。ルカとダリルも準備を」
この後もシズレの町中を1周巡るまで、彼女達の奮闘は続くこととなった。
同じく、教導団の鎮圧部隊の一員としてやってきた
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、当初は怪物の排除を最優先で動こうと考えていた。
しかし、怪物を闇雲に傷つけるのは得策でないと伝令があったので、
動きが取りづらい状態になってしまっているのだ。
「仕方ないわ。こうなった以上、いかに効率的に怪物の動きを封じられるかが重要よ」
少し落胆しているような様子のセレンに、セレアナが道を示すが、
壊し屋の異名までもつセレンは、手加減だとかそういった面倒な所行が苦手だった。
「―――とも言ってられないわね。
だったらまず怪物に接近して、動きを偵察しましょ。
攻撃パターンとかが収集できれば、他の団員も動きやすくなるハズよ!」
「わかったわ。……落ちないように掴まっててね、セレン」
警告するなりエンジン全開。
セレアナの操縦する『装輪装甲通信車』は強行偵察に乗り出した。
怪物に気づかれ追い回されては厄介なので、
セレンは【ディメンションサイト】を用いて的確に進路を定めていく。
「そういえば、怪物は無数に沸いて出てるって聞いてたけど、
思ったより数は少ないのね」
セレンはふと疑問に思った事を口にする。
主な理由はレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が町の外へ大群を引き連れて行ったからなのだが、
後からやってきたセレン達が知る由はなかった。
「おっとと、セレアナ、ストップ! この位置からなら、怪物の動きがよく見えるわ。
しばらく観察を重視して、集まった情報を皆に伝えましょ」
「わかったわ。でも前方ばかり見ていて、退路を断たれないように気をつけなさいよ」
「そんなヘマしませんって!」
周囲にも警戒しつつ、確実にデータを集めていく。
そのデータは味方の部隊へも逐次送信されているので、
各所で怪物と相対する必要性が出た場合に、手助けとなるだろう。
また、不意に怪物が寄ってくる事も想定し、
装甲車の銃架に据えられた機関銃は、あらかじめ怪物をロックしておく。
「……ん、なにかしらアレ……」
「どうしたの、セレン?」
怪物を注視していたセレンだが、何かを発見したらしい。
「あの怪物の首元! すごく小さいけど、変な物が取り付けられてるわ!」
「……見間違いじゃない? それか岩片の一部が張り付いてるだけとか」
「いえ、あれは確実に人工物だったわ。
―――いったい何なのか、確かめるわよセレアナ!」
宣言するなり、セレンは飛び出した。
周囲の状況はクリアー済みだが、近づけば怪物本体の反撃は免れないだろう。
セレアナは溜め息をつき、
「もう、なんでも思いつきで動いて……フォローはいつも私なのよね。
……慣れてるから構わないけれど!」
装甲車をターンさせ、セレアナも後を追う。
【ポイントシフト】で怪物の側面に回り込んだセレンは、
『【シュヴァルツ】【ヴァイス】』を重ねるようにして構え、【エイミング】ショット。
銃弾は見事に謎の物体を捉え、怪物の巨体から引き剥がす事に成功する。
―――ガッ!?
当然、怪物もこちらに気づくが、
セレンは怪物が振り向く前に【ポイントシフト】で中空の物体をキャッチし、
すぐさま逃走に入っていた。
「セレアナ、援護よろしく!」
「わかっているわ」
予定とは違うが、あらかじめロックしてあった機関銃を牽制のために連射する。
これで怪物の追撃は鈍る―――
車両まで戻ってきたセレンを確認すると、
セレアナは再び装甲車をターンして全力で距離を離す。
「倒さなくていいなら、案外簡単に立ち回れるわね」
セレンは得意気な口調でそう言ってみせてから、
思い出したように手中の小さな物体を見やる。
物の正体はどうやら鉄製のタグプレートのようで……そこには文字が刻まれている。
「―――0073:アリシア・エターネル?」